「高坂様からの使いだ。通して頂きたい」
「確かに。暫しお待ちを」
椿さんが手にした鑑札を見て、門番の二人が重々しい門をゆっくりと開けた。……あっ、通用口とか無いのねここ。
開かれた扉の間から、素早く姿を消した僕とユミナにリーンが入り込む。その後から椿さんが門を通ると、再び重々しい音を立てて扉が閉まった。……一先ず作戦の第一段階は成功と見て良いかな。
「ところでリーン。この認識阻害の魔法は、結界とかで無効化されたりしないの?」
「結界は、基本的にそこに干渉しようとする魔力を弾く効果があるんだけど、【インビジブル】の魔法が干渉してるのは、私たちだから問題無いわ」
「じゃあ、結界内から【ゲート】で転移する事も出来るって訳だ」
「ご明察」
なるほど……じゃあ、投獄されている武田四天王の残り三人を【ゲート】で出す事は出来る訳だ。結局の所【ゲート】って、干渉するのは目的地だけだからね。その中には転移する者自身は含まれないって事だ。
……もしその三人を味方に付けて、一緒に戦ってくれるなら百人力だからね♪その事を椿さんに提案すると、直ぐに賛同してくれた。
「地下牢はこっちです」
椿さんの後を追い掛けて、僕たちは月の無い闇夜を駆け抜けて行く。……今更だけどさ、なんかこう言うのってすっごくワクワクしてくる!
館の西、曲輪の端に建つ家屋の中に地下牢は存在していた。流石にこの中には鑑札を持った椿さんと言えど、入る事は許されないので……リーンに【インビジブル】を掛けてもらい、4人とも他人からの視覚による認識を逸らし、その中へと潜入した。
「……ここが地下牢…。なんか息苦しいな……」
「何処の地下牢も同じはずよ。たぶんそのお姫様と婚約すれば、罪人をここに放り込める立場になるわ。よく味わって置きなさい?」
僕がふと漏らした感想に、リーンが返答する。……えっと、僕ユミナと結婚するつもりでは居るけど、ベルファスト国王になる気は無いからね?
中で待機している番人の所を通り抜け、石と木で出来た座敷牢の辺りまで来ると、白髪交じりの長い髭を生やした一人の巨漢な男性が、目を閉じて座禅を組んでいるのが見えた。
(うわぁ……すごい集中力。僕も精神統一の為に正座をして目を閉じる事はあるけど、あの人はそれ以上に集中してる……何時か真似してみようかな)
「誰だ」
僕が心の中でその男性を褒めていると、僕たちの事を気配で察したかの様に声を発した。……え?嘘。この人は座禅を組んだままで気付いたの!?認識を阻害させる魔法を掛けてるのに!
「馬場様、椿です。高坂様の命にて助けに参りました。内藤様と山県様は何方に?」
「高坂の…?ふん、やはり彼奴が完助の軍門に下ったは偽りであったか。全く食えぬ奴よ。内藤と山県は奥の牢に居る。それよりも好い加減に姿を見せぬか」
そう言うと口の端を吊り上げて、武田四天王の一人である武将……馬場信晴がニヤリと笑った。あー、これはもうバラした方が良さげな雰囲気で?
リーンが【インビジブル】の魔法を解くと、馬場さんは片眉を上げて僕らを眺めた。いきなり見知らぬ人物が視界に入ったのが、少しびっくりしたのかな……。気持ちは分からんでもないが。
「その三人は誰だ?見た事が無いが」
「こちらは徳川殿の客人で、盛谷颯樹殿とリーン殿、ユミナ・エルネア・ベルファスト殿です。ユミナ殿はベルファスト王国王女であり、盛谷殿は徳川に攻め込んだ鬼面兵一万五千を一人で打ち倒した程の実力者です」
「何だと!?」
馬場さんの眼が驚きによって見開かれる。……あの鬼面兵は一万五千も居た訳?そりゃあマップがターゲットを示すピンで一杯になるはずだわ。
馬場さんが信じられないと言った感じの目で、僕を見て来るが……取り敢えずこの牢を何とかしないとな。
「【モデリング】」
座敷牢の格子になってる木を変形させ、人が一人通れるくらいの穴を【モデリング】で作り出す。その出口の穴は一分程で完成し、易々と馬場さんはその穴から出て来た。
……改めて見ると、迫力が凄いなぁ……。八重のご家族(男性)や将軍と会った時もそうだけど、数々の修羅場を潜り抜けて来た猛者って感じがするよ……。
「随分と不思議な事が出来るんだな、小僧」
「……颯樹さんの侮辱は許しませんよ?」
小僧って……。確かに貴方から見れば、僕はまだ小僧でしょうけどさ〜。その言葉を聞いたユミナがキッツイ眼で馬場さんを睨んでるし、敢えて言わんが……その隣の妖精娘に至っては歳上だからね!?貴方よりもずっとずっとですよ!?
