異世界はスマートフォンとともに。if   作:咲野 皐月

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#14. 悪魔、そして対策。

「皇帝陛下と皇太子。取り敢えず、逃がすのはその二人で良いの?」

 

「取り敢えずは。宰相や大臣も居れば、次いでに逃がしたい所ですが」

 

 

回廊を走りながら、僕の質問にキャロルさんが答える。あれ?ルーシア姫は《第三皇女》と言っていたが、上のお姉さん二人は良いのか?と思っていたら、その疑問にはアヤナさんが答えてくれた。

 

 

「第一皇女は他国の王家へ既に嫁いでいて、第二皇女は遠い国へと留学しているんだよ。何方も帝国とは友好的な国だから、今の所は大丈夫」

 

「そうなんだ。……でも、今後の状況次第では『此方に引き渡せ』と言って来るやもしれないからな……」

 

「そこら辺は心配だよね……。はぁ……」

 

 

アヤナさんの零した溜め息を聞きながら、僕たち4人は回廊を駆け抜ける。そして突き当たりの角を曲がると、大きな扉の前に5・6人程の軍人が、抜き身のサーベルを持って待ち構えていた。

 

 

「ルーシア姫だ!捕らえろ!いや、殺しても構わん!」

 

「くっ!そう来たか!」

 

 

此方に気付いた軍人達が、一斉にサーベルを構えて此方へと走って来た。……これじゃあ皇帝陛下も、無事である確率は極端に低くなるね。

 

僕は左腰にある剣銃ブリュンヒルドを抜き放ち、向かって来た全員に麻痺弾を撃ち込む。そして軍人全員が倒れ伏した事を確認すると、静かに腰のホルスターに仕舞い込んだ。

 

 

「あっという間に6人を殺すなんて……」

 

「その言い方には語弊がありますよ。単に『麻痺状態に陥らせた』ってだけです。意識はちゃんとありますのでご心配無く」

 

「……って事は、さっき颯樹くんが撃った銃から出て来た弾丸が、撃たれたらその状態になる様に【プログラム】されてたんだね?」

 

 

……うぐ、アヤナさん鋭いなぁ。確かに僕が軍人6人に撃ち込んだ弾丸は、事前に【パラライズ】を【エンチャント】して、そうなる様に【プログラム】を施した弾丸なのだが、これをあの一瞬で見抜くとはね……。

 

 

「それよりも。この先が皇帝陛下の部屋で間違い無いの?」

 

「はい……この先の部屋がお父様の寝室ですわ。ご病気になられてからは私は殆ど入った事が無いですけれど」

 

「と言う事は、この帝国への謀反を考案した……その首謀者もこの中に居ると考えて良いな」

 

 

僕がそう呟くと、キャロルさんとアヤナさんがゆっくりと頷く。……としたら、ルーシア姫には辛い物を見せてしまうかもしれないな……。自身の父親の亡骸に加え、この緊迫した状況の中で人の命が無惨にも消えてしまう様を。

 

そして僕の中での逡巡を察した様に、ルーシア姫が僕のコートの袖をギュッと握って来た。その時にルーシア姫の瞳を見ると、決意の眼差しをしていた。

 

 

「覚悟は出来てますわ。それでも……お父様の事を確認しなければ、私はきっと後悔すると思いますの……。ですから……」

 

「……そこまでの覚悟があるんなら、僕から言うのは野暮ってもんだよね」

 

 

ルーシア姫の決意を聞き届けた僕は、意を決して目の前の大きな扉を開け放つ。彼女が確り覚悟を決めたと言うのに、僕だけ迷ってる訳にはいかないからね。

 

かなり広い豪奢な造りの部屋の奥には、キングサイズのベッドがあった。部屋の中には数人の男たちが立っていて、飛び込んで来た此方に注意を向けている。

 

 

「……手遅れか」

 

 

状況を整理してみると、現在入って来た僕たち以外で健在としているのは、軍人兵士が三人に士官クラスが二人、そして将軍らしき人物が一人か。此処を警護していた騎士は……一人も例外を出す事無く全滅していた。それも《一人残らず》だ。

 

その中でベッドの下に転がる老人の姿が見えた。……くそっ!間に合わなかったか!

