その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
その煩わしさは、いずれ作者をも苦しめるかもしれない…。
今回で序章、兼オリ主の簡単な紹介は終了です。
12階層での薬草採取を続けていたアルクとリリルカだったが、荷物の量と帰りの時間を考え、探索を終え戻ることにした。
2人で処理するには厳しい程のモンスターの群れもなく、上層における階層主とも言われるインファントドラゴンとの遭遇もなかったため、比較的安全な探索だったと言えるだろう。
「最後にあそこに生えてる薬草だけ採取していいか?」
「分かりました。では、私はここで荷物を整理しておきますね。」
だからだろう。あとは戻るだけだと気を抜いた2人は、それぞれ離れて単独行動をとってしまった。辺りにモンスターの気配はなく、葉の擦れる音が聞こえるほどに静かだ。しかしそれは、ダンジョンで気を抜く理由としては余りに足りない。"それ"は、着実に迫ってきていた。
「よし、こんなものかな。」
アルクは薬草を取り終え、リリルカの待つ場所へと戻ろうとしていた。しかしそこで、何かに気が付いた。リリルカがいる方のさらに遠く。階層特有の霧を掃う様に迫る影が複数。
「―っ!まずいっ!」
アルクはリリルカの元へと駆け出した。
一方リリルカは、荷物の整理を終え、バックパックを背負い直したところだった。静かだった階層内で何かが聞こえたと思い見てみると、こちらへ駆けるアルクの姿があった。
「アーデ!後ろだ!!」
意識を向けたことではっきりと聞こえた声。その瞬間背後に気配を、そして足元に僅かな振動を感じた。振り向いたリリルカは、ようやくその身に迫る危機を察した。
「ハード…アーマード!」
アルマジロ型モンスター、ハードアーマード。それが凄まじい速さで転がってきていた。その数4体。リリルカを狙った、というよりは何かから逃げるような勢いで向かってきている。
「逃げないとっ―、あっ!」
突然の事態に体が追い付かなかったのか、リリルカは足がもつれてしまった。その間にも、ハードアーマードはリリルカへと迫ってくる。すぐさま立ち上がろうとしたリリルカだったが、一心不乱の勢いで転がってくるその群れに、自分の死を悟った。――その瞬間だった。
リリルカの見える景色が一変した。視界に広がるのは空。自分がハードアーマードに跳ね飛ばされたのかと思ったリリルカだったが、一向に痛みがやってこない。もしかしたら一瞬の内に死んで、天に昇ろうとしているのだろうか。
(天になんて、昇れる訳ないか…)
自分のこれまでの生き方を顧みて、その考えに自嘲した。だが、
「間に合ったっ」
その声の主は、すぐそばにいた。
アルクの顔が、今日一番近い位置にある。なぜ、という疑問は、頭が冷静になるにつれ明らかになった。アルクがリリルカを抱えていた。その姿は、状況次第では"お姫様抱っこ"と言えただろう。しかし、大きなバックパックのせいでその光景はとても"お姫様抱っこ"と呼べるものではなかった。
リリルカが恥ずかしがるところかどうか悩む間に、アルクはその足を止めた。ゆっくりとリリルカを下ろし、…そこまでが限界だった。
「いっってぇ…」
モンスターを警戒し大声は抑えているが、その体は痙攣し、少し動くのにも苦しそうにしている。
「さ、サルマン様!?大丈夫ですか!?ど、どこかお怪我をっ!?」
一方でその光景に慌てたのがリリルカだった。声を抑えるのを忘れ、アルクの状況にあたふたしている。
「大、丈夫だ。ただの、筋肉、痛、だから。」
「え?筋肉痛?………ってまさか!」
リリルカは理解した。アルクは、12階層に入る前に錬成した
「すみません。私が警戒を怠ったばっかりに…。」
「それはお互い様だろ。―っ。薬が役に立って何よりだ。―ぐっ」
未だに痛みに顔を歪めるアルクだったが、リリルカが無事だったことに心から安堵していた。
「流石に重くて大変だったけどな。」
「ふんっ!」 ―バキッ!
