「どうも最近、帝国の動きがおかしいんだよな」
「おかしい……とは?」
僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。僕は先程八重とクエストを達成させた後、たまたま喫茶店でばったり出会ったローガンさんと話し込んでいた。
その時に彼の口から飛び出したのは、帝国の事に関してだった。……《帝国》と言うと、ベルファストとは仲が余りよろしくない《レグルス帝国》の事か。確か今度入荷予定の中にあった書籍は、全てその国から出版されてる物だったか。
「何がどうおかしいと言うんです?」
「何となくだが……妙だ。帝国はベルファストと同じく軍と騎士団に分かれている。他国への侵略や防衛の為の軍と、帝都や王宮の護衛の為の騎士団だ。最近、軍での戦力強化が目立つらしいんだが、今のところ帝国は表立って敵対している国は無い」
「何処かの国に攻め込もうとしているのでは?」
僕の隣に座る八重が、ローガンさんに向けて口を開いたが、それに答えたのはローガンさんでは無く、一緒に居たレベッカさんだった。
レベッカさんからの話によると、現皇帝は病に臥せていて寝込んでおり、皇太子は二十歳を超えたばかりで、帝国を背負うには荷が重すぎるとの事で。今侵略行動を起こしても、帝国には何の得も無いと言う状況だった。
「皇帝が崩御した後に、他国から攻め込まれる事を懸念してるのでござろうか……?」
「それも考えて良いかもね。こっちにその気が無くとも、20年前まで戦争をしていた国同士。警戒してても何らおかしい事じゃない」
八重の言葉には僕が答える。……空いた時間を使って調べ物をしてて良かった……。最初に帝国の話をした時には、大分訝しげな眼で見られていたが。
それにレグルス帝国自体、何もベルファストだけと仲が余りよろしくない訳じゃない。例えば帝国の東にある《ロードメア連邦》や《ラミッシュ教国》も、帝国とは不仲らしいし。
「貴重な情報、ありがとうございます」
「?何がするのでござるか?」
「ああ、入荷依頼にある本を買いに、レグルス帝国へと行くよ。……ま、今の話を聞いてしまうと、買いに行くのは少し気が引けてしまうんだけどね」
いきなり椅子から立ち上がった僕に、八重がそう質問をして来る。僕は八重に対して、レグルス帝国へと向かう旨を伝える。あの話を聞いた後だと気が引けるが、買いに行かないと言う選択肢は無い。
「ま、本を買って来るだけだから……チャチャッと済ませてくるよ。八重はどうするの?」
「2階にリンゼ殿が居る様なので、誘って家に帰るでござるよ。そろそろおやつ時でござるし」
……確かに。最近は暇があったら、リンゼは必ずと言って良いほどに《読書喫茶「月読」》に顔を出している。まあ、最近の彼女はと言うと歴史物も読む様にはなったが。
取り敢えず僕は……八重にリンゼを任せて、二人にお礼を言って店の陰で【ゲート】を開く。行き先はもちろん、レグルス帝国の帝都ガラリアである。
……だがこの時。僕は知る由もなかった。まさか行った先であんな事が起こっていようなんて……。
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《レグルス帝国:帝都 ガラリア》
「……何だよ、この有り様」
開口一番でその言葉が出て来る僕は、異常と言われてしまうのだろうか。……いや、目の前の有り様を見れば、何が起こっているかは想像に難くないだろう。
僕の目の前に飛び込んで来たのは、燃え盛る家並みと飛び散る火の粉。一瞬『火事』かとも思ったけど、さっき慌てて【ロングセンス】を使って調べたら、どうもそうでは無いっぽい。
人の困惑し逃げ惑う音と、辺りから聴こえて来る剣と剣のぶつかり合う音に、人の身体に傷が入った様なそんな音。
「……マジにヤバい状況な訳これ」
僕はそう思いながらも、ガラリアの街中を駆け抜ける。するとある所で目が止まった。黒い服を着た兵士に、同じ色合いの鎧を着た騎士が襲われている光景だ。数は黒い服を着た兵士が二人、騎士が一人。
取り敢えず、この状況を少し何とかしないと。
「な、何だ貴様は!」
「……!」ドンッドンッ!!
