その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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そして物語は原作へ…
果たして"彼"と出会えるのか!


……一応今回、"駆け出し"には出会います。


1章:『錬金術師、駆け出しに出会う』
Recipe.4 - 猛牛 + 一級


冒険者アルク・サルマンは、今日も今日とてダンジョンに潜っていた。

薬草を取りつつモンスターを狩っていく。レベル2で中層の探索も許される彼だが、中層へと足を踏み入れる事はあまりない。理由の一つは彼がソロの冒険者だからだ。中層以降はモンスターの強さが上層とは大きく異なり、群れに遭遇する事も多い。一級、二級の冒険者であればともかく、三級であるアルクではソロで対処するのが困難になる。

 

それに理由はそれだけではない。摘んだ薬草はあまり時間が経つと劣化してしまうのだ。有効な保存方法もあるが、零細ファミリアで実現可能な保存方法では高が知れている。中層まで行って帰るのでは、日帰りにしても時間はかかる。"調合"のアビリティがあれば薬草を摘んだその場で薬ないしはその材料を作ることも容易だろうが、アルクに"調合"のアビリティはないし、そもそもソロでそんなことをしていたらモンスターに狙われてお終いだ。

 

やはり打開策は"パーティを組むこと"らしい。ただ、多額の借金を抱える零細ファミリアに入団するような冒険者もおらず、アルク自身、"災禍の薬箱(パンドラ)"という二つ名のこともあり、冒険者の多くからはいい印象を持たれてはいない。名前を出した時点で気づかれるか、気づかなくともレベル2と明かせば二つ名を聞いてくる場合がほとんど。この間のリリルカ・アーデのようなケースは非常に稀なのだ。出発前に素性を明かしていれば、彼女は同行を拒んだかもしれない。

 

そもそもミアハ・ファミリアにはもう1人、団長のナァーザがいるではないかと思うかもしれないが、彼女はとある事情で現在冒険者としては活動していない。理由はファミリアの借金の理由と共に追々語ることになるだろう。それは、アルクにとっても決して忘れられない記憶だ。

 

少し話が逸れたが、つまりはアルク自身が汚名返上し、パーティを組んでもらえるようにしなければ今以上の成果は見込めないということだ。

 

「礎となれ、"結合(コネクト)"」

 

そのためにも、彼の悪評の原因でもある魔法"錬金混成"をどうにかしなくてはならない。

錬成される薬の質が上がれば、アルクの評判も良くなり薬屋であるファミリアの助けにもなる。

 

「"錬金混成(アルケミクサ)"」

 

とは言え、その素材にダンジョン探索での稼ぎの要となる魔石を使用するため、多用する訳にもいかない。素材を補填する役割を担う専用アイテム"血晶"も、ドロップ頻度は決して高くないためあまり当てにはできない。

 

「"解析(アナライズ)"」

 

そうして稼ぎの一部を糧として生み出した薬の効果を確認したアルクはやはり今日も肩を落としていた。

 

「体力回復微。麻痺効果付与。一定時間の力低下小。…麻痺は流石になぁ。」

 

ステータス低下だけならば、戦闘を回避するなどによって対処も可能になるが、状態異常については完全に探索の邪魔になる。体力を少しだけ回復するために麻痺する事を選ぶ冒険者などいるはずもない。上級冒険者であれば力、耐久などの基礎アビリティの他に、発展アビリティというものが発現する場合がある。先ほど挙げた"調合"もその1つなのだが、その中に"耐異常"というものがある。その名の通り状態異常に対する耐性を上げることができるのだが、そのアビリティもアルクの()()の前では意味がなかった。デメリットが麻痺効果付与だけであった薬を耐異常持ちの冒険者に飲んでもらったところ、その冒険者はしばらくまともに動く事が出来なかった。

 

「魔石も使っちまったし、埋め合わせにモンスター狩っとかないとな。」

 

アルクは今9階層を先へと進んでいる。魔石も小さく血晶もほとんどなかったため、錬金の素材として結構魔石を消費してしまった。その見返りが麻痺薬ではため息しか出ないが、いつもの事と割り切り、アルクは減った魔石の補填に動き出した。

 

その時だった。アルクの耳に、何かが聞こえた。

 

