エルゼに連れて来られたのは、王国軍の第三訓練場である。彼女の話によると、ここはエルゼとレオン将軍がよく練習に使ってる場所だとか。部外者である筈のエルゼは顔パスになっており、そのお陰で難無く入る事が出来た。
「見事に誰も居ないな……」
「ええ。こんな朝早くに訓練を受ける人なんて居ないもの。ま、話をするには最適な環境と言えるわね」
「そう言う事か」
エルゼとそう言葉を交わしながら進むと、訓練場のグラウンドの真ん中で座っている人物が目に入った。……黒髪にかなり大きめの赤いリボンが特徴の彼女、八重である。
八重は来たるべき時を待つかの様に、静かに正座をして瞑想をしている。
「八重、待たせたね」
「うむ。颯樹殿を待ってござった」
手前正面に置いた刀を手に取り、やおら目を開くとその場に立ち上がった。……なんか何時もと様子が違うな。この話し合いから二人の真意が聞ければ良し。実力を見せなければならない時になれば、この時用に仕立てた片手剣があるので心配無しだ。
ちなみに僕が今左腰に挿しているのが、その片手剣である。右腰にはブリュンヒルドを差し込んでいる。
「……リンゼをお嫁さんにするんだってね」
「うん。昨日そう言う事になった。色々と思う所はあるだろうけど、分かって欲しい。僕の意志もあるけど、一番は彼女自身が望んだ事なんだから」
僕の返答を聞いたエルゼが、少しだけ溜め息を吐いた。そして頭をガシガシと掻きながら、イライラした様に爪先の地面を蹴り上げる。
……こりゃ、準備をしてた方が良いかもね。そう思いながらも、僕は左腰にある片手剣と右腰のブリュンヒルドを抜き構える。何処かの黒い剣士様もやってた、二刀流だ。
「昔っからあの子、そう言う所あったのよね……。普段はビクビクと怯えてる癖に、ここぞと言う時には大胆でさ。私と全く逆なのよね……」
「拙者も似た様な物でござる。何かきっかけが無いと、踏ん切りが付かない性格でござってな……」
そう言いながら、エルゼは腰に吊るしたガントレットを両手に嵌めて打ち鳴らし、八重は手にした刀を帯に差して位置を確かめていた。
僕の方も片手剣とブリュンヒルドの刃を【モデリング】で無くしておく。この二つにはまた改めて、自動的にその状態に出来る様にするつもりだ。
「颯樹。あんたにはこれから……私たちと戦ってもらうわ」
「わかった。リンゼをお嫁さんに貰うなら、君たち二人を捩じ伏せるくらいの実力を見せろって事か」
「話が早いわ。でも、あんたが負けたら言う事を一つ聞いて貰うわ」
……話の大筋は理解出来た。出来ればやりたくなかったが、二人がやる気ならば此方も仕方ない。後から何か聞かれても答える義理は無いし、取り付く島も与えないからな……?
「能書きは結構。始めるぞ」
「へぇ〜、意外と思い切りが良いのね。じゃあ……行くわよ!」
エルゼがそう言うと、八重は右から僕を切り伏せる行動に出た。エルゼはその反対の方向から、僕の所へと攻め込むみたいだ。
僕はエルゼのガントレットの一撃を、ブレードモードのブリュンヒルドと片手剣で弾き返して、右方の八重と切り結ぶ。そして彼女を刀を弾いた時の衝撃で、後ろへと後退させる。
「つ、強ぇ……!でも、そうでなくちゃ!」
僕はその場から飛び出して、ガンモードに切り替えたブリュンヒルドで八重へと弾丸を二発撃ち込む。……が、しかしその弾丸は軌道を変えて、在らぬ方向へと飛んで行った。
クソっ!エルゼの装着してる緑のガントレット……あれには、魔法以外の飛び道具の軌道を逸らす役割があるんじゃん!……だったら!片手剣を鞘に収めた僕は、数cm先に向けて魔法を詠唱する。
「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】」
「何をする気?」
「こう、するのさ!」
そう言って僕は【アイスバインド】の鎖を引き千切り、八重の持つ刀へと投げ込む(正確には投擲する事によって、本来の動きを鈍らせるのが目的なんだけどね)。
その鎖は八重の刀に巻き付き、僕はそれを力任せに思いっ切り引っ張る。
「そんなんで拙者を防げると思って……!」
「甘いわ……よっ!」
「そらっ!」
「「え?」」
八重は自身に絡み付く氷の鎖を、刀を振り下ろしたり薙ぎを撃ったりして、引き千切らんとしている。その最中に右ストレートを撃つ構えをしたエルゼがやって来た。
それを見た僕は鎖を引っ張り上げ、それにビックリした八重がエルゼと激突する。互いの姿勢が崩れたのか、立て直そうとしているみたいだ。
「【氷よ絡め、氷結の呪縛、アイスバインド】」
「「嘘!?」」
その一瞬に出来た隙を逃さず、僕は水属性魔法の拘束系に分類される【アイスバインド】を使う。そして二人の足元が一瞬で凍り付き、手までも地面に着いていた為に拘束を受けてしまう。
