その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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いつかと同じように上層でミノタウロスと遭遇するアルク達。
その異常事態を前に、アルクはベル達と引き離されてしまう。


果たして()は今回も災難に見舞われるのか…。


Recipe.25 - 痛し痒し + 震撼

「なんであんたがここにいるんだ?」

 

ベル達の元へ駆け付けようとするアルクの前に立ち塞がった男の名は、アレン・フローメル。

オラリオ最速のレベル6。フレイヤの眷属である彼の二つ名は、『女神の戦車(ヴァナ・フレイア)』だ。

 

「冒険者がダンジョンにいるのがそんなにおかしいか?」

 

如何(いか)にレベルの高い冒険者であっても下層や深層に直接向かえる訳でない。ロキ・ファミリアの面々と遭遇したように、上層でレベルの違う冒険者が出会う事は珍しくないのだ。

 

「そうだな、おかしくない。 じゃあ、俺は急いでるんだ。 通してもらうぜ。」

 

そう言ってアレンの横を通り過ぎようとするアルク。しかしその擦れ違う瞬間に、アレンはアルクに対し、顔の向きも変えずに小声で呟いた。

 

「そう言えば、この前の礼をしなきゃな。」

 

「――っ」

 

瞬間、アルクはアレンの傍から飛び退く。アレンは決して動いてはいない。ただ彼の放った一言、たった一言がアルクに危機を感じさせた。まるで瞬間的に首元に刃を突き付けられたような感覚、いや、最速と言われる彼ならば、実際にそれを為したとしてもおかしくない。

 

「あんたに感謝される(いわ)れはないと思うんだが?」

 

「そうだな。 今回の件については先にアーニャ(大元)をどうにかすべきなんだろうが、折角ここで会ったんだ。 付き合えよ、アルク・サルマン。」

 

アルクは何も言い返す事が出来なかった。何故なら彼の顔の真横にアレンの持つ槍が突き刺さっていたからだ。

 

(まるで見えない…。)

 

「お前が俺の視界から逃れられたら行っても構わねぇぜ。 それが出来ればの話だがな。」

 

それは暗に"逃がさない"と言っているのと同義。いったいどうして彼はそこまでしてアルクの行く手を阻むのか。私怨というにはお膳立てが整い過ぎている。では彼の目的はいったい…。

 

「とにかく急いでるんだ。 あんたに構ってる暇はない!」

 

そうしてアルクが走り出す。しかし、

 

「遅ぇよ。」

 

アルクの目の前に現れたアレンが彼を振り出しへ蹴り戻す。再度試すも結果は同じ。アルクはアレンという攻略不可能な鉄壁に為す術がない。

 

(早くベル達の元に行かなきゃいけないってのに! くそっ、何だってんだよ!)

 

諦めず繰り返すが結果は変わらない。ただその繰り返しの中で、アルクが少しずつ傷を負っていくだけのジリ貧。アレンはその間、バイザーに隠れた顔色一つ変わらない。彼にとってこれは、迫って来るノロマなアルク()を打ち返すだけの退屈なゲームでしかない。

 

「どうした、もうへばったのか? 」

 

(どうする、どうすれば良い。 副作用度外視でホルスターのポーションを使ってステータスを上げたとしてもアイツを抜けられるとは思えない。 なんとか中層で使える程度の薬じゃレベル6の冒険者になんて………待てよ、…冒険者?)

 

知恵を振り絞り何とか打開策を探すアルク。打つ手はないと諦めかけた時、相手が冒険者であるという状況から、1つの可能性を見出す。

 

(こうなりゃ何でもやってみるしかねぇよな!)

 

そして、何度目になるかも分からないアルクの疾走。当然アレンは同じようにアルクの前に立ち塞がる。アレンの攻撃を受ける瞬間に、アルクは何かを投擲した。

 

――パリンッ

 

「なんだこれは。 ポーションか? チッ、悪あがきしやがって。」

 

アルクの投げた瓶はいとも容易くアレンの槍に砕かれた。しかしアレンも油断していたのだろう、その中に入っていた薬は砕かれた瓶から放たれ彼を濡らした。

 

「油でも掛けて火をつける気かと思ったが、違うらしいな。」

 

「なるほどな。 それは良いアイデアだ。 参考にさせてもらうわ。」

 

「フンッ、口の減らねぇ奴だ。 このつまらねぇゲームも飽きて来たな。 もう面倒だ、ここで眠ってもらうか。 どうせお前は死のうが構わないんだからな。」

 

()()()、ねぇ。 じゃあいったい誰に死なれちゃ困るってんだ?」

 

