コードギアス 灰かぶりのルルーシュ   作:ギモアール

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広場にて

「ふぅ、思ったよりも早く終わってしまったな。さてどうするか…

 

足取りが軽くなりすぎた。

1時間とかからずに全てがおわってしまった。夜食にはカットしたパンにチーズとベーコン、トマトを乗せて焼いたトースト、まぁ、いわゆるピザトーストというやつだ。

どうやらこの世界にはまだないらしく、初めて作った時にこれはなんだとよく聞かれたものだ。まぁ、憎まれ口を叩きながらも美味そうに食べてくれたがな。

……あいつに言わせたら、こんなものピザではない。チーズの無駄遣いだと、とんでもなく怒りそうだな。

ふ、妙な感じだ。あの時は鬱陶しさしか感じなかったが、今では懐かしく思ってしまうとはな。…終曲に近づくにつれて、めっきりこんなやりとりも、しなかったからか、な…くっ、また俺は過去を!俺はもう、未来に生きると誓ったはずだが…

っと、また思考の渦に飲み込まれるところだった。

ふう。これ以上考える必要はもうないだろう。

ふと目を端にやると、洗濯用の水がめが目に入った。そういえば今朝は汲み足していないことを思い出した。

フタを開けると、半分より少し少ない目しかなかった。

 

「ん、思ったより少ないな。仕方がない。汲みに行くか。

 

あいつらの服とチェラムのものを考えると少し足りないと感じた俺は、そのままの格好のまま、木の桶を持って家を出る。

井戸は町の中央にあり、歩いても五分とかからない位置だ。

何故家で汲まないかは、あいつらの愚行によるものだとしておく。

 

 

 

 

 

 

陽はとっくに沈んでおり、ひっそりと町を照らす月と家々の門の街灯が程よい夜の帳を醸し出していた。

俺は元の場所では体験できないこれに、少し心が癒された。街の人々の馬車が俺のそばを通りすがる。そうだ、普通はそんな、開門と同時に入ろうとまでしない。全く、ふふ、どこまでも俺を笑わせてくれるな、あの男は。程なくして俺は広場に着いた。

が、俺は広場へと進むのに躊躇してしまった。

 

「これは…少し、気まずいな…

 

 

広場には舞踏会に参加するのであろう、多くの人々がドレスやタキシードに身を包んで話し合っていた。お互いに身嗜みをチェックしている者もいる。皆、正装だ。反対に俺は普段と変わらない長シャツとジーンズ。…流石に気まずいものを感じてしまう。

しまった、毎年ここはこのような様子になっているのだな。

例年家の掃除に明け暮れる日としていたために、これ程とは知らなかった。………仕方がない。出直すか。

俺は踵を返そうとしたその時、

 

「ま!ルルーシュ君じゃないの?!どうしたの?

 

「本当だわ、ルルーシュ君じゃない!

 

「どうしてそんな格好なの?やっぱり、舞踏会には、行かないのかしら。

 

「ルルーシュ君!私のドレス、如何かしら?

 

「チェラム君は?もう行ってしまったのかしら?見てみたかったわー

 

一人の奥様にばれて、声を掛けられた。こうなっては後の祭りだ。すぐさま何人かの奥様方と店屋の娘に囲まれてしまった。

皆少し派手だが、お淑やかな色合いのドレスであり、とても似合っている。奥様方とは皆、食事の買い物をする商店で知り合った。

うちは使用人がいないため、俺が買い物の殆どは済ませていた。

その最中で知り合ったのが彼女たちだ。いつも安売りの情報や世間話を教えてくれるので、とても助かっている。

そんなこともあり気が知れているので、俺はにこやかな笑みを浮かべて答える。

 

「ああ、こんばんは、皆さん。俺はただ、水を汲みに来ただけですよ、あと、チェラムのやつはもう行きました。

よかったら会場で声を掛けてやって下さい。

緊張してると思いますから。俺は親父に来るなと言われましてね。

仕方がありませんよ。

ああそうだ、これを言い忘れていました。皆さん随分と麗しいお姿ですね。旦那さんが羨ましいという表現は、少し厚かましいかもしれませんが、ともかく似合っておりますよ。

 

 

 

俺がそう言うと、皆うっとりとした表情を浮かべた。息子に褒められた感じで、嬉しいのだろう。

 

「も、もう!ルルーシュ君!この子達相手ならまだしも、こんなおばさん相手にそんな言い方なんて……ちょっとからかい過ぎよ!

 

「いえ、からかっているつもりなどありませんよ。ですがそれより、もう行った方がよろしいのでは?時間があまり

 

「ま!もうこんな時間!

 

「大変!早く馬車に乗らないと!

 

「それじゃあね!ルルーシュ君!

 

俺を囲んでいた殆どの奥方は蜘蛛の子を散らすように去っていった。一人だけ残った奥様が俺の目を真っ直ぐと見て話す。

この人は俺たちの事情を知っているからこそ残ったのだろう。

 

「ルルーシュ君は、行かないのね。

 

「ええ。

 

「チェラム君のことは、いいの?

 

「俺がいなくともあいつはもうしっかりしていますよ。

 

「違うわ。あなたがよ、その瞬間に立ち会わなくていいの?

 

「いいんです、俺は。あいつもそろそろ兄離れの時期なんですよ。

 

「ふふ、チェラム君は出来ても、貴方の方が弟離れできないんじゃなくて?

