魔剣に魅せられて 作:鍛治師
打って打って打って打つ。
ただ無心に槌を叩き下ろす。
陽炎が揺らめく室内で金床を前に一心不乱に向き合う青年がいた。火に炙られようとも、肉体が限界を訴えようと決して目の前から視線を外さない。その様は狂気すら感じさせるほどの迫力あった。凄まじい集中力は青年から世界を奪い去り、執念の形だけを映していた。
無機質さすら感じさせる青年の不動の心には、しかし確かな情熱とでもいうべき熱が宿っていた。
カン。カン。カン。
熱せられた鉄塊から迷いを振り切って不純物を叩き出す。発せられた金属音が狭い部屋の中で木霊する。
この場には鉄塊と槌がぶつかる音、そして火が弾ける音しか存在しなかった。この部屋の主は機械的に一定の間隔で金属音を鳴らしているだけだ。
青年の梃子棒を握る左手には包帯が巻かれておりその上に火の粉が落ちて黒ずんでいる。巻かれた包帯は汗と灰にまみれて清潔さを失っていた。
手槌を振るう右手は袖がなく肩を隠すこともできない。その曝け出した腕には隆起した筋肉があり、その筋肉はボディビルダーたちがつけるような美を意識したものではない。それは自己破壊を繰り返したモノだけの純粋な力と猛々しさを備えている。
額から大粒の汗が流れようと気にもかけずにひたすら手槌で鉄塊を叩く。
青年が振るう手槌の一振り一振りは作業ではない。青年の信念と思いによる打撃には魂が込められている。
一切の余念を捨て去りただ打つのみ。
青年は毎日打ち続けた。
それは青年が一振りの刀を完成させるためだ。
人類につくり出された数多の剣。その悉くを凌駕する魔刀をつくる為に。
無謀だと言われた。
目指すだけ無駄だと言われた。
絶望を知ることになると言われた。
当然苦渋を舐めた。
折れそうにもなった。
諦めようとした。
だが青年が誰よりも信頼し敬った父には否定されなかった。
お前がそれを心の底から望むならと肯定さえしたくれた。
先人が作り出せたのならばお前に出来ないはずはないと、なにより我が一族には最高の鍛治師の血が流れているのだと言った。
いつか魅せられた家宝の刀。
それに斬れないものはなく、それまで剣を振るっていた青年は魅了された。その時に不相応な夢を見てしまった。
「俺はこれに勝るほどの刀をつくりたい」
それを打った先祖についてありとあらゆる事を調べた。歴史に詳しい人に話を聞き、先祖の刀やゆかりの品が展示される博物館を見て回り、家の蔵を漁り、忘れ去られた蔵書を読み解いた。
そして父の技、家に伝わる刀鍛冶の技術を教えられ何本もの刀を打った。定められた規定数など知らぬとばかりに打ち続けた。
けしてお金には困らなかった。父が出来の良かった刀をツテを使って売ってくれたからだ。
青年が幼くして打った刀は名刀といわれ様々な人が買い求めたのだ。
「お前に教えれることはない。お前はもう私を越えているのだ」
三年前に父はそう言った。正直青年にもわかっていたことだった。己の打った刀で失敗作も試作品であろうと鉄をも切り裂く冴えを見せていたのだ。
最後に教えられたことは己の異常性だった。
「お前の鬼才は止まるところを知らない」
父は青年の才能を説いた。持たないものにしかわからないことを全て伝えたのだ。
「だが、忘れるな。それは刃だ。人を容易に傷つけ、一瞬で命を刈り取る。お前の刀はそのさらに上の次元に位置するものだ。お前が満足のいかない出来であろうとそれは世の名匠が一生をかけて打つ一振りに匹敵する」
青年の刀は人の手に余る代物だと、それを持つ心を今の人間は持っていないと言った。
「自重しろ。その刀を人に渡してはいけない。強すぎる刀は担い手を腐らせる。それを持つのに相応しいのはお前1人なのだ」
そう言った父はそれから一年後に死んだ。数年前から病に伏せっていた父は息子に全てを預け死んでいった。
青年は一つ悔いがあるとすれは、それは完成した魔刀を見せることが出来なかったことだ。
それが父から教えられた全てであり、青年のできる唯一の親孝行だからだ。
圧倒的情熱と無類の才能によって青年は高みに至った。
青年はこれ以上の刀を打つことはできないと悟る。青年の魔刀は一族の宝刀と同じく鉄をも斬り、男の打った満足のいく出来であった刀もスルリと斬ってしまった。
間違いなく宝刀を超える魔刀をつくりあげたのだ。
青年は生涯をかけて叶えるであろう夢を達成した。それはなんと清々しく満たされたであろうか。あらゆることに無頓着な青年でさえこの時を止めてしまいたいと思うほどだった。
だが、青年は死を選びはしなかった。
幸せの絶頂期に死してしまえば永遠に幸福の中に入れたはずだ。
なぜ選ばなかったのか?
それは、青年にとって逃げであったからだ。
彼にとって目的が無くなれば残るのは己と刀、そして家だった。彼は父がしてくれたように子を授かり、全てを預け安らかに死にたかった。
自分のためだけに一族を途絶えさせるのは青年にとって耐え難いものであり、青年は父や先祖が繋いできた命のサイクルを終わらせたくなかったのだ。
それを投げ出してしまえばきっと青年は父を、自分の刀さえも裏切ることになる。
だから家のため、そして父のために刀を振って自己研鑽に励んだ。魔刀を扱うに相応しい実力をつけるために。
ある日、15歳の日本人の少年が、世界中のニュースのひと時を独り占めにした。
その少年の名は織斑一夏。かの初代ブリュンヒルデ織斑千冬の実の弟。その少年は男でありながら、女性にしか動かせない
それに伴い全世界の男性がISの適正検査を受けることになった。そうしてもう1人の適正を持った日本人男性が見つかった。
日本最高の刀匠、鉄打終夜。
鉄打家は刀鍛冶と剣術で有名な名家であり、二年前に亡くなった当主の息子が当時18歳で家業を継ぎ、現在は若くも当主を務める。
ただの一般人であった織斑一夏と鍛治師の鉄打終夜はIS学園に入学することとなった。
主人公が当主になった歳を16歳から18歳に引き上げました