「モンスターの鳴き声、か?だが―」

 

それはおそらくモンスターの咆哮。しかし気になるのは、この階層に咆哮を上げるようなモンスターがいたかどうかである。小型のモンスターが上げる咆哮にしては、重厚感があるようにアルクには感じられた。

 

「オークが10階層から上がってきたか?」

 

頭は豚、体は人のモンスター、オーク。10階層から出現するモンスターであるが、モンスターが本来の出現階層から移動することは珍しくない。自分が追っている冒険者が上の階へと逃げていけば、モンスターはそれを追い、同じく上の階へと追っていくだろう。

 

「放っておく訳にもいかないか。9階止まりの駆け出しがいたらやばいしな。」

 

同じ上層であっても9階層と10階層では攻略の難易度が大きく異なる。体格の大きいオーク以外にも、ゴブリンより知恵のあるインプ、音波攻撃を仕掛けてくるバッドバットが出現する。そのため、レベル1の冒険者にとってその境界は1つの関所なのだ。関所をまだ越えていない冒険者がいれば、オークは流石に荷が重いだろう。

 

「声は…、こっちか!」

 

咆哮が聞こえた方向へと向かっていくアルク。その場所か近づいたことを証明するように、冒険者の悲鳴が聞こえる。下の階のモンスターが上がって来たという予想は当たっていたようだ。

 

〈――ブルォーーー!!〉

 

間もなくアルクが辿り着く。そんな時、ダンジョンが震えた。先ほど聞こえた咆哮とは比べ物にならない覇気。レベル2のアルクでさえ、一瞬足が止まった。

 

強制停止(リストレイト)!?じゃあこの先にいるモンスターってのはっ―」

 

強制停止(リストレイト)とは、その名の通り相手を行動不能に追い込む事が出来る。もしオークの咆哮であるのなら、強制停止(リストレイト)が起こるはずはない。アルクが知る、中層前半のモンスターでそれを起こすことが可能なのは、"あの"モンスターしかいない。

 

「何でこんなところまで来てんだよ、"ミノタウロス"!」

 

二本の足で地に立つ巨大な猛牛が、アルクの目の前にいた。

 

「た、助け、――」

 

猛牛は、1人の冒険者を襲おうとしていた。先程の強制停止(リストレイト)をもろに受けたのだろう。冒険者はまともに言葉を発することすら出来ない。既にその拳を振りかぶっている猛牛に、アルクは1本のガラス瓶を投げつけた。

 

―パリンッ

 

今まさに冒険者の息の根を止めんとした猛牛の後頭部に当たり、ガラス瓶は砕け散る。すると、その瞬間炎が上がった。頭が急に燃え出したことで、猛牛は慌てて拳を解き、両手で抑えることで鎮火しようとしている。"発火薬"の投擲と共に駆け出していたアルクは、両手を上げたことで無防備となっている猛牛の腹に、その拳を叩き込んだ。

 

〈ブォーー!〉

 

猛牛はその痛みに悲鳴を上げ、壁際まで吹き飛んだ。塵化しなかったためまだ倒すには至っていないことが分かる。アルクは猛牛が再び戦闘態勢に入る前に、未だその場で固まった状態の冒険者に尋ねる。

 

「おいっ、逃げるなら今だ!動けるか!?」

 

アルクの質問に冒険者は首を横に振った。アルクが到着した時より膠着状態は緩和しているが、逃げられる程には回復していないらしい。もしかしたら、中層のモンスターであるミノタウロスとの急な遭遇により、精神面でダメージを負い体が言うことを聞かないのかもしれない。

 

「俺が背負って、…は、無理そうだな。」

 

壁際を見れば、そこには今にも突撃せんと構える猛牛。アルクは逃げるという選択肢を捨てた。ミノタウロスであれば、レベル2となって長いアルクであれば、倒すことは十分可能だ。むしろ、アルクは最初の一撃でミノタウロスを倒すつもりだったのだ。

 

「あんなにタフだったか?最近は相手にしてないが、ガラ空きの腹に一発ブチ込んだ割に立て直しが早過ぎるだろっ。」

 

