異世界はスマートフォンとともに。if   作:咲野 皐月

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第26章:フレイズ、そしてリコール。

「貴方たちが帰る前の日にね、ミスミドの西側にある《レレス》と言う街から急使が来たのよ。数日前から奇妙な現象が起こるってね」

 

「奇妙な現象?」

 

 

リビングの椅子に腰掛けたリーンが、紅茶のカップを手に取ってそう口にする。その対面には僕とユミナが、その左右には八重とリンゼが座っていた。ポーラはリーンの横にちょこんと座っている。

 

紅茶を一口含んだリーンは、口を付けたカップを自身の前に戻すと、神妙な面持ちで話し出した。

 

 

「それを発見したのは、その村の小さな子供たちだった。森の中の何も無い空間に、小さな亀裂が宙に浮かんでいるのを発見したのよ。触る事は出来ない、でも確かにそこに存在する小さな亀裂をね」

 

(小さな亀裂……?異空間系の魔法だろうか?少なくとも、この世界に『世界と世界を繋げる』様な魔法は無かったハズ……)

 

「やがて子供たちは、段々と日に日にその亀裂が大きくなって行く事に気付いた。慌てて大人たちに知らせ、村の長老が王都へと使いを出したのよ」

 

 

リーンが紅茶の入ったカップを、静かに受け皿に戻す。その使いが辿り着いたのが、僕らがベルファストに帰る前日だったと言う訳か。

 

そう言えば帰る日に、リーンとポーラが居なかったな。それはこの事があったからだと考えると、話の辻褄が会いそうだ。

 

 

「話を聞いて興味を持った私は、戦士団1小隊と共にその村に向かったわ。……けど、そこで見たのは潰滅に追い込まれた村の様だった。水晶の魔物が村人たちを殺し、蹂躙の限りを尽くしている現場だったのよ」

 

「……それで、被害状況は」

 

「……惨憺たるものだったわ。私と共に居た戦士小隊も戦ったのだけれど、全く歯が立たなかった。剣は通じず、魔法は吸収され、たとえ砕けても再生する……まさに悪夢だったわ。戦士たちは半数が再起不能まで追い込まれ、村は完全に潰滅したわ」

 

 

リーンから発せられた言葉を受け、僕たちは終始呆気に取られていた。……僕はあの『コオロギ型』のヤツと相対した時、直ぐ様【アポーツ】を使って核を取り出し、その後に破壊してたから何とも無かったけど、何もせずにのさばらせてたら、あんな被害が近隣の村や街に及んでたって事!?それを感じた僕は、特に寒い訳でも無いのに、背筋が凍る感覚がした。

 

 

「それで?その魔物は倒せたの?」

 

「何とかね。物理的なダメージを与える魔法なら効くと分かって、そいつの頭に土魔法で重さ数トンの岩をぶつけたのよ。頭が砕け散ったら、二度と再生する事は無かったわ」

 

 

恐らくだけど、頭部にあった赤い球……その魔物の核を破壊したから、完全に活動を停止したのだろうね。やはり僕たちが見つけたのと、同じ系統のヤツって事か。

 

 

「この怪物の事を調べようと思って、シャルロッテの所を訪ねて見たら、ベルファストでも似た様な事があったって言うじゃない。しかも倒したのが貴方だと言うから驚いたわよ」

 

「……」

 

 

リーンは人の悪い笑みを浮かべながら、僕の方へと視線を向けて来る。何だこの、蛇に睨まれた蛙状態は。嫌な汗が出て来るんですけれども……?

 

 

「聞いたわよ?貴方、無属性魔法なら全て使えるらしいわね?道理で【プログラム】も使える訳だわ」

 

「あー、えっと……何と言うか…。あんまバラさないでくれると助かります……」

 

 

シャルロッテさん、喋っちゃったのかー。嫌、喋らされたと言う方が的確か?鬼の師匠に迫られたらなぁ……。僕だったら黙り切れんな。……あれ?僕も案外人の事を言えた立場じゃないかも?

