静かな森に似つかわしくない金属と金属がぶつかる音が響く
薄暗い木々を駆け、激しい肉弾戦を繰り広げるピエロの格好をした男と柏崎悟。
互いにナイフを手に相手を牽制し、蹴りや殴りで体力を削り合う。
「カクロ、もっとだ…!」
柏崎はナイフに変化している相棒に合図をすると引き抜かれていく感覚で体から魔力が吸い取られている事が分かる。
その分、疲労が薄れいつも以上に体が自由に動く…身体能力を底上げして移動しながらの戦闘を継続する。
「随分と無理してるようだけど、あの少年から俺を離したいのかな?」
「………」
「図星か?ミジンコレベルの魔術師でも肉壁くらいになったのに勿体ない、相当その武器に魔力を使ってるようだけど自分がどのくらいの魔力量か分かってるのかなっ!」
喋りながらも戦闘を続け、大振りの回し蹴りが飛んでくる。
いつもなら避けれる攻撃だが上段蹴りを繰り出したばかりで避けるのは難しい。
「ぐっ…!」
どうにか腕でガードし、横っ腹を守ったが威力が高く吹っ飛び地面を転がる。
「(あいつら程じゃないが…キツイな…)」
痺れる腕を庇いつつ近づいてくるピエロの男に連続蹴りで牽制する、しかし攻撃軽くいなしたと思ったら男は右手を柏崎に向ける。
「『酷使せよ、束縛の執着心』」
ピエロの男がそう言うとノイズが走るように柏崎の視界に地面から多数の手が生えてくるのが断片的に見える。
魔術の一種だがカクロの力で多少対抗出来ている…が、それでも足を掴まれてる感触が無くなるわけではなく動きが止まってしまう。
「くそっ!」
男が突き出してくるナイフにナイフをぶつけるが動けないという状況のせいで上手く間合いを取ることが出来ずに何度も蹴りをくらい、一瞬足を掴んでいる手の力が弱まった瞬間にわざと派手にくらい後方に飛んでいく。
骨が軋む音がするがあのままリンチにされるよりかマシと考えながらナイフを構える。
「…ジリ貧だな…何か…何かきっかけがありゃ…」
きっかけがあればゴリ押しでいけるかもしれない。
だが警戒してる相手に対してそんなきっかけがあるわけもなく…
その時、ある変化が起きた。
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溢れ出る血は止まらない、もう目の前に倒れてる人を助けられない事をエドワードは察してしまい…否定するように頭を振る。
何か助けられる方法がある筈だと魔導書を開きページをめくるがそんな都合のいい呪文は無く項垂れる。
「何か…何か方法があるはずなんだ…こんな終わり方があっていいわけがない…!」
目の前の女性…Nの目は少しずつ生気が無くなりつつある。
『死』が近づいている。
「…僕にもっと力があったら…」
噂に聞く超人、柏崎やケイトのように
彼らのように力があれば助けられたと。
だがエドワードは分かっていた、力があるから何だと。
ぽっと出の子供にスーパーパワーがあったとしても使い方を知らなければヒーローごっこと同じだと。
魔導書が凄いものだと聞いて慢心していた、柏崎達と行動していればもしかしたら助けられたのかもしれない。
そう現実逃避をしていた、目の前の事に絶望しながら。
そんなエドワードの頬を、Nが優しく撫でる。
驚き離れそうになるがエドワードぐっとは堪えてNを見る。
もうNの目はほぼ何も見えてない、そもそもN自体は自分をよく知らない筈だった。
だがあの時と同じ雰囲気を感じてエドワードは確信する。
「…ごめん…」
すっと口から言葉が零れる、救えなかった事を。
だがNはゆっくりと頭を振り感謝するように僅かに微笑む。
そして、エドワードが持ってる魔導書に触れ口を開く。
声が出ず口パクになっていたが何かを言い終わり口閉じた瞬間、本に埋め込まれていた紫色の宝石が色を変え緑色に輝き始める。
そしてNは弱々しく腕を動かし、本の最後のページを開く。
「…これ…って…」
最後のページを見て、エドワードは呆然としNを見る。
Nは優しく笑うとエドワードの手を握り口を開く、だがやはり声にならないがページと表情で全てを察する。
「…分かったよ…僕が君のかわりになる…だから…安心して」
エドワードがそう言うとNは安心したように目を閉じ、手を下ろす。
苦しくなる感情を抑えつつ魔導書の最後のページを開き…、呪文を唱える。
「『酷使せよ、終わりの儀式』」
夜がくれば朝がくる、暗い世界に一筋の光が降り注ぐ。
『終わりの儀式』
・儀式を終わらせる為の呪文、術者の実力次第では様々な儀式に干渉できる。
・全ての縛られた魂を解放する。
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銃声がひきりなしに鳴り響く、呻き声と少しずつ増えていく足音が恐怖心を煽る。
「芦川さん、この先は駄目です…恐らく360度全ての方角から向かってきるのかと」
「はぁ…はぁ…け、けど須郷さんが起きない以上逃げるしかないですよ!」
現在青葉、芦川、ケイトの3人は倒れていた須郷を見つけゾンビの群れから逃れている最中だった。