安堵ついでに出た余計な一言。大きなバックパックのせいだと分かっていても、リリルカも年頃の女性なのだ。アルクに制裁が下るのも、仕方がないと言えるだろう。もっとも、
「ちょ、い、…今は、た、耐久がっ」
「サルマン様!?」
筋肉痛の上に"耐久低下大"の効果が残っている状態で受ける一撃は、例えパルゥムの女性であるリリルカのものだったとしても、半端ではない。
アルクは、副作用の
それから少し経ち、アルク達は改めてダンジョンを戻り始めた。
幸いにもアルクが筋肉痛に苦しむ間、モンスターの襲撃もなく、痛む体に鞭打って戦う必要はなかった。
9階層まで戻り、ダンジョンが再び洞窟のような姿に変わると、2人はそっとため息をついた。12階層から10階層までは、遠方からの襲撃にいつも以上に気を配っていたため、気が張っていたからだ。
「そういえば、サルマン様は、ハーフエルフだったんですね。」
人心地ついたためか、思い出したようにリリルカがアルクに聞いた。抱きかかえられた時、顔が近い位置にあったため、その尖った耳が目に入ったのだ。エルフのように長く尖った耳ではなく、短く尖った耳。それは、ハーフエルフの特徴であった。
「ハーフ、というかクォーターだけどな。母親がハーフだったんだよ。」
「ではクォーターエルフ、ですか?聞いたことないですね。」
「分類としては"ハーフエルフ"になるらしい。血が薄まって耳なんかの特徴がなくなるとヒューマンになる。」
「へぇ。初めて知りました。」
「ハーフエルフ自体、そんなに多くはないらしいからな。」
異種族で結ばれることもあるが、やはり多くは同種族での結婚になる。中でもエルフには他種族に触れられることも嫌う者もいるらしい。そのためハーフエルフはハーフとしては珍しい部類となる。
「エルフは魔力が高いということだったので、サルマン様が終始力技で戦っていたのが少し気になりましたが、そういうことだったんですね。」
「いや、魔力は他のステータスより全然高いぞ。」
「え?じゃあなぜ力押しの戦い方を好まれるんですか?」
魔力が高いのであれば、それを生かした戦い方の方が効率はいいはずだ。しかし、アルクは試しにやって見せた錬金術以外、魔法を使ってはいない。
「俺の師匠が根っからのパワー型だったからなぁ。俺のスタイルも完全にそっちで固まっちまった。」
「そうなんですか。お母様からは教わらなかったのですか?」
本人は気づいていないが、リリルカは普段以上に饒舌になっていた。最初は日雇いであったためにアルクに対しほとんど関心はなかった。しかしその豪快な戦い、二つ名、そして錬金術の実演と来れば、興味を抱かずにはいられない。
「母親は、というか両親は俺が小さい頃に死んだよ。」
「あ――」
だからこそ自分が踏み込み過ぎている事に気が付かなかった。口から出た言葉を戻すことは出来ない。リリルカの顔色は次第に青くなっていく。
「あぁ、気にしなくていいぞ。それこそ物心つく前の話なんだ。上級冒険者だったとは聞いたが、その勇姿はもちろん、家族としての記憶もない。」
リリルカには、それが他人事には思えなかった。リリルカもアルクと同じように両親が冒険者であり、そして、どちらも小さい頃に死んでいる。
(私の親は、とても誇れるような最期ではありませんでしたけどね。)
アルクの親がどのような最期を迎えたかをリリルカは聞かなかった。聞けばきっと、自分の親と比べてしまう。比べればきっと、自分は惨めな思いをすることになる。そう考えたとき、少しだけ背中の"恩恵"が疼いたような気がした。
その後は特にイレギュラーも発生することなくダンジョンを進むことができた。今日の戦利品を換金してもらうため、ダンジョンを抜けた2人はギルドへと向かう。
「15,000ヴァリス!結構稼げましたね。上層での採取メインの探索であれば十分です!」
「いや、やっぱりサポーターがいると違うな。薬草も予定より多く手に入ったし、これなら大手を振って帰れそうだ。」
換金と採取、共に満足のいく成果であった。レベル1の冒険者が1日探索しておおよそ5,000ヴァリスの稼ぎとなるため、レベル2であるアルクのいる2人パーティであれば上層探索での15,000ヴァリスの換金結果はそこまで高くない。しかし、今回のメインは薬草採取。モンスター討伐による魔石集めが目的ではないため、手に入れた薬草も加味して総合的には上々というわけだ。
「それじゃあ分けるか。薬草はほとんどこっちがもらうことになってたから、ヴァリスはこんなとこか?」
