「オリガさん、確かこの先って……!」
「!エルドの村があります!」
僕はふと気になったことを、オリガさんに質問する。黒竜の飛行速度を考えれば、恐らくだが1時間ほどでエルドの村に辿り着くだろう。
次にミスミド兵士隊長のガルンさんに聞く事にした。『兵士隊長』と言うからには、普段から兵の状況や指南役などを買って出ている為に、戦力の割振りや内訳等も熟知しているのではと思ったからだ。
「ガルンさん、あの飛行状態にある竜を撃退するのに、どのくらいの兵力を使いますか?」
「我々の王宮戦士中隊……戦士100人もいれば、何とか倒せます。ま、まさか、颯樹殿……あの竜を撃退するおつもりですか!?」
「それ以外に方法は無いでしょう!それに!あの先にはエルドの村もあります!被害者や家畜やその他諸々のことを考えていると、撃退すべきだ!」
僕はガルンさんの言葉に、捲し立てる様にして答える。しかし、ミスミド側の兵士たちの任務は『オリガさんとアルマの護衛』……それを放り出して行く事は先ず無理だ。仮にドラゴン退治に戦力を半分残し、もう半分を大使の護衛に当てたとしても、対応に一歩出遅れてしまうのが道理だ。
……ん?待てよ?僕たちの方で持って来た、アレが使えないかな?これはミスミド王宮まで使わないつもりだったのだが……致し方無しか!
「颯樹殿?」
「一体、何を……?」
ガルンさんとオリガさんが不思議そうな顔をする中、僕は馬車の客車の中から、人1人がしっかり映る様な大きな姿見を出して、それを車体に立て掛けた。
ユミナは先んじて見ているけど、他のメンバーには初めてだったので、軽くこの姿見についての説明をする。
「驚かないで聞いて下さい。これは《転移の鏡》と言う魔導具で、二枚で一セットの鏡となります。この鏡ともう一方の鏡を使えば、何処へでも転移できます。しかしこれは、先んじて片方の鏡を何処かに置かないと使えない代物です。今回の場合を参照して答えるなら、もう一方の鏡は『ベルファスト王国の王宮』に設置しています」
「そんな物を持ち込まれて居たのですか……」
「この姿見をミスミド王国国王に届ける事こそ、僕たちが請け負った依頼です。この鏡を使って、オリガさんとアルマには王宮に避難して頂きます。念の為にですが、緊急時の使用許可はベルファスト王国国王陛下より頂いています」
……凄い嘘をベラベラと語ってるかもね…。ミスミドの人たちには、この《転移の鏡》には様々な制約がある事を伝えておく。同盟も結んでないのに、本当の使い方を説明しても意味は無いからね。
僕の説明を聞いたオリガさんが、何かを決心した様に声を発した。
「分かりました。それを使って私たちは一先ず王宮へと避難しましょう。そして皆さんはエルドの村の人たちをどうか安全に……」
「分かりました。颯樹殿、頼みます」
オリガさんとガルンさんの承諾を頂けた所で、僕は王宮に避難する面子の名前を挙げていく。僕は【ゲート】の使用者だから立ち合わないといけないけど、ガルンさんには向こうの確認の為に付いて来てもらう事にした。余計な誤解を生んで欲しくないからね。
ガルンさんが不安そうな声を上げる中、僕は鏡に手を当てて小さな声で魔法を詠唱した。
「【ゲート】」
僕の魔法の詠唱が終わると同時に、鏡の数センチ手前に光の門が現れた。この光の門を【エンチャント】で固定しても良かったのだが、それをするのは早計だと考えていた。……まだミスミド王宮に着いていないからね。
先にユミナが入り、その後にガルンさん、アルマ、オリガさん、そして僕が光の門を潜り抜ける。僕が通り抜けた後には光の門が消え、背後には先程通ってきた鏡だけが残っていた。
「成功ですね、颯樹さん」
「実験大成功♪」
僕たち5人が現れたのは、ベルファスト王国の王宮内部に存在しているユミナの部屋だ。ミスミド王国へと出発する以前に、国王陛下から置く様に薦められた場所なのだ。そこに《転移の鏡》を置かせて貰ったという事だ。
「こ、ここは……」
「ベルファスト王国の王宮です。それじゃ、ユミナ、国王陛下に説明頼むよ」
「はい。……その前に」
僕はユミナに対して、国王陛下に説明をする役目を与えた。それを聞いたユミナは、承諾してはくれたのだが、寸での所で僕を引留める。何かと思って振り返ると、ユミナが僕に抱きついて居た。……い、一応……大使や兵士隊長の前ですよ!?
