「止まったでありまスか?」
「一体誰のせいでこうなったと……」
僕は鼻を押さえていた手を退け、軽く深呼吸をする事でロゼッタの心配に答える。ちなみにロゼッタには、普通のやつに即座に穿き替えて貰った。
さっきの試練が影響して、ロクに彼女の顔を見れていないのが現実なのだが。
「あ、そう言えばマスターに、渡す物があったでありまス」
「《渡す物》?」
「持って来るでありまス」
そう言ってロゼッタは、何処かへと走り去ってしまった。僕は彼女が戻って来る間に、辺りを軽く見渡す事にした。
最初に手に入れた《庭園》と、何ら変わりの無い風景なのだが、僕から見て右手には、立方体の建築物(彼処が多分《工房》の中枢なのだろう)が鎮座していた。色は真っ白で、彼処だけが異様な存在感を放っていた。
「へぇ……こう言う所なんだな」
「およ?マスター、どうかしたでありまスか?」
「いや、何でもない。辺りを軽く散歩したくなってね。……で、それが渡す物?」
「そうでありまス。博士曰く『マスターにしか扱えない物』と言っていたでありまスから」
僕はロゼッタから、差し出されたそのブツを受け取る。そのブツは二振りの剣で、片方は透き通る様な翡翠色の剣で、もう一方は永久の闇が感じられそうな黒い剣だった。
……知ってる。僕は前世でこの2本の剣が出て来る物を知っている。確かかなりハマっていた作品の中で、この武器が出て来ていたはずだ。
「《ダークリパルサー》、《エリュシデータ》。この世界で出会う事になろうとは……感慨深いな」
「気に入って貰えた様でありまスな。博士から渡す様に頼まれていたのでありまス」
「ありがとう、ロゼッタ」
そう言って僕は【ストレージ】から鉄の塊を取り出す。念の為にと多く買い足していた物だ。それで2本の剣を納める鞘と、留め具みたいな物を【モデリング】で作った。後者の方に関しては、付け外しや長さの調節が自由に出来る様に【プログラム】を施しておいたけど。
それが済んだのを見た後、ロゼッタが声をかけて来た。……そうだな。やる事はやらないとね。
「そろそろ案内したいのでありまスが、よろしいでありまスか?」
「……ああ、大丈夫だロゼッタ。案内を頼む」
「了解でありまス」
そう言ってロゼッタは、スタスタと歩きだそうとする。……が、直ぐにその足を止めてしまった。何かし忘れた事でもあったのか?
クルっと僕の方に向き直ったのを見る限り、その方向だと言うのは何となく察せるのだが……。
「穿き替えたのも見たいでありまスか?」
「どうしてこう……キミやシェスカもそうだが、そう言う事を何の躊躇いも無く言えるのかなぁ!」
「良いのでありまスよ?見せても」
「見たくて見た訳じゃない!案内せえ!」
そう言うとロゼッタは諦めたのか、スタスタと歩き出した。そしてまた直ぐに人の性癖を探ろうとした為、一発手刀を下ろして置いた。下ろされた本人はと言うと、その部分を押さえて蹲っていたが。
……一頻りそんな事をした後で、僕はロゼッタの案内で《工房》へと足を踏み入れる事になった。
「ねえロゼッタ」
「何でありまスか?」
「あれが《工房》だって事は分かるんだけど……入り口は何処にあるの?」
僕がそう質問をすると、ロゼッタは徐ろに壁に手を着いた。ロゼッタがそうした次の瞬間、目の前の白い壁に幾筋もの線が走り、それが小さな立方体となって瞬く間に組み替えられ、ぽっかり開いた入口へと再構築されて行く。
もしかしてこの建物って、小さな立方体の集合体なのかな!?その立方体の集合体は、ロゼッタの命令一つで如何なる形にも姿を変えて行く……とか。だとしたら、とんでもない技術だな。
「どうぞでありまス」
「あ、ありがとう」
出来たらしい入口へと入ると、上へと昇る階段があり、数段昇って行くと直ぐ様広いスペースへと出た。な、何此処……一体全体どうなってる訳?
