ファースト・オブ・バレット   作:パルバール

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第101話『二度目の準備』

翔太郎は夢を見ていた。

小雨が降る町のとある探偵事務所、窓から身を僅かに出し外を眺める数年前の翔太郎と部屋の中にもう一人居た。

 

「翔太郎、男ってもんは良い男にならないといけねぇ…その意味が分かるか?」

「なんだよ?いつものくだらない冗談でも言いたいのか?」

「まだ何も言ってねぇだろ!?」

「それっぽい事言おうとしてる時は基本くだらないもんだと思う事にしてる」

「かーッ!お前は可愛くねぇな!緋彩を見習え!」

「あんたの言葉信じてあいつ携帯爆発させてたぞ」

「………あれは反省してる」

 

男はハット帽を被り、煙草を取り出し火を付け深く吸う。

 

「ごふぁ!ゴホッ!ゴホッ!」

「なんで吸えないのに吸おうとすんだ…てか医者から止められてるのに吸おうとするな」

「馬鹿野郎、ゴホッ!良い男の条件である煙草珈琲酒は三種の神機だぞ」

「珈琲以外はお断りだ……んで?良い男にならないといけないってどういうことだ?」

「気になるんじゃねぇか」

「おやっさんは重要なことをサラッと言う事あるからな…買い物当番の緋彩が帰ってくるまで暇だし」

「俺の話は暇つぶしか」

 

苦笑しながらおやっさんと呼ばれた男は、机の上のコップに入ってる珈琲を一口飲み人差し指を立てる。

 

「良い男ってのは幸せで強いことが重要だ」

「幸せね…」

「良い男になりゃ、良い飯にありつけて、良い仕事に恵まれ、良い友情を手に入れ、良い相棒と組み、良い女と出会えて、良い家庭が築ける」

「はぁ…」

「つまりは良い男ってのは困難なことがあっても乗り越えられる男の中の漢ってことだ、俺みたいな男を言う」

「なるほどなぁ…けどよおやっさん?おやっさんが女とつるんでるのが見たことないんだが」

 

翔太郎の言葉に男は凍ったかのように動かなくなり、震えた手で珈琲を飲む。

 

「そ、そんな時もある…俺が良い男過ぎたせいだ」

「そーかよ、おやっさんの話は人生の参考にもなりそうにない」

「そこまで言うか!?おい翔太郎こっち向け!おい!」

 

鼻歌交じりにまた窓の外を見る、まだ曇り空だがしばらくすれば晴れるだろう。

 

「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

「まーた吸えもしないのに吸ったのか?いい加減…」

 

咳き込む声が聞こえ振り向く翔太郎が見たのは、確かに咳き込んでいる姿だ。

だが抑えてる手には血がべっとりこべりついていた、明らかに普通じゃない事態に翔太郎は慌てて事務所にある棚を漁る。

 

「おやっさん!薬何処だ!確か前ここに閉まってたよな!?」

「いや、大丈夫だ翔太郎…大したことじゃねぇ」

「大したことじゃないだって?そんな雰囲気には見えねぇよ!」

 

口を片手で抑え、青い顔で答える男に大丈夫という言葉は似合わない。

翔太郎は棚から薬を見つけ、無理やり飲ませて一息つく。

 

「ふぅ…おやっさんの病気早く治ってくれりゃ依頼をもっと受けれるんだがなぁ…」

「そうだな…翔太郎」

「ん?なんだ?おやっさん」

 

椅子に座り一息ついていた翔太郎は、突然呼ばれなんとなく姿勢を正す。

 

「近いうち…とても危険な依頼がくるだろう」

「危険な依頼?」

「あぁ、俺でも命を落としかねない」

「そんな…なのか」

 

翔太郎はおやっさんが全力で戦った所を見たことはないが、世間で強い者が多いと言われる超人と引けを取らないのを知っている。

 

「…俺も付いていくぜ、緋彩も絶対そう言う」

「……お前には緋彩の説得してほしかったんだが…」

「おやっさんだって知ってるだろ?あいつはおやっさんが絡むと下がるってことを知らねぇ」

「…困った子だ、お前もそうなんじゃないか?」

「ご名答」

「…まったく」

 

クックック、と笑っていると外から声が聞こえ翔太郎は窓から身を乗り出し外を見る。

雨は止んでおり雲の隙間から太陽の光が差し込み、事務所に向かって歩いてくる緋彩を照らす。

 

「翔太郎!お野菜が安かったから沢山買ったんだ!今夜はシチューにしよう!作って!」

「いや、作るの俺なのかよ!?」

「いいだろ!ボク料理はからっきしなんだ!」

「……食材を無駄にはできないしな…仕方ない、おやっさん今日はシチューだ」

「そうか…なぁ翔太郎」

「ん?」

 

