異世界はスマートフォンとともに。if   作:咲野 皐月

27 / 60
第27章:オエド、そして合戦へ。

一旦【ゲート】でベルファストの屋敷へ戻った後、エルゼの帰宅を待ってから、各自の準備を整えてイーシェンへと訪れる事にした。面子としては僕とユミナ、エルゼにリンゼ、八重とリーンの6人と琥珀とポーラである。

 

【ゲート】を抜けて鬱蒼とした森の中を、八重の先導で抜けて行く。そして麓に降り立つと、急に目の前の視界が開けた。

 

 

「おお〜、これは……」

 

 

眼下に望む景色を見た僕は、思わず口から声が漏れてしまう。小高い丘の上から見えたその景色には、街と水田が広がっていた。街の奥に建っているのは、見まごう事なき城である。ベルファストの様な西洋造りの物では無く、姫路城や大阪城と同じ様な日本式の建物である。若干小さくはあるけど……ね。

 

 

「ここが拙者の故郷、オエドでござる」

 

 

なるほど……ここは『江戸』ならぬ『オエド』なんだね。一目見た時、僕が時代劇とかで見る街の景色とは、だいぶ違う事がよく分かった。第一に彼処は城塞都市であり、街の周りを覆っている堀に被さる様に、白く高い壁が聳え立っている。城壁の上には歩哨が立ち、所々に点在する櫓には弓兵が控えてるんだそうで。

 

周りの水田の辺りには家が建ち並んでいるが、それはチラホラと見えるだけだ。しかし、それはお城に近付くに連れて密集している様にも見える。

 

 

「実際に来てみると、そこまで大きくないね」

 

「ベルファストよりは、そこまで無いでござるな。一応国王は居るのでござるが、実際には自由勝手にしているだけでござるよ」

 

「……?もしかして…」

 

 

僕は思い当たった事を、八重へと質問して見る。すると案の定な答えが返って来た。イーシェンは九人の領主が領地を収めて、その領主が国王としての権限を得ているのだそうだ。九人の領主と言うのは……島津、毛利、長宗我部、羽柴、織田、武田、徳川、上杉、伊達の事らしく……。…ま、マジで?ここって、安土桃山時代後期~江戸時代の辺りか(最初に『ここって、安土桃山時代かなんかなの!?』って予想してたよねキミ)!?

 

 

「ここ数年で目立った大戦は?」

 

「無いでござるな。ここ数十年、そんな戦いがあったとは聞いてないでござる」

 

 

八重の返答を貰いながら、僕たちはオエドの街中へと入る。彼女の実家があるオエドは、イーシェンの東に位置しており、徳川家の治める領地だ。そこそこ豊かであり、領民に優しい領主であるとの事で。

 

 

「それで?リーンが行きたい古代遺跡って、どういう遺跡なの?その場所は何処に?」

 

「場所は分からないわ。ただ《ニルヤの遺跡》としか知らないわね」

 

「《ニルヤの遺跡》…八重、知ってる?」

 

「ニルヤ…?聞いた事があるような、無いような……。父上なら知ってるやもしれませぬ」

 

 

僕たちは目指している古代遺跡の場所を、リーンに確認した。小さいとは言えど立派な国である訳で、当てずっぽう行き当たりばったりで探す訳には行かない。

 

そんな事を話しながら、八重の先導で街へと歩いて行く。大きな堀に渡された木製の橋を渡り、城壁の中へと入って行った。街中に入ると、そこは限り無く和風に近い世界であった。建物は殆どが木製の平屋建てで、屋根には瓦が付けられ、障子の貼られた戸に、店には暖簾が掛かっている(書かれてた文字は日本語では無かったけど)。

 

行き交う人も侍姿に着物姿、町人の様な者も居れば、着流しの素浪人まで居た。但し共通する事としては、皆が髪を後ろで一つに結っている事だろうか。

 

 

「うわあ、何アレ?人が何か担いでるわよ?」

 

「ああ、それは『駕篭屋』って言って、お金を払う事で利用できる乗り物なんだよ。辻馬車の代わりだね」

 

「…なんでわざわざ、人が運ぶんですか?馬車の方が楽だし、速いのに……」

 

