「空中庭園……ね。古代文明パルテノの遺産とも言えるわね」
辺りの景色を見渡しながら、リーンが一人感慨に浸っていた。やっと目的の場所に辿り着けたのだから、その気持ちはよくわかるのだが。
古代文明パルテノ。様々な魔法を生み出し、それによる道具《アーティファクト》を創り出した超文明。バビロンもその文明が生み出した遺産の一つであり、それ自体がアーティファクトとも言える。そうなると、シェスカも同じになるのかな。
「広いですね〜」
「空気も綺麗で、落ち着きます」
「ねぇ、シェスカ。この空中庭園って、広さはどれくらいなの?」
「パルテノドーム4個分ほどノ広さがありまス」
……ごめん。僕はパルテノドームその物を先ず知らないから、それで例えられてもわからん。兎に角かなり大きい事は確認できた。見て歩いて鑑賞できる物が庭園である事から、皆が浮かれるのも何となく分かる気がする。庭師のフリオさんに見せたら、間違い無く喜ばれそうだな。
その一角にある、池の畔にある休憩所の役目を持つ東屋で、僕とリーンにシェスカは寛いでいた。
「それで……リーンの手に入れようとしていた物って、ここにあるの?」
「さあ。私は古代魔法を幾つか発見できたら良いなと思ってたんだけど、それ以上の物が見つかっちゃったからね」
なるほど……このバビロン自体が《古代魔法の結晶》とも言える訳ね。とても5000年も持ちそうに無い庭や、萎れる事の無い草花、外敵から不可視となる障壁、どんな古代魔法が使われているか分からない、不思議のオンパレードだからね。
此処を造った博士は、間違い無く『天才』と呼ぶに相応しい人だったんだろうね。自分の造った娘にぱんつ丸出しを強制する大アホだけど(前回も言ったよそれ)。
「シェスカ、ここは庭園としてのスペース以外に何かあったりする?」
「いえ、何も。他のと違って、単なる空に漂う個人庭園でございまス。財宝も無ければ、これと言った兵器もございませン。空飛ぶ素敵なお庭でございまス。あぁ、あと《闘技場》もその一つでス」
いやまあ、このバビロンの存在自体が財宝みたいな物だしなぁ……。とても5000年以上も前に存在していた遺跡がいきなり見つかって、平気な顔をしてる人は居ないと思うが。
……ちょっと待て?シェスカは今、何て言った?「他のと違って」……?と僕が思うより早く、リーンがシェスカへと質問をしていた。
「ねぇ、シェスカ。ちょっと気になったんだけれど。貴女さっき『他のと違って』単なる空に漂う個人庭園、って言ったわよね?それってどういう事?」
「バビロンは幾つかのエリアに分散されて、空を漂っていまス。私の管理する《庭園》の他に、《研究所》や《格納庫》、《図書館》等が、私の姉妹によって制御、管理されておりまス。全て合わせて《バビロン》なのでス」
……なんと。この《庭園》以外にも、そう言った遺跡が幾つかある訳だ。僕個人としては非常に興味を唆られる内容だけど、目の前に不安要素があるんだよなぁ……。
『それでも見てみたい』と言う僕の気持ちが強いのは、単なる好奇心なのだろうか……と思えてしまう。僕は寛いでいた東屋に皆を呼び寄せて、話を聞いてもらう事にした。
「そんな物が浮かんで居たら、騒ぎになりそうな物だけど」
「エルゼ、さっきも言ったかもだけど……外部から認識を阻害させる障壁が《バビロン》には張られてるから、今し方僕が通って来た方法でしか入れないの」
エルゼ……さっきの話、聞いてた?古代文明パルテノの時代に存在していた天才(変態)博士は、ありとあらゆる古代魔法を使って、バビロンに完全なるステルス性を付与して居た。
発見するにはたった一つ……。僕の様な全属性持ちが、転送陣と魔石台にある魔石に、全ての魔力を送り込まないと発見出来ないという事。その話に疑問を持った八重が、シェスカにある事を質問する。
「それで、一体幾つこの様な浮き島があるんでござるか?」
「私の《庭園》に《図書館》、《研究所》、《格納庫》、《塔》、《城壁》、《工房》、《錬金棟》、《蔵》、《闘技場》と当時は10個ありましタが、現在幾つ残っているか分かりませン」
えっ……!?10個もこんな浮き島がある訳!?捜すのに骨が折れそうだ。いや、世界全体で言ったら少ない方なのかな?どうやら大きさでは《庭園》がトップクラスで、それに次いで《闘技場》との事で。
本当にその博士って、マジモンの天才だったんだなぁ〜って実感するよ。……変態と言うイメージは、残念ながら消えてないけど。
「私としては、その《図書館》に惹かれるわね。古代文明の様々な知識が詰まってそうじゃないの」
隣でリーンが不敵な笑みを浮かべてるが、実際はどうなんだろうか……。あの変態博士の考える事だ。大量のソッチ系の知識が詰まった場所とかでは……?もう一方の《蔵》もなぁ〜。ソッチ系のアイテムとか満載だったら、絶対に嫌!