おやっさんの顔が翔太郎は何故か見えなかった、夢の事だからか、深い闇のように顔が見えず声だけが響く。

 

「お前は、良い男になれ、お前ならなれる」

「…おやっさん?」

「もし俺が死んだら緋彩を頼んだぞ、あの子は強いが…脆い」

「…おやっさん、何言ってんだよ?おやっさんは死なないぜ?何故なら俺がおやっさんも緋彩も守るからな!」

 

夢の中の翔太郎は無垢な笑顔をしていた。

守れない事実が待ち受けていたことを知らず、家族が居なくなる覚悟を持ち合わせてない…弱い心が自身を殺した事を。

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

目を開けると、身に覚えのない天井が翔太郎の目に映る。

事務所でも部屋の天井でもない、しばらく頭が働かない状態が続きやっと自分がホテルのベットに横たわっている事に気づく。

 

「こ…こ…は?」

「ここは拠点にしてるホテルです、貴方と須郷さんは重症の状態で見つかって死ぬか死なないかの瀬戸際にいたんですよ」

「…あんたは…貴寅…だったか」

 

穏やかそうな雰囲気に暗い金髪のエイレーネー戦闘員、貴寅清星が扉近くに椅子を置き座って本を読んでいた。

 

「記憶はちゃんとあるようですね」

「あぁ…ッ…!くッ…」

「一応重症だったんですから無理なさらず」

「何が…あったんだ…他の奴らは…緋彩は」

「その件ですが起きたら呼ぶよう言われています、まずは朝食をとりましょう」

「…朝食?まて貴寅、俺はどのくらい寝てたんだ!」

 

勢いよく起き上がった為、骨折した部分が軋んで激しい痛みが患部と頭を殴ったかのように痛むが無理やり立ち貴寅に詰め寄る。

 

「発見から18時間、貴方達二人は半日強の間眠っていたんですよ」

 

冷静に告げられるその言葉が脳内でかみ砕いて理解し、一つの疑問にたどり着く。

 

「……二人?」

 

 

☆★☆★☆★☆★

 

 

「起きたようですね翔太郎さん、愛読書がほとんど読み切ってしまうかと思いました」

「メアリーたんまだ紙袋に7冊あるじゃん」

「どのくらい待ったのかを例えた比喩です、そのくらいも分からないのですか?だから親指がウインナーなんです」

「ウインナー!?けど物理的に攻撃してこないメアリーたん優しい!神!GOD!仏!」

「明らかに違う方針の方々が出てきて相手側に失礼なので極刑です」

「そんな!!!!」

 

コントのようにしゃべり始める二人を無視して翔太郎は須郷と花村烈火が座る席の椅子に座る。

静かに、だが肌にピリピリ感じる圧…翔太郎は須郷が怒り狂ってるがどうにか抑えてるのを感じ取る。

恐らく一番恐れてる事、一番考えたくない、だが居ない事が真実という事を伝える。

 

「早速、いいか?」

「手短にな」

「緋彩達は何処にいる」

 

花村はしばらく黙り、息を吐くように口を開く。

 

「俺達が来た際には何処にも居なかった、危機を察知し逃げたか……捕まったか」

「緋彩やエンは分からねぇが…青葉は逃げる際俺達に何かしらの手掛かりを残す筈だ、だがそんなのはねぇならよ…そうゆう事って事だよなぁ?」

 

声から怒りが溢れ始める、それは三人を上に行かせた翔太郎へのか、自身に対してなのか。

 

「暴れた形跡は無かった、地下には瀕死だったお前らが…居た」

「私達も行くべきでした…今言っても後の祭りですが」

「……翔太郎」

「なんだ」

 

包帯でグルグル巻きの須郷、翔太郎よりも重症…死んでいてもおかしくない状態の男は立ち上がり翔太郎を見る。

 

「探しに行くぞ、そこら辺の政府かなんか知らねぇが偉いやつ殴って青葉達の居場所を吐かすぞ」

「まて須郷雅弘、そんなしらみつぶしで見つかる訳がないだろ」

「なら他に方法があんのか?使徒の野郎が現われた厄介だがいつか当たりを引けるだろうが」

 

血走っている目で、拳を握る須郷は冷静とは言えない。

 

「翔太郎、てめぇなら見つけられねぇのか」

「いや…難しい、情報も時間も足りねぇ」

「なら、おいオタク野郎!」

「え?俺よんだ?」

「てめぇじゃねぇ!女の方だ!」

「そうですよ、輝夫さん茹でますよ」

「えぇぇぇぇぇっぇえぇぇぇえぇぇ!!!!完全に俺だったよねー

!?」

 

