街にいたはずの子供達は寝ているのだろうか?そう思いながら青葉は魔改造カメラを手に須郷の背後に立つ。
少し開けた道の中心で互いの背を預けた状態で戦う2人の周囲には数人のローブ姿の男女が横たわっていた、全員平等に須郷の拳が直撃して気絶したのである。
「…まだいますね」
「そうだな…だが、全部ぶっ飛ばせば問題はねぇ」
「ははは…私は一般人なので無茶は出来ませんけどね、ほら来ましたよっ!」
言い終わると青葉と須郷は左右に飛び、立っていた場所には無数の弾丸が着弾する。
素早く家の塀や壁に体を隠し銃を所持する敵を視認する。
「青葉ぁ!俺から離れ過ぎるなよ!」
「それが無茶なんですがねぇ…!」
襲撃者達の攻撃を避け、たまに反撃しながら2人はジリジリとある方向に向かっていた。
その方向は翔太郎達がいる教会…だが2人は教会がある事は知らない、ただ青葉が見たという車で出ていったローブ達の方向がそっちだった為に柏崎達か翔太郎達という目星をつけていた。
「震波拳!」
ブロック塀を殴り砕けたコンクリートが吹き飛ぶ、その飛んで行った破片は追ってきている襲撃者達の大体の位置に飛んではいったが当たった様子はなく反撃とばかりに銃弾が飛んでくる。
「くそっ!こういうのは翔太郎と緋彩が得意だってのに!」
「雅弘さんは小難しい戦法は苦手ですもんねー」
「正々堂々戦うのが好きなんだよ!」
たまに会話をするが頻繁に攻撃が飛んでくるので互いの距離感覚を確認する時くらいである。
青葉は常日頃の行いの成果なのか、ひょいっと障害物を飛び越え壁を登って向こう側に飛んだりと身軽な動きをしてる。
「お前…たまに見せてくる写真何処から撮ってんのかと思ってたが…」
「おや?記者として何時どこで事件があるか分からないので必須能力ですが?」
軽くウィンクしてくる仲間に苦笑しつつ須郷は後ろを確認する、距離は遠からず近からず、仲間の位置も常に同じであり順調…の筈だった。
「…(なんでこんなにも簡単に逃げられるんだ?)」
須郷は自身の能力と力を理解している、その上で敵に何故逃げれているのかが不思議で仕方なかった。
自身の考えではもう既に近づかれ肉弾戦に持ち込むつもりでいた、だが一向に相手は追いつかず遠距離攻撃ばかりしてくる事に違和感を感じていた。
「…おい青葉!………青葉?」
丁度路地から先に出て周囲の確認をしていた仲間が出た直後の場所で止まっていた。
敵は銃を使っている、止まるのはまずい…そう思い須郷は腕を伸ばし青葉の肩を掴む。
「おい青葉!急ぐ…ぞ…」
まっすぐ前を向く青葉の視線を追いかけその先を見る。
まだ薄暗い朝方だったからか、その『巨体』に気づかなかった事に須郷は苦笑いしかできなかった。
その姿を一言で表すなら『気持ちが悪い』であった。
人型をしてはいるが目と鼻と耳が無く、あるのは大きく裂けた口だけ…そして体内から出ているのか手足や人間の上半身
が生えていた。時には貼り付けたようにくっついてるのもある。
「…雅弘さん、あれ…倒せます?」
「倒せなくはないとは思うが…あそこまで大きいとなると何発かは耐えるだろうな」
須郷は背後を確認する、もう敵の気配はない…どうやら追い込み漁のようにここに誘導されたようだ。
巨大な化物はゆっくりと動いており…そしてその体から何かが出てきて地面に落下している、そして家3軒分離れているのにも関わらず異臭が漂ってくる。
「…くせぇな」
「まるで肉が腐ったような匂いですね」
「そりゃお前、俺の見間違いじゃなければありゃ…ゾンビを生み出してるんじゃないか?」
落下していた物体…それは人型ではあった。
そして須郷の予想が正しければそれはゾンビ…
「つまりはあれはゾンビ生産生物って言ったところだな」
「それはまた、パワーワードですね?記事にしたら売れますかね?」
「俺なら買わねぇな…さて、現実逃避はここまでにしてどうするよ、青葉」
須郷は横目で青葉を見ると思考してる状態でいた、青葉は現状の使える手札を脳内で作る。今戦えるのは須郷ただ1人…だが須郷の技である「震波拳」は人体の装甲を無視し内部を破壊する振動の技、ゾンビにそれが通用するのか?
