「〜♪」
「はぁ……」
八重と共にイーシェンから戻った翌日、僕はユミナに強制連行されていた。ここで『強制連行』と言うと、何かとんでもない事をした様な言い方なので、訂正させて頂くのだが……ただの買い物である。
……え?それだけじゃため息出ないでしょって?……もっと言うなら、買い物の時間が異様に長いの。明らかに『それだけ時間掛ける?』みたいな時間が。本人はご満悦そうだから言わないけど、僕にとっては大変だったよホント……。
「ありがとうございます、付き合って貰っちゃって♪お陰で良い買い物が出来ました♪」
「あ、いえいえ……大丈夫、大丈夫……」
「どうかしましたか?」
「な、ナンデモナイデス……」
ユミナの不思議そうな声に、僕はたどたどしく返事を返した。……実際の所はと言うと、昨日感じた謎の悪寒が今でも頭を過ぎるのだ。昨日の夕食の時は何とか収まっており、事なきを得て居た。
「……もしかして、昨日の事と何か関係が…?」
「……ッッ!!?!?」
突然ユミナから発せられた言葉に、僕は思いっきり動揺してしまった。……な、何故その事を知ってんの!?軽く怖いんだけど!
「やっぱりでしたか。夕食の時の八重さんの顔だけでは少し判断できませんでしたが、寝る前に見た颯樹さんの落ち着きの無さそうな動き……全て合点がいきました」
「そ、それって……どう…言う?」
「私とは手を繋がなかったのに……、八重さんとは繋いだのですよね?」
……嘘っ、バレてるし。
「夕食の後に部屋へ戻る時、八重さんが頻りに右手を左手で包んでいました。それは即ち、颯樹さんが八重さんの手を握ったからだと気づいたんです」
「……」
「《沈黙は肯定の証》…ですよね、颯樹さん?」
ユミナにあっさり曝され、僕は観念した様に両手を挙げる。……この娘、改めて思うけど凄い観察力。恐らく魔眼で人の性質を見抜くのと同時に、周りで起こってる全ての事に目を向けてる気がする。
「……何が目的?」
「ここまで言わせて置いて、最後も私から言わせるんですか?颯樹さんなら、もう分かりますよね?」
「……はい」
溜め息を吐いた僕は右手を差し出して、ユミナに無言で合図を送る。そしてそれを見たユミナは、自身の左手を僕の右手と繋ぎ合わせる。ここまでは八重でもしてたので、問題は無かった。
……のだが。その直後にユミナは、握られた左手を巧みに動かして指が丁度絡まる様にして来た。
「……え?」
「八重さんへの、ささやかな抵抗です。颯樹さんの正妻は私だって事の……証明です」
「ユミナ……」
「さっ、時間はまだまだ有るんです。デートを楽しみましょう♪」
上機嫌で歩き出すユミナに先導され、僕たちは王都の町中を歩いて行く。……こりゃあ、結婚したらユミナに隠し事は不可能だなぁ……気を付けよ。
そして暫く回った頃、僕とユミナは訓練場へと顔を出す事にした。此処に来た目的はと言うと、エルゼの様子を見に来たのだが……此処には生憎と、彼女は居なかったみたいだ。
「凄いな……」
「どの人たちも確り稽古してますね」
「まるでスポーツ観戦をしてるみたいだ」
訓練をしている人たちの様子を見て、僕とユミナはそんな事を呟く。人が何かに打ち込んでいる様子を見るのは、見てる人にとってはかなり楽しいからね。それは前世でスポーツをしていた僕にも言える事で。今日は騎士が多いなぁ〜。
……と呑気にもそう思っていると、何処からか誰かに声を掛けられた。
「おい貴様、ここで何をしている」
「あ、いえ。知り合いが此処に来て居るもので、少しその様子を見れたらな、と」
「知り合い……だと?」
声を掛けられた方に振り向くと、若い騎士たちが10人ほど此方を伺っていた。歳は……僕とそう変わらないくらい?若手の騎士なのかな?
