ファースト・オブ・バレット   作:パルバール

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第86話『極技』

 

異臭と目を覆いたくなる悲惨な現状に息を呑む。

青葉と須郷は徘徊するゾンビに気づかれないよう動きながらゾンビを生産し続けている巨大な化物に近づいていた。

 

「…ゾンビに感覚とかあんのか?」

「ゾンビ映画の定番としては音に敏感らしいですよ」

「小声で喋ってる今は大丈夫なのか?」

「さぁ…?ですが気づかれてない以上、この程度ならバレない事が証明された訳です」

 

小声で喋りながら壁や障害物を経由して移動する2人、徘徊するゾンビの数が多く巨大な化物に近づけば近づく程その数は増している。

 

「あんま悠長にしてたら囲まれるな」

「その場合は彼らの朝食になるだけですから安心ですね」

「安心要素あったか…?」

「まぁ私はその場合雅弘さんを囮にして逃げるので」

「とんでもねぇ奴だな…っ!」

 

移動の道中、邪魔になっていたゾンビの頭部を蹴り飛ばし道を切り開く。

その際に頭はあさっての方向に飛んでいく。

 

「うっ…やっぱり慣れませんね…」

「慣れたらおしまいだと思うぜ、相手はもう腐った死体だ…深く考えずに行くぞ」

「そう、ですね」

 

口に手を押さえながら青葉は須郷の後に続く。

 

 

 

 

それは突然起こった。

乾いた音が鳴り響き、近くに捨てられていた空き缶が甲高い音と共に跳ね上がり…音を鳴らしながら地面を転がった。

咄嗟に青葉が周囲を確認すると、遠くに銃を構え青葉達に銃口を向けているローブの姿がひとつ。

そして音に反応したのか、どこからともなく多数の呻き声と足音が向かってきていた。

 

「雅弘さん!」

「あぁ!俺から離れるなよ青葉ぁ!」

 

狙われているのも問題だったが、集まってきているゾンビの群れも脅威であり一瞬の思考で強行突破を選択する。

走っている2人の近くを弾丸が着弾し、発砲音が響き渡る。

 

「震波拳っ!」

 

巨大な化物までの道を塞ぐゾンビ数体に拳を叩き込み…だがゾンビの動きが止まらず殴った勢いで吹き飛ばす。

 

「くそっ…!肉体ダメージが少ねぇ!」

「雅弘さん、頭部もしくは下顎を狙ってください」

「頭は分かっけど顎だァ!?」

「最悪噛まれそうになっても顎がなければ大丈夫ですよ、ほら次来ましたよ!」

「だぁ!クソッタレが!」

 

須郷の猛攻によりゾンビの群れは文字通り肉塊に早変わりしたが数が減らない、むしろ増えていた。

 

「(やはり敵の数が多い…この数を雅弘さんが捌ききればいいんですけど…)」

 

青葉が少し前に進んでいる須郷を見る、まだ息は上がってないが巨大な化物との距離とその間にいるゾンビの数…そして継続して撃たれていることを考慮すると各箇所にいる狙撃手に気を配りながら敵と戦う…

 

「(途中で雅弘さんの体力が無くなり全滅バットエンド…戻ろうにもまだ把握できてない狙撃手がいる事を考えると蜂の巣エンド…救いないですね〜…)」

 

切り抜ける為の策を考える事に集中してしまった青葉、自分に向けられている銃口に気づくのが一瞬遅れてしまう。

 

「な…!しまっ…」

 

咄嗟に回避行動を行い数発の弾丸を避ける事に成功する、だが1発の弾丸が足を僅かに抉りながら貫通する。

激痛と回避している途中だったせいもあり青葉は体勢を崩し地面に倒れてしまう。

 

「青葉ぁ!」

 

それに気づいた須郷が戻ろうとするがゾンビがそれを邪魔する。

そして倒れている青葉にも3体のゾンビがゆっくりと近づいていた、近づいてくるゾンビを見て魔改造カメラを取り出し1体に投げつけるがグチャッと音を立て当たり地面に落ちる。

 

「はは…そのカメラ数百万するんですけど攻撃力は皆無のようですね」

 

諦めるように、へたり込み項垂れる。

今にも食いついてきそうなゾンビが近くまできている。

どこから間違っていたのかもと考え始める始末だ。

 

 

『全て狂気の世界を覗いた時からだったか』

 

 

 

 

 

 

腹の底を震わせるような振動が3回起き、青葉は驚き少し跳ねる。

 

「な、何ですか!?」

 

顔を上げるとそこには大きな風穴が頭にできたゾンビが3体目の前に倒れている。

 

「HAHAHA!見ない顔だね!アシカワ、あれがニッポンの超人かい?」

「そう、そうです!青葉さーん!須郷さーん!」

 

声がした方を向くと、スーツとカウボーイハットというコスプレのような格好をした謎の外国人…ケイトと芦川が走って来ていた。

 

「あ、芦川さん…?よかった…無事だったんですね」

「他人より自分を心配してください!止血します!」

「それもいいがここ射線が通らないからこっちでするのをオススメするよ」

 

ケイトが背にしている家は安全圏らしく、芦川は青葉を抱き抱え移動する。

その間に須郷がゾンビを文字通り蹴散らしながら青葉達の場所までやってくる。

 

「おい青葉無事か!」

「ははは…心配かけてしまって申し訳ありません」

「たっく…他の連中に俺が怒られるだろうが…んで、芦川だったか?そいつ誰だ」

 

