その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~ 作:獣ノ助
アルクは駆け出しと、猛牛と、アマゾネスに出会った。
アマゾネスの彼女とアルクの関係とは?
独自要素をふんだんに使用しております。
アルクがティオナ・ヒリュテと出会った場所は、彼の本拠である"青の薬舗"だった。
その日はナァーザとミアハが薬の材料の仕入れのために外出しており、アルクは店番をしていた。冒険者にとって即時回復効果のあるポーションは必需品とも言えるため、決して客がいない訳ではない。ただ、医療系ファミリアとしては
「今日も売れ行きは順調、と。」
人手も少なく主神が無償でポーションを分け与えたりもするため、売れ残る事はあまりないが、その利益は微々たるものである。売れ行きだけでも順調でないと大変だ。
「んー、500ヴァリス…やっぱり同じかぁ…。」
「流石にそれより安いポーションはそうそう見つからないと思いますよ?」
アルクが帳簿などに目を通していると、いつの間にか新たな2人の女性客が来ていた。1人は商品棚を前に項垂れる短髪のアマゾネス。もう1人は山吹色の髪を1本にまとめているエルフだ。アマゾネスはポーションの金額を見て唸っている。
通常のポーションは、基本的に500ヴァリス以上で売られている。これ以上安いポーションは、出来が悪いと判断され、店の評価にも影響が出てくる。信頼出来るポーションの最安値が500ヴァリス。これは医療系ファミリアでは、暗黙の了解のようなものだった。
「ねぇ」
アマゾネスの少女はアルクへと話しかけてきた。その少女の先程の言動を見れば、次に来る言葉は想像できるだろう。
「ポーション、もうちょっと安くならない?」
「ダメだ。」
「即答!?」
案の定、少女はポーションを値切ろうとしていた。そのためアルクの返答も準備済み。ここで値切ってしまえば、500ヴァリス以下でポーションを売っている店として噂になりかねない。そうなれば、お得というだけではなく先述の通り、薬の出来も疑われる要因となる。しかもミアハ・ファミリアには"マズポのアルク"がいるのだ。下手にポーションを安くすれば、彼の作った不味いポーションを売っていると思われてもおかしくはない。
と、いろいろ理由を並べてはいるが、そもそもとして値切りなどナァーザが許すはずがない。現在の値段でギリギリの財政なのだ。
「そこをなんとかっ!」
「無理だ。それ以上安くしたらウチが潰れちまう。」
1回くらいならと思わなくはないが、残念ながらナァーザはその1回の値切りも見逃す事はないだろう。少女も困っているようだが、ぶっちゃけこっちはもっと困っている。
「す、すみません。急に無茶なお願いをしてしまって。」
再び項垂れるアマゾネスに代わり、今度はエルフの少女が話しかけてきた。彼女はおそらくアマゾネスの少女の付き添いとして来たのだろう。ここに来るまでにも薬屋を回っていたのか、その顔からは疲れが見える。何の気なしに少女の顔を見ていたアルクだったが、ふと少女と目が合った。
「ん?何か?」
「あ、いえ、その…ハーフエルフの方なんだなぁ、と。」
顔――正確には耳だが――を見ていた事に気づかれたのが恥ずかしかったのか、エルフの少女は顔を赤くしてアルクに答えた。
「母親がハーフエルフだ。俺はそのさらに半分。」
「へぇ…。あっ、すみません。私自身エルフなので、つい気になってしまって。」
高貴、潔癖という性質の多いエルフの中では、彼女はかなり穏やかであるらしい。エルフによってはヒューマンとエルフが結ばれた証であるハーフエルフという存在を特に毛嫌いする事もある。自分から話しかけてくる彼女のようなエルフは珍しい部類だ。
「いや、構わんよ。まぁエルフだった祖母の事は良く知らねぇし、サルマンってのも父方の名前だから話せる事はなさそうだけどな。」
「そうですか、…って、え?サルマン?」
アルクは何かに思い至った少女に肩を落とした。彼女も知っているのだろう、彼の噂を。そして名誉とは程遠いその二つ名も。しかしアルクが予想していた反応は、別の所からあった。
「もしかして、アルク・サルマン!?あの、"錬金術"が使えるっていう!?」
今の今まで項垂れていたはずのアマゾネスの少女がカウンターに乗り出す勢いでアルクに詰め寄ってきた。その目は爛々と輝いている。
「あ、あぁ。そうだが、…どうしたんだ?」
「錬金術!見せてっ!」
とても分かりやすい。非常に簡潔な要望である。
「ティ、ティオナさん!いきなりそれは失礼ですよ!」
「ん?ティオナ?」
そしてやはりそれを諫めるエルフの少女。少女の苦労が偲ばれる。と、そこでアルクは少女が呼んだ名前に聞き覚えがある事に気が付いた。実際に面識があるという訳ではなく、どこかでその名前を聞いたような気がするのだ。
「あ、私はティオナ・ヒリュテ。これでもレベル5の一級冒険者なんだよ!」
「そうか、ロキ・ファミリアの"
