その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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薬の配達を終え、帰路につくアルク。
その途中、彼はモノクロな出会いをする。


削るに削れない原作の内容に、アルクはどうする!?


Recipe.7 - 黒衣 + 白髪

アルクがヒュプノス・ファミリアへの配達を終え、本拠へ帰るその道すがら。唐突に、路地の暗闇から彼を呼ぶ声が聞こえた。

 

「こんばんは、アルク君。」

 

「うぉっ!…っと。相変わらずいきなりだな。せめて姿を見せてから声を掛けてくれよ。」

 

「あぁ、すまない。姿を隠している事の方が多いせいか、その辺の配慮が欠けていたようだ。」

 

声の主は、暗闇から生まれたかのようにその姿を現した。しかし、その姿もまた暗闇。全身を黒衣で纏っているため、路地に漏れる微かな街灯の光が無ければ目視出来なかっただろう。

 

「今日はいつもの定期連絡か?こっちから頼んだ事だが、あんたもマメだな。」

 

「約束は守るさ。それに"君達"には悪い事をしたと思っているんだ。たまにこうして伝えに来る程度なら何の問題もない。」

 

「これしか無かったんだ。気にすんなよ。」

 

「そうか」と呟く黒衣の男。黒衣に隠れて顔も見えないが、アルクにはなんとなく、彼が微笑んでいるように見えた。もっとも、彼がそんな表情をする事は()()()()()のだが――。

 

「では本題に入ろう。"彼女"は今も変わりなく元気でやっているよ。この前も君の事を悪く言うグロスが怒られていてね。たじたじになったグロスはちょっと見物だった。」

 

「そうか、それは良かった。」

 

「まだ、会いには行かないのかい?」

 

その問いに、アルクは少し考えた。会いに行きたいという思いはあるが、それは決して簡単ではない。オラリオの外であれば、時間を掛ければ会いに行けるだろう。しかし、彼女に会うために時間はさほど必要ではない。必要なのは、"力"だ。何しろ彼女が待つそこは、ダンジョンの奥深くなのだから。

 

「そうだな。長い事待たせちまった。そろそろランクアップでもして会いに行かなきゃな。」

 

「私が送って行く事も出来るんだけどね。」

 

「知ってるだろ?"強くなって必ず会いに行く"。そう約束したんだ。連れて行ってもらったんじゃ格好つかない。」

 

「知ってるさ。ほんと、君も十分()()だよ。」

 

黒衣の男は「それじゃあ、また。」と再び路地の暗闇へと消えていった。

アルクがオラリオへとやって来て、3年以上の月日が経った。それはつまり、"会いに行く"という約束をして、それだけの時間が経ったという事になる。

 

「本当に、いつまで待たせてるんだろうな、…俺は。」

 

アルクは自嘲し、夜の街を歩き出した。

 

 

 

先程より少し気落ちした様子でアルクが街を歩いていると、横から誰かが走って来ていた。暗くてその姿は良く見えないが、俯いた状態で走っているらしい。暢気に走っている誰かを見ているアルクと俯いたまま走ってくる誰か。やばいとアルクが気が付いた時には彼は目の前まで迫っていた。

 

「うぉっと、危ねっ!」

 

「えっ?」

 

ぶつかりそうになった2人であったが、間一髪でアルクが避けたため衝突は免れた。アルクの声に俯いていた彼もようやく顔を上げ、足を止めてアルクの方を振り向いた。

 

「前見てないと危ないぞ?」

 

「ぁ、ご、ごめんなさい!」

 

アルクが注意すると、その少年はこれでもかと言わんばかりに狼狽えた。確かにぶつかりそうになった原因は彼であるが、そこまで怯えるほど強く言った覚えはない。その狼狽ぶりにどうしたものかと考えたアルクは、別の話を振る事にした。

 

「今度から気を付けりゃいいよ。それより、こんな夜に急いでどうしたんだ?ダンジョンにでも潜る気か?」

 

「……はい。」

 

気を紛らわせようと冗談のつもりで言ったアルクだったが、予期せず正解を言い当ててしまったらしい。先程まで狼狽していた少年は、再び顔を伏せた。彼の事情は当然知らないアルクだが、何か深い理由があるのだろうという事は一目瞭然だ。

 

「こんな夜に行かなくてもいいだろ。あまり無理はするもんじゃない。」

 

しかしアルクは彼が抱えているのであろう事情をとりあえず無視した。そこまで首を突っ込むつもりはないが、このままそうですかと彼を見送るのも躊躇われたので、当たり障りのない忠告までに留める。