「…他の浮き島とは連絡とか、取れないん、ですか?」
リンゼがシェスカにおずおずと尋ねる。相変わらず人見知りが激しいのな……。いや、僕もあまり人のことを言えた義理ではないのだが(前世での話)。まあ、相手は「人」では無いし。
でも確かに。シェスカの様な姉妹が他にも居るのであれば、その娘たちと連絡を取り合うのが手っ取り早い。
「残念ながラ他の姉妹とは現在リンクが絶たれていまス。障壁のレベルが高く設定されていルので、如何なる通信魔法も受け付けませン。マスターが許可しない限り、下げられるコトは無いでしょウ」
「リンク……?それにマスターって何です?」
ユミナが首を傾げてシェスカに尋ねる。リンクとかって言葉は通用しないのか。「グラス」とか「ナイフ」って言う固有名詞や、ある程度の日用会話での横文字は通じるんだけどな……。専門用語的な物は、あまり世間では広まってないのかな。
「リンクとは《繋がり、連結》と言う意味でス。マスターとは《愛しの旦那様》と言う意味でス」
「嘘教えんな。マスターについての意味で、正しくは《主人》とか《頭領》って意味だろ。常に頭がエロ思考のお花畑だから、そんな歪曲した知識になる」
コイツ……!『主人』=『愛しの旦那様』って認識で覚えてんのかよ(=_=)どうもシェスカはロボ子(正確には違うんだけどね)のくせに、多少お巫山戯が過ぎる。これも制作した博士の影響かね。
……ん?何処からか、周りを凍らせる様な威圧感が感じられるのですが……?
「…主人ってどう言う事、です?」
ふっとその原因を見ると、リンゼが眉根を寄せて詰問して来ていた。あー!軽率だった!当たり障り無い様に、後で皆に説明するつもりだったのに(真っ正直に)!
「颯樹様にぱんつを見られ、身も心も捧げるコトになりまシた。故に、私のご主人様、マスターでス」
「おい!色々と違いすぎるぞ!しかも……説明不足だろうが!そんな発言じゃ何れ誤解を……ひっ!」
ピシィッ!と場の空気が凍る。リーンと召喚獣三匹以外の眼が僕に向けられるが、眼のハイライトが仕事をしておりませんし、ユミナやリンゼに至っては人殺せるよそれで!
ゆらりとリンゼが椅子に座る僕の目の前に立ち、腕を組んだポーズで見下ろしながら睨んで来た。……え?誰ですかこの人。大人しくて控えめなリンゼさんは一体何処へ?
「……颯樹さん」
「はいぃ…」
「正座」
リンゼ様が怒ってらっしゃいますよぉ……。リンゼは基本的に怒らないタイプで、大人しくて控えめなイメージがあったんだけど……、今の彼女からは人をも一息で殺せそうな威圧感を感じていた。
ここで反抗する意志を見せれば、確実に僕の未来に関わる為、僕は素直に地面に正座をする事にした。
「…以前私たちのを見たにも関わらず、またですか。そんなにぱんつが好きですか」
「いや、前のは事故で……」
「……今回のは自分の意思で見た、と?」
いやいや、自分の意思とかそう言うんじゃなくて……あれは最初から見せてるからね!?僕も一瞬見た時は「あ、僕は疲れてんのか」と思ったくらいだからね!?
それでも皆の無表情の威圧は、依然として消える事が無い。……何処かで選択を間違えたか?あれ?これって、僕が全体的に悪い訳?