その考えが思考を鈍らせ纏まらない。
「…須郷さん、ここは逃げて…」
「青葉」
逃走、それを提案しようとした瞬間須郷が割って入る。
隣を見ると腕組み闘志に溢れるオーラが見えるような気迫を感じた。
「あの化物、あれが柏崎や翔太郎達と出会って…勝てると思うか?」
「………いえ、翔太郎さん達はともかく柏崎さん達は厳しいでしょう…ですから今は後退して合流を…」
「青葉…よく聞け、俺は自分の力に過信をしてるわけじゃねぇ…だが今はハッキリと言える、アイツらを守る為に俺はあの化物を『ぶっ倒さなきゃならねぇ』」
「………」
現在、青葉の考える限りの最大戦力は須郷雅弘である。
戦う事は避けられないであろう事は分かっていた、だが1人で戦わせるのは不安があった…
だからこそ他の仲間と合流するべきだと考えていたが須郷本人が力強く戦うことを宣言した。
「…勝算が有るんですね?」
「あぁ、だがまだ未完成だ…成功した試しがない」
「…大丈夫ですよね?」
「俺はまだ自分の技を極められてない…だが1回だけなら無理してでも出来るはずだ」
「…仕方ないですね、ですがゾンビを避けながら行きますよ?」
「すまねぇな…行くぞ!」
拳を握りしめ須郷と青葉は化物の方へと向かっていく。
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山道を走る車、車に4人乗っており教会の手前で停車する。
ドアが開かれ降りた面々が建物の方を向くと2人の人影が塀や道の真ん中に立っていた。
「…よぉ!深夜では世話になったな?」
岡園誠は腕を組みながらニヤッとローブの人物達に笑う。
少し怒気が含まれている声色で秒で無力化された事を思い出しているのだろうか。
「…………」
「無視か?それとも喋れないのか?…ま、どっちでも俺は構わないんだがな?」
「…誠、あいついない」
「緋彩を倒したって言うやつか、俺達相手に来る必要ないって意味と捉えてもいいと思う?」
「どうだろうな…ボクとしてはホッとしたというか」
敵を無視し話し始めた2人、特に興味が無いのかローブの人物達は一糸乱れぬ動きで駆け出し隠し持っていた小さな棍棒等を手に誠に殴りかかるが、誠は全て装甲でガードし衝撃を逃がしながら戦闘を始める。
「誠!」
手助けしようと緋彩は身構えた、だが誠は手を向け静止するようにジェスチャーする。
緋彩は一瞬躊躇したが仲間を信じローブ達の奥を咄嗟に確認した、木々で見えにくいがゆっくりと近づいてくる無数の人影が見える。
「緋彩!こいつらは俺には任せろ!お前はできる限り足止めをしてくれ!」
「…あぁ!任せたよ!」
人間とは思えない怪力で攻撃してくるローブ達の攻撃を受け流しつつ、緋彩や教会に向かおうとする者から片っ端に攻撃して注意を向けさせる。
「こっちを向きなお前ら!お前らが戦ってるのは日本のヒーローだぜ!」
体力管理なんて知らんと言わんばかりに大暴れを始めた誠を見つつ、緋彩は森から教会までのひらけた場所に出てきた大量のゾンビを見る。
「…さぁ、始めよう」
戦い始める2人を見ながら最後の1人である翔太郎はあるものを作っていた、教会内部にあった油や布をありったけ集めて作っている物…これが完成すれば十分に戦えるはずだと考えていた、だが…
「…十分な量になるまで持ってくれよ」
予想よりも押されている誠、想像より多いゾンビの数…
翔太郎は焦る気持ちを落ち着かせながら作業を続ける。
少し書きました