そして僕はブリュンヒルドの銃口を、未だに拘束されている二人に向ける。形はちょっと卑怯だけど、これで終わりだ。
「チェックメイト。俺の勝ちだ」
「……撃たないの?」
「負けを認めるなら、これで終わりにしたい。正直に言わせて貰えば、仲間を撃つのは気が引ける」
……実際その通りだ。パーティーと言う集まりの中で、一番必要とされるのは『信頼関係』だ。中にはプライドの高い者同士が集まり、仲間など論外な戦い方をする物もある。
パーティーを組む面子の大半は、自分が生き残る為に仲間を容易く犠牲にするが、僕の場合はそれは成る可く避けたい所だ。
「甘いわね。そんなんでリンゼ達を守れるの?」
「……それが僕だから仕方ない」
「そうね。そんなあんただから私も八重も好きになったんだし」
「気づいてたよ、二人の気持ちは」
僕がそう宣言すると、エルゼと八重の目が驚きで見開かれた。ここで曝露はしたく無かったのだが、もうなるようになれだろ!
「い、何時……から?」
「そうだね……。国王陛下に屋敷を貰ったその日、二人が顔を真っ赤にして、僕から顔を逸らした時点で何となく察してたよ。そして今回の庭園での一件で、それは確信になった」
「あんたには勝てる気がしないわ。完敗ね〜」
そう言って呆れ顔を見せたエルゼ。後の『外して良いわ』と言う声を受けて、僕は二人にかけていた【アイスバインド】を解いた。その後に二人を連れて、自宅へと戻る事にした。
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エルゼと八重を連れて戻ると、僕はリビングへと連れて椅子に座らせた。内容は先程の一件についてだ。二人の確信を聞かぬままに、状況を先に進めたらややこしくなる危険性があったからだ。
「僕の事が好きって言うのは……つまり、新たな婚約者として加わるって認識で良いんだよね?」
「ええ。構わないわ」
「拙者の方も異論は無いでござるよ」
先ずは大元の確認だ。これを怠ってしまっては元も子も無い。二人は意志を変える事無く、僕に堂々と自分の気持ちを告げて来た。……正直この短期間に4人も婚約者が増えるって……どんなモテ期到来だよって感じだが。
「あたしが颯樹を好きな事には変わらないし、同じ人の事が好きで、みんな幸せになれるなら、いい事づくめじゃない」
「拙者も颯樹殿と同じくらい、みんなの事も好きでござる。一緒にお嫁さんになれるなら、万々歳でござるよ」
……昨日、確かリンゼもそんな事を言っていた気がするね。ここは流石双子と言うべきか、考え方が似ている。八重も同じ事を言ってくる。それは、先程のエルゼと何ら変わらない言葉だった。
……何かちょっと拍子抜け。普通なら修羅場も待ったナシな所だけどね。軽いヤキモチはあるみたいだけど。そう考えて見たら、リンゼが一番ヤキモチ妬きな気がするな。
「そ、そ、それで、あんたはどうなのよ……?」
「僕の気持ち、か……。二人に言わせて置いて、僕だけ言わないのもなんか可笑しいよね」
「ど、どうなのよ」
「……正直に言ってしまえば、まだ自信が無いよ。でも君たちがそれを望んでいるのなら、僕はその気持ちに答える義務がある。情けない話で申し訳ないけど、誰かを一生賭けて守り抜きたいって思えたのは、つい最近の事なんだ。だから真剣に向き合いたいと思う」
そして僕は徐にその場に立ち上がり、二人へと頭を下げた。こんな気持ちしか言えない僕が、ユミナやリンゼにエルゼ、八重も娶るだなんて馬鹿馬鹿しいにも程が有るという物。
だからこそ、自分の気持ちに正直になりたいと思った。普通の人じゃ絶対に考えられない、4人分の人生を背負うのだ。僕で無くても戸惑うに違いない。
「結論は……夕刻に出す。それまでは申し訳ないけど、待っていて欲しい」
「……分かったわ」
「……分かったでござる」
二人はそう言うと立ち上がり、ユミナ達の所へと向かって行った。そして僕はこの事案に第三者の視点から意見を聴く為に、軽いお茶菓子を用意して……ある場所へと向かう事にした。
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「お、おーキミか。待っておったよ〜」
「すみません、こんな時に訪ねちゃって」
「別に構わんよ?お前さんの人生を見てるのは、ワシとしても楽しいからの」
僕が訪れたのは、死んだ時に最初に訪れた場所【神界】である。そこでは何時もの様に煎餅を加えている、神様が卓袱台に着いていた。
「そうですか。あ、これ手土産に茶菓子です」
「や、すまんね。お茶でも出そうかの」
そう言って神様は、こぽこぽと急須でお茶を注いでくれる。そしてやはりと言うべきか、その湯呑みには茶柱が立っていた。……神様パワーの成せる技かな?