 

「でも、僕はっ――」

 

言葉に詰まり、奥歯を噛み締める少年の姿にどうしたものかと考えていたアルクだったが、ここでようやくその少年に見覚えがある事に気が付いた。昨日ギルドですれ違った、アルミラージのような少年だ。その特徴的な白髪と紅い瞳が夜の暗さのせいではっきり確認出来なかったためすぐに気が付かなかったが、間違いない。あの時笑顔を見せていた彼にいったい何があったのか。

 

「僕は…、早く、強くなりたい…。」

 

振り絞ったように語る白髪の少年を前に、アルクは無言だった。その願いは、冒険者であれば誰もが抱くだろう。アルクも例外ではない。ただ、少年の顔から感じ取れるのは焦りと、そして…、怒りだろうか。その怒りの矛先はモンスターか、あるいは――。

 

「少しだけ、待っててもらえるか?」

 

まぁこれも何かの縁だろうと、アルクは少年に付き合う事にした。本拠に戻り配達の代金を渡したり、ダンジョンへ向かう事を伝える必要があるがため少しの間待ってもらうよう伝える。

 

「え?あの…何で…。」

 

少年は状況を飲み込めず混乱しているが、改めて同行を提案すればおそらく彼は恐縮し、それを拒むだろう。そのためアルクは待機するよう伝えるだけにして、急いで本拠へと戻って行った。

 

 

 

そして今、アルクと少年はダンジョンにいる。案の定ダンジョンへの同行については彼が"自分の事情だから"と拒んだが、それを見越して既に用意を済ませた事と彼の戦闘に手を加える気はない事を説明し、何とか納得させた。手を加えないというのは決して嘘ではない。あくまで彼が命を落とさないように見守る程度だ。事情を話した際に主神のミアハからもしもの時のためとポーションを預かって来ているが、極力使わない方針でいる。

 

決して、相変わらず商品を無償で分け与えようとする主神を睨む、我がファミリアの団長様の視線に委縮した訳ではない。

 

ちなみに、彼の名前はベル・クラネルというらしい。ダンジョンへ向かう途中で簡単にだが自己紹介を済ませておいた。実はアルクは彼を知っている。話だけではあるが、ミアハの神友(しんゆう)であるヘスティアの最初かつ唯一の眷属としてその名前は耳にしていた。中層近くへの探索や配達などの店の手伝いによって会った事はなかったが、"冒険者としてはひ弱そう"というナァーザの印象とも合致した。

 

(何をそんなに焦ってるんだろうな…。)

 

自分の方へと襲い掛かって来た身の程知らずなダンジョン・リザードを殴り飛ばし、アルクは今も尚ナイフを振り続ける少年を見守っていた。アルクの記憶では、駆け出しである彼が冒険者となってまだ半月も経っていないはず。確かに駆け出しの頃は自分が期待していた程にステータスが伸びず落胆する者も多いが、ベルの強さへの執着はそれだけとは思えなかった。

 

「なぁ、ベル。」

 

「はぁ、はぁ。…ぇ、何ですか?アルクさん。」

 

神同士が仲が良いという事もあり今後も顔を合わせるだろうとアルクは互いに名前で呼び合う事にした。ちょっとしたサプライズ気分でファミリアについてはまだ話していない。

 

「何でそんなに強くなりたいんだ?()()()()冒険者になって日が浅いみたいだし、少し焦り過ぎてるように見えてな。余計なお世話だったら悪い。」

 

そこまで踏み込むつもりはなかったが、アルクは自然とその質問を口に出していた。それはもしかしたら、アルクがベルの姿に昔の自分の姿を重ねてしまったからかもしれない。

 

「………自惚れてたんです、僕は。何もしなくても何かが変わるって。何もしなければ、…弱いままじゃ、何も変わらないのにっ。」

 

冒険者になった事で強くなれると思っていたが、現実は思ったように強くなれずステータスもほとんど上がらない。そういう事だろうか。しかしそれではまだ弱い気がする。

 

「お前に今日、いったい何があったんだ?」

 

だからさらに踏み込む。アルクが昨日ベルをギルドで見掛けてから、今日出会うまで。いや、おそらくは今日出会うその少し前に、いったい彼に何があったのか。ベルはすぐには答えなかった。答えを待つその間にもモンスターは襲い掛かって来るためベルは切り伏せ、アルクはいなしていく。それから何度目かの戦闘を終えた後、シンと静まり返ったダンジョンで、ベルはようやくアルクに事の経緯を話し始めた。

 