「さぁな」とアレンはつまらなさそうに吐き捨てた。どうやら彼にとってはあまり面白い話ではないらしい。

 

「思い出したらイライラして来たな。 しょうがねぇ、お前で少し発散させてもらうか。」

 

そう言って笑みを浮かべアルクの元へと歩み出すアレン。絶望的な状況にアルクがどんな顔をしているのか確かめようとした彼だったが、その表情は彼の予想していたものではなかった。

 

「お前、なんで笑って――ぐっ」

 

次の瞬間、アレンの体に異変が起こる。体の至るところを駆け巡る感覚。急に前触れもなく襲い来るその感覚を、彼は知っている。

 

「な、なんだ…。 体が……体が、……(かゆ)い!」

 

彼を襲う感覚の正体は"痒み"だった。体中がムズムズとし始めたかと思えばそれは強烈な痒みとなってアレンに襲い掛かる。

 

「お前、いったい何をした!」

 

「さっきの薬な、俺の薬にしちゃ珍しく散布効果があるんだわ。 飲んだ場合の効果は"力"上昇効果の小。 そして散布時の効果は、"力"上昇効果の大に、しばらくの激しい痒みっつー副作用。」

 

「痒みを発生させる薬だと!? 何だそれは、聞いた事ないぞ!」

 

「ま、錬金術師なんでね。 割りと何でもありなのさ。」

 

話す間にも痒みは治まるどころか増す一方。アレンがいくら抗おうとしても本能が掻け、掻き毟れと訴えて来る。とうとうアレンは衝動に逆らう事が出来ず、自らの体を爪で掻いた。

 

「ぐぁーー! いてぇーーー!!」

 

彼は現在薬の効果により"力"が大きく上がっている状態。そう、"耐久"は変わらずに"力"のみが、である。その状態で自らの体に爪を突き立てればどうなるか、それは痛みの余り叫ぶアレンの姿を見れば一目瞭然だろう。

 

「モンスターにはあんまり効果はなかったんだが人の肌なら、と思ってな。」

 

おそらく他にはないであろう"痒み"効果を与える薬。この効果、実はほとんどのモンスターには効かない。甲殻や毛皮に覆われたモンスターはもちろん、皮膚が厚いのかオークに対しても効果がない。効果があるとすればゴブリンやインプといった細身の小型モンスターくらい。服用時の効果があるとはいえ、決して零れぬように細心の注意を払い飲まなくてはならないため面倒である。

 

「いてぇー! でも、…痒い! 痒…いってぇーー!!」

 

「予想以上の効果だな。 俺はヤバい薬を作っちまったらしい。」

 

痒みと痛みの狭間で悶え苦しむアレンをそのままにし、アルクはようやくその場を離れる事に成功したのだった。

 

 

 

「覚えときやがれ! このサル野郎ー!!」

 

「だからサルじゃねぇっての。」

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

アレンの妨害を突破しベル達がいるはずの場所へと急ぐアルク。妨害が大きなタイムロスとなったため、どれだけ振り払おうとも最悪の状況を考えてしまう。

 

「間に合え、間に合えよ! 頼むから無事でいてくれ、ベル、リリ!」

 

歩き慣れたダンジョンの道を、体の痛みに堪えながら必死に走るアルク。すると、アルクが向かう方向へと進んでいる冒険者がいた。

 

「リリ!」

 

「ア…アルク……様? 良かっ、た…。 無事、だったん、です…ね。」

 

その冒険者の中にはリリがいた。彼女は血塗れであり、足元も覚束(おぼつか)ない状態だった。最悪の事態こそ免れてはいるが、決して喜べる状況ではないのも確か。それに何より、その場にはベルの姿がないのだ。

 

「彼女の事なら心配いらない。 傷は既に塞がっている。」

 

「え? あ…、リヴェリアさんに…フィンさん?」

 

「久しぶりだね、アルク・サルマン。」

 

リリに気を取られて気が付かなかったが、リリと一緒にいたのはアルクも知る冒険者達であった。

 

「白髪の冒険者…、ベル、だったかな? 彼の救援にもアイズ達が向かっている。」

 

「アイズ達が…。 ありがとうございます。」

 

「礼には及ばないさ。 困っている冒険者がいれば助けるのが当然…、と、言いたいんだけどね。 実は白髪の冒険者が襲われていると聞いた途端にアイズが飛び出して行ってしまってね。 無視出来なくなったという訳さ。」

 

