その錬金術師は儘ならない~彼に薬を求めるのは間違っているだろうか~   作:獣ノ助

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黒衣の彼は置いておくとして、
ついに白髪の少年、ベルと出会ったアルク。
アルクの目に彼はどう映るのか。


憧憬一途(リアリス・フレーゼ)付きのステUP前なんですよね、これ。


Recipe.8 - 無茶 + 炉の神

「それで強くなりたいって訳か。」

 

ベルが夜にも関わらずダンジョンへと向かう理由を聞いたアルクは、少し感想に困っていた。ベルの姿を自分と重ねたりしたが、強さを求める理由を聞くと思ったよりも自分とは違っていたからである。

 

ベルはおそらく、剣姫の横に並ぶ事が出来る強さを求めている。彼女に認めてもらえる事を望んでいる。一方アルクは目標とする人こそいるが、その人に認めてもらう事は出来ない。その人は、もういないのだから。アルクが強さを求めたその先にいったい何があるのか。それはきっと、"復讐"だろう。

 

(俺は羨ましいのか…?ベルの、強さを求めるその理由が…。)

 

姿を重ねてしまったからこそ、そこに秘めたものを知った事でベルの初々しさがアルクには眩しく思えた。

 

「分かった。ベルの気が済むまで付き合うよ。」

 

「でも、僕の都合にアルクさんをいつまでも付き合わせるのは――」

 

「ここまで来て途中で帰ったりしたら医神であるうちの主神に怒られちまうよ。お前は俺が責任を持って帰してやる。()()()()でな。」

 

出発の際にも同様の問答をしたため、アルクはベルの言葉を遮る形で話を続けた。大した理由もなく内緒にしていたが、そろそろネタ晴らしをしても良いだろう。

 

「医神、ですか?それに五体満足って…。」

 

「多分ベルの予想は合ってる。俺はミアハ・ファミリア所属の冒険者だ。」

 

「ミアハ様の…。じゃあ、僕の事も?」

 

「ああ、話には聞いてる。ヘスティア様の眷属だろ?ミアハ様や姉さんが話すのを聞いただけだったから、名前を聞くまで分からなかったけどな。」

 

もし初めからベルの事に気づいていたのであれば、ミアハを通じてヘスティアに一言伝えておく事も出来ただろうが、残念ながら自己紹介をしたのは再度合流した後だ。

 

「姉さん?」

 

「ナァーザさんだよ。会った事あるだろ?入団した頃からいろいろと世話になってな。いつの間にか"姉さん"って呼ぶようになってたんだ。」

 

「そうだったんですか。」

 

厳密には"姉さんと呼ぶように言われた"のだが、ナァーザの名誉のためにもそれについては伏せておく事にした。アルクは()()()()なのである。

 

「だから遠慮しなくていい。気が済むまでやって来い!」

 

「ぁ…、はいっ!」

 

ベルは再びダンジョンを進み始めた。多少疲れは見えるが、気持ちでそれを無理矢理抑えているのだろう。既に2人は6階層へ辿り着こうとしている。人型で影のようなモンスターであるウォーシャドウは新米には荷が重いだろうし、キラーアントの群れと遭遇すれば今のベルの状態では命はないだろう。

 

「頑張れ、駆け出し冒険者。」

 

ベルには聞こえる事のない声で呟くアルク。ベルを無事にファミリアへ帰す。それはアルクの思いでもあり、"五体満足"をシンボルに掲げるミアハ・ファミリアとしての意志でもある。ただし、それは最悪の場合を想定してであり、そこに至る事が無ければアルクは手を出す気はない。今の自分の限界を知る事も間違いなく彼の力になる。そう信じて、ボロボロになっていくベルの姿をアルクはただ見守り続けた。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「――ぇ、あれ?ここは?」

 

ベルが目覚めると、自分の足が地に付いていない事に気がついた。未だ頭が覚醒しきれていないベルに気づき、アルクが答える。

 

「今は3階層だな。もうすぐダンジョンから出られるぞ。」

 

「3階層…。じゃあ僕は。」

 

「体力の限界だったんだろ。7階層で戦ってる途中で気絶したんだ。覚えてないか?」

 

「7階層に行ったのは覚えているんですが、そこからは…。」

 

6階層ではウォーシャドウも見事に倒したベルだったが、既に体力は限界を迎えていた。7階層での戦いを始めて間もなく、ベルはプツリと糸が切れたように気を失ったのだ。それを確認したアルクは、無防備なベルの命を狙わんと迫るモンスター達を片付け、ベルを背にダンジョンを戻り始めた。