 

「はは、言わないで下さいよ。それを1番実感しているのは、俺自身ですから。

 

「本当、よね?

 

く、痛いところを突かれてしまった。だが、今の俺はそんなことを言われても微塵も狼狽える事はない。しかしまだ不安な目を向けられている。仕方がない。

 

「ええ、俺は大丈夫です。まぁ、敢えて言うなら、麗しい夫人と踊れないということくらいでしょうね。

 

「る、ルルーシュ君!!もう!大人をからかわないの!

 

「ふふ、そんな可愛らしい乙女のような反応をされては、またからかいたくなるものなんですよ。

 

「ほ、本気にしちゃったら、どうする気なのよ、もう、本当に…

 

「ん?

 

よほど怒っているのか、その女性は顔を真っ赤にしている。…やはり似合わない事は言うべきではないな。しかし、本気とは、どう言う事だ。思わず声が出てしまったが。まぁいい、さて、これ以上引き留めてはいけないな。

 

「そろそろ時間もまずくなってきたでしょう。

俺に構っている場合ではありません。どうぞ、舞踏会を楽しんで来てください。俺の分まで。

 

「…は!本当、急がなきゃ、ええ、楽しんできますとも、あなたの分までね!でも、終わったら次の日でもいいから、また一緒に踊ってほしいわ!じゃあね、ルルーシュ君!

 

「ええ、喜んで。俺も楽しみにしていますよ。ではまた。

 

夫人は最後駆け出しながら約束を取り付け、あっという間に見えなくなる。全く、元気な人だ。今気付いたが、周りの人もまばらになってきた。馬車が出発するたび、広場は静けさを増す。

まるで、行き交う馬車によって、喧騒が城へと運ばれて行くようだ。ふと、そんなことを考えた。

 

 

俺は漸く共用の井戸に辿り着いた。もちろんだが手押しポンプ式ではない。数メートル先の水面に向けて木製の桶を下ろし、備え付きの滑車に引っ掛けて引き上げる。単純だが、これがなかなかの重労働だ。だが、この世界に来てあらゆる物が手動になった影響か、俺は以前より力がついた。何の問題はない。

…以前の俺なら、無理だったな。おそらく…だが…

 

「ん、そういえば、一人で来たのは随分と久しぶりだな。

 

ふと気がついた。井戸へ来る時は、大抵チェラムがついてきた。それほど俺と一緒に居たいのだろう。…いや、よくここでつるんでいるナターリアと会うためなのが大半か…まぁいい、手早く済ませて帰ろう。

 

「む、これは…

 

木桶にロープを巻いていざ降ろそうとした時、滑車が回らないことに気がついた。ネジが劣化したのか、錆びたのか、兎も角壊れている。見渡す限り修理するための道具は見当たらない。

なら、原始的だが何も介さずに降ろすしかないな。

するすると降りていくバケツはすぐに水面に沈んだ。

めい一杯必要ではないから、半分ほどになった時にすぐに引き上げる。…引き上げる、はずだった。

 

「な!こ、こんなにも重いとは…くっ、なんたる醜態!!!

 

 

俺は必死になってロープを引っ張るが微塵も引き上がる様子はない。木製のバケツは水を吸う分重くはなるが…ここまでとは。

俺は思わず自分を罵る。しかしバケツは一向に持ち上がらなかった…馬鹿な!この世界で鍛えられた俺なら、この程度…

 

「ハァハァハァ、く、ハァ、重すぎる…ふ、ここまでとは、ふふ、わ、笑えてくるな、

 

なんという事だ。俺は、バケツすら汲み上げられないとは…流石に笑いすら込み上げてくる。さて、この醜態をどうやって切り抜けるか…おれは思考の渦に陥った。決してバケツを持ち上げるのが無理だと、途方に暮れたわけではない。

この程度、今まで切り抜けてきた苦難と比べれば、造作もない、筈だ…ひとまず状況を整理しよう。まず、客観的に見て、俺自身の力だけでは引き上げられないとわかった。

なら、誰かに協力を、しかし皆、舞踏会に出発するのに忙しくて、手は貸してくれないだろう。それに貸してくれたとしても、そのせいで遅れてしまっては申し訳ない。

その前に、この程度の事で誰かに頼るなど、流石に俺のプライドが許さない。だがどうする、滑車を直す手立ては依然として存在しない。く、日頃から鍛えておくべきだったか。いや、壊れたまま放置している修理工に問題があるな。ならば今から修理工房に駆け込んで、ち!今日は皆招かれている。おそらくいないだろう。

ならば修理工房から道具を拝借するしか、しかし、万が一だが盗みがバレたら、チェラムに迷惑をかけてしまう。

今からがあの子にとって1番大切な時期だと言うのに…それに、俺はこの世界でまで、嘘は、罪は作りたくない。

もう、懲り懲りだからな…しかし、どうする。

やはり、もう一度頑張って引っ張り上げてみるか。

だが、それで引き上げられなければ、俺は更なる失態を…

 

ルルーシュは井戸に腰掛けて深く考えこんでいる。

足を組み、右手を顎に、左手を肘におく、俗に言う考えるポーズである。いつぞやの美術モデルを頼まれた時のポーズを想像してほしい。流石はルルーシュである。様にしかならない。

だが、腰掛けているのが井戸で、左手はバケツの紐を持ったままというのが、なんとも不恰好というか、いやルルーシュらしいというべきか…しかし、思案は中断される。とある魔女によって…

 

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