獣王陛下たちに別れの挨拶を済ませた僕たちは、城を出た後に城下町に降り立ち、屋敷の使用人さん達やスゥへのお土産を買って、荷物を纏めた。来る際には大きな鏡があったから、少しは軽くなったかな…?
後は何処かの路地裏に入って【ゲート】を開き、ベルファストにある自宅へと帰るだけなのだが……。
「どうしたのよ、颯樹」
「ごめん、お土産の買い忘れを思い出した」
みんなに断りを入れて、僕は人混みの中に紛れながら、マップアプリを使って目的の二人を探し出す。……なるほど、この上か。
場所が判明したと同時に【ブースト】で一気に飛び上がり、屋根の上を移動して、二人の前に降り立つ。
「っ!?」
「ふわっ!?ああ、旦那様ですか〜。驚かせないでくださいよお〜」
僕の襲来に驚いて振り向いたのは、仮面を付けたウチのメイドさんである、ラピスさんとセシルさんだ。家のメイドをしてくれてはいるが、実際の雇用主はユミナのお父さんであるベルファスト国王陛下だ。
彼女たちの雇用は国王陛下がライムさんに無理矢理頼み込んだらしく、それなら正直、僕がお給料を払う必要は無いのだけど……メイドさんとしての仕事は出来るらしいので、そこら辺は黙認している。
……今回の一件は、被害こそ生まなかったが、僕の中での国王陛下へのイメージの悪化を起こしたので、給料は暫く(と言っても10日分ではあるが)天引きする形となった。請求するなら国王陛下へとどうぞ、と言った感じである。
「僕らはこれから【ゲート】でベルファストへと帰ります。それよりも先ず先に、お二人を先にお返ししようかと思いまして」
「ほえ?ベルファストにですか〜?」
「確かにこのままだと我々は10日遅れて帰る事になりますね…。流石に姫様に怪しまれるかもしれません」
「そう思ったのでここに来た訳です」
そりゃあ屋敷の住人よりも遅れて着いたら、確実に怪しまれるわな……。心の中で苦笑を浮かべながらも、僕はベルファストの自宅へと向かって【ゲート】を開く。
そして二人と一緒に光の門を潜ると、そこはもうベルファストにある屋敷、自宅のリビングだった。その場に居たライムさんが少し驚いた顔をしていたが、直ぐに冷静さを取り戻して言葉を掛けて来た。
「お帰りなさいませ」
「ただいまです、ライムさん」
「ただいまです〜」
「すみません、旦那様に知られてしまいました…」
「当然でしょうな」
この状況からすれば、当然だろうなと言う事実を述べるラピスさん。それに対してライムさんは苦笑いする他無かった。
取り敢えず、二人にはメイド服に着替えてもらう事にして、『ずっとここに居ましたよ』と言う事にしないといけない。二人が着替えに部屋に向かうと、ライムさんは僕に対して頭を下げて来た。
「申し訳ありません。あの二人に関しては、国王陛下から命じられていたモノですから……」
「親が娘を思う気持ちは当然です。僕もそこまで気にはしてませんし、大した被害も出なかったので、あの二人の行動は正しかったと思いますよ?ライムさんだって、ちょっと断りにくかったかもですし」
「ご厚意痛み入ります」
主人を裏切るとは!……なんて事を言うつもりは無いし、そもそも言うだけしてるかと言う話だけど。そこまで徹底してやるつもりは無いよ。そりゃあ大きな被害とか出て、生命までもが危険に晒される様なら、話は別なんだけど。
今回の場合はと言うと、特に目鯨を立てるような事でもないしね。父親が娘の事を心配していた、と言う遠回しだけど確りとした確認も出来たしね。この件は僕の心の中だけに留めて置きますかね。
「ま、ユミナや他の皆には口裏を合わせて置きますので。そこら辺はご心配無くで」
「ありがとうございます」
「僕は他の皆を呼んできますので、恰も『初めての帰宅』という風に振る舞って下さいな」
そう言って僕は、エルゼたちの元へと【ゲート】を開いて戻った。その後に案の定と言うべきか、皆からの質問攻めが待っていたのだが、適当に言い繕ってその場を掻い潜った。
そして裏路地の方に入って【ゲート】を開き、ベルファストにある自宅のリビングに向かう。そしてゾロゾロ現れた皆に、待ち構えていたライムさんが頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
ライムさんの二度目の挨拶を僕が聞いていると、リビングのドアが開いた。そこからは、メイド服に身を包んだラピスさんとセシルさんが現れた。
二人も僕たちに目を向けると、頭を下げて一言挨拶を述べたのだった。ミスミド国内で買ったお土産を渡したその後、皆は自室へと戻ってシャワーを浴びるとの事だ。無論、僕がそこに干渉する理由は無いため、部屋に戻って魔法書の読み直しをする事にした。
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【盛谷家:颯樹&ユミナの部屋】【夜】
「……やべ、何時まで寝てた?」
テーブルの台から顔を上げた僕は、寝惚け眼を擦りながら時間を確認する。そこには22:16と記されており、夜の時間帯である事が分かった。辺りの様子が真っ暗な事から、皆はもう寝たのだろうかと思えた。
「……身体がベタベタする…。風呂に入って汗を流すか…」
そう思い立ち、僕は着替えを持って風呂場へと直行した。……多分みんな先に風呂は済ませたんだろうから、思わぬ所で『何覗いてんの!』って展開は無いと思うが……。やべ、漫画や小説の見過ぎだろうか?
