ファースト・オブ・バレット   作:パルバール

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第87話『見えない苦痛』

 

左右から、前後から…様々な攻撃が飛んでくる。

それを全て装甲で受け止め利き手側の敵に拳を叩き込む。

だがその一撃はさらに追撃してくる他の敵によって妨害される、拳に棍棒を叩き込まれ軌道がズレてしまい空振りしてしまう。

 

「だらぁ!」

 

体を軸として片足を360度勢いよく回転させフード達を後退させた、だがすぐさま囲まれ多方向から攻撃が飛んでくる。

 

「ちょこまか動きやがって!」

 

追撃しようと動けば妨害され、防御に専念すると様々な方角からの攻撃でジリ貧になりつつある。

洗練された動きに翻弄されながらも誰一人として他の場所に行かせないように立ち回る。

 

「(こいつらの狙いが俺達か街の人達かは知らないが…行かせるわけにはいかないな)」

 

都合よく誠の装甲は黒が殆どの面積を占めている、赤い部分もあるが上手く立ち回れる事が出来ればチャンスを伺っているローブ、または一瞬誠の姿を見失ったローブの男に攻撃が出来たりと反撃は出来ていた。

 

「(けど乱戦はキツイ…せめて翔太郎か緋彩がいてくれると楽なんだが…)」

 

喧嘩慣れしてるとはいえ、そこまでの実戦は積んでない誠にとって1人での乱戦はキツイ…よりも無理に近かった。

今は4対1を装甲で無理やり1対1のように戦っているが打撃系の攻撃が装甲を通り骨にダメージを蓄積していく、限界が近づいているのが身に染みてくる。

 

「ん?………ん?!」

 

1人ゾンビの群れを捌いてる筈の緋彩の方を向くとゾンビ数体が門の近くまで近づいているのが見える。

 

「こんのっ…!」

 

ローブ達の包囲網を強行突破してゾンビに近づき、頭部を蹴り飛ばす。

簡単に飛んでいく頭を見て胃から込み上げてくるものがあったが無理やり飲み込んで目の前の戦いを見る。

 

「緋彩!」

 

そこにはゾンビの群れに捕まりそうになりながら戦う緋彩の姿があった。

 

 

 

 

 

 

戦い初めた時は何ともなかった、しかし戦い始めた瞬間…異常が発生した。

 

「…(く、苦しい…)」

 

突然心臓辺りが締め付けられるように痛み始め体に上手く力が込められない、迫ってくるゾンビは止まるはずもなく緋彩に襲いかかってくる。

 

「くっ…そ…たれ…!」

 

力強く地面を蹴り、地面を駆けゾンビを蹴り飛ばす。

…が止まった瞬間に踏ん張る力が出ず地面に倒れてしまう。

起き上がろうとするがすぐ近くにゾンビの唸り声が聞こえ足を振り周りのゾンビを蹴散らして立ち上がる。

 

「はぁ…はぁ…なんだ…突然…体が…」

 

体が上手く動かない、それだけで緋彩は背筋が凍るように悪寒が走る…自分の取り柄である脚力が思うように動かない事に胸が苦しくなる。

 

遠くから自分を呼ぶ声が聞こえる、誰の声か判断できない。

ただただ足を動かしゾンビを倒していく。

冷や汗が流れる。

喉がカラカラになっていく。

少しずつ蹴る力が弱くなっていく。

 

 

 

 

 

「ボクは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい緋彩、諦めるにはまだ早いんじゃないか?ハードボイルドな探偵の相棒ならシャキッとしろ」

 

視界が狭まった中、ぽんと背中を叩かれ条件反射でビクッと背筋が伸びる。

ほんのりと肌に熱気が感じ周囲を見ると炎に包まれているゾンビの群れが見えていた。

そしてさらに奥にいるゾンビ達に背後から何かが飛んでいきぶつかる、すると炎が広がりこんがりと焼いていく。

背後を見ると街の若者達が手に火炎瓶を持ちゾンビ達に向かって投げていた、中には涙を流しながら。

 