青葉は須郷を担ぐ事が出来ず、芦川は弾切れになり…必然的にケイトがゾンビの群れを削り青葉が逃走経路を探し芦川が須郷を運んでいた。
「ハッ!まるで的当てゲームだね!」
そう言うとケイトの魔銃から数十発の弾丸が一気に発射され前方にいたゾンビの群れを掃討する、だがその後ろから津波のようにゾンビが押し寄せてくる。
「…ケイトさんがいてもジリ貧ですね、雅弘さんがいればだいぶ変わるんですが…」
青葉が須郷を見る、片腕が異様に柔らかくなっておりどんな事があればこんな状態になるのか分からない程の怪我と何度起こそうとしても起きない。
技の疲労か、何かの攻撃をくらったのか。
「おっと、Heyアオバ」
「どうしました?」
「流石に使い過ぎた、繊細な武器でな」
そう言って光が薄くなっている魔銃を見せてきた、素人目でも分かるほどにこれ以上使うと壊れるのではないかと思わせる程だった。
「…万事休す、ですね」
口笛を吹きながら銃を回すケイト、オロオロしながら青葉とケイトを見る芦川。
「とても余裕そうですが、ゾンビとお楽しみする趣味でもあるんですか?」
「?HAHAHA!私にゃそんな趣味はないよ!ただアンタは知らないだろうが私は信用してない奴に大役を任せるつもりは無いんだ」
「…?何のことですか」
ケイトは帽子を外し空を見る、空は未だに夜のままで外は今何時なのかを感じさせない。
「つまりはあの2人を信じてるから、私は生き残る…ほら見な」
促され、空を見る。
空は夜空だった、だが…1部から僅かに光が漏れている。
「…ぁ…ひ、光が!」
芦川は震える目で少しずつ広がる陽の光を眺める、地獄のような空間から解き放たれる。
「…なるほど、成功…したんですね…柏崎さん」
「ついでにエドだろうね、コソコソと外に出ていったのは許してあげようかね」
遠くにも見えるゾンビの動きは鈍くなっていく、全てが終わろうとしていた。
そう、終わりが近づいていた。
広がっていく穴から爆音の飛行音が聞こえてくる、そして日を背に何機もの爆撃機が飛行していた。
時刻は既に朝の7時のようだ。
「そ…そんな…ここまで頑張ったのに…」
「あれ、なんで入ってこなかったんですかね」
「そりゃ入りたくないさ、ここだけ夜で外から中はよく分からないからね」
絶望の声を出す芦川とは打って変わって2人は意見を交わしていた。
「なん…なんでそんな余裕でいられるんですか…?」
「おや?聞こえませんか?」
「……?」
そう言われ芦川は耳を澄ませる、飛行音に紛れ聞こえてくる音…それは。
「ヘリ…?」
その瞬間、数機のヘリが広がりつつある穴から続々と侵入し街へ向かってくる。
ある程度近づいたヘリにはアメリカ国旗が刻まれている。
「あ、あれって…」
「馬鹿な奴らだよ、成功するか分からないのに…成功する前提で来てるよ」
「信用されてたからでは?」
「そうかもしれないね、そしてこれでまた生き延びた」
ケイトは魔銃の爆発性を高め、上空に撃つ。
弾丸はまるで花火のように空中で爆発しそれ確認したアメリカ支部の部隊がパラシュート降下を開始する。
戦いは終わったのだ。
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空は夜から朝に戻りつつある、儀式が終わりつつある。
「なんでだ…!儀式は継続されてるはずだ…!くそっ!」
そう言いピエロの男は雑にカバンにしまった心臓を取り出す、だが心臓とは言えない腐った肉の塊に成り代わっていた物があるだけだった。
「………っ!クソが!使えないカスが…このままでは怒られてしまう…」
「なんか知らないが…俺達の『勝ち』だ」
そんな言葉を投げかけられ男は苛立ちながら振り向くと刃先を男に向ける柏崎がニヤリと笑う。
「あれから1晩たった、もう周囲をエイレーネーアメリカ支部の連中が取り囲んでるだろうな…降伏するなら今だが?」
「舐めるなよ…俺達『6席会』がお前ら偽善者達に負けるわけがない!」
「威勢はいいが…逃げなくていいのか?魔術師さまと言えど俺達相手に1人で勝てるとでも思ってるのか?」
そう言われピエロの男は戸惑うように周囲を確認し、手に魔力を溜める。
「……エイレーネー…覚悟していろ、6席会4席目である俺がお前らを全員皆殺しにしてやる」
「やっぱり威勢だけだな、気をつけて帰れよ」
軽く煽られながらピエロの男は空間の歪みに消えその場には柏崎だけが残った。
「…はぁ…6席会ねぇ…」
遠くに見えるヘリを眺めながら柏崎はある男の事を考える。
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上がっていく太陽を眺めながら1人の男が街から離れていく。
銀髪を揺らしながら、男は悔しそうに、悲しそうに呟く。
「なんで…出てきちまったんだ…何の為に…お前は…」
男は避けられない運命を感じながら…今の居場所へと帰っていく。
これにてアメリカ編、終了でございます。
後日談の後、下級席編の次の話へ物語は続く…