須郷は輝夫を押しのけ、メアリーの前までやってきて机を強く叩く。

 

「傷口に響きますよ」

「そんなことは関係ねぇ…てめぇなら何か知ってんじゃねぇのか?」

「はて、何のことで」

「そもそも、てめぇらがあの場所を知ってたのがおかしかったんだ

…何かしら情報源が相手側にいんだろ?」

「なんのことかさっぱり」

 

とぼけたような態度を取るメアリーに対し、須郷は拳をさらに机に叩きつけ高そうな机をバラバラに破壊する。

 

「てめぇみたいなのは何人も見てきた、嘘つきをよ」

「……分かりました分かりました、別に騙そうとしてた訳ではなくそちらの二人に伝えるつもりだったのですよ」

「俺達か」

 

ため息を吐いてメアリーは花村と貴寅を見る。

 

「情報によると、一度貴方達を襲った方達は高速道路の乗り途中のサービスエリアで何者かと待ち合わせをするらしいですよ」

「それはいつの話だ」

「今日のお昼です、ですが正確性は保証しません…これを逃すとあとは相手側の本拠地ですが自殺行為なのでここで救出したい」

 

メアリーがタブレットで地図を広げ印を付ける、どうやらこの高速道路はある一か所に行くための設備でサービスエリアもそこに向かう者達の為のものらしく、視線を道沿いに移動させるが途中から道はなく山の地形だけが映し出される。

 

「ここのでけぇ空白はなんだ」

「見た限りだと何かある…のか?」

 

翔太郎も横にやって来て画面を覗き込む。

 

「私達調べなので高速道路もサービスエリアも地図にもありますが本来は何も出てこないんです」

「となると、隠したい何かがあんのか…」

「まぁそんなことより、貴方達二人はここで輝夫さんと居てもらいます」

「「「はぁ!?」」」

 

翔太郎、須郷、輝夫がメアリーの言葉に驚愕し息が合ってしまう。

 

「どういうことだ、俺はまだ戦える」

「確かに怪我はしてるが足は引っ張らねぇ…なんでだ」

「メアリーたん俺この二人と話が弾むとは思えないよ!」

 

各々文句や理由を求める。

 

「まず超人のお二人は戦力外です…私はですね、迷いがある人が分かるんですよ…お二人は何か分かりませんが心が揺らいでしまっています、来ても邪魔になるだけ」

「んだと…!」

「須郷落ち着け」

「メアリーたん!俺は!?」

「ノーコメントです」

「酷い!?」

 

メアリーは立ち上がり、花村と貴寅の近くに立つ。

 

「今回は私達が行きます、貴方達は怪我の回復に専念しておいてください」

「そんな事、はい分かりましたって言えるわけねぇだろうが!仲間が捕まってんだぞ!」

「ですから、その身体でどうしようというのですか?次は死んでしまいますよ」

「死ぬのが怖くて仲間を助けられるか!おい翔太郎!てめぇも何か言え!」

「………」

 

須郷が感情的になっているのを逆に翔太郎は冷静になれていた、須郷がここまで荒れてなければ自分が騒いでいたであろう…と。

 

「…花村、貴寅、足は引っ張らない…俺達も連れて行ってくれないか?」

「その怪我で戦う気か?内臓のダメージがでかく、そこかしこヒビが入っているその身体で」

「……俺は身体を透明にできる能力を持っている、誰にも気づかれず敵地の奥深くに行けるはずだ」

「……ふむ」

「それに俺達なら青葉達と即座の意思疎通が可能だ、撤退の時お前達より早く青葉達も理解して逃げれるはずだ」

 

花村は翔太郎の言葉と考えを脳内でどのくらい有効なのかを考え、貴寅の方を向く。

 

「…私は構いません、というよりもついてくると言わなければも一度天井を眺めさせる予定でした」

「えッ」

「メアリーさん、この二人も連れていきます…もし何かあれば私が何とかしましょう」

「それはいいんですが…まぁ良いでしょう…輝夫さん車を」

「えっ」

 

輝夫が車の準備をしてるのを見ながら、須郷は花村達の元に近寄る。

 

「おい、俺が倒れてた近くにもう一人誰か居なかったか?」

「何のことだ?」

「……いや、なんでもねぇ」

 

須郷の質問に翔太郎は気づいていたがあえて同じようには聞かなかった、そして二人は青葉達とは別に消えた人物を考える。

 

A、須郷と共に戦った男は何処にいるのかと。

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