 

 

「生き残った村人の話では、空間に広がって行った亀裂が破壊されて、その中から水晶の魔物が現れたと言う事だったわ」

 

「そっか……。僕たちが見掛けたアイツは、遺跡の地下に眠っていた。リーンが言ってたのが従来の現れ方なのだとしたら、千年前に暴れた一体が眠りについたのが、旧王都だったのかな」

 

「それは何とも言い難いわね。その手の情報が少なすぎるから……」

 

 

僕たち5人とリーンは、何とも言えない雰囲気で固まってしまった。そして重々しい空気の中、リーンが更に話し出す。

 

 

「……そう言えば昔、私がまだ小さかった頃に、一族の長老から聞いたお話があってね。何処からとも無く現れた『フレイズ』と言う名の悪魔が、この世界を滅ぼしかけたとか……」

 

「『フレイズ』…それがあの魔物の正体……」

 

 

リーンから伝えられたのは、ユミナが加わる前のパーティーで見掛けた魔物は『フレイズ』の可能性があると言う事、半透明の身体を持ち、死なない不死身の悪魔だったと言う事。帰る時は現れた時と同じ様に、何処かへ消えるのだとか。

 

伝えてくれたリーン自身、まだ幼い頃に聞いたお話みたいで、その話をリーンに伝えてくれた長老は今は亡くなっているとの事だ。その長老も『御伽噺』みたいな感覚で聞いていた事らしい。

 

 

「ま、二度と会いたくない奴らである事には変わりないけど、今度見掛けたらその悪魔の親玉もだけど、必ず殲滅する。……世界を破壊されてたまりますかってんだ」

 

「……ふふっ。見かけに寄らず、かなり大胆な性格のようね貴方。その心意気、気に入ったわ♪…ところで私、オリガの代わりに今度ミスミド大使としてこの国に滞在する事になったのよ」

 

 

え?そうなの?僕らとしては、全然それは一向に構わないのだけれども……シャルロッテさん、可哀想に……。鬼の師匠に苛められるねこれは……。

 

 

「これからちょくちょく遊びに来るから、宜しくね?そう言えば貴方【ゲート】が使えるわね?」

 

 

ギクッ!態々要らない小芝居まで打って隠してたんだぞそれ!ミスミドに変な警戒心を持たせない様にって、気を付けてたのに……!

 

そんな僕の心を読んだのか、リーンが小さく微笑んで答える。

 

 

「そんな顔をしなくても大丈夫よ。獣王や他の一族の長に言ったりしないから安心なさい。私は身内には優しいのよ?」

 

「身内?……それって、まさか…」

 

「ええ。弟子入り、してくれるんでしょう?」

 

 

ニヤニヤとリーンが此方を見て来る。ぐぬぬ……これを脅迫と言わずしてなんと言うかね。僕が返事を躊躇って居ると、リーンが思わず吹き出した。

 

 

「ふふっ、冗談よ。嫌がっているのを無理矢理と言うのは、さすがに私の趣味じゃないわ」

 

 

……嘘だね、それ。半分くらい本気だったでしょ?僕がリーンを睨んでいると、リビングのドアが開き、紅茶のポットとお菓子を乗せた盆を持って、セシルさんとレネが入って来た。

 

 

「お茶の、お代わりを、お持ちしましたっ」

 

 

ガチガチに緊張したレネが、たどたどしく言葉を紡ぐ。ギクシャクとした動きで、テーブルの中央にお菓子の入った皿を置き、空になったティーカップにお茶を注いで行く。それを横でセシルさんがにこにこと笑顔で見守っている。

 

……試しに一口飲んで見ると、気にならない程ではあるが、何時も飲んでる味よりは少し濃いめだった。更に少しだけ熱かった。ここら辺はラピスさんやセシルさんの様には、なかなか出来ないのかもね。

 

 

「失礼しましゅ」

 

 

……あ、噛んだ。一礼して二人が部屋から退出する。初めてでここまで出来たんなら、文句ナシだろうか?

 

 

「随分と小さな子を雇ってるのね。あまり接客に慣れてない様だったけど、新人さんかしら?」

 

「そうだよ、最近雇ったんだ。何か不手際があっても、許してくれると有難いかな」

 

 

そう言ってもう一度紅茶を口に含む。……ま、何事も経験しながら成長するもんだからね♪ゆっくり確実に覚えて行けばいいさ。

 

 

「ところでさっきの話だけど。【ゲート】は使えるのよね?」

 

「うん。但し《一度行った場所にしか飛べない》と言う条件付きだけどね」

 

「無属性魔法【リコール】って知ってる?」

 

「それは知ってる。何なら概要も覚えてるよ」

 

 

僕のその言葉を聞いたリーンは、心の中で呆れつつも言葉を紡いで行った。……聞いたのはどっちだよって話だけど。

 

 

「その魔法と【ゲート】を使って、貴方に連れて行って貰いたい所があるのよ。その場所にある古代遺跡から、手に入れたい物があって」

 

「場所は?」

 

「遥か東方、東の果て。神国イーシェンへ」

 

「イーシェン?」

 

 

思わず視線を八重の方に向ける。向けられた本人である八重も、その言葉に少なからずビックリしているみたいだ。

 

元世界の日本によく似た国、イーシェン。此方の世界に来てから、ずっと気になっていた国だ。その国に行けるのか。

 