僕の返答を聞いた騎士が、周りの仲間と何やらコソコソと話し合っている。僕は聴力も良いので、小さい音量の声でも確実に拾えるのだ。
「……ユミナ」
「何ですか?」
「この一件は確実に無事では済まない。今なら逃げられるけど、どうする?」
「大丈夫です。騎士と言うからには、私の事は知っている筈ですので」
さすがユミナだ。この状況を『予想通り』と言わんばかりの顔で過ごしている。そして話が済んだのか、先程の騎士が僕に向かって返答して来る。
金髪を短く刈り込んだ若い騎士は、僕の事を心底ウザったそうな眼で見ていた。心の中では『ユミナが目の前に居るから、余計な発言は控えよう』と思っているだろうが。
「ああ、あの女か。ははあ、お前もうまいこと将軍に取り入ろうってハラか。全く下賎な奴らは節操が無いな」
「……」
「コイツも軍に入ろうとしてるんだろ、あの女の伝手で」
「軍の方は数を揃えないと格好が付かないからな。平民共でも居ないよりはマシなのさ。我々騎士団のように少数精鋭、選ばれし名誉ある者とは違う」
そう言って何が可笑しいのやら分からんが、その騎士たちはゲラゲラと笑い出した。僕はその間にユミナを騎士団本部へと走らせ、目の前の騎士たちと向かい合う。
「何がおかしいんだ、ああ?」
「どう言う意味だ、クソガキ」
「フッ」
僕はフッと軽く笑みを零してそう言った。それが余程癪に触ったのか、先頭にいた金髪の騎士が軽く眉を吊り上げていた。
「お前、ひょっとしてあの女の男か?」
「だったら何だ」
「あの女を探すなら、将軍の所のベッドの中でも探してみるんだな。今頃イイ声を挙げて……ぐほっ!」
茶髪の騎士が言い終わる前に、僕は拳をソイツの顔面に撃ち込む。歯が折れて、鼻血を撒き散らしながら地面を転がる、ソイツの脇腹目掛けて強烈な蹴りを入れる。
「おげぇ!な、何のつもりだ!?」
「ぶちのめすつもりだよ。それじゃ不満か?」
足下で腹を抱え、丸まりながら声を出す茶髪を見下ろしながら、僕はそう言う。そしてその後にもう一発蹴りを入れる(今度はかなり強めの蹴り)。
自分の事ならまだ許そう?だって事実だし。……でも自分の大切な人を馬鹿にされて黙ってる程、僕は平和主義者では無いからな。それに『やる時は徹底的にやれ、相手が泣いて許しを乞うまで』って祖父に教わってますから。
「貴様!その者はバロー子爵家の次男だぞ!それを殴ってタダで済むと……」
「ビービー煩いな……。さっきから聞いてりゃなんだそりゃ。人を散々馬鹿にしといて、家がどうとか関係あるかよ。てめぇら自身が偉い訳でも無いだろう?家柄に縋り付く典型的なただの馬鹿かお前らは」
「何だと!」
そう言って僕の周りを、数人の騎士が取り囲む。腰に提げた剣の鞘から剣を抜き放ち、此方へと向けている。どのメンツからも殺気がビンビン伝わって来る。
……余計な事はしたく無かったんだがな……。僕は剣銃ブリュンヒルドを抜き放ち、一回それを振って敵に《戦う意思がある事》を認識させる。
「相手に向かって剣を抜いた以上、殺されても構わない覚悟があるんだろうな?そこら辺はどうなんだ、出来損ないの愚か者ども」
「黙れぇ!」
一人が斬りかかって来るが、欠伸をしながらでも避けられる程の攻撃だった。なまくら剣法の見本みたいだ。そう思った僕は《セーフティモード》に変化させたブリュンヒルドで、なまくら騎士の胴を斬り抜く。
そのなまくらが倒れると、騎士たちは勢い良く僕へと襲いかかって来た。……仕方ない。
「【土よ絡め、大地の呪縛、アースバインド】」
僕がそう詠唱すると、騎士たちの足下が歪んで足を鎖で縛った。そしてその直後に【パラライズ】を付与した弾丸を撃ち込んで、刃を向けた騎士たち全てを地に伏せさせる。
「ば、バケモノォ……バケモノだァァァァ!」
「逃がさん!」
仲間たちの酷く惨めな状況に、最初に突っかかって来た金髪は門の外へと逃げ出そうとした。僕はその一瞬を見逃さず、そのアホ(金髪の騎士)へと《ガンモード》にしたブリュンヒルドで、【パラライズ】の弾丸を撃ち込む。