僕の近づく足音に気づいた、兵士二人が僕の方を向くのに合わせて、背後から麻痺弾を二発撃ち込んだ。黒騎士の方はと言うと、肩口から血を流していて、左手は既に使い物にならない状況だった。
麻痺弾を撃ち込まれた兵士は倒れ伏し、それを見た黒騎士はガクッと膝を着いて倒れる。
「大丈夫ですか!?今助けます!【光よ来たれ、女神の癒し、メガヒール】!」
「あ、ああ……すまない……」
「何があったか、お聞きしても構いませんか?」
「軍部が……皇帝に謀反を……」
そう言って黒騎士は、事切れたかの様に意識を突然手放した。えーっと『軍部が皇帝に謀反を……』……ってまさか、これってクーデターなのか!?
取り敢えず黒騎士を近くの家に運び込み、床へと静かに寝かせた。家の中には人が居なかったので、たぶん戦火に気付いて逃げ出したのだろう。そして更に回復魔法を掛けておく。……これで死ぬ事は無いはずだ。
「先ずは状況確認。検索。《軍人と騎士を色違いにより帝都全体に表示》」
『…検索終了。表示しまス。赤が軍人12654人、青が騎士1165人でス』
うへぇ……軍人が騎士の凡そ10倍居るのか……。取り敢えず此処に来た以上、黙って見過ごす事は出来ない。それが他国の人間であろうと、それは同じ事。
そう思った僕は、家から飛び出すと【グラビティ】をかけて体重を軽くし、身体強化の【ブースト】を使って屋根の上へと飛び上がる。そしてそのまま建物の屋根の上を駆け抜ける。
「《軍部が皇帝に謀反》……これから察するに、軍人の狙いは《皇帝の首》。取り敢えずは皇帝の部屋に向かうか。皇帝は病気になってるから、転移の際にはベッドごと転移させる他無いな」
そんな事を思いつつも、僕は屋根の上を駆け抜けて行く。辺りでは騎士と軍人の剣戟が鳴り響いており、この状況が『緊急事態』と言わんばかりに、僕の方へと伝わって来る。
城門の警備を難無く突破した(城門が既に破壊されてた為入る事が出来た)僕は、城の二階にあるバルコニーから城内へと入る。
「さっき城門が破壊されてたから、軍人は既にこの中に居るんだと思う。……立ち塞がる軍人を麻痺弾で鎮静化させつつ、皇帝陛下の部屋へと向かおうか」
一先ずの状況を整理すると、僕は王宮の中を勢い良く駆け出した。……しっかし。皇帝陛下の部屋って、何処にあるんだろ。僕自身が《皇帝陛下の部屋》って認識できないと【サーチ】で探す事も不可能だ。
「取り敢えず、片っ端から調べてみるか」
そう思った僕は、目に入ったドアを手前に引いて開けようとする。すると中から声が聞こえて来た。
「待っててね!今、助けを呼んでくる……」
「「うわっ(キャッ)!」」
僕は中から出て来た一人の騎士と、運悪くぶつかってしまう。その拍子に騎士の持っていた剣が、数センチ先へと飛ばされてしまった。
「痛た……」
「いったぁ〜い!一体どうなって……!敵!?」
その女性の騎士は、僕を視界に捉えるや否や臨戦態勢を取り始めた。髪は赤よりももっと鮮やかな紅色のロングヘアで、歳はエルゼやリンゼと同じくらいか。キッと細められた焦げ茶色の眼は、今にも僕を刺し貫かんとしている。
「ま、待って下さい!敵ではありません!僕は冒険者です!」
「そんな事信じられる訳……!」
「これが証拠です!」
今にも飛びかからんとする女性騎士に、僕は懐からギルドカードを取り出す。その女性騎士はと言うと、目の前に差し出されたギルドカードに目を奪われていた。
そして少しすると、頭が完全に冷えたのか冷静に対応をして来た。
「ごめんね。今こんな有り様だから……」
「別に気にしないで下さい。其方の考える事は至極当然の事ですし」
「そうだね。……そんな事よりも。ね!キミって回復魔法を使える!?」
敵意が無い事を漸く理解したかと思ったら、今度は何かに縋るかの様な声色で、女性騎士は迫って来た。その話を聞いた僕は部屋の中へと入り、その人物と向かい合う(もちろん部屋に入る前に、剣は拾って返してあります)。
「キャロちゃん、今この人が助けてくれるからね……。キミ、お願いして良いかな?」
「わかりました。……っと。【リカバリー】」