「何ですか、昨日の水着姿じゃ満足できませんでしたか?結構見てましたよね、私たちの」
「いや、あれは〜、そのですね〜……」
「私も頑張ってお姉ちゃんとお揃いのビキニにしたんですが、ダメでした?やっぱり水着と下着は違いますか、そうですか」
ちょ、怖いんですけど!リンゼさんが在らぬ方向を向いて、何かブツブツ言い始めましたよ!?他の三人もかなり引いてるし!リーンは意地悪そうな笑みを浮かべて、何か言ってくるし……。ごめん、今そういう状況では無い事を理解したうえでの行動かなそれ。
「何で怒られてるのか分からないって顔ね」
「大丈夫、それは分かったから」
流石にこの状況で察せない程に、僕は人でなしでは無いし……鈍感でも無いぞ!
「そこら辺にしときなさいな。それ以上責めるなら、貴女もキチンと彼との立場をハッキリしないとダメ。少なくとも、そこのお姫様と同じ場所に立たないとね」
「……はい」
リンゼがリーンの提言に小さく頷き、後ろに引き下がった。……はぁ〜、ガチで寿命が縮むかと思ったよ〜。でもこれで「リンゼは怒らせたら行けない」、ハッキリ理解しました。それは何もリンゼに限った事じゃないけどさ。
脱線した話を元に戻す様に、リーンはここまででの話を纏めてシェスカに話す。
「通信を阻害している障壁のレベルを下げるには、マスターである颯樹の命令が必要。でも颯樹は《空中庭園》のマスターでしかない。向こうが何らかの弾みで下げでもしない限り、他の施設は見つからないって事ね」
「仰る通りデ」
その後に話を聞いて見ると、他の施設との合流は二度ほど観測されたのだとか。一度目は《図書館》と3028年前に、二度目は《蔵》で985年前との事。ここまでの話を聞いての結論は「自力で他の施設を探すしか無い」という事だった。……少々、と言うかかなり大変だなぁ……あと9個もこう言う浮き島を、地道に探さないといけないなんて。
ちなみにこの《空中庭園》があった場所を聞かれた時、僕たちは「イーシェンの南、海の中」と答えたが、シェスカは首を傾げて居た。……どうやら5000年前には、イーシェンは存在して無かったらしい。
「それで颯樹。この娘どうするの?」
「どうするって言われてもなぁ……。一応で聞いておくけど、シェスカはどうしたい?要望があればある程度の配慮はするよ?」
「私はマスターと一緒に居たいと思いまス。おはよウからおやすみまデ。お風呂からベッドの中まデ」
物凄い不安が出てきた気がする……。このまま無かった事にして立ち去るのが正解では無かろうか。……って!またリンゼさんが在らぬ方向を向いて、ブツブツ言い始めましたよ!?
「一緒の部屋には私も居るんです!無視しないで下さい!」
「結論から行けば、後半部分は聞かなかった事にする。前半はそれで良いかもだけど……《空中庭園》に何かあったらどうするの?」
シェスカから放たれた言葉に、ユミナが顔を真っ赤に染めながら抵抗する。その後に聞いた僕の質問には、問題無しとの返答を聞けた。彼女曰く『《空中庭園》に何かあったらすぐに分かるし、私には《空中庭園》への転移能力があるから』と言う事らしい。
更には『《庭園》の管理はオートで充分』との追加情報を聞けた。……はぁ、大人しーく諦めるしか無いか。
「つきまシては《空中庭園》へのマスター登録を済ませテ頂きタク。私は既にマスターの物でスが、《庭園》もキチンとマスターの物とシなければなりませン」
「良いけど……具体的にはどうするの?」
「ちょっと失礼しまスね?」
そう言ってシェスカは、椅子に座る僕の前へと座り込む。そして僕の頬に両手を添えて、何でもない事のように唇を合わせて来た。
「んんッ!?」
「「「「ああぁああ────────!!!!」」」」
僕の目の前に居る4人から、劈く様な悲鳴が聞こえる。が、そんな事はお構い無しに、にゅるんとシェスカの舌が侵入して来た!おいおいおいおいおいおい!どうなってるわけぇ、これ!説明を求めるよ!
やがて唇が離れてから、自分はシェスカにキスをされたのだと気づく。
「……え?」
それがマスター登録の方法な訳……?本当に製作者を呼んで来いよ!1日がかりで説教垂れてやるから!
