「鉄とゴムはこのくらい有ればいいか。……では、始めますか♪【モデリング】」
材料を目の前に置いた僕は、物質変形魔法である【モデリング】を発動させる。先ほど南区で買い物をしていたのは、この為の材料を買い揃える為だ。
そして【モデリング】で鉄とゴムが、ある形に徐々に姿を変えていく。ゴムはタイヤに変形して、鉄は物体を支える部分へと姿を変えた。
「……うん、よし。後はキチンと動くかの確認だけだな」
「おお!颯樹殿」
「公爵殿下!こんにちは」
「元気そうだな。ん?それは一体、何だね?」
僕の方に声を掛けて来たのは、近所に住んでいるアルフレッド公爵殿下だ。近くに黒塗りの紋章付きの馬車が止まってる事から、また何かあったんだな?と思えてしまう。
僕がそう身構えていると、アルフレッド公爵は僕の傍らにある乗り物に目を向けていた。ちょうど良かった、説明をして置こうかね♪
「えっと、これは『自転車』って言う乗り物です。先ほど完成したばかりです。良ければ乗ってみますか?」
「良いのか!?……では、失礼するよ」
アルフレッド公爵は自転車に興味を示したみたいで、僕は公爵のサポートをする。キチンとサドルに座らせてから、少し僕の方でも手助けをする。……まるで、小さい子が自転車を始める時に、危なっかしくて見てられない親のする事と同じだなぁ…。
「自転車はバランスを確り取らないと行けません。ここまでは分かりました?」
「うむ。大凡の事は理解した」
「では、手を離しますので……先ずは10m先まで行ってみましょうか」
そう言って僕は、公爵の乗る自転車の荷台から手を離す。……あ、フラつき始めた。
「お、ぉぉおおおおおっ!」
「頑張って下さい!公爵なら出来ます!」
「お、おわぁぁぁぁ!!」
ガシャーーーーン!!!
……ま、まだ最初だし仕方ない…かな?そう思いながらも手を貸して立ち上がらせる。その後にもう一度サドルに跨り、公爵殿下は自転車を漕ぎ始めた。
「何なの?あれ」
「乗り物、でしょうか?」
「何と奇妙な……」
「叔父様!?」
テラスに出ていた女性陣は、目の前の光景に訳が分からない表情をしていた。……仕方ない。材料はまだまだ有るし、皆にも乗ってもらおっかな♪そう思い立ち、僕は【ストレージ】から材料を取り出し、その後に【モデリング】で自転車を作って行く。
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「きゃあ!」ガシャーーーーン!!!
やはり最初は上手く行かないよね……。他の皆も所々で転びまくってるし。僕はエルゼの所に近寄り、回復魔法を掛けてから、手を貸して立ち上がらせた。
「……ありがと。上手く行かないわね……」
「大丈夫大丈夫。時間が経てば、エルゼだって乗れる様になるよ♪良い?先ずは……」
「颯樹さ〜ん!」
別の所から僕を呼ぶ声がした。その方向に振り向いて見ると、そこには自転車をすっかり乗りこなしているユミナが居た。しかもハンドルの片手を掴まず、手まで振っていると言う上達っぷりだ。
ユミナは漕いでいる自転車を、僕とエルゼの所に停めると、下から覗き込む形でこちらを見た。
「どうですか?完璧に乗れる様になりました♪」
「すごいすごい♪よく頑張ったね、ユミナ」
「えへへへ♪」
目を伏せてユミナが笑う。……ああ、撫でて欲しいのね。そう思った僕は左手でユミナの頭を撫でる。
「んぬぬぬ……。颯樹」
「何?」
「……私だってこの位…乗れるわ、よ!」
そう言ってエルゼは、自転車を漕ぎ始めた。多少グラ付きはあるものの、ユミナと比べても遜色無いほどの上達っぷりだ。傍で練習をしていたリンゼも、エルゼとくっ付いて張り合っている。……微笑ましい限りですなぁ♪
さて、自分のも作んなきゃ。先ずは【モデリング】で自転車を作って、サドルに跨るっと。
「それじゃ、皆から離れすぎない様に、少し街中を回って来よっか」
「はい♪お供します」
僕とユミナは自転車を並べて、屋敷の外へと漕ぎ始めた。その間にもエルゼとリンゼの張り合いは続いており……。
「んぬぬぬ……!あたしだって!」
「お姉ちゃんには、負けて、られない…!」
「うおおおおぉ!私は負ける訳には行かんのだァ!うおおおおぉ!」
何故か二人のその横を、鬼気迫る顔で公爵殿下が走り抜いて行く……。傍から見ればとんでもない光景ですよ?一人の大人が双子の姉妹に手加減無しとか……。
僕たちは素知らぬ顔をして、王都の街中へと漕ぎ出して行った。坂道での操縦方法を教えながら、市街地に降り立つと、今までゆっくり流れていた景色が少し速くなった気がする。
「風が気持ちイイですね〜」
「本当だよ〜。もっと早くに作っとくべきだったかな、自転車」
「こういう時期でも無いと作れないので、これまでに無いベストタイミングだと思いますよ?」
そう言いながら、街中を駆け回って行く。しばらく漕いで王都の王宮の前へと着いた時、門番の人が僕たち2人に声をかけて来た。
それを聞いたユミナは、伝えられた内容を僕へと伝言として伝えるのだった。
「……分かった。多分ミスミドの事だろうから、話をして行こうか」
「そう言うと思っていました♪」
僕の返答を聞いたユミナは満足したのか、門番の人と話を付けて行く。暫くした後、王宮の門が重々しく開き、僕とユミナは自転車を漕いでその中に入った。……ゴメンなさい、後でちゃんと説明しますんで……!
