ざわめく街にひとつの影が通り過ぎる。
人々はそれに気づかず、また注目する素振りない。
一目で見れば分かりそうなものだが誰にも気づかれないそれは歩く人々の隙間を縫うように歩き、目線の先にいる集団を目視する。
そして歩く勢いが増していき影はその集団に…
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「…?」
「どうした、青葉」
「いえ…何かがこちらを見ていたような気がして」
「敵?」
「それはありえねぇな緋彩、少なくとも敵意があるなら俺達が気づかねぇはずがねぇ」
様々な観光をし、時刻は夕刻…超人御一行は宿泊する予定の旅館へと向かってい最中だった。
荷物持ちをしている須郷と翔太郎の両手には紙袋が数個あり初日の買い物は成されたようである。
「おや、刺客でしたら私が相手いたしまょう」
「落ち着け貴寅…勘違いという事もありえる」
「それもそうですね、それに超人と戦うには立地が悪いでしょうし今は安全でしょう」
パッと見では異色のカップルのようにも見えなくはない2人は周囲に気を配りつつも目的地まで進む。
「しかしよぉ、混んでたからって車を置いていくか?普通」
「あまり待つ…というのは好きじゃない、全ての車両を爆発してもいいのならスグにでも動かせるが」
「やめろやめろ!」
超人達が乗ってきた車は渋滞に巻き込まれてしまい、それにイラついた花村烈火が歩きの方が早いと言い乗り捨てたのである。
後で業者が回収するらしいが。
「それより見ろ、少し歩いたが…ふむ、少し都内から離れると田舎だな」
「なんか町外れに作りました感が凄いですね」
「少し(15km)…?」
「少しって距離なのか?」
「あいつやっぱりおかしいよ翔太郎…」
「見るな緋彩、距離感覚が狂った哀れな奴だ」
大分歩いた超人達が辿り着いたのは人々の五月蝿さから遠い場所にある、風情ある旅館だった。
中に入ると旅館の女将が出迎え、それぞれの宿泊場所に連れていく。
「おい花村…」
「なんだ筋肉ダルマ」
「なんでてめぇらは個室で俺達は同室なんだ…?」
部屋の割り振りを見て須郷が噛みつく、貴寅と花村はそれぞれ個室だが何故か超人達は広めの部屋に1箇所に集められていた。
「柏崎に文句は言え、俺達は何もしてはいない」
「あんのクソチビがぁ!エンが狭い思いをするだろうがっ!」
「そこですか!?もっとこうあるでしょう!?」
「ボクは翔太郎達と同じ部屋でもいいよ〜…」
「他に空室はないのか?」
翔太郎が不思議に思い、貴寅に話を振ると貴寅はにっこりと笑い疑問に答える。
「他は全部空室ですね」
「確信犯だな」
「完全に狙ってますね」
「許されざる行いだなー…」
「あのチビ帰ったら覚えとけよ…」
「わ、私は皆と一緒だと楽しいからいいよ…?」
仮面越しでも分かるほど怒っている須郷は携帯を取り出し柏崎に電話をかける。
だが何コール過ぎても出る気配は無く、機械音声が要件を録音すると伝えてくる。
「…はぁ、とりあえず風呂だ風呂!歩き疲れた…」
「混浴とは大胆ですね雅弘さん」
「ちげぇよ!男湯と女湯で分けてあるだろうが!」
「この旅館混浴あるの?」
「えっとですね…はい、ありますよ混浴」
「調べんな!」
「おいおい雅弘、あまり慌てるのはクールじゃないな」
「なんでお前は冷静なんだよ…」
「温泉初めてだから楽しみ…!」
ワイワイガヤガヤと騒ぎながらも須郷達は着替えを持ち、疲れた体を癒す為に温泉へと向かう。
騒がしい少年少女達が居なくなった部屋で、花村と貴寅は通信機を手に取りどこかへと連絡を取る。
「こちら花村…作戦を開始する」
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影は遠くの鉄塔の上から旅館を見ていた、傍観者である影は冷静に周囲を観察して全ての起きうる可能性を考慮し移動を開始する。
全ての出来事を確認し、記録し、見定めなければならない。
影はいつの間にか鉄塔から消えている。
その場には黒い鎖の破片が落ちているのみだった。
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「いやぁ、いい湯でしたねぇ…あ、今の私に恋するのは駄目ですよ?」
「しねぇし…はしたねぇから着崩すな」