そして僕は湯呑みに注がれたお茶を一口含んだ。うん、ちょうど良い熱さで美味しい。久しぶりの緑茶だね。
「それでどうしたのかね?」
「あー、ちょっと相談に乗って貰えないかと」
「ふむ?まあ、話してみなさい」
僕は今回の事を神様に話した。自分自身はどうすれば良いのか、そもそも自分はこれから彼女たちとどう接して行けば良いのか。自分の中では『大丈夫』だと思っていても、後からその選択が誤りだったと思い知らされるのが、正直に言えば怖いのだ。
神様に聞くのは、そこら辺を詳しくと言う事だ。何かタメになる情報が聞けるやもしれない。
「ふーむ、そこまで考えなくても良いんじゃないかのう。好きと言ってくれてるんじゃから、素直に喜べば良いと思うが」
「いや、嬉しいのは事実です。けど、何て言うか……色々考え込んでしまって」
神様に悩みを聞いて貰うとか、何か懺悔してる気分になってしまうな。別に罪を犯したわけではないんだが。
「そうじゃな。そう言った話なら専門家に聞いて見るか」
「専門家?恋愛の事に関する、専門家ですか?」
「そうじゃよ。因みに先のお姫様との婚約の一件を、ワシと一緒に見て居ったんじゃよ」
そんな神様が居るの?……はぁ、目の前にのほほんとした神様が居るからか、あまり釈然としないんだけどね。
そして暫くすると雲海の中から、一人の女性が浮かんで現れる。歳の頃は20代前半でふわふわの桃色の髪をしていて、これまたふわふわの薄衣を白い衣装の上に纏って、宙に浮かびながらこっちへやって来る。手足や首には黄金の環がジャラジャラと着いていた。……あ、裸足なのね。
「お待たせなのよ」
「えっと……この方は?」
「恋愛神じゃよ。君の相談にうってつけの人材じゃろ?」
恋愛神と呼ばれたその人は、軽く挨拶を交わして卓袱台の前に着く。……何故でしょうかね。恋愛神様の眼が此方をロックオンして離さないのですが……?
そう言えばさっき『ユミナとの婚約の一件を、一緒に見ていた』って言ってたな。もしかしてこの人は、僕の繰り広げている恋愛に興味があるのかな?
「初めましてなのよ。貴方の事は前々から気になって、時々覗いてたのよ」
「どうぞよろしくお願いします」
「堅くならなくても良いのよ?気軽に身内に話す感じで話して欲しいのよ。近い存在で言ったら……お姉ちゃんみたいな」
向こう方がそう言ってくれるのであれば、別に気兼ねする必要は無い訳だ。僕は自分が今置かれている状況を、恋愛神に相談する事にした。
……まさか恋愛での悩み事を、恋愛神に相談する事になろうとは……。まさに《神のみぞ知る》……。
今回はここまでです!如何でしたか?
次回は《第12章:決断、そしてスマートフォンとともに。》の後半Partです!そしてその後のお話では、三回の【幕間劇】を挟みまして、その後に謎の少年との邂逅の話を以て……【1st season】は終了としたいと思います!
次なる【2nd season】では、フレイズとの初戦闘や新たな婚約者との邂逅etc..アニメ一期のその先の内容をお届けします!どんな展開が繰り広げられるのか、どうぞお楽しみに!
次回の投稿は1月10日(金)午前0時の予定としています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!