2人分の自転車を【ストレージ】に収納すると、王宮の謁見の間を目指す。そこには国王陛下が座っており、近くにはユエル王妃も一緒に居た。
「颯樹殿、此度の公爵殿下の依頼をよく達成してくれた。兄として御礼を言わせて欲しい」
「途中で黒竜と遭遇するハプニングこそありましたが、キチンと終わらせられたので、私としても今回の事は非常に嬉しいです」
「それは何よりだ。……して、門番から聞いたのだが…ここにはある乗り物を使って来たのだな?」
ミスミドの依頼について御礼を言った国王陛下は、僕が作った自転車の事について聞いて来た。それにはユミナが答えて、僕はその実物を【ストレージ】を使って、国王陛下の前に出した。
「なるほど……このじてんしゃ?とやらは、誰でも乗れる物なのか?」
「ええ、そうですよ。少しコツが要りますけどね。現在公爵殿下も練習されてます。今頃は上手くなってる頃でしょうね」
「ふむ……颯樹殿、これを作ってもらう事は出来ぬか?余も乗ってみたいのだ」
「分かりました。材料はありますので、今すぐにでもお作りしますよ」
僕が直ぐに作れる旨を伝えると、国王陛下は目をキラキラさせていた。……やっぱ兄弟だなぁ…。興味を示した事にはかなり真っ直ぐだもん……。
「国王陛下、少し私の方からお耳に挟んで頂きたい事がありまして……」
「おや?颯樹殿からとは珍しい。聞こうか」
僕はそう前置きを伝えて、国王陛下にレネの事を話して行く。一応犯罪者ではあるわけだし『犯罪者をウチで匿ってましたーすみませーん』と言う感じにするよりは、幾分かマシと言うものだろう。
僕の話を聞き終えた国王陛下は、一つ息を吐くと自身の意見を述べ始めた。
「罪は罪だ。償わなければいけない。しかし、その少女の境遇も考慮するに、情状酌量の余地はあると思われる。颯樹殿が責任を持ってその少女を監視し、更生させると言うのなら、今回の事は高額の罰金と注意のみという事にしよう。しかし、二度目は無い。よく言い聞かせて置くようにな」
「わかりました」
国王陛下の言葉にホッとする。もしかして、なんて思いもあったから、少し警戒はしてたんだけど……話の分かる国王陛下で良かったよ。
しかし、何やらその国王陛下は沈黙思考してしまった。……何があった?
「うむ…やはり解せんな」
「……と、言うと?」
「そこまで浮浪児が多いと言う事がだよ。王都の孤児院には充分な支援金を出している筈だ。これはひょっとすると……」
ふっと言い切ると、手を2回ほど叩いた。その直後に天井の裏から黒ずくめの人が降りて来た。……うわっ!『エスピオン』の人達!?相変わらず外見だけ見たら、誰が誰だか見当が付かないなぁ!