ユミナの顔を改めて見てみると、表情からは悲しそうな雰囲気が伝わっており、今にも泣きだしてしまいそうな感じだ。僕はユミナの頭を撫でると、ユミナに対してこう伝えた。
「必ず、無事に帰って来るよ。前にも言ったと思うけど、大切な人の泣き顔が一番見たくないんだ。……だから、信じて待ってて欲しい。終わったら、必ず呼びに来るから」
「分かりました……。……どうか、ご無事で」
ユミナは僕に背を向けて歩き出すと、オリガさんとアルマを連れて国王陛下の待つ謁見の間へと向かった。
「これで安心できましたか?ガルンさん、戻りますよ?本番はここからです」
「あ、はい。行きましょう!」
先程通ってきた鏡を潜り直して、元の場所へと戻って来る。そこには既に他の全員が準備をしており、何時でも出発できる態勢になっていた。
「よし、みんな!これで大使は安全だ!我々は竜から村の人を避難させる為に、エルドへと向かう!」
『おおおーーーっ!!!』
「僕を始めとしたパーティーは、ミスミド兵士の人たちのサポートをしながら、ドラゴン撃退へと向かう!熾烈な戦いが予想される為、己の力の全てを出し切れ!」
「「「了解!」」」
ガルンさんはミスミド兵士たちに、僕はエルゼを始めとした3人に指示を出す。その後に僕はリオンさんの所へと歩いて行った。
「僕は自分の意思で戦う事を決心しました。ですが、リオンさんはどうします?今回の場合は、ベルファスト側は関わる必要は無い訳ですが……」
「こんな状況で『我関せず』を貫いたら、父上に炎の拳で殴られますよ。私たちも行きます。恐らくですが、陛下であってもそうするでしょうから」
「分かりました」
リオンさんは僕にハッキリとそう言い放った。……待ってましたよ、その言葉を!検索対象を「黒竜」としてマップを見てみると、竜が村へ到着するにはまだ少し余裕が有りそうだ。……しかし、油断は禁物。成る可く早く馬車を飛ばせば、1時間ほどで辿り着くだろう。
……ドラゴン退治、やったりますか!
──────────────────────
僕たちが辿り着いてみると、そこでは轟々と炎が立ち昇っていた。……くっ、一足遅かったか!そして上空では我が物顔で炎弾を放つ黒竜が。竜の赤き双眸からは、この状況を愉しんでいるかの様な思いが取れた。
……見てて嫌になる光景だな全く!
「村人の救出を優先させろ!動けない者を運び出すんだ!」
「我々も救出を手伝うぞ!一人残らず助け出すんだ!」
ガルンさんとリオンさんの声で、両国の兵士たちが各地に散らばって行く。さてさて……少し僕たちは門側に近付こうかな?
「何を、するんです?」
「なーに。ちょっと細工を、ね?」
僕はリンゼにそう言って【アクセル】を使って、家の屋根上に昇った後に黒竜をその視界に捉える。……改めて見ると、これまたデカいなぁ……考えるより先に動け!ってね!
「【光よ放て、眩き閃光、フラッシュ】!!!」
僕は光属性の魔法である【フラッシュ】を発動させる。この魔法の存在意義はと言えば、敵の目眩しと言うのが本分だ。……しかし、夜間の街中に強力な光を放つ物があったら?虫ならば確実に撚って来る。さて、ドラゴンではどうか?と思って使っている。
突如僕から放たれた閃光に、黒竜も気付いたみたいだ。首をゆっくりとこちらに向け、炎弾を放つ準備を始めた。それを見た僕は下へと降りて、外に出る為に動き出した。
「琥珀!」
『御意』
僕の呼び掛けに応じて、琥珀は元の神獣モードへと変化する。そして近くに居たリンゼを共に乗せ、近くの森まで移動を始めた。
因みにリンゼを乗せた意味だが、黒竜が飛行状態にある以上は、武闘士のエルゼや剣客の八重の一撃では、全く歯が立たないからだ。急にチョロチョロと動き回る僕たちを目障りに思ったのか、炎弾を連射し始めた。当たらないっての!