服を着崩して須郷をおちょくる青葉にチョップして反省させる、全員風呂上がりで湯上りの風の涼しさを感じながら2階の階段を登って廊下を歩き部屋に戻っていた。
「エン、お前肌赤くなりやすいのか?」
「え?うん、そうだよ」
「おやおやー?駄目ですよ〜?女性の肌をジロジロ見るのは」
「なんでも駄目じゃねーか…!」
「いいか雅弘、男ってのはチラ見程度が1番紳士なんだ」
「翔太郎さんのは紳士ではないのでは…」
他の客が居ないからか、人目を気にせず大騒ぎする超人達だが青葉はひとつ気がかりがあった。
それは…
「緋彩さん?大丈夫ですか?顔色が悪いですが…」
「…ぁ、ごめん…大丈夫だよ青葉」
「なんだ、気分でも悪ぃのか?緋彩」
「大丈夫、大丈夫だから」
湯に入っている時から少しずつ顔色が悪くなっていき、明らかに体調が良くないように見える緋彩に青葉と緋彩は言葉をかけるが大丈夫の一点張りであった。
「…翔太郎さん、緋彩さんを病院に…」
「だ、大丈夫だから!少し疲れただけたがら、部屋で休めば大丈夫だから…」
「ですが…」
「青葉、緋彩が大丈夫だと言ってるんだ…そんくらいにしてやれ」
翔太郎は中途半端な笑顔をしている緋彩を見てため息を吐く。
「部屋で休ませよう、無茶はするな」
「ごめんよ…翔太郎…」
「…仕方ないですね、早く戻って休息を…」
部屋に急ごうとした瞬間、突然廊下を照らしていた蛍光灯の光が消え闇に包まれる。
「な、なに…!」
「落ち着けエン、停電だろうな」
「困りましたね、窓からの月明かりがあるとはいえ暗いのは変わりないですし…」
「しょうがねぇが…見えねぇわけじゃねぇからな…部屋に行けばスマホのライトで…」
「静かに」
動こうとした須郷の肩を掴み、翔太郎は人差し指で静かにするようジェスチャーをする。
「どうした翔太郎」
「………何人かの足音がこっちに向かってきる、それにこれは…金属が鳴る音…」
「…まさか敵ですか?」
「まだ分からない、旅館の従業員が移動してると思いたいが音は一直線にここに向かってる以上…な」
須郷と青葉は拳を、カメラを構え臨戦態勢を取る。
「音を鳴らすとはド素人ですね」
「そうなのか?」
「少なくとも奇襲をするなら音が出てしまうのは大失態ですからね」
「移動するぞ、花村と貴寅と合流する必要がある」
「そうだな、戦えるもんを増した方が…っ!危ねぇ!」
咄嗟に気づき須郷は手を伸ばし飛んできた何かを掴む。
「ッ!」
「雅弘さん!?」
須郷の手から血が流れ、何かを落とし廊下の床に突き刺さる。
それは金属の反射を防ぐ為なのか黒い刃のナイフだった。
「すごう!傷が…」
「こんくらい大した事じゃねぇ…が…!このナイフ…まさかな…」
「これは……なるほど、理由は分かりませんが私達を奇襲しようとしてるのがどこか分かりましたね…ですよね?『柏崎さん』」
青葉がそう言うと、廊下の奥からぬっとガスマスクを付けたエイレーネー戦闘員服を着ている男が現れる。
そしてガスマスクをゆっくりと外し、その顔がさらされる。
「よぉ、よく気づいたな」
「このナイフ、使ってるのは柏崎さんですからね〜、私記憶力はいい方ですので」
「羨ましいな、記憶力良いの」
「私の才能ですからね」
「…おい青葉、何悠長に喋ってんだ」
話し始めた2人を見て須郷は苛立ちげに声を荒らげる。
「おい柏崎!てめぇ…なんで俺達に武器を投げた?」
「武器の意味知ってるか?相手の命を奪う為にあるんだぜ?」
「…改めて聞くぜ、俺達に武器を向けた理由はなんだ!」
拳を握り、廊下の壁を横殴りで叩き木製の壁に大穴が開く。
「怖いな、俺達エイレーネーが矛先を向ける対象は何か知ってるか?」
「…人類の害あるもの、正義に対立するもの…組織の障害になるもの、でしたか」
「正解、すまないが平和の為の致し方ない犠牲だったんだと理解した上で受け入れてくれ」
ホルダーから変わりのナイフを取り出し、構える。
目からいつものふざけた雰囲気が無くなり冷水のように冷たい目をしている。
ヒシヒシと感じる殺意を振り払い須郷は拳を構える。
「…てめぇが俺達に勝てると思ってるのか?」
「そうだな、俺はお前達超人とは違い一般人だ…だから文明の力でお前達に対抗する」
柏崎を手を挙げ合図すると反対側の廊下から銃を構えた武装集団が一斉に銃口を超人達へ向ける。
その後ろに立っていたのは…
「タヌキさん…」