……さて、後はエルゼを馬鹿にした茶髪だけか。意外と呆気無かったな。さっき「選ばれし名誉ある者」とか言ってた気がするな……。ま、妄言にしてはよく出来た言葉だと思うがな。
「ひっ!?」
「……」
「颯樹殿、そこまでにしてくれないか」
突然掛けられた声に振り向くと、ユミナと一緒に二人の騎士が立っていた。一人は四十代の銀髪の騎士で、もう一人は僕のよく知っている人だった。
「リオンさん、お久しぶりです」
「やあ、颯樹殿。久しぶり」
僕はリオンさんと挨拶を交わす。リオンさんはレオン将軍の息子で、一緒にミスミド王国へと旅をした人だ。それを見た茶髪は、もう一人の騎士へ途切れ途切れではあるが、現状を報告しようとしていた。
「ふ、副団長……!こ、コイツが、コイツがいきなり……!」
「…お前たちが普段から市民に乱暴狼藉を働き、迷惑をかけていたのを俺が知らないとでも思っているのか?」
「颯樹さん!」
《副団長》と呼ばれた騎士の傍らから、ユミナが僕の所へと飛び込んで来た。僕はそれを要領よく抱き留めて、サラサラな金髪を優しく撫でる。
……僕のせいで、彼女には苦労をかけてしまったんだ。これくらいは許して貰えるだろうか。
「よしよし……。……っと、そう言えばこの騎士たちは普段からこんななんですね?」
「ああ、正直目に余る行為が多くてな。君が此奴らを懲らしめてくれたのか?」
「ええ。……《懲らしめた》と言うよりも……、この状況は《沈静化》と言う言葉の方が正しいかも。先に剣を抜いて来たのは、そこで伸びてる騎士たちですからね。正当防衛です」
僕は周囲に倒れている騎士を見ながら、副団長さんへと返答を返す。……コイツら、普段から悪事を働いていたらしいな。道理で。
「今までは実家の方が上手くもみ消していた様だが、今回はそうは行かないよ。集団で一人に襲い掛かり、その挙句返り討ち。情けない事に一人は仲間を見捨てて逃げ出す始末だ。とても《騎士》とは言えないね」
リオンさんも厳しい言葉を投げ掛ける。……確かに此奴らがこの国の騎士なんて、傍から見れば情けない事この上ないからな。
「お前たちの処分は追って通達する。倒れている奴らにも伝えておけ。言っておくが、間違っても意趣返しなど考えない方が良いぞ?彼に手を出せば、お前たちだけで無く、家が取り潰しになりかねんからな。これは冗談でも何でもないぞ」
目を丸くする茶髪を他所に、副団長さんは今度は僕の方へと視線を向けて、深々と頭を下げて来た。
「すまない、迷惑をかけた。騎士団の者が全てこんな奴らで無いと分かって欲しい」
「いえいえ、お気になさらず。此方も少しやり過ぎてしまったので」
落ち着いて考えて見れば、何もぶちのめす事は無かったね。……確かにやり過ぎてしまった……。エルゼの事を悪く言われて、少々頭に血が昇ってしまったかもしれない。また修行のし直しだなこれは……。
「そう言って貰えると助かる。私は王国騎士団副団長、ニール・スレイマンだ」
「盛谷颯樹と言います、よろしくお願いします」
「知ってるよ。知る人ぞ知る有名人だからね」
笑いながら差し出された、ニールさんの手を僕は複雑な思いで握り返した。
今回はここまでです!如何でしたか?
一番最初のPartはかなり苦労しました……。前話を見た方なら分かるかと思いますが、颯樹くんが感じた悪寒の正体はユミナです。理由は本編にて彼女の口から語られてましたが……(^_^;)
次回は夜襲のシーンまで書いて、その後はもう一気に遭難者Partへと入りたいと思います!色々細々と描いてたら、確実に私のキャパが追いつかなくなる……!端し折ってるかもですが、そこはご勘弁ください(´ω`)トホホ…
次回のお話は、今度の金曜である……1月31日(金)午前0時に投稿予定です!どうぞお楽しみに!
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