「孤児院への基金管理は誰の担当だった?」
「…セベク男爵だったかと。ここ数年、妙に金の羽振りが良いとの事です」
「金の流れを徹底的に調査し、横領の事実があったのなら直ぐ様拘束しろ」
「は」
その白い仮面を被った人は、現れた時と同じ様に一瞬で天井裏へと戻って行く。……まるで、忍者か何かだなこれって。
「すまんな。颯樹殿が保護したその少女も、ひょっとするとこちらの落ち度だったかもしれん。許して欲しい」
「いえいえ、謝る事は無いんですよ。それにしてもそう言う動きがあったんですね……だとしたら、スリとかが増える理由も説明が着きます」
「そうだな。……全く、困った物だ」
やっぱり何処にでも居るんだね〜『本来なら決められた所に支援しないと行けないのに、そうやって私腹を肥やしてのさばってる』馬鹿がさ。
「……ホント、国王陛下も大変ですね…」
「全くだ。早く誰かに国王の座を譲って隠居したい物だな」
ニヤリと僕の方を見ながら、国王陛下はそう言った。……あの、ユミナと結婚するのは一向に構いませんが、ベルファストの国王になるのはゴメンですからね?これは何としても城のコック長さんに、精力の付く料理レシピを手渡して、王様に二人目を頑張って貰わねば。
ニンニクとか山芋、スッポンとかあるのかな……この世界に。成る可く早めに手配しないと。
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国王陛下への報告を済ませ、また【ストレージ】から自転車を取り出して家へと漕ぎ出す。帰り着いてみると、すっかり乗りこなしたのか、庭中を自転車で漕ぎまくっている公爵殿下が居た。……良かったですね…。
その公爵殿下は、僕とユミナが帰って来たのを見ると、本来の目的を思い出した様に、依頼のお礼を言い出した。……さっき国王陛下から聞きました。その後、スゥ用に子供用の自転車を作った後、嬉しそうな表情で屋敷へと帰って行った。
「楽しそうでしたな」
「ええ。喜んで貰えて良かったです。後、レネの事は何とかなりました」
「それはようございました。……そう言えば旦那様、お客様が見えられてます」
「客?」
何気なくライムさん越しに廊下を見ると、ひょこひょこっと何かがこちらに歩いて来る。体長50cmで、首元に赤い大きなリボンを付けているクマのぬいぐるみ……まさか。
「ポーラ!君が居るって事は……」
「当然、私の付き添いよ」
名前を呼ばれたポーラは、右手を上げてシュタッと挨拶する。ひょこひょこ歩いて来たポーラを、捕まえて胸の高さまで抱き上げると、傍から聞き慣れた声が聞こえた。
そこには白い髪をツインテールにして、黒いゴスロリ衣装に身を包んだリーンが立っていた。……またやる気?
「リーン!今日はどうしてここに?」
「ちょっと調べ物をしにね。あとシャルロッテにお仕置をしに来たって所かしら。もう引っぱたいて来たけど」
「……それは、何と言うか…お疲れ様」
……あ、まだ根に持ってたの…それ。600歳を超えていると言うのに、なんと大人気ない事か……。…あ、ごめん何でもない。
呆れた目でリーンを見ていると、僕のコートの袖をクイクイっとユミナに引かれる。目の前の状況に付いて行けて無いみたいだ。
「颯樹さん?こちらは何方ですか?」
「あ、ユミナは初めましてだったよね。こちらはリーン、妖精族の長をしてるんだって。ちなみに、僕よりも歳上だよ」
「妖精族…?でも……」
ユミナは訝しげな顔でリーンを見ていた。……ん?確かに何かが足りない様な…?
「ねぇ、リーン?背中の羽、どうしたの?」
「ああ、羽根は光魔法で見えない様にしているのよ。この国だと目立つから」
「それって【インビジブル】?他人の視覚を誤魔化して、見えない様にするって言う……」
「貴方って本当に何でも知ってるのね……そうよ、それで間違い無いわ」
リーンは『完敗』と言う呆れを見せながらも、羽根に掛けていた【インビジブル】を解除する。そうしたら段々と背中に半透明の羽根が見えて来た。窓から差し込む太陽の光にキラキラと輝いている。
……何でも知ってるって、簡単に言わないでよ……。魔法書を読み直した時に知っただけなんだからさ。まだ知らない魔法もそれなりにあるからね?
「でも何でウチに?それに、よくここが分かったね?シャルロッテさんに聞いた?」
「ええ。それと貴方に聞きたい事があってね。今から数ヶ月前、貴方が旧王都の地下遺跡で見つけたって言う『水晶の魔物』について」
「……!」
その言葉を聞いた時、僕の中で何かを思い出していた。『旧王都の地下遺跡で見つけた水晶の魔物』と言えば、もしかしなくても、アイツの事だ。戦いはしなかったから何ともだけど、魔法が効かないアイツの事は、今でもよく覚えている。
「ミスミドにも現れたのよ、その水晶の魔物が」
……はっ?マジですか?リーンの発した言葉に、僕は驚きを浮かべると共に、背筋から身体全体に悪寒が伝った。
今回はここまでです!如何でしたか?
次回は水晶の魔物の話をした後、いよいよ……八重の故郷であるイーシェンへと移って行きます!という事で、アニメストーリーも残すは5話ほど!その5話の間で、この小説だと何話感覚になるのかな〜と言った感じですけど。
予定通り行けば、年末年始か一月の上旬にはアニメストーリーを終えられるかと思います。その後からは、いよいよ……ラノベやなろう版を準拠にしたお話のスタートです!今描いてるのは《1st chapter》ですので、次は《2nd chapter》となります!(章タイトルもまだ決まって無い……どないしよ!)
それではまた次回です!次回は11月22日(金)深夜0時の投稿予定となります!11月22日……いい夫婦の日?…一年後のこの時期には、何か幕間劇を挟むか?んー、悩みどころですな〜。