その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
それを切欠に、アルクは過去の話をベルに聞かせることにした。
ここからは、作者の捏造物語である。 …はてさて
―――――約2年前 『青の薬舗』
「おいっ、また犠牲者が出たぞ!」
「あーあ、だから止めた方が良いって言ったのに。」
薬舗の中では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。そこが薬舗である事から急病人がやって来たという可能性もあるのだが、実際は少しばかり違う。急病人はそこへとやって来た訳ではない。薬舗の中で
「ロキスなら大丈夫と思ったんだけどな。 ほら、耐異常のアビリティもあるしさ。」
騒ぎを起こした張本人であるはずの彼は地に伏した
「アンタのまっずい薬を単なるステータス異常と一緒にしないでくれる、アルク?」
「良薬は口に苦しって言うだろ、アネット。」
「青ざめて倒れるのを"苦し"の一言で片づけようっての?」
現実は彼――アルクが思っているほど優しくはないらしい。とりあえず青ざめ変な汗が噴き出しているロキスを主神であるミアハの下へと連れて行かなくてはいけないため、「またか」という顔をされるのは承知の上でロキスを背負い店の奥にあるドアをノックし、アルクは中へと入っていく。
「またか、アルク。」
顔どころかしっかりと言われてしまった。やれやれと頭を抱える主神を前に何も言えないアルク。
「医療系ファミリアの団員が率先して病人を出してどうするのだ。 先日も探索へ向かう団員に自前のポーションを渡して大変な騒ぎになったであろう。」
「いやぁ、耐異常のアビリティがあればいけるかなぁ、なんて。」
「いけるかなぁ、ではない。 試してみたいのであればまずは自分でアビリティを獲得し、自分で試してみるんだ。 ロキスは実験台ではない。 分かったな?」
「分かりました…。」
こうしてアルクがミアハから注意を受けるのは一度や二度ではない。アルクは自分に発現した魔法『
"味さえ我慢すれば"
そんな甘い考えは通用しない。アルクの錬成する薬は幾多のチャレンジャー達を沈めて来たある意味で最恐の兵器なのである。ちなみに誰かが「この薬ならばオラリオ最強の冒険者に膝を着かせる事が出来るかもしれない」と言っていた。目指すところが明らかにおかしい。扱いは偉業というよりは完全に災害に近いだろう。
「まーたミアハ様に怒られてたの? 懲りないねぇ、アルクは。」
「別にいいだろ。 俺は真面目に薬作ってんだよ。」
ロキスをミアハに任せ部屋を出ると、棚の整理をしていたヒューマン――ティルニアに声を掛けられた。レベル2でありミアハ・ファミリアでも指折りの冒険者であるティルニアはファミリアに入って間もないアルクの事も何かと気に掛けていた。やたらとからかって来るのはあれだが彼もその点は感謝している。
「真面目に、って言っても魔法で作った薬でしょ? ナァちゃんみたいに本で勉強したりする訳でもないし、真面目さは伝わらないかなぁ。」
「ぐっ…。」
痛いところをつかれてしまった。彼の魔法『
正当な製法により薬を作ろうとした事もある。しかし素材の種類やらその配分やらと覚える事が多く、しかもそこに精度が要求されるのが製薬。頭を動かすより体を動かす
そういう意味で、魔法1つで薬を錬成出来るというのは"ちょうど良い逃げ道"だった。魔法であれば冒険者として成長すればきっと薬の質も上がるだろう。そう思っていたのはいつだっただろうか。かれこれ1年半は優に経っているかもしれない。アルクはちょっと憂鬱になって来た。
「何の話をしているの?」
「おぉ、ナァちゃん! 今ちょうどナァちゃんの話をしてたんだよ。」
「私の?」
アルクがティルニアと話していると、話に出て来たナァーザ本人がやって来た。
「ナァちゃんは薬の勉強頑張ってるけどアルクは頑張ってないねぇ、って話。」
「いろいろと省き過ぎだろ、それは。」
人の事を怠け者みたいに言うティルニアに抗議するアルク。
「まぁ、アルクには錬金術があるからね。 それで
「つまり現状は問題ありって訳だね。」