アイズはベルと面識があるため、襲われているのが彼だと察し飛び出したのだろう。仕方ないという言い方をしているが、フィンもおそらく無視等しない。それは傷ついたリリを治療した事からも分かる。

 

「すみません。 俺も早く向かいたいんで、先行きます。」

 

「分かった。 彼女の事は任せてくれ。」

 

「アルク、様…。 私も――」

 

「大丈夫だ、アイツはなんだかんだで運が良い。 だから無理せずゆっくり来いよ。 じゃないと逆にベルから心配されちまうぜ?」

 

「…そう、ですね。」

 

リリは自分がキラーアントから助けられた時の事を思い出した。彼は自分の事よりも周りの事を心配するようなお人好し。そんな彼の身を案じて向かった先でその彼に心配されてしまってはなんとも格好がつかないだろう。

 

(アイズがいれば大丈夫だろうが、無事でいろよ、ベル!)

 

リリの事をフィン達に任せ、アルクは先を急ぐ。

 

 

 

 

 

「どう、なってんだ…?」

 

ミノタウロスに襲われた部屋へと戻ったアルクの目の前には、信じられない光景が広がっていた。

その場にいたのはベル、アイズ、ティオナ、ティオネ、ベート、そして、赤いミノタウロス。

 

第一級冒険者がこれだけいてどうしてミノタウロスが未だ健在なのか。その理由はとても単純。第一級冒険者が誰一人として戦っていないからだ。では一体誰がミノタウロスと戦っているのか。その答えとなる選択肢は、1つしかない。

 

ベル・クラネルは、たった1人で猛牛と対峙していた。

 

いったい何故アイズ達が手を出さないか。他のファミリアだから?――いや、違う。獲物の横取りとなるから?――それも違う。彼女達は、ベルという駆け出しの冒険者の戦いに、惹き込まれていたのだ。そして、アルクもまたその1人となった。

 

猛牛は大剣を振るいベルへと襲い掛かるが、彼はそれをすんでの所で避けていく。もし当たれば間違いなく致命傷になり得る攻撃を掻い潜り、ナイフと魔法を駆使して立ち向かう。

 

「あのトマト野郎…。 いったい何が起こってやがる。」

 

ベートはその少年に見覚えがあった。ミノタウロスに襲われていたところをアイズに助けられ、そのミノタウロスの血で真っ赤に染まってしまった冒険者。モンスターに恐怖しダンジョンから逃げて行った雑魚中の雑魚(事実はアイズを前に恥ずかしくて逃げ出したのだが)。しかし今、彼はあろうことかアイズの助けを拒み、単身で猛牛と戦っている。

 

「まるで、アルゴノォトみたい…。」

 

ティオナの呟きに、アルクは幼き日を思い出す。それは昔に読んだ1つの冒険譚。英雄に憧れる1人の少年が、周りに振り回されながらも苦難を乗り越え、そしていつしか『始まりの英雄』と呼ばれるようになる。そんなお話。

 

(ベル、お前いったいどこまで…。)

 

ナイフは通らず、魔法は力不足。打つ手はないと思われたが、ベルは猛牛が大剣を振り下ろした隙をつき、大剣を握る手にナイフを突き立て、さらに(ねじ)り込む。

 

〈ブォーー!!〉

 

その痛みに耐えられず、猛牛は叫び声を上げ、大剣を手放した。ベルは猛牛の大剣を奪い、両手で構える。そう、彼に足りなかった火力を補うために。

 

「あの冒険者、レベル1じゃないの!?」

 

ティオネの問いかけに、誰も答えない。誰もがレベル1だと確信していた。そのはずだった。しかし彼は、ミノタウロスと間違いなく渡り合っている。その姿は最早、駆け出しのそれではない。

 

「ベル…様…?」

 

アルクが声に振り向くとリリ達が到着していた。ベルの危機に助けを求めていたリリも、アルクと同様に言葉が出ない。アルクよりもベルとダンジョンを共にしたリリですら、今の彼の姿に驚きを隠せないでいる。

 

ベルと猛牛は距離を取る。それは、最後の一撃を前にした、一時の静寂。手を付き突進の態勢に入る猛牛。飛び出すために態勢を低く構えるベル。睨み合う両者は一気に駆けだした。

 

徐々に縮まる相手との距離。このままぶつかるか、それともどちらかが別の手を繰り出すか。

先に動いたのはベルだった。彼は地を蹴り猛牛へ向けて飛び出す。

 

「若い。」 「馬鹿がっ。」

 

猛牛の突進を真正面から受けようとするベルにリヴェリアとベートは彼の敗北を悟る。しかし、

 

「「まだ(だ)!」」

 

ベルを知る2人の冒険者(剣姫と錬金術師)は信じていた。彼の、次の一手を。

 

―――ガキィーーン!