「やっほー、タヌキさんだよー」
「なるほど、物理面と魔術面でも完璧と言いたいので?」
「超人と言えどお前らは人間…刺されれば死ぬ、撃たれれば死ぬ…エン来い、そこにいると巻き込まれるぞ」
柏崎に呼ばれ、エンはオロオロしながら口を開く。
「か、かしわざき…なんで…?」
「なんで、もどうして、もないんだよエン、来い」
威圧をかけられ、エンは泣きそうになりながら須郷と柏崎を見て…須郷の裾を掴む。
「…なるほどな、最近喋ってくれるようになって嬉しかったが…残念だ」
「てめぇ…何が目的なんだ」
「それをお前らが知る必要は無い」
柏崎が合図する為に片手を上げた瞬間、翔太郎と須郷は互いにアイコンタクトをとり青葉、エン、緋彩を掴み体を盾に守ろうとする。
お互いの距離と最適手段を考えた結果、動くには遅過ぎると考え自身の体で耐えてから手段を考える結果に至ったのである。
「馬鹿な奴らだ…撃て」
上げていた手を下ろし、戦闘員達に合図を送る。
トリガーに指をかけ引く…
その瞬間、突然須郷達の床が爆発し煙と共に落下していく。
「ぬぁ!?」
咄嗟に着地し、落ちてくるエンと青葉を受け止めた須郷は周囲を確認する。
どうやら1階の廊下まで落ちてきたらしく緋彩を抱えている翔太郎の姿が目に入り…
「ふむ、威力よし…範囲よし…超人達に落下以外の不安要因なし…ふふふ…我ながら美しい計算された爆弾だ」
爆弾を片手に頬ずりしていた花村烈火が出迎えるように立っていた。
「お、お前…」
「おや、手の平が負傷しているが上で何かあったか」
「どけ須郷!」
唖然としている須郷の横を走り抜け翔太郎は花村に回し蹴りをくり出す。
それに気づいた花村は落ち着いた表情で小型の爆弾を時間差で床に落としスイッチを押す。
すると先に落ちた爆弾が爆発し、後に落ちた爆弾が丁度向かってくる翔太郎の顔近くに飛んでくる。
「なっ!?」
両手で顔をガードする…が、いつまでたっても爆発が起きる気配は無く隙間から見ると爆発しないまま爆弾が地面に転がっていた。
「人の話をよく聞くといい、それが生きる最大の術だ」
「こいつ…」
「………もしや私達を助けてくれるのですか?」
「助ける?勘違いしないでほしい、私はあまり今の方針が気に食わなくてね」
「……なるほど」
花村は全員いるのを確認して着いてくるよう手招きをして旅館の玄関へと向かう。
青葉達はそれを追いかけ花村の隣を急ぎ足で並ぶ。
「あの、貴寅さんは?」
「あの女は今頃…楽しんでるだろう」
「…?」
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爆発が起き、下に落下していく超人達と入れ替わるように何かが煙幕から飛び出てくる。
手に持っている薙刀を振るい、柏崎に叩きつける。
それに気づき柏崎はナイフを盾にするように薙刀の刃を受け止める。
「てめぇ…裏切る気か?」
「如何なる理由があろうと、若者の命を摘み取る行いには賛同できませんね」
「…再属先を変えるだけじゃ済まなくなるぞ」
「エイレーネーは正義に従うのでしたよね、ならば私も私の正義に従います」
「そーかよ、なら芦川に貴寅は殉職したって伝えとく…ぞ!」
薙刀を振るう貴寅の攻撃を避けつつ蹴りやナイフで対抗する、突然の事に困惑していた戦闘員達は銃口を柏崎に襲いかかってきた貴寅へ向ける。
「ちょっとちょっとー!柏崎くんに当たっちゃうよー!君達は下に逃げた超人追っかけてー!」
「りょ、了解!」
タヌキに言われたどたどしく下の階に行く階段に向かって走っていく、それを見た貴寅は薙刀を上に放り投げ。
それに釣られて一瞬上を見てしまった柏崎の顎を的確に蹴り上げ、そのまま廊下の穴に落ちていく。
「それでは…ごきげんよう」
そう言って貴寅の姿は見えなくなり、その場には倒れた柏崎とタヌキだけが残った。
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「…行った?」
「行ったよー」
気だるそうに起き上がり柏崎はタヌキに治療を受ける。
「………さて、ここからだが…巻き込んでごめんな」
「いいよー、けど命が危なくなったら身代わりになってねー」
「はいはい…」
治療を終え、柏崎は窓の外を眺める。
「1歩間違えれば全滅…か…」
新品のナイフを手に、柏崎とタヌキは暗闇に消えていく。