「昨日、ダンジョンの5階層でミノタウロスに襲われたんです。」

 

「…マジか。」

 

犠牲者はここにもいた。冒険者になって半月でミノタウロスとご対面など悪夢としか言えない。ベルの不幸に同じ目に遭ったアルクは同情したが、そこで疑問が生まれた。

 

(ギルドで会った時、ベルは笑ってなかったか?5階層は剣姫達が後始末を終えてたはずだし、その後に遭遇した確率は低そうなんだが。)

 

そう、ベルとミノタウロスの遭遇と、アルクがギルドで見かけたベルの姿の辻褄が合わないのだ。アイズ達がミノタウロスを倒し損ねていた可能性は無いと考えるなら、遭遇は間違いなくアルクが彼をギルドで見掛けるよりも前。つまり、ベルは5階層でミノタウロスと出会ったにも関わらず無事にダンジョンから帰還し、しかも笑顔を浮かべていた事になる。生還を喜ぶといった様子でもなかったはずだ。しかしその疑問の答えは、話の続きで明らかになった。

 

「でも、助けてもらったんです。アイズ・ヴァレンシュタインさんに。」

 

(なるほどな。)

 

その時のアイズの姿を思い出しているのだろう。ベルは"格好良かった"、"綺麗だった"と彼女がミノタウロスを倒すその様を目を輝かせながら語った。

 

(あぁ、つまりあの笑顔の理由は…そういう事か。)

 

その姿を見れば、その手の話には疎いアルクでも流石に分かる。つまりベルは――

 

「ベルはアイズ・ヴァレンシュタインに()()()()()()、と。」

 

「えっ!?いや、あの、その…………はぃ。」

 

初対面ではその顔を俯かせ、先程までは必死の形相だった彼が、今は真っ赤になっている。ころころ表情の変わるベルに和みつつ、アルクは話の続きを待った。おそらくここまでは"何か"が起こるその前段階。剣姫との出会いに浮かれる彼に何が起こったのか。

 

「でも、今日"豊穣の女主人"という酒場に行った時に――」

 

馴染みの酒場の名前が出た事に少し驚いたアルクだったが、その酒場でベルに起こった出来事は、何とも言い難いものであった。

 

その酒場の従業員との約束で夕飯を食べに行ったベル。しかし何の因果か、ロキ・ファミリアが打ち上げにやって来た。もちろんそこにはベルの思い人であるアイズ・ヴァレンシュタインもいた。しかし初心なベルは、話しかけるのはもちろん目を向ける事すら出来ない。駆け出しには想像もつかない程の彼らの冒険譚を耳にするベルだったが、とある狼人の話に目を見開いた。

 

「最後のミノタウロスをお前が始末しただろ?そんで、あん時5階層にいたトマト野郎!」

 

それは紛れもなくベルの事だった。5階層という場所も一致するし、アイズから助けられた際にベルはミノタウロスの血を大量に浴び、まさしく"トマト"のように赤く濡れていた。ベルは体を縮こまらせた。それまで気付かれる事を"恥ずかしい"と思っていたのが、今度は"怖い"と感じる。

 

狼人の青年は、酒の勢いも手伝ってか上機嫌に語る。「泣き出すくらいなら冒険者になどなるな。」――「雑魚(ゴミ)雑魚(ゴミ)だ。」――彼の言葉がベルに突き刺さる。青年を諫める声もするが、それもベルにとっての慰めになどならない。そして、ベルにとって決定的な言葉が放たれた。

 

「雑魚じゃ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ。」

 

ベルは耐え切れず、勘定も払わず酒場を出た。彼女は"剣姫"。レベル5の第一級冒険者。それに対して自分は、二つ名も無い駆け出し冒険者。ダンジョンで彼女に出会い、恋をした。その出会いで何かが起こると勝手に思い込んでいた。しかしそれは、自惚れだった。彼女はきっと、自分との出会いなど歯牙にも掛けない。掛けたとしてもそれは、"雑魚"という言葉の似合う、弱くて惨めな姿の自分でしかない。

 

――強くなりたい。

 

彼女との出会いに恥ずかしさの余り逃げ出した事を後悔した。その事実を棚に上げその出会いに何かを期待した事を後悔した。積み重なった後悔をどうしていいか分からず、ただただ強さを求めてダンジョンへと駆け出した。

 

そして彼は、錬金術師と出会ったのだった。




第一目標の原作5巻まででは回収出来ない伏線が…。
今回から本格的に原作をイジリ倒していきます。

1章は次回で終了です。
章ごとの話数は少なめになるかもしれません。
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