異世界はスマートフォンとともに。if   作:咲野 皐月

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#12. 白の国、そして作家遭遇。

《読書喫茶「月読」》が人気を出し始め、ユミナの冒険者ランクも僕らと同じ位置に来て少しした頃。僕は久々に一人である所へと出掛けていた。……その場所と言うのが。

 

 

「……なんだ、こりゃ。ほぼ真っ白」

 

 

リーフリース皇国の首都、皇都ベルン。この街の特徴は何と言っても『白い』に尽きる。兎に角街並みが白で統一されていて、それは建物の壁や石畳に階段を見ても、同様の感想を抱いた。

 

港町の様に海に面した街の中央には、一際白いリーフリース皇国の王宮が見える。海の青と白い街並みがとても美しい都だった。……ちょっと眩し過ぎて、サングラスが欲しい所ではあったのだが。

 

 

「取り敢えず……。今日は観光に来た訳じゃないから、本屋に行くか」

 

 

僕はそう呟きながらも、皇都ベルンの本屋へと向かう。この本屋には《月読》のオープン前に一度来ているので、迷う事無く辿り着く事が出来た。

 

重々しいドアを開けて、目的の本屋の中に入る。古い本から新しい本まで取り揃えていて、なかなかの大きさの書店である。カウンター席には黒髪の女の人が一人だけ座っていた。……よし!考えてたって始まらない!

 

 

「えーっと、今回買う本は……っと」

 

 

僕はそう言って、コートのポケットからスマホを取り出した。そしてその後に、写真アプリを開いて入荷予定表の確認をする。……確か今回はその手の話が多かった様な。

 

──────────────────────

 

【入荷予定表】

①『薔薇の騎士団』全15巻

②『執事の秘密』全5巻

③『堕ちた王子 隷従の誓い』全8巻

④『檻の少年』全6巻

⑤『甘く危険な抱擁』全12巻

⑥『灼熱の夜想曲(ノクターン) 戻れない二人』全5巻

⑦『甘い罠と魔術師』全12巻

⑧『背徳の花婿』全17巻

⑨『薔薇色マジカル』全9巻

⑩『ご主人さまがみてる』全18巻

 

──────────────────────

 

……これは《月読》に本当に並べて良い本かが、かなり不安になる様な商品リストだが、その系統が好きな人が居るのであれば入荷するべきだとも思う(普通だったら難しいんだけどねこれって)。

 

それに、自分で言ってしまうと自慢に聞こえるのだが、人の趣味嗜好には、僕はあまり深く詮索しない事にしている。これは人を深く傷つけない様にする為の心掛け、みたいなもんだけど。

 

 

「すみません。少し良いですか?」

 

「いらっしゃいませー。何の御用でしょうか?」

 

「本を探しているんですが……」

 

「はい、タイトルをお教え下さればお探し致しますが?」

 

 

店員の女性に懐から取り出したメモを手渡した。それを読み上げていた女性の声が、だんだんと読み進めるに連れて小さくなって行く。そしてチラチラと僕の顔を見始めた。

 

……覚えてる、この反応……。この前ユミナと一緒にブラッディクラブ討伐に行く際、入荷予定表に『薔薇の騎士団』の追加をお願いして来た、受付嬢のプリムさんと全く同じ表情だ。《獲物は必ず仕留める》と言った具合の、女豹の様な視線を感じる。

 

 

「えっと、あのですね?それは注文を受けて探している物でして……」

 

「…なるほど。はい、分かっておりますよ」

 

 

……何を持って『分かっている』と言うのかな。勝手な解釈をされると、こっちが本当に困る。これは決して言い訳をしているのでは無くて、本当の事だ。

 

 

「揃えて来ますので少々お待ち下さいね」

 

 

とても優しげな笑顔を浮かべて、店員の女性は店の奥の書庫へと消えて行った。……絶対に分かってないよね、あの人。

 

取り敢えず、ただ何もせずに待っているのもアレだったので、籠を手に取って本を物色し始めた。……多分このままだと、お店の中の本が全部BL(ソッチ)系で固められてしまう。たまには普通の本も置かなきゃ。

 

そうして暫くして戻ると、カウンターには山積みの本が置かれていた。……揃えてくれたのかな?なんて思っていると、何やら一人の女性と揉めているみたいだ。

 

 

「申し訳ございません。此方が最後の在庫でございまして、入荷は未定となっております」

 

「そんなー……」

 