安堵したのか一息ついた須郷は少しずつ距離を詰めてくるゾンビを紫色のモヤがかかった銃で撃っているケイトを見る。

 

「ケイトさんはエイレーネーアメリカ支部の人でして…」

「なるほど、先に来た特殊部隊のケイトさんという訳ですね」

「は、はい…本当は柏崎さんも一緒に来る予定だったのですけど…」

「どこも予定通りには事が運びませんか…」

 

青葉は呟きながらケイトを見る、近づいてくるゾンビを撃ち抜き接近を許さない立ち回りをしていた。

そして今ある全ての戦力を考え、須郷を見る。

 

「雅弘さん、良い作戦があるのですがやってみません?」

「勿体ぶるな…まぁ良い作戦ってなら聞いてみたいな」

「そんな難しい作戦じゃないですよ、芦川さんとケイトさんがいる今だからできる事です」

 

そう言って青葉は微笑み、立ち上がる。

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

須郷達に少しずつ近づいていたローブ達は射線が切れていた場所に回り込むように移動していた。

そして配置に着き顔を少し出して動きを確認すると大柄な男…須郷が走り出していた所だった、巨大な化物を守る為に銃を取り出し須郷に狙いを定める。

 

それは一瞬だった、まず手首が撃ち抜かれ銃本体が3発命中し地面に落ちてバラバラに壊れてしまう。

そしてそれは複数箇所でも起こっていた。

 

 

 

 

拳銃をクルクルと回し、まだ狙っている敵を確認してケイトは構える。

 

「さぁ、正義の前にこうべを垂れな!」

 

淡く拳銃が輝き弾丸が発射される、発射された弾丸は壁を跳弾し見えない所にいるローブ達に確実に命中する。

それを見ながら青葉は苦笑する。

 

「なんと言うか、当たり前のようにやってますけど透視でもしてるんですかね?」

「恐らく勘で撃ってる筈…」

「勘で百発百中?クソゲーですかね?逃げてるローブの人の足から順番に当たって頭にヒットしてるの見ちゃったんですが」

「…勘…ですかね…?」

「私に聞かないでくださいよ」

 

喋りながらも青葉を守ってくれている芦川と話しつつ、青葉は化物に向かって行ってる須郷の背中を見る。

 

「…簡単な話ですよ、私のような足でまといがいるから雅弘さんは十分に戦えない…守るものが出来てしまった者のジレンマですかね」

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

もう巨大な化物は目前にまで近づけている、須郷は化物の真正面に立つように移動し拳を握る。

一息ついて精神を落ち着かせ、拳を構える。

そして日本を発つ前に弟と会話した事を思い出す。

 

 

 

 

 

『兄さん、兄さんは僕達の技に『最終技』があるのは知ってる?』

『あぁん?なんだお前突然…そんなのがあったのか?』

 

弟が働いている喫茶店に1人やってきた須郷は水を飲みながら休憩中の弟と話す。

 

『そう、父さんが残してくれた伝承の書物に書いてあったんだ』

『親父が…ってもよ、なんで急に俺に?』

『…僕じゃ無理だったから…というのもあるけど…最近兄さん戦う事が増えたじゃない?』

 

そう言われ、須郷は言葉を返せなかった。

エイレーネーに協力してるのは弟には言ってない、だがことある事に怪我をしていたら気づかれてもしょうがないのかもしれない。

 

『兄さんも守るものが出来たんだから必要でしょ?』

『…エンは守るっていうそういうのじゃ…』

『ん?僕がいつエンちゃんって言ったかな?』

『…………』

 

射殺すと言わんばかりに睨みつけると笑いながら謝るように手を振る。

 

『ごめんごめん…………兄さん』

『あん?』

『……兄さんは何で戦うの?』

 

真剣な表情で戦う意味を問われる。

 

『前までは兎も角、今の兄さんは戦わなくてもいいと思うんだ…逃げた僕が言えることじゃないけど』

『…おいおい、俺に戦う意味を聞くってのは愚問ってやつじゃないか?………『仲間』を守る為だ』

『…そうだね、兄さん…なら兄さんにこの技を教えるかよく聞いて欲しいその技の名は…』

 

 

 

 

化物は須郷に気づいてないのかゆったりとした足取りで歩いている、研ぎ澄まされた神経とピリピリと肌が張るような気迫が溢れ一気に駆け出す。

 

巨大な化物に近づくにつれて握っている右拳が痙攣を始める、少しずつ技を抑える事が厳しくなっている。

ほんの数メートルという所で須郷は高く、ジャンプをする。

 

「…くらいやがれ、化物がっ!」

 

『その技の名は…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『極技!震波拳!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

拳が化物に当たった瞬間、巨大な化物は全身が激しく震え…体がパズルのピースが欠けていくようにボロボロと崩れ始め、地面に落ちる時には細かく千切れたように肉片に変わっていく。

 

『ガアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

苦しく呻き、崩壊を止めようとしてるか手で体を抑えたがその手すら崩れていき…

 

 

その場には謎の肉片が大量に残っただけになった。

 

 

「ぐっ…がっあぁ…!」

 

須郷は想像を絶する痛みに震えていた、右手が水袋になってしまったのかと思う程に柔らかくなってしまっている。

 

「…クソが…俺にはまだ…早いってのか…」

 

最終技、『極技:震波拳』は『塵すら残さず』破壊する技である。

 

自身の鍛錬が足りない事を悔やみながら、須郷は意識を手放す。

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