「おかしいとは思ってたんだ、この教会がいくらデカかろうが街の住人全員が入るわけがない…ってな…まぁ…俺達がとやかく言えることじゃないな」

「翔太郎…」

「汗が凄いぞ緋彩、誠の手伝いに行くんだがお前は戻るか?」

 

翔太郎に言われ額の汗を拭い、笑いかける。

 

「何言ってんだ翔太郎、行くよ!」

 

大丈夫と言うように地面を駆けローブ達と戦う場所まで向かう、翔太郎は不審に思いながらも後を追う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あっちはもう大丈夫そうだな、さて…お前らはどうする?今から危害を加えずに捕まえるけど」

 

ゾンビが燃えていくのを横目に見つつ、誠は未だに攻撃を続けるローブ達に話しかける。

だが言葉を返す事は無く休みなく攻撃が続けて飛んでくる。

頭をガードしながら誠はため息をつく。

 

「はぁ…答えないならNOって事でいいんだな?…なら怪我しても『文句ないよな!』」

 

頭部に装甲が張り巡らされ兜になり両手を広げ左右からの棍棒を掴む、そのまま折ろうとしたが少し曲がり折れることはなかった。

 

『鉄でも混ぜてんのか!?痛てぇ訳だよちくしょう!』

 

持ちながら棍棒を回転させローブ達の手から棍棒を奪い取り遠くにぶん投げる。

そしてさらに飛んでくる攻撃をガードした瞬間、ローブの1人が何者かに蹴り飛ばされ吹っ飛んでいく。

 

「おりゃー!誠大丈夫!?」

『俺は大丈夫だが頭蹴られた奴が可哀想だな…っと!』

 

未だに攻撃を続ける3人目の顎を横蹴りで刈り取る、頭が45度曲がりフラフラになりながら倒れる。

最後の1人は現状不利な状況だと判断したのか反転して森に走り出す、が何かに足を取られ倒れてしまい腕が勝手に動いて後ろに組まされてしまう。

 

「逃げるっていうのは戦うことより大変な時がある、勉強になっただろ?」

 

透明になっていた翔太郎の姿が現れ最後の1人は縛られてしまった。

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 

 

 

未だに燃えているゾンビ…というよりも死体に戻れた者達を街の住人達が見ていた。

ある者は祈り、ある者は溢れ出る涙をこらえられなかった。

 

それを少し離れた場所で見ていた翔太郎と誠は静かに黙祷する、突然巻き込まれ死んでいってしまった人達に向けて。

 

「…勝った…勝ったが…苦いな」

「お前気持ちのいい勝利ができると思ってたのか?」

「そうじゃねーけどさー…なんと言うか…喜べないなって」

「…これからあの人達は悲しみを乗り越えて生きていく事になるだろうな、俺達ができるのは残った人達を守る事…それだけだ」

 

翔太郎は遠くを眺めながらハット帽を深く被る。

 

「…そういや緋彩は?」

「あいつは体調が良くなかったっぽいから中で休ませてる」

「確かにあいつらしくないというか…疲れが溜まってたのか?」

「わからん、だが俺達がやれる事は終わった…後は他の連中に任せるのみだ」

 

 

 

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 

 

 

教会の一室、緋彩が休んでいた部屋で緋彩は苦しむように胸を抑えうずくまっていた。

あの時のように冷や汗が止まらず、目の焦点がブレ始める。

 

「苦しい…苦しい…誰か…青葉…雅弘…翔太郎…」

 

元気に振舞って誠を助けた時も続いていた胸を締め付けるような痛みが続き、また我慢出来るぐらいまでおさまるを繰り返す。

 

「…ボク…は…『何だ』…?」

 

 

突然口に出てきた言葉、それに気づかず…緋彩は暗い部屋で1人苦しむ。

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