 

「す、すみません。すぐに降りっ!…ぐっ!」

 

「無理すんなよ。少し寝たくらいじゃ回復する訳ないんだ。それに、こういう時のために俺が同行したんだしな。」

 

今の状況を見れば、アルクが付いて来たのは正解だったと言えるだろう。しかし、もしかしたらアルクが付いているという保険があったために、ベルは必要以上にダンジョンを進んでいってしまったのかもしれない。そう考えるとせめて帰りの道は役目を全うさせてもらいたいと思わずにはいられないアルクだった。

 

「ダメですね、僕。こんな上層で無茶して、死にそうになって、全然弱い…。」

 

(うーん、そうでもないと思うけどなぁ。)

 

ベルはまだ冒険者になって半月である。そんな駆け出し中の駆け出しが、上層の難敵であるウォーシャドウを倒している。それだけでもベルの力は並の冒険者とは違うと言える。少なくともアルクが冒険者になって半月の時点でウォーシャドウと1対1で戦った場合、勝てる保証はなかっただろう。

 

「まぁ、格好良いか悪いかで言うなら、格好悪かったな。」

 

「うっ。」

 

アルクの意見にベルが呻く。がむしゃらにモンスターを倒し続け、体力が尽きればその場で倒れモンスターの為すが儘となる。それを格好良いとはとても言えないだろう。

 

「やらなくて良い無茶をする時は大抵格好悪いんだよ。だけどな、しなくちゃいけない無茶をする時ってのはきっと、格好良いんだ。」

 

「しなくちゃいけない無茶…。」

 

アルクは知っている。彼の目の前で無茶をして、そして、それでも格好良かった人を。アルクは知っている。する必要のない無茶をした、格好悪い自分を。

 

「"冒険者は冒険をしてはいけない"なんて言うけどな、避けられない冒険ってのは絶対にあるんだ。その時にはきっとベルも、強く、そして格好良くなれるさ。」

 

「……はい。」

 

少し熱く語り過ぎたかと後悔し始めたアルクだったが、ベルの納得したような様子に安心し、地上へと歩を進めて行った。

 

地上に出ると時間は既に早朝だった。魔石を換金したいところだが、時間も時間なので改めて向かう事に。ベルに魔石を渡すとその半分をアルクに渡そうとしたが、アルクはそれを断った。パーティを組んだ訳でもないし、アルクは基本見てただけだ。そもそもアルクが降りかかる火の粉を払う程度に倒した分の魔石は別に取っている。ソロ2人がそれぞれ倒した分の魔石を持っていると考えれば、何の問題もないだろう。

 

歩ける程には回復したベルに肩を貸し、2人はヘスティア・ファミリアの本拠(ホーム)へと向かった。初めて訪れるその本拠に、どんなところかと少し期待していたアルクだったが、目の前に現れたそれは予想外のものだった。

 

「…教会?」

 

そう、教会だ。神ヘスティアは"炉"を司る神だったはずなのだが、その本拠が教会というのはいったいどうした事なのだろうか。そんな事を考えていたアルクだったが、教会の入り口から誰かが走ってやって来るのが見えた。その勢いと目標地点を確認したアルクはベルを肩から外し、少し距離をとる。

 

「え?あの――『ベルくぅーーん!!』ぐほぁっ!」

 

それは見事にベルへと着弾した。今ので再び意識を手放すかに思えたが、ベルは何とか耐えてみせた。そんな彼に力いっぱい抱き着いているのは、彼の主神ヘスティアである。

 

「こんな時間まで帰って来ないから心配したじゃ、って、ベル君傷だらけじゃないか!」

 

ヘスティアの言葉にアルクはしまったと思った。体力については限界を知ってもらう上でそのままとしていたが、外傷についてはミアハから渡されたポーションで治しておいた方が良かったかもしれない。心配そうな主神に大丈夫だと伝えるベルだが、体中ボロボロで血の跡も残った状態のままでは説得力に欠ける。

 

「神様。」

 

「今すぐ手当を!…って、ん?何だい?」

 

只ならないベルの状態に慌てるヘスティアであったが、彼の呼ぶ声に動きが止まった。そんな彼女に、ベルは意を決したように告げる。

 

「僕…もっと、強くなりたいです。」

 

アルクにも話したその願望。しかし、その表情は全く違った。ベルが主神に向けるのは、後悔や歯痒さで歪んだ顔ではなく、決意を新たに前を見据えた、そんな微笑みだった。

 

「うんっ!」

 

ただそれだけで、主神には自分の眷属の決意が伝わったのだろう。ヘスティアもまた、ベルに微笑み返すのだった。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