「うーんと、ここの地形的に急斜面の道とかが多いんだよ。それもあって、ベルファスト程は道が整備されて無いんだ。だからこの『駕篭屋』を使って目的地まで運んで貰うと言う訳。馬車でこう言う所を通ろうと思ったら、かなり大変だよ?」

 

 

エルゼから放たれた疑問に、僕は知っている限りの情報を開示して答える。後に聞かれたリンゼの質問には、元居た世界の地理を参照する事で、難なく答える事が出来た。その他にも下駄や火の見櫓に半鐘、風鈴などについても聞かれたが、前世の事を確り覚えていたからか、難なく回答することができた。

 

それを見た八重からは、感嘆の溜め息と共に小言を貰う羽目になった……。いや、ただ覚えてただけだよ!?

 

 

「……それにしても、街の人の様子がおかしいね。まるで何かに怯えてるかの様に」

 

「本当ですね…。何かあったのでしょうか?」

 

 

何処か元気の無さそうな住人を片目に、僕たちは八重の行く後を付いて行く。八重の案内で神社の鳥居を横切って、竹林の道を抜けると、開けた場所に塀で囲まれた大きな屋敷が現れた。

 

【九重真鳴流剣術道場 九曜館】と書かれた大きな看板が下がる門を潜り、その家の玄関に着くと、八重は声を張り上げた。

 

 

「誰か居るか!」

 

 

八重が声を張り上げてから暫くした頃、奥からバタバタと、誰かが足音を立てて近付いて来た。その人物は二十代を越えた位で、黒い髪を後ろで一つに結っている女性(女中さん)だ。

 

 

「はいはい、只今……まあ、八重様!」

 

「綾音!久しいな!」

 

「お帰りなさいまし、八重様!七重様、八重様がお戻りになられました!」

 

 

八重の手を握って再会を喜んでいた綾音さんは、八重の帰宅を屋内に報せる様に、奥に向けて声を掛ける。すると再びバタバタと足音が聞こえ、三十代後半だろうか、薄紫の着物を着た優しそうな女性が姿を見せた。……何処か八重に似てるな…。

 

 

「母上!只今帰りました!」

 

「八重…よくぞ無事で……お帰りなさい」

 

 

やっぱり八重のお母さんだったか〜。久しぶりの再会に、母は娘を確りと抱き寄せる。その母の眼には薄らと涙が光っていた。

 

一頻り感慨に耽っていた後、七重さんは僕たちの方を見始めた。……まあ、誰でもそうなるわな。

 

 

「八重、此方の方たちは?」

 

「あ、拙者の仲間たちです。大変お世話になっている人たちでござるよ」

 

「まあまあ、それはそれは……。娘がお世話になりまして、ありがとう存じます」

 

「別に大した事ではありませんよ。此方も彼女にはお世話になりっぱなしです。どうか顔を上げてください」

 

 

床に座って深々と頭を下げる七重さんに、僕らは『気にしなくていい』と言う旨の返事を返す。子を想う母心と言う物だろうか、その姿勢から七重さんの気持ちが伝わって来るようだった。

 

 

「ときに母上、父上は何方でござるか?城の方にでも?」

 

「「……」」

 

 

八重から放たれた質問に、綾音さんと七重さんは顔を気まずそうに俯かせてしまった。そして重々しく口を開き、七重さんは事実を告げる様に言葉を紡ぎ出す。

 

 

「父上は此処には居ません。殿…家泰様と共に合戦場へと向かいました」

 

「合戦ですと!?」

 

 

衝撃の事実を聞いた八重は、驚きのあまりに声を荒らげて母親を凝視する。合戦とはまた物騒な……。一応イーシェンは国王の元で纏まってたんじゃ?

 

 

「横槍失礼します」

 

「貴方は?」

 

「八重の仲間の一人で、盛谷 颯樹と言います。早速ですが、一体何処と合戦を?」

 

 

僕は八重と七重さんの会話に割って入った。それを見た七重さんは僕の事を誰何し、僕は最低限の自己紹介に留めて返答する。

 

僕の放った疑問には七重さんでは無く、綾音さんが答えてくれる形となった。

 

 

「武田です。数日前、北西のカツヌマを奇襲をかけて落とし、今はその先のカワゴエに向かって進軍しつつあるとの事です。それを食い止める為に、旦那様と重太郎様がカワゴエの砦に向かいました」

 