そう言って僕は、倒れているもう一人の騎士に回復魔法をかける。ちなみにその騎士には、首筋に針みたいなのが刺さっていたのだが、それは【リカバリー】をかける前に抜いてある。
柔らかい光が女性騎士を包み込む。暫くすると手を開いて閉じたりする事で感覚を確かめていたが、次の瞬間その場から飛び退いて、腰から二本の剣を引き抜いた。
「っ!?何者です!」
「わわっ!待ってキャロちゃん!此方の人は冒険者で、たまたまこの騒動に居合わせただけなの!」
「……そう、なのですか?」
「ええ。第一、軍人なら貴女方を真っ先に殺してましたね。問答無用で」
僕と紅髪の女性騎士がそう弁解すると、もう一人の女性騎士は静かに剣を鞘に収めた。後々に話を聞いてみると、どうやら二人は友人であるらしく、この件に協力して鎮静化に当たっていたみたいだ。
「自己紹介しますね……。僕は盛谷颯樹、赤ランク冒険者です。よろしくお願いします」
「あたしはアヤナ・カーディナリア、あたしの事は気軽に《アヤナ》って呼んで欲しいな」
「私はキャロライン・リエット。私の事は《キャロル》と呼んで下さい。アヤナと一緒に、帝国第三騎士団所属の第二階級騎士として働いてます」
……色々小難しい事が多いな。取り敢えず、アヤナさんとキャロルさんと握手を交わした僕は、アヤナさんの先導によって皇帝陛下の部屋へと三人で向かう。
城の階段を駆け上がるアヤナさんに、僕とキャロルさんは付いて行くと、やがて大きなホールへと辿り着いた。
「皇帝陛下の部屋はまだまだ先だよ!」
「颯樹さん、此方です!」
「わかりました。……ん?」
先を急ごうとするアヤナさんを制止させ、僕は周囲の音に耳をすませる。……すると、多数の剣戟が聞こえて来る中で、唯一ハッキリと違う声が聴こえて来た!
……聴こえる。この近くに……居る!
「検索!女の子と、今現在でその子に危害を加える可能性の高い軍人を半径100メートル以内で表示!」
『…検索終了。表示しまス』
……居た!目の前の部屋の奥か!
僕はその場から勢い良く駆け出し、分厚い扉を体当たりで突き破った。その先の扉も同じ様に突き破ると、そこには銀髪の女の子に馬乗りになり、その子の首に短剣を今にも突き刺さんとしている、軍服の男が目に入った。
「誰だ!」
「少し……寝てろ!」ドンッドンッ!!
「ぐほあっ!?」
僕の乱入に気付いた軍服の男が、此方へとゆっくりと視線を向けた。そして僕はそれに構わず、その軍服の男に麻痺弾を二発撃ち込む。
身体の自由を奪われた男は、そのまま銀髪の女の子の所へと倒れ込む。それを見た女の子は、直ぐ様その男から離れて、自分の身をかき抱きながらガタガタと震えていた。……無理も無い。その男に今殺されかけてたんだからね。
「大丈夫?怪我は無い?」
その女の子を落ち着かせる様に、僕は成る可く静かな声で話し掛ける。女の子がそれに気付いて、初めて僕と真っ直ぐ視線を合わせてくれた。
歳の頃はユミナと同じくらいか。深い翡翠の様な双眸と白磁の様な肌。乱れては居るがサラサラな銀髪に、白いシルクのドレスを着ていた。……あー、ドレスの至る所が切り裂かれていて、腕にも軽く切り傷ができてるな。
……そう思ったら、後の行動は簡単だ。
「今その傷を治すから、少しジッとしててね」
「は、はい……」
「【光よ来たれ、安らかなる癒し、キュアヒール】」
僕の前置いた言葉に頷いた少女は、僕の回復魔法を受け入れる体勢を取った。そして詠唱している際にビクッと怯えては居たが、次第に治っていく切り傷を見て、それは驚きの表情へと変化して行った。
「あ…貴方は……?」
「僕は盛谷颯樹。冒険者だよ。あ、軍のヤツらとは関係なんて無いから」
一応、念を押しておく。アヤナさんやキャロルさんの時みたいに、いきなり襲いかかられたら堪らないからね。
「盛谷、颯樹様……」
「立てる?」
「はい……」
僕はその女の子の手を取って、ゆっくりと立ち上がらせる。……ん?今更だけど、この子って普通の子じゃないよね。着ている服装からして、かなり上の立場に居るって事はわかるから、ひょっとして……。……あれ?