そう思った僕は、何の気なしに脱衣所に繋がるドアを開けたのだった。……そう、これが僕の運命の分かれ道であるとも知らずに。
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「確かに脱衣所に鍵を掛け忘れてたのは、私たちが悪かったかもしれないけど!」
「もうちょっと注意して欲しかったでござるよ」
結局あの後、同じくお風呂に入ろうとしていた4人を目撃し、今こうしてお説教を受けている所だ。状況が状況であまり大きな声では言えないけど、その……4人とも可愛らしいモノを身につけていらっしゃる……。
そして八重、君は僕の予想を裏切らなかったね……。とても悪い意味でだけど。今度からお風呂に入る時は、4人が入ったのを確認してから入る事にするか。
「反省、してます?」
「……じゃ無きゃ、今こうやって正座をしてませんから」
リンゼがジト目で僕の事を睨んで来る。……普段大人しいだけに、こう言った時の迫力は凄いよね……つくづく思い知らされるよ全く。
「私としては、こう言う事はちゃんと手順を踏んでからにして貰いたかったんですけど……」
「へぇ?」
え?手順って何ぞ?ユミナ、顔を赤くしながらそんな事を言わないで下さいますかね?まあ、僕が注意深く行動出来てれば避けれてた事ではあるからね。実際に回避出来てないし、とんでもないモノも見てしまったし……。言い訳できるはずが無いんだが。
それから延々と説教をされ続け、やっと解放されたのが深夜を回った頃だった。その夜は全くと言う程に寝れてなかったと思う。……痛た、エルゼに殴られた所がまだヒリヒリする……。まさか【ブースト】を使ってないよねあの娘。
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翌日、僕たちは依頼達成の報告をしに、王都のギルドへと訪れていた。そこで報酬を受け取ると、ユミナ以外の僕たちは青ランクへと、ユミナは緑ランクへとランクアップが行なわれた。更に王宮から黒竜討伐が伝わってたのか、ユミナ以外の僕たちのギルドカードに『ドラゴンスレイヤー』の称号が付与された。ギルド提携のお店で提示すれば、3割引だとか。嬉しすぎでしょ。
僕はその後に南区で散策をする為、4人とは別行動を取っている。
「また俺たちの縄張りで仕事しやがったな、このクソガキ!」
「勝手にやられるとこっちが困るんだよ。覚悟は出来てるだろうな?」
「ん?……行ってみますか」
突如何処かの裏路地から聞こえた声を頼りに、僕はその声が聞こえた場所へと駆け足で向かう。そこでは二人の男が一人の男の子に向かって、足蹴りをしており、一人は手元にナイフも持っている事から、相当緊迫している状況みたいだ。
男の手に握られたナイフを見て、追い詰められている男の子の表情が恐怖に染まる。
「やめて!やめてよ!謝るから!謝るからぁ!」
男の子が涙を流して懇願するものの、二人の男はせせら笑うように聞き流した。その間にも男の子の腕を掴む手の力を強めている。これは『確実に仕留める』と言った具合だろうか?