「こっちだ!」
「颯樹さん、そんなに煽ったら……!」
『寧ろナイスです主!まともな思考をしてない黒竜には、この誘いは喉から手が出る程の衝撃かと!』
そう言いながら、僕たちは拓けた牧草地帯に出る。森側に僕たちは降り立つと、黒竜は僕たちの正面に位置づいた。そして自身の強さと誇りを象徴するように、辺り全体に聞こえる程の音量で咆哮した!
『貴様、我が主を侮辱するつもりか!空飛ぶトカゲの分際で!これだから《蒼帝》の眷属は気に食わんのだ!』
「へぇ……大方、自分の食事の邪魔をしてくれた罰として、俺たちを八つ裂きにすると言う所か。……全く、単細胞か!」
黒竜の言った事は直接解読できなかったが、琥珀の説明によって大方の事を知ることが出来た。『侮辱』、『享楽』……なんて事は無い。格上の物が格下を蔑む際に、その様な言動や行動を耳にする。前者は虐げ辱める為、後者は愉悦や快楽の為……という具合だ。
……もう、容赦はせん!
「リンゼ、少し待ってて。あのトカゲの減らず口、少し黙らせて来る」
「は、はい……」
「【アクセル】!」
リンゼにそう伝えた後に、僕は【アクセル】を使って竜の背へと飛び移る。幾ら強靭な爪や牙に炎弾を持ってても、背後に移られたんじゃあ……意味が無いからな!
「抜刀……そして【ブースト】」
僕は刀の鞘に収まった剣を取り出すと、その剣に【ブースト】で強化を図った。そして竜の首を刈り取る為に、竜の背を頭へと伝って走り始めた。
「……はあっ!」
ガキィィィン!!
「颯樹さん!ブレスが来ます!」
「仕方ない……【アクセル】!」
【ブースト】で強化を図った一撃は、刀の刃先が折れた事で失敗に終わった。竜から飛び退いていた僕に狙いを定め、黒竜の口からブレスが発射されようとしていた。
……危な!【アクセル】で回避して無かったら、重傷は確実だぞ!?
「リンゼ、僕が彼奴を空から叩き落とす。その後に彼奴の翼をぶった切れ!」
「了解、です!」
「【マルチプル】!」
僕はリンゼにそう指示した後、連続詠唱省略魔法である【マルチプル】を発動させる。……多分、僕の魔力量だったら、高位魔法も使えるんだろうが、そこで無理をしてはいけないからね。これに留めときますか!
詠唱から少しした後に、竜へと発射する発射台の様に百を超える【マルチプル】の魔法陣が浮かび上がった。それを見た僕は、次の魔法を発動させる。
「【光よ穿て、輝く聖槍、シャイニングジャベリン】!」
魔法陣から放たれた128本の光の槍に、さしもの黒竜でさえも血を流しながら降下して行った。そして体勢を立て直すために飛び上がろうとしたが、それをリンゼが阻止しようと動き出す。……殺れ、リンゼ!
「【水よ来たれ、清冽なる刀刃、アクアカッター】」
リンゼの詠唱と共に放たれた水の刃は、黒竜の片翼へと命中する。その攻撃を受けた黒竜は、苦しみに悶え始めた。少し飛び上がろうとしたが、バランスを崩してその場に落下する。……翼が無ければ、ドラゴンと言えども怖くは無いね♪
黒竜は憎しみと怒りを込めた赤い眼をギラつかせ、口を開いてブレスを吐く体制を取った。……はあっ?マジかよ!僕は【ブースト】で強化された脚力を使い、リンゼを救出する。そして放たれたブレスは、辺りを紅蓮の世界へと変貌させて行く。……威嚇してるのか…やりにくいったらありゃしない!
今回はここまで!如何でしたか?少し中途半端になってしまいましたね……。次回は黒竜退治の後半と、颯樹くんの新武器の登場回をお届けしますので、どうぞお楽しみに!
ついこの間なんですが……ついにこの小説にも評価が付きましたーーーーーーーー!☆4と言う微妙な感じではありますが、この評価をバネにして頑張りたいと思います!
次回の投稿はまた「異世界はスマートフォンとともに 改」と同じ時間帯になるかもですね〜。別に『投稿したくない』とかそういう意味では無いですよ!?一緒のタイミングで見て貰えるので、此方としては本当に嬉しいですから!
それではまた次回に!幕間劇の内容は、Twitterでも募集してますよ!「咲野 皐月@混沌の根絶者」をハイパーリンクして頂けたら、其方に飛べますので……フォローして貰えたら此方が返しますので、その時に出るDMにご提案下さい!
誰でも良いので、待ってますよ〜♪