辿り着いたその場所は、全然何にも無い真っ白な空間だった。一面真っ白なのだ。壁や天井に床であろうと、ただの一つも例外無くだ。そして……広すぎる。
「ここが《工房》……」
「そうでありまス。思い描いた、ありとあらゆる工作道具を生み出し、工作台を作り、製作のサポートを行う《万能工場》でありまスよ」
そう言いながらロゼッタが手を床に着くと、目の前にたちまち白いテーブルが現れ、色々な工具が着いたアームがそのテーブルから飛び出して来た。
……なるほど。この建物自体を構成している小さなブロックを操作して、ありとあらゆる工具や道具にする事が出来るんだね。
「《工房》を操作する事が出来るのは、小生とマスターだけでありまス。また、元になるオリジナルの製品があれば、複製を作る事も可能でありまス。ただし《素材が揃っていれば》でありまスが」
「なるほど。……例えばだけど、このブリュンヒルドをコピーして、ミスリルを使ってこれと同じ物を作れるって事?」
「そうでありまスな。お借りしても?」
そう言ってロゼッタは、僕から剣銃ブリュンヒルドとミスリルを受け取り、白いテーブルの近くへと持って行った。先程素材として渡したミスリルの塊は、僕が質問をする前に【ストレージ】から取り出した物だ。
ロゼッタは白いテーブルの上にブリュンヒルドを置き、その手前のテーブル上に手を置いて、言葉を紡ぐ。
「スキャン」
ブリュンヒルドの置かれた白いテーブルの下が、緑色に一瞬だけ発光した。それが終わると、今度はブリュンヒルドを退かして、ミスリルの塊をテーブルへと置く。
その後に始まった
「おぉー。……っと」
「どうでありまスか?」
「確かにオリジナルと同じだ。モードの切り替えは〜?っと。……《ブレードモード》」
僕はブリュンヒルドの刀身が変化するかどうか、確認しようとする。……だが結果としては、ブリュンヒルドの刀身はそのまま変わらなかった。なるほどね……【プログラム】まではコピー出来ないって事か。
改めてリロード等の【プログラム】をし直し、今までのヤツは【ストレージ】へとしまい込んだ。ミスリル製の方が使い勝手が良いからね。
「コピーの際に個数も念じておけば、後は自動で生産し続けるでありまス」
「なるほど、便利だね」
今の所取り立てて量産したい物は無いから、焦る必要は無いんだけど……後に必要になって来るかもしれないしね。
……あれ?此処のシステムを使えば、自転車を量産できるよね?……稼げるね。……っと、そうだ。忘れないうちに聞いておこうか。
「ロゼッタ、シェスカが言ってたんだけど、フレイズに対抗する為に造られた物があったんだよね?」
「《フレームギア》の事でありまスな。確かにあれは此処で造られた物でありまス。小生も博士の手伝いをしていました」
……やっぱりか。この《工房》で生産され、完成した後に《格納庫》へと直された訳だね?……そうなると、次に見付かる物が《格納庫》であれば、そのフレームギアが使える様になると。ふむふむ。
「ん?そう言えば、ロゼッタは《フレームギア》を造れたりするの?」
「小生には無理でありまス。今現在造れるのは、せいぜい装備類とかでありまスな。設計図も無いでありまスし。設計図は《蔵》にあるかもしれませんが」
…うーん。と言う事は《格納庫》を見付けるか、それとも《蔵》を見付けてロゼッタに造って貰うか。この二つしか無い訳か。ま、どっちにしても今直ぐは出来ないって事か。
……あ、そう言えば。皆を砂漠に置き去りにしたままだった。……急いで呼ばなきゃ。
「とりあえず皆を呼ぶか。ロゼッタもシェスカと会いたいだろうし」
「楽しみでありまス」
僕は胸中に一抹の不安を覚えながらも、皆の待つ砂漠へと急いで【ゲート】を開いた。
──────────────────────
「《工房》かぁ〜……」
「……何かイラッとするでありまス」
心底残念そうな気持ちを、隠そうともせずにつぶやいたリーンを、横目でロゼッタがジトーっと睨む。
……まあ、お目当てである《図書館》では無かった訳だし、彼女の気持ちは分からんでも無い。だが、ここは少し言う状況を考えて欲しかったのが、僕の本音だったりする。
「ただの観賞用である《庭園》よりは、遥かに役に立つでありまス」
「おっと。心の安らぎ、癒しの空間、ヒーリングガーデンである我が《庭園》こそ、マスターの心の支え。勘違いも甚だしイ」
睨むな、睨むなーーーー!僕はロゼッタとシェスカの間に割って入り、二人を勢い良く引き剥がす。
確かに今の時点では、ロゼッタの《工房》がかなり役立ってるけどさ!移動する時には専ら《庭園》を使ってるじゃん!どっちもどっちだと思うのだがこれ如何によ!