キス自体はユミナと三度(二度は不意打ち、一度は此方から)経験している。……だが、こんな風に人以外にされたのは初めてだ。そしてキスした本人はと言うと、何か味見をする様に唇を舌で舐め、眼を閉じている。
「登録完了。マスターの遺伝子を記憶しまシた。これより《空中庭園》の所有者はマスターである盛谷颯樹に移譲されまス」
「ちょっと何してるんですかぁ!!!」
「俺も提言良いかシェスカぁ!」
ユミナがシェスカに迫り来る。俺も此奴には色々と言いたい事があるもんでね!小さな腕を振り上げて、ガーッと怒りを全身で表していた。
「いきなり、きっ、きっ、キスするとか!私は既に経験済みですけど、そこまでされた事は無いんですよ!?そこまでしますか普通!普通しませんよね!?よね!」
何で二回言いましたか。顔を真っ赤にしながら、怒ってるんだかパニクってるんだか、よく分からん顔で抗議している。その顔が少し可愛いと思えてしまうのは、ユミナの事が好きであるが故かな?それとも、見てて和やかになるだけ……とか?
「おいこら。マスター登録はそんな方法でするのか?もっとやり方があっただろオイ!」
「遺伝子採取に一番効率が良いと思いましたのデ。私に子供は出来ませンが、其方の方法はイロイロと問題が有りそうでシたカラ」
「「こっ、こども!?」」
シェスカが僕たちの抗議に返した言葉で、僕とユミナの顔が更に真っ赤に染まる。ユミナに至っては、顔から湯気が出る程だった。よっぽど人を引っ掻き回すのが好きらしいなそいつはァ!会った時には一回文句言い付けてやる!
その視界を遮る様に、僕の目の前に誰かが立ちはだかる。見上げると腰に手を当て、険しい顔で此方を睨むリンゼの姿が。もう、これは好い加減に覚悟を決めるべきだねうん。
「……颯樹さん」
「…っハイッ!」
「私は、颯樹さんが好き、です」
え?
唐突な言葉に目を開き、もう一度彼女の方を見上げると、ユミナと同じ様に顔を真っ赤に染め上げたリンゼが立っている。
そして何かを決意したかの様に目を瞑り、勢いのままに僕の唇へと自らの唇を押し付けて来た。シェスカの時と違い、不慣れな感じの押し付けるようなキス。
「っ、むぐっ!?」
「「「ああぁあああぁあ──────ッ!!!!」」」
先程とは足りない三重奏の叫びが、空中庭園の至る所へと木霊した。……どうなってるわけ、これぇぇぇぇぇぇぇ!
今回はここまでです!如何でしたか?
今回のお話でアニメ一期《第11章:ぱんつ、そして空中庭園。》の内容は終了です!次回はアニメ一期最終回となります《第12章:決断、そしてスマートフォンとともに。》の内容へと突入します!このPartはオリジナル要素が多めの話が、全体のお話を通してもかなり多いです!
そして……少しした後からは、いよいよ次なるシーズン【2nd season】へと突入します!このシーズンからは、ラノベやなろう版を準拠にしますので、どうかそこら辺をよろしくお願い致します!この章では颯樹くんだけしかオリキャラが居ませんでしたが、次のシーズンからは何人か登場します!オリジナル要素も織り交ぜつつ進めて行くので、応援をよろしくお願いします!
次回の投稿は、年明けの……1月3日(金)午前0時の予定です!今回も是非感想を聞かせてください!高評価にお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!皆さんの暖かい応援が、私の執筆のモチベーションへと繋がります!
──────────────────────
【おまけ】《※今回のお話で年内の投稿は最後なので……最後に少しおまけシーンをお届けします。※》
「色々あったなぁ……今年も」
「そうですね〜。作者さんなりには、それなりに楽しかったらしいですよ?この小説が始まった9月12日は、自動車学校の講習の合間を縫って、この話(第1話)を執筆してたらしいですからね」
「ホントだよ。今までは5作品の中で、別世界の僕を主人公に置いて話を進めてたけど……12月9日を境に、この作品に集中する様になったからね」
そりゃあほんとに面目ない……。
「でも、こうなった事で……他作者さんとの関わりも増えて来たし、この機会を作ってくれた作者さんには感謝しか無いね。それに……」
「何です?」
「ユミナと一緒に居られる時間が増えて、僕も嬉しいからさ。何て言うか……これからもよろしく」
「颯樹さん……///はい。こんな私で良ければ。……あっ、颯樹さん、髪の毛にゴミが」
「え?嘘、何処」
「……んっ///」チュッ
……何か、甘ったるい夫婦のいちゃラブシーンを見せられてるのは私だけぇ……?な、何はともあれ!2019年ではお世話になりました!ではまた来年!2020年でお会いしましょう!それでは、良いお年をお迎え下さい!