 

今にも崩れ落ちそうな感じで、カウンターに凭れ掛かる女性。……何か、悪い事したかな……。

 

歳の頃は僕よりも1つか3つ上くらいで、明るい栗色の髪を三つ編みで一つに纏め、それを高そうなバレッタで留めている。地味だが高そうなカーディガンとスカートから察するに、貴族だろうか……。店員さんが僕に気付くと、笑顔を向けて来た。

 

 

「あ、お客様、ご注文の品が全て揃いました。其方もお求めですか?」

 

「あ、ええ。一緒にお願いします」

 

「え?《薔薇マジ》買ったのってこの人?」

 

 

僕は籠の中に入った本を、カウンターに重ねる。するとカウンターに(もた)れたままだった女性が、ガバッと起き上がって僕の方を凝視する。……《薔薇マジ》?ああ、入荷予定表の中にあった『薔薇色マジカル』って本か。

 

大方、この人も《薔薇色マジカル》の本を買いに来て、それを紙一重のタイミングで買い逃したって感じか。だが此方としても譲る訳には行かない。最終巻だけ無いって感じにはしたくないからね。

 

 

「すいません、《薔薇マジ》の最終巻、譲ってくれませんかっ!?」

 

「こっちもこれを買いに来たので、それはちょっと……無理ですはい」

 

 

どうやら諦めきれなかった女性は、僕に勢い良く頭を下げて来た。……んな事を言われてもさ〜。……と思ったら、ふとその女性は僕が買った本の山に目を向けた。

 

どうやら彼女の中で、何やら気にかかる事があったみたいだ。それが的中したかの様に、その女性は僕へと質問を投げかけて来る。……気のせいか、その女性の眼も先程の女性と同じ様に、キラキラしている気がしてならない。

 

 

「……《薔薇の騎士団》も買ったんですか?」

 

「え?あ、そうです」

 

「なかなか目の付け所が良いようですね」

 

「……先に弁明しておくと、僕の趣味ではありませんので。これは頼まれて買ってる物でして」

 

 

僕がそう伝えると、その女性は『ふむふむ』と何度か首を縦に振って頷いていた。……待て待て待て。絶対に分かってないでしょ?あとニヨニヨしない。

 

そして暫くその女性は考え込んでいたが、やがてカウンターの隅の方に行き、ちょいちょいと僕を手招きした。

 

 

「何でしょうか?」

 

「取引です。もし《薔薇マジ》の最終巻を譲ってくれるのなら、《薔薇の騎士団》全巻にサインを描きますがどうでしょう?」

 

「え?」

 

 

何だそりゃ。何でそれが取引材料になる訳……?

 

少し考え込んでいた僕は、以前ブラッディクラブ討伐をする前に、ユミナから聞いたある一言を思い出した。まさか……ねぇ?目の前に居るこの女性が、まさか《薔薇の騎士団》の作者である、リル・リフリス……リリエル皇女だとでも言うのか?

 

……でも、そうだとしたら提示された取引の内容にも、確り説明が着く。そう思った僕は、一か八かでカマをかけてみることにした。

 

 

「ん?と言う事は、貴女がリリエル皇女で間違い無いですか?」

 

「え?」

 

 

そんな間抜けな声を出し、自称《薔薇の騎士団》の作家さんがキョトンとした顔になる。……やっぱり。本屋で実際にその作品の作家さんと遭遇(エンカウント)するなんて、どんな確率だと思う。例えるなら……道端にコインが落ちてて、それを運良く見つけたーぐらいの確率だし。

 

……なんて思ってたら。その女性はいきなりぶわっと、顔から汗をダラダラと流して、口をパクパクと金魚の様に開けたり閉じたりし始めた。……え?嘘。ええぇぇえええ!?ホントなの!?

 

 

「どっ、どっ、どどど、どうしてそれをっ……!お父様でさえ知らないハズなのにっ……!」

 

「お、おおお、落ち着いて下さい!取り敢えず、一旦落ち着きましょう!」

 

 

正体を見抜いた僕でさえも、こんな風に慌ててしまうのだから、それを暴かれた方はと言ったら……とんでもない衝撃だろうな。慌ててしまうのも無理は無い。

 

そして良からぬ事を言い出したので、一発手刀を入れて置いた。そんな野心は僕の中にございませんから。これは女性であろうと、一切の加減をしない事にしている。

 

 

「あいたッ!な、なにを!?」

 