「え?どんな噂、どんな噂?」
楽しみという気持ちを隠す事なく聞いてくるティオナ。アルクはその姿に和みつつ、少し悪戯っぽ笑みを浮かべて答えた。
「ゴブニュ・ファミリアの鍛冶屋でな。
「噂ってそっちぃーー!?」
悪評についてはアルクも人の事は言えないが、鍛冶系であるゴブニュ・ファミリアに限定すれば、ティオナの悪評もかなりのものである。
「で、最強ファミリアの"大切断"様が何でここに?自分で言うのもあれだが、レベル5がアイテム補充するには品不足だと思うぞ?」
「いや、そのぉ、…お金がぁ…」
「ファミリア的に、結構稼いでるんじゃないのか?」
「そりゃファミリアにはあるけど、あれは遠征とかに使うの!私個人については別!」
つまり彼女が個人的にお金がないらしい。レベル5ともなればそうそうお金に困るとは思えない。使うとしても、アイテム補充や武器・防具の――。そこでアルクは気づいた。既にその理由を知っているではないか。
「武器のメンテ、か。」
「……うん。」
稀少鉱石の武器を度々修理に出す鍛冶師泣かせの彼女だが、当然その修理代は彼女が払うのだ。もちろん彼女の武器なので、彼女のポケットマネーから、である。
「次のメンテのお金がやばそうでさぁ。アイテム補充に使うお金を少しでも減らそうと思っていろんなお店を見てるんだけど…。」
「で、エルフの彼女は?」
「あ、申し遅れました。私はレフィーヤ・ウィリディスと言います。今日は予定がなかったので、ティオナさんに連れ出されまして…。」
「…大変だな。」
「は、ハハハ―」
「ひっどーい!そりゃあ私の都合でレフィーヤを連れ回してるのは事実だけどさ!」
一応自覚はあるらしい。それならやめておけばいいとも思うのだが、なんとなくだがそれはきっと無理なのだろうと思い、アルクはそれ以上何も言わなかった。
「そ・れ・でっ、見せてくれるの?錬金術!」
ティオナとしてもあまりその話題を続けたくはなかったのだろう。それが本題とばかりにアルクに錬金術の実演を要求し始めた。アルクも別に出し惜しみをする理由はないのだが、魔法"
「残念だが、見せられない。魔石や専用のアイテムを素材に使うからな。魔石はギルドで換金するから、使うのは基本的にダンジョン内だ。」
「そうなんだぁ。それじゃ仕方ないねぇ。」
思いの外あっさりとティオナは引き下がった。そもそも食い下がられてもどうしようもないが。
「代わりって訳じゃないが、その錬金術で作ったポーションなら、ここにあるぞ。」
「あ、知ってる!マズポでしょ?不味いポーション!」
「私も聞いたことがあります。"マズポのアルク"さん、でしたっけ?」
決して間違ってはいない。間違ってはいないが、アルクは大きな精神ダメージを負った。さらに、今までフォローに回っていたはずのレフィーヤまでも追撃をかける。2人に悪気はないのだと言い聞かせ、アルクは何とか持ち直した。
「確かに不味いが、通常のポーションの半分くらいは効果があるんだぞ?」
「不味い上に、効果は半分?」
返す言葉もないとは正にこの事。再びグサリと精神攻撃を受けたアルク。レベル5ともなれば、言葉だけで人を追い込むことが出来るのだろうか。
「――タダだ。」
「え?」
「この不味くて効果も半分程度のポーションなら、タダでやる。」
元々売り物にならない不良品だ。勿体ないという事でアルクがダンジョン探索時に使用していたのだが、中層まで下りる事もほとんどないアルクからすれば、必要になる事はないのである。
「不味い…、効果半減、……でも、…タダ!」
彼女の葛藤にアルクは泣いた。ともすれば、タダでも要らないという事だろう。最悪不要になる事もあり得るが、アルクはマズポのストックを裏から取り出した。
「決めた!そのポーション、ちょうだい!」
不要にはならなかったようだ。背に腹は代えられないという事であっても、僅かに需要があった事を喜ぶ事にしたアルクであった。
「それじゃあ遠慮なく持って行ってくれ。と、その前に注意点がある。」
「えっ、まだ何かあるの?」
「1つ目だが、このポーションは飲み薬だ。傷に掛けても治らない。2つ目、というかまぁこれは出来ればの話なんだが、空き瓶は戻してもらえると助かる。」
1つ目についてはアルクが錬成した薬の特徴でもあった。普通のポーションは傷に掛けることでその傷を治す事が出来るが、アルクの不良品では不可能。体力回復と治癒力の促進までなのだ。2つ目に関しては言うまでもなく貧乏性。薬を入れる瓶もタダではないのだ。緊急時であれば丁寧に空き瓶をホルスターなどに戻す時間もないだろうが、アルクのマズポがそんな事態で使われる可能性は低いだろう。しかしレベル5クラスの戦闘であればその際に瓶が割れる事もあるだろうと思い、アルクは返却に関しては可能な限りとした。
「ちぇっ、掛ける方で使えば味なんて関係ないと思ったのに。」