背中を押してくれてると思いきや背後からグサリといかれてしまった。人並み以上に勉強し、しかもランクアップにより『調合』という調薬向けの発展アビリティを得たナァーザに言われてしまえば何も言い返す事など出来ようはずもない。
「まぁナァちゃんの必死の勉強っぷりに比べたら私だってやってないようなもんだけどね。」
「そんなに凄かったっけ? 俺は自分の魔法について知るので精一杯だったから勉強してる様子はあんまり記憶にないんだよなぁ。」
「アルクが来てからは結構落ち着いたんだけどね。 その前のナァちゃんと言ったら医学薬学といろんな本を読んではミアハ様に報告してさぁ。 ミアハ様に褒められた時のナァちゃんの浮かれ様と言っ「ちょ、ちょっと待って! そ、そんなんじゃないから! 」…そんなんじゃないって言ってもねぇ。」
顔を赤くして抗議するナァーザ。彼女は普段落ち着いた様子のためアルクには必死で勉強しているイメージが浮かばない。ただ、ミアハに褒められた時については彼にも割とすんなりとイメージ出来た。きっと今の様に顔を赤くし
「いやぁ、必死に否定するナァちゃんも可愛いなぁ。」
「あ、ちょ、抱き着かないで。」
照れるナァーザの様子に耐えられなくなったのかティルニアが彼女に抱き着いた。決して強い力で抱きしめている訳ではないのだが、ナァーザはどうにも抜け出せない。その理由はティルニアのスキルにある。冒険者に発現する『スキル』ではなくその人が独自に身に着けた技の方だ。相手を拘束しつつも決して苦しくないよう配慮されたその技に捕らえられた
そう、ティルニア・ヴィスキーは無類の動物好きなのだ。
目の前に猫がいればそちらに気を取られ、散歩をする犬を見かければそちらに心を奪われる。
そんな彼女の動物愛は獣人にまで及ぶ事が多々ある。普段であれば流石に彼女も自制し誰彼構わず撫で繰り回したりなどしないのだが、精神的な疲労状態であったり長期に渡り彼女の言うところの"獣成分"を補給していなかったりすると本能が理性に勝りそこ行く獣人に抱き着きそうになる。
否、ぶっちゃけ何度か抱き着いた前科がある。
そんなティルニアにとって身近な"獣成分"補給の役を担うのがナァーザだ。無闇に抱き着かれるのはナァーザも好きではないようだが、ティルニアの拘束は優しいながらも決して解けないし、何より補給をしなかった場合にどうなるかも知っているため強くは反発しない。
「……そろそろ解いてもらえない?」
「んー、もうちょっと。」
それにティルニアの獣人、というより動物の扱いはかなり上手いらしい。以前抱き着き撫でられた感想をアルクがナァーザに聞いてみると、「不思議と心が落ち着くのが悔しい」との事。彼女の無差別獣人抱き着き事件が大事にならなかったのはそういったテクニックもあっての事だろう。
大事にはならなかったが、その奇行は娯楽に飢える神達の耳に入った。そして訪れるティルニア・ヴィスキーのランクアップ報告。
「で、いつまでやってるんだよ。」
「おやおや? アルクもやって欲しいのかい?」
「いや、勘弁してくれ。」
ティルニアのテクによって撫で回されボーっとした様子のナァーザ。獣人でないアルクにそのテクが通用するかどうかは分からないが、撫で回されるのは御免であるため即座に断る。
「遠慮しなくて良いのにぃ。 ドーンとティアお姉さんの胸の飛び込んでおいで!」
「ドーンて、今の身長じゃ絵面的にただ抱き合ってるようにしか見えないだろ。」
ティルニアとアルクは3歳違いである。しかし、アルクの身体は人並み以上の成長を見せており、14歳にしてティルニアを追い越さんとしていた。まだその成長の勢いは止まっておらず、1年も経てば完全に彼女を追い抜くだろうと思われれる。
「んー、弟が成長したのを喜ぶべきか、それとも反抗期を憂うべきか…。」
「誰が弟だ。 姉が抱き着き魔ってのは勘弁願いたいね。」
「く、それを言われちゃお終いね。」
アルクにバッサリと言い捨てられ「負けたぜ」と言わんばかりの姿で項垂れるティルニア。
「何をしてるの?」
「ナァちゃーん! アルクがいじめるーー!」
夢心地から戻って来たナァーザに慰めてもらおうと再度抱き着くティルニア。戻ったばかりにも関わらず再び夢心地の世界へと旅立つナァーザであった。