「兄上も戦場へ向かわれたのか……。しかし、分からぬ。武田は何故そんな侵略を始めたのか…。武田領主の真玄殿が、その様な愚を犯すとも思えぬが……」

 

「最近、武田の領主に妙な軍師が就いたとの事です。山本某と言う者だそうで。色黒隻眼で不思議な魔法を使う人物だとか……その者に妙な事を吹き込まれたやもしれませぬ」

 

 

七重さんの言ってのけた言葉に、僕は少し状況を整理していた。……『武田』で『軍師』って言ったら、山本勘助だよな、武田二十四将の一角で。七重さんの話通りなら、何だか怪しい魔法使いになってるけど。……まあ、こっちの人物と一緒にしちゃ行けないよね。共通してる部分もあるかもだが。

 

 

「それで戦況はどうなの?」

 

 

それまで黙っていたリーンが問い掛ける。足元に居るポーラは首を小さく傾げており、ふっと見たら琥珀もポーラと同じポーズを取っていた。可愛い……では無くて!

 

 

「何分にも急な事だったので、充分な戦力を集められず、このままではカワゴエの砦が落とされるのも時間の問題だと言う噂です」

 

「それでは父上や兄上は……!」

 

 

綾音さんの口から漏れた状況に、八重が愕然とする。しかし、直ぐにその眼からは不安や怯えの色が消え、燃える様な決意の色が現れた。八重が大切な家族に迫る危機を、黙って傍観している様な女の子じゃない事は、僕らがよく知っている。

 

直ぐ様立ち直った八重は、真っ先に僕に在る事を告げて来た。それはこの状況では頼りになる一言だった!

 

 

「颯樹殿!カワゴエの砦の近くの峠なら、拙者、行った事があるでござる!どうか……!」

 

「助かった!元からそのつもりだったけど、行った事があるなら話が早い!」

 

「颯樹殿……!」

 

 

僕は八重の手を握り、ハッキリと自分の意見を述べる。皆の方を見てみると、エルゼもリンゼもユミナも、揃って同意見みたいだ。……あとはリーンだけだが…。

 

 

「まさか戦場に行く事になるとはね……。ま、気持ちはわかるから、私も付き合うわ」

 

 

肩を竦めて小さくリーンが笑う。そしてその横のポーラに至っては『何処からでも掛かって来い!』と言わんばかりに、シャドーボクシングを始めていた。皆もやる気十分って、所かな!

 

僕は八重の手を握って、額を合わせて【リコール】を発動させる。……なるほどね。大きな一本杉が立っていて、その奥には砦があるのか。あの砦が『カワゴエの砦』なんだね。

 

 

「OK、ありがとう」

 

「颯樹殿!【ゲート】を!」

 

「ん、了解!【ゲート】」

 

 

八重の手を離した僕は、直ぐ様転移魔法の【ゲート】を玄関前に発動させる。真っ先に八重が飛び込み、エルゼたちも次々と【ゲート】に入って、移動をして行く。

 

その光景を呆然と眺めている九重家の二人に、最後に残った僕が声を掛ける。

 

 

「必ずご主人と八重のお兄さんを、連れて帰って来ます。皆で無事に戻って来ますので」

 

「颯樹殿、貴方は一体……」

 

 

七重さんの問い掛けに何と返していいか分からず、僕はカワゴエへの【ゲート】を通り抜けた。戦場に行くのは初めてだけど、気張りますか!




今回はここまでです!如何でしたか?


次回はカワゴエの砦での戦闘シーンが中心となります!戦闘シーンはそこまで長くしないつもりなので、読むのには苦労はしないと思いますよ?

その後のお話では【インビジブル】の初披露や、水着回に『庭園』を見つける話……etc.....がありますので、是非とも楽しみにして貰えれば(水着回は特に力を入れて描く所存です)!


それではまた次回!次の投稿日は11月29日(金)深夜0時となります!

─────────【追記】─────────

オリジナル話の内容募集の活動報告を、先日土曜日に出させて頂きました!今は『お気に入り登録者数50件突破記念回』の内容のみを募集してますが、アニメストーリー終了後のシーズンからは、所々でオリジナル話を挿し込むつもりです!

ですので、内容提案のご協力を宜しくお願いします(提案の際には、注意事項をよく読まれて下さいね)♪

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。