ティオナの意見にはアルクも同意せざるを得ない。せめて傷薬としての使用が可能であれば、"飲み薬としては適していない"という注意書きの上で活用できたかもしれない。唯一のデメリットである不味さを回避出来ないあたり、やはり不良品なのである。
「どうする?何なら不味くはないが、ステータスダウンや状態異常のおまけが付くポーションも用意出来るぞ。」
「そ、それはもうポーションじゃ…。」
レフィーヤの呟きにも、やはり同意せざるを得ない。それを理解している故に、アルクはステータスダウンや状態異常付きを出すつもりはない。ダンジョン探索に直接被害が出ては仕方がない。
「そっちのはいらないけど、…うん、もらう!ちょうだい、マズポ!」
半分冗談のつもりだったのだが、この一級冒険者はいったいどれ程お金に困っているのだろうか。
「分かった。とりあえず今ある分は渡すが、その前に試飲しとくか?」
「する!噂のマズポ、どんな味か知りたい!レフィーヤも飲んでみようよ。」
「わ、私は遠慮しておきます。」
試飲を断るレフィーヤに不満気味のティオナだが、アルクもわざわざ被害者を増やすような事は避けたい。百聞は一見、いや一飲に如かずということで、早速アルクはティオナにマズポを差し出した。初めは通常のポーションとは少し異なるその色に多少警戒したティオナであったが、意を決してそれをグイっと飲み干した。
「おぉ、試飲のはずだったんだが、一気にいったな。」
「大丈夫ですか?ティオナさん。」
その威勢の良い飲みっぷりに感嘆するアルクと、逆に不安そうに見守るレフィーヤ。初めてのマズポを体験したティオナの感想は、至極普通のものだった。
「――まっずぅ~い。」
「予想通りのリアクションをどうも。で、どうする?実際に飲んでみて。やっぱりやめとくか?」
「ううん。大丈夫。我慢できる!」
流石は一級冒険者、と言っていいものかは分からないが、ティオナの気は変わらなかったらしい。実は今の味はアルクがレベル2になった事で良くなった上での味であり、レベル1の頃はそれ以上に酷い味だったと言ったら、彼女はどんな顔をするだろうか。
「分かった。改めてマズポのストック、全部渡そう。」
「やった!ありがとう!」
どちらかと言えば捨てるに捨てられないマズポを一掃出来たアルクの方が感謝したい気持ちではあるが、それはそれで空しいので、アルクは彼女の気持ちを受け取った。
「んー、でもタダでもらうだけじゃ、流石に悪いよねぇ。」
「え?」
とりあえずこれで話は一段落、と思っていたアルクだったがティオナはそうではなかったらしい。うーんと考え込む彼女が何を言っているのかアルクには一瞬理解出来なかった。
「いや、不良品を渡しただけだぞ?見返りなんて要る訳ないだろ。」
「でも半減しててもポーションの効果はあるんでしょ?これだけもらっておいてタダっていうのはちょっとなぁ。」
元々アルクが勿体ない精神によりたまに使っていた程度だったため、マズポのストックはそれなりにあった。それでも不良品は不良品。アルクとしては何ももらうつもりはないのだが、ティオナはそれでは気が済まないらしい。
「何かないかなぁ。あ、お金がかかるのは無理だよ?」
「それは知ってる。」
そもそもマズポを渡した理由はそれだ。下層探索時などに少しだけ薬草を摘んできてもらおうか、などと考えていたアルクだったが、そこでふと思いついた。
「じゃあ大規模な探索以外の時で良いから、ダンジョン探索に同行させてくれないか?ちょっと深いところにある薬草も欲しいしな。」
「え?そんなのでいいの?」
アルクの考えは頼むくらいなら自分で行けば良いのではないか、というものだった。本格的なダンジョン攻略であればレベル2のアルクには荷が重いが、そうでなければアルクでも同行が可能な探索範囲の時もあるだろう。もちろんアルク自身万全の態勢で臨むつもりではあるが、レベル5のティオナがいれば安全面は問題ないだろう。
「レベル2の俺でも荷物にならない程度の探索に行く時で構わない。当然準備もこっちで揃える。ま、気が向いたらってくらいに考えてくれたらいい。」
マズポのお返しとするには破格と言えるだろう。少し気が咎めるアルクであったが、遠慮ばかりでは零細脱出はいつまでも出来ないだろうと、探索への同行を提案した。
「いいよ。その内ロキ・ファミリアで深層に行くからその準備をしなくちゃいけないんだけど、それが終わったらで良いかな?」
「全然構わない。こっちが無理言ってるようなもんだしな。」
深層へと向かう事が出来るファミリアなど、数えるほどだろう。アルクが足を踏み入れれば、数分と持たず命を落とす事になるのは間違いない。深層へ向かった上で自分が無事帰還する事を疑う様子のないティオナに、彼女がレベル5の一級冒険者である事を改めて実感するアルクであった。
皆様の思うキャラと違ってたらすみません。
原作突入と言いつつ次話も原作要素少なめです。
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