「やっぱり、ランクアップが必要なんじゃないかな。」
2度目の帰還を果たしたナァーザにアルクの薬について話すと、そんな答えが返って来た。
「やっぱりそうなるよなぁ。 でもまだ冒険者になって2年も経ってないんだぜ? ナァーザさんで4年かかったってのに、俺じゃ何年かかるか分かんねぇよ。」
「でも、アルクの成長速度は私より早い。 それに『剣姫』は1年でレベル2になったって話だから、アルクもいつランクアップしてもおかしくないと思う。」
「世界記録と比べられてもなぁ…。」
行き着く結論はアルクと同じ。やはりランクアップだった。しかしそれはやろうと思って出来るものではない。ナァーザは4年、それよりも早いティルニアでも3年はやはりかかっている。
「ステータスだけじゃなくてランクアップするに見合うだけの功績が必要、だったか? 2人はどんな功績を上げたんだ?」
冒険者がランクアップをする上で必ずと言って良いほどぶち当たる壁、それが"偉業"だ。どれだけステータスを上げようともその冒険者が偉業を達成していなければいつまでもランクアップをする事は叶わない。アルクもステータスだけであればレベル2になる事も可能なのだが、彼自身に偉業を達成したという記憶はない。現状ではアルクも他の冒険者同様に壁に阻まれている状態と言って良いだろう。
「功績かぁ。 あたしは中層でモンスター達の猛攻から仲間を守ったってのが偉業として認められたんだよねぇ。 正直無我夢中でその時の事はあんまり覚えてないんだけどさ。」
「へぇ。 ナァーザさんは?」
「私は、12階層でインファントドラゴンを狩った事だね。 仲間とはぐれて1人で戦わなくちゃいけなかったけど、なんとか上手く魔石を打ち抜いて倒せた。 敵が増えたり少しでも立ち回りを誤ってたら命を落としたかもしれない。」
「それを言ったらあたしもいつ死んでもおかしくない状況だったよ。」
"偉業"の種類もいろいろあるが、多くの冒険者にとっての偉業とは死と限りなく近い状況を乗り越える事かもしれない。上層を適正探索域とするレベル1であれば上層最強ともされるインファントドラゴンや中層モンスターとの戦いは間違いなく命がけ。つまり"偉業"の生まれる可能性も大きく高まるのである。
「上層で格下を狩ってるばっかじゃダメって事か。 でもレベル1じゃ中層には行けないし。」
「そういう時のためにあたし達がいるんでしょ。 あたしだってロキス達に連れてってもらったんだからさ。 中層に行きたかったらいつでも誘ってよね!」
「そういや俺も前に連れて行ってもらおうとしたんだった。 ただナァーザさんが―――」
「ダメ。 アルクにはまだ中層は早い。」
「……って言って許してくれなくてな。」
「ナァちゃん? 心配なのは分かるけど、過保護なのもどうかと思うよ?」
ナァーザもレベル2へのランクアップのためには中層への進出が近道である事は知っている。しかし同時に、レベル1にとって中層が如何に恐ろしい場所かも理解している。入団以来実の弟の様に面倒を見て来たアルクが危険な目に遭うのをナァーザはどうしても許容出来ない。
「アルクのステータスがもうランクアップ可能範囲と言っても"魔力"によるところが大きい。 でも、アルクが使える魔法はアイテム作成の錬金術だけ。 今の"力"と"耐久"に加えて戦闘向けの魔法なしとなると、やっぱり不安。」
「ぐはっ」
「いやぁ、流石ナァちゃん。 的確に痛いところをついて来るねぇ。」
ナァーザの見事な正論にアルクは項垂れ、ティルニアは苦笑い。アルクの中層への道はまだ開けそうになかった。
「あぁ、くそ。 強くなりてぇなぁ…。」
考え過ぎても書けなくなるので設定は割とススっと決めてます。
約1月空いてしまいました…。
週2で投稿してた頃が懐かしいですねぇ。
例のウイルスへの職場の対策により残業の毎日ですが、少しでも早く投稿ペースを上げたいとは思っております。
いっそ職場で休憩中にメモリア・フレーゼでもやろうかな…。
こんな私ですが引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。