女の子の深い翡翠の双眸と眼が合う。心做しか、顔も紅いし真っ直ぐに此方を見据えてる気がする。
じ─────っ……。
じ────────っ……。
じ───────────っ……。
じ──────────────っ……。
……何時だったかな。この状況って、前にもあった様な気がしないでも無いんだな。その女の子は頬を少し紅く染め上げながら、今度は此方をチラチラと見ながら、小さく声を発した。
「……年下はお嫌いですか…?」
……うん。何処かで感じた事があるなーって思ったら、まるっきりユミナと初めて会った時と完璧に一致してるじゃん!そう思った時、突き破ったドアから誰かが入って来た。
セミロングの金髪に紅色のロングヘア……キャロルさんとアヤナさんか。よかったー(^_^;)
「姫様!ご無事で何よりです!」
「…こやつは?」
アヤナさんが女の子に声を掛け、キャロルさんは僕の傍で倒れている、軍服の男に訝しげな目を向けた。……やっぱり。帝国のお姫様だった訳ね。
「私を殺そうとした者です。颯樹様に救って頂きましたわ」
「なんてこと…!姫様を殺そうなどと!許せません!殺しましょう!」
「キャロちゃんダメーーーーーー!毎度毎度その尻拭いするの、結局はあたしなんだからね!!!!」
キャロルさんが倒れている男に剣を抜き放つと、それを見たアヤナさんが全力で制止しに係る。……毎度毎度こんな事をしてるんですか……。アヤナさんの苦労が伺えるな全く……。
「お姫様だったんだね。……道理で雰囲気があるなーって思ったよ」
「レグルス帝国第三皇女、ルーシア・レア・レグルスですわ。……颯樹様はあまり驚かないのですね?大抵の方は私が《皇女》だと分かると、直ぐ様態度を変えたりするのですけど」
「君の他にも二人……お姫様の知り合いが居るからね。それで慣れてるだけだよ」
一人は婚約者で、もう一人はヤバい作家だけど。
「そんなに王家の姫と知り合いとは……あなたは何者なんです?」
「そうだよ。颯樹くんって何者?」
キャロルさんとアヤナさんが、驚いた様な顔で此方を覗き見る様に見て来る。……でも確かに。未だに自分の中での立ち位置が決まっていないよな。ベルファストの関係者かと言うと、そうとも言いきれないし。ユミナと結婚しても国王になる気は無いしね。
「僕の事は後ほどゆっくりと説明しますよ。取り敢えずどうしましょうか?ルーシア姫だけでも《転移魔法》で先に逃がす事も出来ますが」
「そうですね……」
「ルーシア姫、颯樹くんの転移魔法でご避難を!ここに居ては戦火に巻き込まれます!」
そう言ってキャロルさんが考え込み、アヤナさんはルーシア姫を此処から逃がす為に、真っ先に行動に移していた。
……だが、その行動に異を唱えた人物が現れた。それは当の逃がす本人であるルーシア姫だった。
「私は後で構いません。それよりもお父様とお兄様が心配ですわ。一緒に参ります」
「「ひ、姫様!?」」
ルーシア姫が気丈にも、そんな事を言って来た。そしてそれを聞いたキャロルさんと、アヤナさんの顔が驚きの表情を浮かべた。
んー、此処から先はかなり危険なんだけどな〜。まあ彼女が居てくれたら、皇帝陛下や皇太子も話を聞いてくれそうではあるんだけどね。取り敢えずウチの方に避難して貰って、その後どうするかを決めた方が良いかな。
ルーシア姫の護衛はキャロルさんに任せ、僕とアヤナさんは警戒をしながら、前線を駆け抜けて行った。先程二人と離れたホールまで戻ると、奥の方へと進んで行く。
今回はここまでです!如何でしたか?
少々区切り方がおかしい事になりましたが……、ココの方が何だか収まりも良かったのでね。今回はここまでです(次回はもう少し描きたいと思います)。
そして……今回のお話から、ルーとアヤナが本格的に登場です!登場を今か今かと待ち焦がれていた方は、大変お待たせ致しました〜!アヤナのプロフィールは、この《帝都動乱》Partが終わった後に後書きにて記載しますので、少しお待ちを(。ᵕᴗᵕ。)
次回の投稿は3月6日(金)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価にお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしておりますo(^▽^)o
【《帝都動乱》Part:イメージソング】
藍井エイル[IGNITE]