レベル2でありながらミノタウロスの出現階層まで行くことがほとんどないアルクだが、戦闘経験がない訳ではない。群れであればともかく、単体を相手に手こずるとは思えない。自分の腕が鈍った可能性を考えていたアルクだったが、そこで、地面に落ちた布切れに気づいた。大きく裂けているそれは、元は袋だったのだろう。裂け目から零れたと思われる紫色の小さい何かが、布切れの周辺に散らばっている。

 

「あれは…、魔石か?…まさかっ―!おいっ、アイツもしかして、魔石を"食った"のか!?」

 

その問いに冒険者は、首肯で応えた。アルクの背に、ゾクリと悪寒が走る。ダンジョン内のモンスターの強さは、基本的にギルドが定めたランクから外れることはない。しかし、モンスターはある事を行い、冒険者でいうステータスアップ、あるいはランクアップに相当する効果を得られる。それが、"魔石の摂取"。モンスターは、魔石を体内に取り込むことで強化されるのだ。ランクが変化するほどに強化してしまったモンスターを、ギルドは"強化種"と定めている。

 

「道理で耐久が高過ぎると思った。強化種には見えないが、厄介だな。」

 

もしミノタウロスの強化種であったのならば、厳しい戦いだっただろう。しかし、不幸中の幸いか、目の前の猛牛は強化種には至っていないようだ。痺れを切らせたのかアルクへと突進してくる猛牛に対し、アルクは背負っていた剣を地面に突き立てた。

 

「来いよ牛野郎!」

 

〈ブモォーー!〉

 

アルクの声に答えるように咆哮する猛牛は、アルクを貫かんとその角を突き出しアルクに激突した。しかしその角、はアルクの体に届かない。地面に突き立てた剣が、角をしっかりと受け止めている。突進の勢いを殺された猛牛の頭にアルクは再び拳を叩き込む。

 

「沈めーーー!っ」

 

最初の横へと吹き飛ばす一撃とは違い、今度は上から地面へと振り下ろす一撃。言葉の通り、猛牛の頭が地面に沈む。今度こそ倒したか、そう思った次の瞬間、地に伏せた猛牛は両腕に渾身の力を込め、強引に上半身を持ち上げた。

 

〈ブルォーーー!!〉

 

「くっ―!」

 

その状態から繰り出されたのは、強制停止(リストレイト)付きの咆哮。アルクはそれを、ほぼゼロ距離で受けてしまう。レベル1であれば心臓すら停止し兼ねないその咆哮だが、アルクは何とか耐えてみせた。しかし強制停止の効果を完全に防ぐ事は叶わず、一瞬、アルクの動きが止まった。

 

「やべっ」

 

それを猛牛は決して見逃さなかった。いや、既に猛牛は、アルクを殺す事しか頭にないのかもしれない。腹と頭に受けた強烈な一撃に満身創痍となりながら、己をその状態に至らせたアルクへと、今度は猛牛が拳を叩きつけた。アルクの体は一直線に壁へとぶつかり、その壁面を崩壊させる。

 

「くそっ、いってぇ…。」

 

アルクの体中に痛みが走る。辛うじて手甲を盾に出来たため骨にまでダメージはないが、アルクの顔は、痛みに歪む。それでも痛みが引くのを待っている暇はない。今一度立ち上がろうとしている猛牛に、もう構えは取らせない。次で最後、とアルクが駆け出そうとしたその時―

 

「オリャ―!」

 

今度はミノタウロスの全身が地に沈んだ。最早動く事すらなくなったその体は、間もなく塵となり消えていく。最後に残されたのは、魔石だけだった。アルクが呆気に取られていると、ミノタウロスがいたその向こうに、人影が見えた。

 

「よし、これでこの階層も終わりかな。」

 

彼女は褐色の肌をしており、その露出の多い服装と合わせると、アマゾネスと呼ばれる種族である事が分かる。未だ呆気に取られていたアルクであったが、そのアマゾネスが、顔見知りである事に気が付いた。

 

「なんだ、ティオナじゃねぇか。」

 

「ん?あ、アルクだ。やっほー!」

 

元気にアルクへ手を振る彼女は、レベル5の第一級冒険者だった。




駆け出しは出ましたが、"彼"ではありませんでした。
彼に名をつけるなら、モブリオ・ノーネイムといったところでしょうか?

さて、アルクと"彼女"の関係とは?
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