「アルク君、だったね。ありがとう、ベル君を連れて来てくれて。」

 

ポーションで傷を治し、血を拭き取ったベルをベッドに寝かせたアルクとヘスティア。ベルも安心感からかベッドに入るや否や眠ってしまった。それを確認したヘスティアは、改めてアルクへと感謝の言葉を述べた。

 

「いえ、俺はほとんど見てただけですから。」

 

「それでも、だよ。ベル君は、ボクにとって何より大切なたった1人の家族なんだ。」

 

以前パーティを組んだパルゥムのリリルカ・アーデ程ではないが、ヘスティアの身長もかなり低い方だろう。背の高いアルクと比べれば尚更だ。しかし真剣な顔でアルクを見上げるその姿には、言葉で表すには難しい力強さを感じる。彼女も"超越存在(デウスデア)"だという証拠だ。

 

「じゃあ、どういたしまして、って事で。俺は本拠に戻りますね。」

 

「ああ。ミアハによろしくと伝えてくれ。」

 

「分かりました。と、そうだ。ベルに伝言をお願いしてもいいですか?」

 

「もちろんいいとも。何だい?」

 

そしてアルクはヘスティアに伝言の内容を伝え、彼の本拠"青の薬舗"へと帰って行った。

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

その日の夕方、ベルは目を覚ました。意識がはっきりするにつれて、体のあちこちから痛みを感じる。そこでようやく、昨夜から今日に掛けてダンジョンへと潜っていた事を思い出した。何の気なしに顔を横に向けると、そこにはヘスティアの顔がある。

 

「やぁ、おはようベル君。」

 

「あ、おはようございます神さ…て、え!?神様!?」

 

流れのままに返事をしたベルだったが、その状況がおかしい事に気が付いた。なぜ自分の主神が横で寝ているのだろうか。

 

「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。」

 

「え、いや、あのぉ……はい。」

 

よくよく考えたらベッドはヘスティアが普段寝ている場所であり、負傷と疲労のためとはいえ自分がそこに寝ている事がおかしいのだ。なので、ベッドでヘスティアが寝ていても何の問題もない。あるはずがない。あってはいけない。ベルは強引に自分を納得させた。

 

「体は大丈夫かい?」

 

「はい。まだ少し痛みますけど、普通に動けます。」

 

「なら良かった。でもまだ完治した訳じゃないから、今日はこのままご飯を食べて眠るといいよ。無論、ベッドでね!」

 

最後の部分が引っ掛からなくもないが、ベルも流石にこれからどこかへ向かう元気もないため、その提案を受ける事にした。

 

「そういえば、アルク君から伝言があったんだ。」

 

「アルクさんから?何ですか?」

 

「"お前がもし10階層まで辿り着いた時、気が向いたらパーティを組まないか?急ぎの話じゃないからゆっくりで構わない。くれぐれも無茶はしないように。"だってさ。」

 

「"無茶"はしないように、か。」

 

その忠告は、今のベルには身に染みた。しっかりと着実に力をつけて10階層を目指せという事だろう。パーティの提案はベルにとって嬉しい話だが、今の彼では足手纏いになるだけだ。

 

(強くなろう。アルクさんと一緒に戦えるくらいに。そして、いつかきっと――)

 

――アイズ・ヴァレンシュタインに、追いつけるように

 

ベル・クラネルの冒険譚はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

「あ、忘れてた。伝言がもう1つあるよ。」

 

「もう1つ、ですか?」

 

「うん。"豊饒の女主人でツケはきかないぞ"だって。どういう意味なんだい?」

 

「………。」

 

ベルの顔が青ざめたのは、言うまでもない。

 

 

 

オラリオを見渡せるその高み。どこより高いその場所には女神がいた。

 

「アルク・サルマン。彼はあの子にどんな影響を与えるかしら。」

 

雲すら貫くその場所からは、街の様子など見えるはずもない。しかしその女神にとっては距離など関係なかった。彼女の見つめる先には、ベッドに眠る白髪の少年がいる。

 

「今はまだ構わないけれど、もし余計な事をするようなら…。」

 

その冷たい眼差しはいったい誰に向けられたものなのか。

美の女神はまだ動かない。しかしそれは、静かに始まろうとしていた。




これにて1章終了です。
次章は原作要素多めの予定なので、週2で投稿出来たらと思います。
話数は4話くらいの短めです。


たくさんの方に読んでいただき嬉しい限りです。
まだまだ至らぬ点ばかりではありますが、次回もよろしくお願いします。
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