「もうおせぇんだよ。同業者のよしみで指一本で目を瞑ってやる。二度と俺らの縄張りで仕事するんじゃねぇぞ、次は殺すからな」
「おい、お前ら」
「「ああ!?」」
……殺すって?はっ、聞いてて嫌になるねその言葉!僕はチンピラ二人に睨まれるが、今はそんな事どうでもよろし。男の子の方は、身を寄せながら震えているみたいだ。
「大丈夫?」
「う、うん……」
「なんだテメエは?邪魔すんじゃねぇよ、殺すぞ」
「さ、先ずは近くの公園とかに行こっか。そこで君の手当をしよう」
なんか聞こえるけど、聞こえなーい♪男の子が僕の背後にいる男たちに恐怖しているけど、僕にとってはそんなの、動く目標を弓矢で目隠しをしながら射抜くように、簡単な事なんだよね。
「「ぶっ殺す!」」
「と言うかさ、君ら居たんだ。あまりにもピーチクパーチク煩いからさ、何処かのバンドか学芸団かな〜とか思えたんだけど」
「死ねぇ!」
一人の男から発せられた言葉に、僕の中での迷いが一瞬でカッ消えた。先程までは交渉による友好的な解決を望んでたのだが、ここまでされるとそれすらも面倒くさくなって来る。
僕は腰のホルスターに入った、剣銃ブリュンヒルドを抜いて【パラライズ】の付与されたゴム弾を二人に撃ち込む。
「ゴフッ!!!」
「ガハッ!!!」
【パラライズ】の付与されたゴム弾を受けた二人は、その場に崩れ落ちる。それを確認した僕は、男の子に目を向ける。……先ずは傷の回復だ。
「【光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール】」
「ぇ……」
「僕の使える属性魔法だよ。手荒な真似はしないから、安心して?」
男の子は僕の言葉に頷く。瞬時に治った傷に多少は驚いてたものの、少しずつ状況を理解出来ているみたいだ。それを確認すると、サイコロ状の鋼を【モデリング】でワイヤーに変化させ、倒れているチンピラ二人を縛り上げて拘束して置く。
ま、二人は【パラライズ】の影響で半日は動けないだろうけど?念の為に後で警備兵に連絡かな。
「僕はそろそろ行くね、それじゃ」
「あ、あの!」
「ん?」
立ち去ろうとした僕を、先程の男の子が呼び止める。何かあっただろうか?
「助けてくれて、ありがとう…」
「別に良いよ、これくらい。さっきの男たちが言ってたんだけど、君とアイツらは同業者らしいね?」
「うん……」
「他人からお金をくすねるのは良くありません。これを心によく刻んで置いてね?」
僕から発せられた言葉に、その男の子は確りと頷く。そう思って立ち去ろうとした時、またその男の子が僕のコートの裾を掴んで来た。……何事かと思って振り返ると。
ぐぅぅぅうううぅぅぅ……。
何とも言えない音が聞こえて来た。……ま、スリとかしてたんなら、何も食べる物が無かったんだろうね。ここで『我関せず』と逃げたら、後で知られた時の反応が恐ろしすぎる……。……これもやむ無しだね。
「おいで?何か食べさせてあげる」
「ホント!?」
台詞だけ聞いてたら、確実に誘拐犯の常套文句だよなこれって……。そんな事を気にする僕を他所に、男の子は僕にこの上ない笑みを浮かべる。そしてそこから覗いた笑みの質が、男の子?とは言い難い物を持っていた。
僕の視線に気付いた男の子は、自分の正体を明かす様にキャスケット帽を取り外す。……一瞬にして、目の前の「男の子」が「女の子」に様変わりした。え?
肩口を超えるくらいまで伸びた亜麻色の髪。先程までは「中性的な男の子」と言うイメージだったのだが、それが一瞬にして「可愛らしい女の子」へと変化した。
「!?……もしかして、君…女の子!?」
「……そうだよ?」
何を今更、と言った表情でこちらを見詰める翠の双眸。これが後にウチに仕える事になるスリの少女、レネとの出会いだった。
……短期間のうちに、美少女に出会う確率が異様に高くない?僕。
今回はここまでです!如何でしたか?
帰宅の話とレネとの出会いを描きましたが、どうでしたか?次回は多少話が前後しましたが、今回の続きから始めて……その後に自転車の話に行けたらな〜と考えてます。
フレイズやイーシェンの話を待たれてる方は、もう少しお待ち下さい……。今頭の中で構成を練っている真っ最中ですので。
それではまた次回!次回の投稿は11月15日(金)の深夜0時です!今回も感想を是非!