 

「こっちの子はイーシェンの生まれでしょう?この子の心を読み取れば【ゲート】でイーシェンに行けるわ」

 

「ちょ、待つでござる!心を読み取るって、拙者の心をでござるか!?」

 

「心配しないで」

 

「基本的に【リコール】は、渡す方が許可した記憶しか渡されないから、見られたくない記憶まで渡される事は無いよ。安心して大丈夫」

 

 

八重が何とも言えない顔で悩んでいる。……まあ、誰にも知られたくない事なんて、一つや二つ必ずあるはずだからね。大丈夫だと言われても、簡単に聞き入れられないよね……。立場が逆なら、僕もああなってたろうな。

 

 

「無属性魔法【リコール】は、相手に接触して心に触れ、その記憶を回収する魔法よ。接触にはなんてったって口づけが一番ね」

 

「「「「うぇぇっ!!!!!?」」」」

 

「冗談よ」

 

 

ふと漏らされたリーンの言葉に、僕たちは全員その場に脱力してしまう。ニヤニヤすな、このゴスロリドS娘ぇぇぇ!僕らを弄んでるな、コイツ!

 

 

「はいはい、貴方たちはこっちに来て対面に立って。そして両手を握る」

 

 

リーンに言われるがままに、八重と向かい立ち、お互いの両手を握る。……あれ!?確か八重って、何時も刀を扱ってたよね!?結構……柔らかい…。イカン、緊張して来た…。

 

 

「あ……」

 

「はうっ…!」

 

 

僕が何となしに視線を上げてみると、八重と目が合った。真っ赤な顔をして此方を見ている。そんな顔しちゃダメ!こっちも恥ずかしくなってくるでしょ!

 

 

「はい、二人とも目を瞑って。八重の方は頭にイーシェンの風景を思い浮かべる。成る可く鮮明な場所が良いわね。曖昧な所だと、似たような所に【ゲート】が開くかもしれないから。そしたら颯樹は八重とおでこを合わせて【リコール】を発動させて」

 

 

リーンに言われるがままに、僕は八重とおでこを合わせて【リコール】を発動させる。フワッと良い匂いが彼女から漂って来るのだが……そんな事を考えてる余裕は無さそうだね。

 

頭の中に何が見えて来る……。大きな木…楠か?その木の根元に何か……鳥居かな、これ。小さな祠が立っている。その左右には狛犬らしき物もあるな。森の中の小さな祠……これが、八重の記憶の中にあったイーシェンの風景か。

 

 

「よし、見えた」

 

 

目を開いて正面の八重と見つめ合う。何だか、変な気持ちになるな……他人の記憶を共有するってのは。まるで自分も『彼処に何回も訪れた』様な感覚がして来る。

 

 

「……颯樹さん?」

 

「わ、悪い…すぐ離れる」

 

 

ユミナからの周りを冷やす様な威圧に、ハッとして八重の手を離す。手を握ってずっと見つめ合っていた気恥しさからか、思わず僕と八重は顔を背けてしまう。

 

 

「イーシェンが見えたのなら【ゲート】を開いて欲しいのだけれど。良いかしら?」

 

 

くっ、だからそのニヤニヤした顔をやめろ言ってるでしょ!他人事みたいに偉っそうに!

 

先程脳裏に浮かび上がって来た、イーシェンの場所を再び思い浮かべて【ゲート】を開く。浮かび上がった光の門を潜ると、そこは森の中であり、八重から貰った記憶と寸分違い無い場所であった。

 

 

「間違いござらん。ここは拙者の生まれ故郷、イーシェンでござる。実家のあるハシバの外れ、鎮守の森の中でござるよ」

 

 

同じ様に【ゲート】を抜けて来た八重が、周りの風景を見渡して断言する。

 

東の果て、極東の国、神国イーシェン。僕らはそこに足を踏み入れた。




今回はここまでです!如何でしたか?


次回からはいよいよ、アニメストーリー《第9章》へと突入します!どんな物語が紡がれるのか、とても楽しみですね♪

そしてご報告ですが……この「異世界はスマートフォンとともに。if」、ついにお気に入り登録者数が50件到達まで目前!私自身、ここまで沢山の方に読んでもらえてるんだな〜と涙が出そうになってしまいました……!その御礼の気持ちも兼ねまして、50件突破記念回を何処かで描こうかな〜と今画策中です。宜しければ活動報告かメッセージにでも構いませんので、ご提案をよろしくお願いします!(提案する際には、小説に載せる形にして貰えれば)


次回の更新は11月25日(月)の深夜0時です!……年内までにアニメストーリー終えられるかな、このペースで。少し心配になって来ました…。
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