「…あの…サルマン様?袋が逆ではないですか?」
薬草については出発の際に2人で話をしていたため、そのほとんどがアルクのものとなる。次いでヴァリスの配分となるのだが、リリルカはアルクが差し出したヴァリスを詰めた袋に、疑問を呈した。
「そうか?まぁ薬草集めはこっちの都合だったしな。俺の配分はもっと少なくてもいいか。」
「ち、違います!リリが多過ぎるんです!サルマン様の倍はあるじゃないですか!」
アルクが5,000ヴァリス、リリルカが10,000ヴァリス。これがアルクの提案だ。金額的に10分の1でももらえれば御の字だろうと考えていたリリルカが慌てるのも無理はない。
「おかしくないだろ?」
「おかしいです!サポーターなんかに自分の倍のヴァリスを渡すなんて!」
「なんかじゃない。おかげで薬草もたくさん手に入ったし、戦闘も楽だったんだ。妥当だよ、妥当。」
主に荷物持ちとして同行したリリルカであったが、戦闘中には後ろで蹲っていたというわけではない。彼女は腕に装着したボウガンで援護射撃を行っていたのだ。群れを相手にする時など特にその援護は有難かった。処理できるとしても、援護があるのとないのでは労する体力が段違いなのだ。
「で、でもっ」
「でもはなし!少ないってことなら考えるが、多いってことなら遠慮なくもらっとけ。」
未だの納得のいっていないリリルカだったが、アルクが半ば押し切る形でその場は納まった。
「稼ぎも悪くないし、食事に誘おうかとも思ったが、今日は荷物があるからな。これでお開きで良いか?」
「はい、それで構いません。」
未遂に終わってはいるのだが、アルクがやろうとしたことは詰まる所、デートのお誘いだ。特に気にした様子もなくこのようなことが言えるのは、もしかしたら彼の主神の影響かもしれない。
「今日は本当に助かった。また機会があったらよろしく頼むよ、アーデ。」
「こちらこそです。もしその時はリリからもよろしくお願いします。」
一期一会という言葉もあるが、アルクは冒険者、リリルカはサポーターだ。このオラリオでダンジョンに潜り続けていれば、いずれまた出会うこともあるかもしれない。
「その時は、"私"なんて固いのは最初からなしな?慣れないことはするもんじゃない。」
「え?……ぁ。」
リリルカは、いつの間にか一人称が"リリ"になっていたことに気が付いた。初対面かつレベル2の冒険者ということで、なるべく印象は良くしようと自分を"私"と呼んでいたが、最後の最後でボロが出たらしい。
「じゃあな!」と別れを告げ、薬草の詰まった袋を手に帰っていくアルクの姿を、リリルカはただただボーっと眺めていた。
「…変な人でしたね。アルク・サルマン。」
ボソリと呟き、リリルカもヴァリスの詰まった袋を手に、軽い足取り歩き出した。ただし――
「どうしたんだぁ?サポーター。随分とご機嫌じゃねぇか。」
リリルカの現実は、そう甘いものではないようだが―。
―――――――――
「ただいま戻りましたー!」
「おかえりアルク。壮健そうで何より。まもなく食事の時間だ。汗や汚れを流してくるといい。」
「はい、ミアハ様」
ここはミアハ・ファミリアの本拠『青の薬舗』。アルクが店に入ると、主神自らがポーションを棚に並べているところだった。
「とりあえず頼まれた薬草を渡したいんですけど、姉さんは台所ですかね?」
「そのはずだ。それだけあれば、ナァーザも喜ぶだろう。」
ナァーザとは、ミアハ・ファミリアの団長である。医神ミアハの眷属は現在、アルクとナァーザの2人だけ。団員の少ない零細ファミリアだが、アルクはこのファミリアを気に入っていた。
「姉さん、薬草取ってきたぞ。」
「ああ、おかえりなさいアルク。かなりの収穫だったみたいだね。とても助かるよ。」
「たまたまフリーのサポーターがいてな。今日限定だけど採取に付き合ってもらったんだ。パルゥムなのに大きなバックパックを背負っててな――」
アルクはその日の出来事をナァーザ、そしてミアハに話した。
ハードアーマードから女の子を救ったことを称賛するミアハ。
その時に飲んだ薬の副作用と、締まらないオチに呆れ顔のナァーザ。
今日もまたいつものように、一日が終わっていくのだった。
次から原作の世界へ突入です。
週1を目標にコツコツ頑張っていきたいと思います。
大まかな予定は自分用も兼ねて活動報告にまとめています。
もし感想等いただけましたら出来る限り返していきたいと思います。
では、次の章で。