 

聞こえたのは、猛牛の角がベルを貫く音ではなかった。ベルは猛牛の武器であるその角に、大剣を叩きつけていたのだ。角に与えられた衝撃に、猛牛がグラリとよろめく。その機を逃さずベルは猛牛の腹を切りつけた。

 

〈ブモォーーー!!〉

 

大剣という武器を得た事で、遂に猛牛の体に大きな傷が出来た。苦しむ猛牛に、すかさずベルは2撃目を与える。しかしそこで大剣が砕ける。猛牛は次は自分の番だと言わんばかりにベルへ向け、拳を振り上げる。今度こそ打つ手なしかと思われたが彼はまだ、諦めてはいなかった。

 

「【ファイア・ボルト】!」

 

その魔法は、無詠唱(ゆえ)か猛牛に通用する火力ではなかった。しかし、ベルは魔法を放つ手を"猛牛の傷"に当てていた。つまり彼の攻撃は硬い皮膚を無視し、直接猛牛の内へと放たれる。

 

「【ファイア・ボルト】!」

 

そして2発目。逃げ場を探し猛牛の中を駆け巡る魔法にその体は赤く光る。次第に膨れ上がる猛牛の体。その場の冒険者達は目を見開き、その結末を目の当たりにする。

 

「【ファイア・ボルト】!!」

 

遂に赤き猛牛は、体内で暴れ回る魔法に耐え切れず焼き尽くされた。灰と化した後に残ったのは、赤い1本の角。おそらくドロップアイテムだろう。

 

「…勝っちゃった。」

 

ティオナの言葉に、ようやく我に返るアルク。

 

「ベル…。 ――っ! おい、ベル、無事か!?」

 

アルクの呼び掛けに応えは帰って来ない。しかし、それまで猛牛であった灰が舞いあがる中、そこに確かに彼は立っている。

 

精神疲弊(マインドダウン)?」

 

ベルは既に気を失っていた。立った状態のまま、防具も剥がれ背中のステータスを曝け出したままで。その姿は、それまでの戦いを見た者ならば神秘的にも見えただろう。

 

「リヴェリア、奴のステータスはどうなってる。」

 

「私に盗み見をしろと?」

 

「あんなの見てくれって言ってるようなもんだろ!」

 

ベートの言葉に、リヴェリアは一度アルクを見た。ベルの仲間という事からアルクに判断を委ねるつもりなのだろう。少し考え、アルクは首肯を返した。本来ならベルの事を考え止めるべきなのだろうが、あの戦いを見せられた後だ、ステータスはどうしても気になってしまう。

 

(すまん、ベル。 まぁここはステータスを施錠(ロック)してないヘスティア様のせいって事にしておこう。)

 

アルクが心中で言い訳をしている間に、リヴェリアはベルのステータスを解読する。しかし彼女は何故か沈黙したまま、ただジッとその背中を見据える。

 

「おい、勿体ぶらずにさっさと教えろ!」

 

痺れを切らしたベートに急かされ、ようやくリヴェリアは口を開いた。

 

 

「アビリティ…オール"S"。」

 

 

『――!?』

 

冗談ではないかと誰もが疑った。しかし、リヴェリアにその様子はない。むしろ、それまで彼女が沈黙していた事がその信じられない事実を裏付ける。

 

「彼は何者なんだい?」

 

「ベル・クラネル。 冒険者になってまだ1月の、…駆け出しの冒険者ですよ。」

 

アルクの答えに、フィンは「ベル・クラネルか」とその名を口にする。本人の(あずか)り知らぬところでベルは、大物冒険者に顔と名を覚えられてしまったらしい。

 

 

 

―――ゾクリ

 

 

 

「―――っ!」

 

急にアルクは何かを感じた。手を見れば、微かに震えている。

 

(やばいな。 あんなもん見ちまったら、ジッとなんてしてられねぇわ。)

 

止まらない高揚感が、アルクの背を強く押す。

 

(そろそろ俺もしないとな。 "冒険"ってやつを。)




ぶっちゃけアルクの方が偉業ではないだろうか。

後半はほぼ原作なうえ苦手な戦闘描写なのでお見苦しい点もあったかと思います。
山場なので削るに削られず;


明けましておめでとうございます。
今年も今作をよろしくお願いいたします。

……まぁ忙し過ぎてストック全然ないんですけどね。
次回はサクッとあの人を出して章を終わる予定です。
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