「お口チャックしましょっか?!ユミナに話を聞いて無かったら、完全に無視してましたよ貴女の事!貴女がこの国の皇女とは……、この国は大丈夫なんでしょうかねぇ?!」

 

「ユミナ?ユミナってベルファストの!?あなたいったい……?」

 

 

涙目になりながら頭を押さえ、不思議そうな顔で此方を見るリリエル皇女。……一応《歳上には礼儀正しく敬語を》ってしてたけど、そんな事がもう馬鹿らしくなって来た。

 

歳もそんなに離れて無さそうだし、普通にユミナ達に話す様にして良いかな。

 

 

「僕は盛谷颯樹。ベルファスト王国王女、ユミナ姫の婚約者だよ。まだ非公式ではあるけど」

 

「ええッ!?こ、婚約者、婚約者って、あの子結婚するの!?」

 

 

心底驚いた顔で此方を眺めていたが、やがて眼が泳ぎ始め、何かを考える素振りをしだした。……そして良からぬ事をまた考えていた為、もう一発手刀を下ろして置いた(今度はキツめのヤツ)。

 

その後僕はカウンターへ行き、全ての本の会計をする。結構値段が張ったが、ブラッディクラブ討伐の報酬額と素材売却料よりは、かなり安かったので問題無い。

 

その本たちを【ストレージ】に仕舞い込み、リリエル皇女を連れて本屋の外へと出る。そして店の陰で【ゲート】を開き、ユミナと琥珀を連れて来た。

 

 

「お久しぶりです、リリ姉様」

 

「ユミナ!?え?何時リーフリースに!?」

 

 

ユミナと琥珀に軽く事情を説明し、僕は二人が応対している間に《工房》へと移動する。収納魔法である【ストレージ】から《薔薇マジ》の最終巻をコピーすると、それを持って急いでユミナ達の所へ蜻蛉(とんぼ)返りした。

 

いきなり【ゲート】から現れた僕を見て、リリエル皇女は未だに驚きを隠せなかったが、僕の手に持っている《薔薇マジ》の最終巻を受け取ると、交互に本と僕の方を見始めた。

 

 

「え、良いの?欲しかったんじゃ?」

 

「別にいいよ。それは店に入荷する為に、買いに来ただけだからね。僕自身はそれは読まないし」

 

「それはそれでもったいな……」

 

 

何やら不穏な空気になりそうだったので、僕は再び手刀を下ろす体制に入った。それを見たリリエル皇女は途中まで出かけた言葉を飲み込み、一つ息を吐いて『何でもないわ』と口を噤んだ。

 

……もう良い、今直ぐにでも帰ろう。僕はそう思い自宅への【ゲート】を開く。一足先に琥珀が飛び込んで、向こうへと渡り終えた。

 

 

「じゃあリリ姉様、お元気で。また会いましょうね」

 

「ユミナも。結婚式には呼んでね」

 

 

……出来れば、来ないで欲しいんだけれどもね。そんな事は口にも出さずに、僕もユミナの後に続けて自宅への【ゲート】を潜った。

 

 

これはちょっとした余談だが、後日買って来た本を《読書喫茶「月読」》に入荷した途端、瞬く間に来店者が増えた。……しかも女性が殆どで。そのお陰で何冊かコピーをしないといけなくなったのは、創業者としては嬉しい悲鳴なのだろうかね。

 

ちなみにリリエル皇女が《薔薇の騎士団》に続けて出版を開始した小説の内容については、何時か絶対必ずや問い詰めるつもりでいる(明らかに僕を揶揄する様にモチーフにしてる為)。




今回はここまでです!如何でしたか(今回のお話では颯樹くんに本当に申し訳無いとも思う)?


唐突ですが……皆さんは、好きな本のジャンルとかはありますか?私は《ライトノベル》とかもそうなんですけど、普通の小説や《ノベライズ》も読んだりしますね。

何だかこの話をしてると、学生時代……昼休みによく図書室に行っていた事を思い出します。そこで時間になるまで本を読み耽ってましたね(成績がそこから良くなったかどうかは私の知る所では無いんですけど)。


次回の投稿は3月2日(月)午前0時を予定しています(完成が早ければ早めに投稿するかも)!……遂に!次のお話からは【2nd season 第2クール】へと突入します!そしてその一発目は《帝都動乱》Partです!是非とも楽しみにしていて下さいね!

今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしておりますよ♪初感想も待ってますよ!
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