口の悪い馬場さんを連れて、更に奥の座敷牢へと進む。穏やかな昼行灯と言った感じの男性が右手の座敷牢に、全身傷だらけで如何にも《歴戦の勇士》と言わんばかりの男性が左手の座敷牢に居た。
「おお、馬場殿。お元気そうで何より」
「なんか面白そうな事になってるみたいだな、馬場殿。暴れるんなら俺も混ぜてくれや」
にこやかな男性がそう言ったかと思えば、傷だらけの男性は『暴れさせろ』と言う感じを匂わせて、こちらに近寄って馬場さんにそう伝えた。
馬場さんは二人の姿を見ると、溜め息を着くなりこう言い放った。
「内藤、お前はもうちょっと危機感を持てや。何時もニコニコ緩んだ顔をしやがって。逆に山県、お前はもうちょっと考えろ。何でも彼んでも戦えば良いってもんじゃないぞ」
なるほどね〜。右手の座敷牢に居るにこやかな顔の男性が『内藤 正豊』で、左手の座敷牢に居る歴戦の勇士が『山県 政景』なんだね。確かに二人の姿を見ていたら、僕もさっきの馬場さんと同じ事を言いそうだ。
「小僧、悪いが此奴らも出してやってくれや」
「了解です。……あと、小僧はやめてください。僕には『盛谷 颯樹』と言う名前があるんですから。椿さんも言ってたでしょうに」
「一応その子、ベルファストの次期国王候補だから、口の利き方には気を付けた方が良いわよ?」
ムスッとした顔で訂正を要求した僕は、馬場さんの頼みを熟す事にした。そしてリーンが馬場さんに向けて、口の利き方には注意した方が良い旨を言い放った。この言葉には他の二人も思わず絶句していた。
「そうなのか?うーむ、しかし今更変えるのもみっともない気もするしな……。ま、小僧で良いだろ」
「私は颯樹殿と呼ばせて貰いますよ」
「んじゃ、俺は颯樹で」
馬場さんの発した言葉に、肩を竦めて笑うリーン。その後には内藤さんも山県さんも、各々好き勝手な事を言い出した。……はぁ、何かこう言うのって慣れないなぁ。一度武田領の棟梁に会ってみたかったよ全く。こんな個性的な面子、相当苦労しそう……。
僕は【モデリング】を使って、内藤さんと山県さんを座敷牢から出す。それから僕の方で【インビジブル】を全員に掛けて、全員で階段を昇って門番をやり過ごし、地下牢から脱出した。
「それでこれからどうする気ですか、次期国王陛下」
「……取り敢えず、貴方方を外へ逃がした後に、僕ら4人で完助を引っ捕らえるつもりですが?」
「おいおい、そりゃねぇぞ。俺も連れてけよ颯樹。あの野郎にゃ、俺たちは貸しがたんまりあるんだからよ」
ニコニコ……いや、これはニヤニヤだろうね。そんな顔を浮かべながら、内藤さんが僕に話し掛けて来る。一応頭の中で考えていた事を伝えると、山県さんが指の骨をバキバキ鳴らしながら、不敵な笑みを浮かべた。
チョイ待ち!傷だらけの顔でそんな物騒な事を言われると、色んな意味で怖いから!
「完助の周りは鬼面兵で固められ、奴自身も奇妙な魔法を使うぞ。倒せるのか?」
「……先刻に鬼面兵一万五千と交戦した時、僕の光魔法が命中していました。その光魔法で生み出した槍に突かれた鬼面兵は、跡形もなく霧散していました。勝算はあると思っていますが、念の為に警戒しておきます」
「それが一番効率的ね。いざとなれば、私やお姫様も居るし……今回は強力な助っ人も居る事だしね」
馬場さんからの問いに、僕は確証を持ってそう答える。それにリーンも賛同し、ユミナも小さく頷く事で肯定の意を示した。……しかしこれって、あくまで五分五分だったりするんだよね〜。
「椿さん、完助は今何処に?」
「恐らく中曲輪の屋敷に居るかと思われますが……」
僕は【ロングセンス】を使って、椿さんの指示を聴き込みながら、完助を探し出す。広い庭を抜けて屋敷の中に入ろうとした時、中から一人の男が出て来た。
黒い着物に黒い袴を身に付け、色黒の肌に左眼には眼帯をしていた。……此奴が山本完助、鬼面兵を操る武田軍の影の軍師な訳か。
「さて、完助は見つけたから……どれか一つでも良いから護符を破壊する。そしてその瞬間に完助の元へと転移する」
「それが一番最善策ね。方法は?」
「僕にはこれがある」
僕は腰から剣銃ブリュンヒルドを引き抜いて、リーンにブリュンヒルドの銃身を見せる。それを見たリーンは、何処か安心した様な笑みを浮かべた。護符の場所を山県さんが知っていると言うので、僕たちはその案内に従って移動した。
少し暫く移動していると、壁の隅の小さく取られたスペースに、石で出来た小さなお地蔵さんが建っていた。大きさで例えるなら、ポーラがこの場合は近いだろう。
「間違い無いわね。この地蔵自体が護符のひとつよ」
うーん、改めて見てみると……『護符』って言ったら、僕の中では《御札》のイメージがあったからな〜。少し意外かも。リーン曰く『護符』と言うのは《御守り》と言う意味を持ち、決まった形を持たないそうで。
僕はブリュンヒルドの銃口を護符に向けると、武田四天王の三人へと声を掛ける。その間にユミナには【ストレージ】から取り出した、武器セットを渡しておく。
「これを壊したら、直接完助の元へと転移しますが……準備は良いですか?」
「いやちょっと待て、小僧。流石に丸腰では儂らでもキツイ。何か武器は無いか?」
んな事を急に言われても……。こっちの手持ちは剣銃ブリュンヒルドと、銃のレミントン・ニューモデルアーミーだけなんだけど……。この武器を貸してしまうと、僕が丸腰になるしな〜。
「仕方ない……作りますか」
「「「作る??」」」
今回はここまでです!如何でしたか?
次は本当に戦闘シーンを入れます!そしてこの戦いの後には……皆さまお待ちかねのあのお話も用意してますので、お楽しみに!
次回は12月13日(金)の深夜0時です!これからも変わらずのご愛顧、よろしくお願いします!今回も感想を是非聞かせて下さい!