そして二人とも少し落ち着いた頃合で、僕はある事を聞く事にする。
「それはそうとして。《庭園》と《工房》を合流させるの?」
「はい。《工房》ノ所有権がマスターに譲渡された以上、その方が良いカト」
「障壁のレベルを下げたので、《庭園》とのリンクが可能になったでありまス。此処からでも《庭園》を操作出来るでありまスよ」
《工房》の一角にある、《庭園》と同じ様なモノリスを操作しながら、ロゼッタがその横をシェスカに譲る。
「如何致しまスか、マスター?」
「《庭園》はベルファストへと帰還。それに追従して《工房》も同じく帰還。到着を確認次第、相互リンクさせよう」
「《そうごりんく》……とは?」
僕の言葉に疑問を浮かべたユミナに、僕は少しずつわかり易く説明して行く。一頻り説明を終えると、ロゼッタは近くにあったモノリスを操作して行く。
その後に黒曜から念話が入り、僕はユミナに説明をした様にわかり易く経緯を伝える。
「後は《工房》も《庭園》も、自動操縦でベルファストへと向かうでありまスよ」
「ありがとう、ロゼッタ。じゃあ僕たちは先に戻ってるね」
【ゲート】を開いて、先ずは《庭園》を経由して黒曜と珊瑚を回収し、ベルファストにある自宅の庭へと転移した。
テラスを通ってリビングに入った途端、僕たちに気付いたレベッカさん、ローガンさん、ウィルの三人が椅子から跳ね上がり、その場に土下座をし始めた。……え!?どう言う事ですかこれ!
「ちょ、やめて下さい!そんな仰々しい!」
「いえ!セシル殿に聞きました!次期国王陛下への御無礼、何卒御容赦頂きたく……!」
あー、余計な事言ったね?ウチのメイドさんは。僕がその元凶を横目+ジト目で睨むと、壁際に居た当の本人はと言うと、てへぺろっ!みたいな顔をされた。……何でもそれで済むと思ったら、大間違いですからね?
「とにかく、あまり気にしないで下さい。此方も硬っ苦しいのは苦手なので」
「はあ……」
僕の言った言葉に少々不満気のある三人を、僕は立ち上がらせて椅子へと座らせ、何とか落ち着かせる。
エルゼ達はお風呂に入って汗を流すべく、先ずは自分の部屋へと戻るみたいだ。リーンもフレイズの事などを報告しに、ミスミドの王宮へと戻るみたいだ。彼女には《バビロン》の事は絶対に喋るなよ、と口止めをして置く。
シェスカはロゼッタを連れて、自分の部屋へと戻って行った。あれ?そう言えば、ロゼッタもシェスカと同じ様に、ウチのメイドさんになるのかな?
「それで他の人たちは?」
「疲れたのだろ…でしょう。泥の様に眠ってる…であります」
「無理して敬語は使わなくて結構ですよ。僕は別に貴族とかでは無いので」
使い慣れてない敬語に苦戦するレベッカさんを、僕は苦笑を浮かべながらも、レネの持って来てくれた水を飲む。暑い所から帰った後の水は美味しいね。
「そうか?ではそうさせて貰うか」
「おいおい、良いのかよ」
「本人がそう言うんだ。別に構わんだろう」
慌てるローガンさんの声を無視して、レベッカさんがニヤリと笑った。ま、砕けた感じの方がレベッカさんには合ってるからね。
その後に話を聞くと、レベッカさん達(ローガンさんにウィルを含む)三人は冒険者なので、ギルドで働けば何とかなりはするのだが、残りの女性七名は元々村娘なのだとか。
「何かこの都で仕事を見付けるまで、置いてやってはくれないだろうか……」
「それは、全然此方としても構いませんが……」
《仕事》……ね〜。さっき手に入れた《工房》で自転車を量産し、彼女たちに売って貰おうかと考えたのだが、あんまり軽々しく《バビロン》の事を話す訳には行かない。それに、それを売るなら初心者の僕よりも、プロに頼んだ方が断然良い。狐の獣人である、オリガさんの父親……ミスミドの交易商である、オルバさんとか。
それ以外で仕事となると……。……?待ってよ?この世界に来てから《本屋》はあっても、それをゆっくり読める所が無かった様な気がする。
うーん……。取り敢えずは、先ずそっちの方に集中してみようか。となると、やる事は……。
今回はここまでです!如何でしたか?
今回のお話より《ダークリパルサー》と《エリュシデータ》が、颯樹くんの新武器となります!普段は剣銃ブリュンヒルドを使いますが、状況に応じて上記の二本を使う形になりますね!段々とアイツに近付きつつありますよ〜。ま、あっちは剣主体だったけど……こっちは剣だけじゃなくて、銃に魔法もありますからね(表現の際にはかなり気をつけないと行けない)。
次回の投稿は2月24日(月)午前0時を予定しています!また早めに完成したら、早めに投稿しますので……楽しみにして頂ければ。
今回も感想を是非!高評価にお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております!
最後に……llightさんの描く、私の小説とのコラボ作品である「肆点決集」が投稿されています!まだプロローグだけですが、面白いので是非読んでみて下さいね!読まれた際には感想をお願いします。
↓(此方が「肆点決集」のリンクになります)
https://syosetu.org/novel/214862