 

 

「何者だ?騎士団の者では無いな?」

 

「ああ、僕は冒険者ですよ。たまたま通りがかった所で、この騒動に居合わせましてね」

 

 

将軍らしき人物が誰何する。僕はその人物に自分の身分を《冒険者》とだけ、明かして話をする態勢に入る。その男は鷹の様に鋭い双眸と鷲鼻から、猛禽類をイメージさせる様な顔立ちだった。

 

歳は40代前半を思わせる風貌で、気高く強気のある性格なのだと察する事が出来た。

 

 

「バズール将軍!皇帝陛下を手に掛けるなんて、気でも触れたのですか!」

 

「…お父様……!」

 

 

僕の後ろで激昴するキャロルさんと、息を飲むルーシア姫の声が聞こえた。その間アヤナさんはと言うと、腰の黒い鞘から剣を引き抜いて、今にも《戦闘態勢》と言った様子だった。

 

……と言う事は、目の前に居る[バズール将軍]と言う男こそが、このクーデターを目論んだ真犯人って訳か。

 

 

「ム?ルーシア姫とリエット家のバカ娘に、カーディナリア家の元村娘か。妙だな、アイツらには《三人とも見つけ次第殺せ》と命じていたのだが」

 

「能書きはどうでも良いんだよ。僕はあんたと話がしたいだけだ」

 

「ほぅ?冒険者風情が、余計なお世話を焼きおってからに」

 

 

バズール将軍がイヤらしく嗤う。……貴女、まさか将軍にまでそう言われる程の、行ないを過去にしてたんですか……?ちらりとキャロルさんを見遣る。

 

そしてアヤナさんはと言うと、唇を強く噛み締めていた。……その話はまた後にするとして。

 

僕はバズール将軍と向き合った。結局の所を言えば僕は部外者である事に他ならないので、バズール将軍の言った事にも筋は通ってる。……けど、あんたの思う様に動くほど、人って簡単にできてないんだよね。

 

 

「一応聞いておきますけど、何故このような事をしようと思ったんです?」

 

「皇帝陛下は病にかかり、そのお心をも病んでしまわれた。ベルファストやロードメアとの不可侵条約を破棄し、一気に侵略するのは今を持って無いと言うのに、それを躊躇うとは……。嘗ての陛下なら迷い無く決断したものを。老いや病とは恐ろしい物だな」

 

 

バズール将軍から紡がれる、今回の軍部によるクーデターの経緯。それを一字一句聞く度に、僕の中で疑問が確信に変わった。間違い無く『軍人が悪で、騎士団が正義なのだ』と。

 

そして自然と、僕の右手は《ダークリパルサー》の入った鞘へと伸びていた。いざとなったら、剣を交えることすら覚悟して。

 

 

「……それだけの理由で殺したってのかよ。あんたが絶対忠誠を誓うべき皇帝を」

 

「皇帝とは常に強く在らねばならない。その資格を失った者には舞台から降りてもらう。新たな皇帝、新たな帝国を築く為に」

 

 

……なんて事は無い。《簒奪》……国の乗っ取りじゃないか。しかし軍部の中では、皇帝よりもこの将軍の方がカリスマがあるのだろう。そうで無いと、このクーデター自体起こす事など不可能だ。

 

病気で先の見えぬ皇帝と、まだ頼り無い皇太子。それに比べて、強く覇気に溢れた大将軍。何方に希望を持つのかは、もう言うまでも無いか。

 

 

「【ロングセンス】……ターゲットロックオン。【デストラクション:スペルブレイク】」

 

「何をしたかわからんが、そんな事で我を止められると思ったか冒険者風情が!」

 

 

……フッ、今に見てるが良いさ。自らの変化にすら気づかない様な者には、最っ高の末路だと思うからね。

 

 

「【闇よ来たれ、我が求むは悪魔の公爵、デモンズロード】」

 

 

そう言ってバズール将軍は窓の外に右手を向け、魔力を集中させ始めた。……が、何も起こる気配が見えなかった。最初は気付かずにただ詠唱を繰り返していただけだったが、バズール将軍は次第に顔を青ざめ始めた。

 

その間にアヤナさんには老人の元へ走って貰い、無事かどうかを確認してもらった。

 

 

「颯樹くん!皇帝陛下はまだ生きてるよ!」

 

「ありがとうございます、アヤナさん!」

 

 

僕はアヤナさんに向かってお礼を言う。……そのアヤナさんの下には、剣を抜いたであろう軍の兵士たちが一人残らず気絶していた。

 

恐らくこれ以上の被害を出さない様に、峰打ち(剣の平たい面で)で済ませていたのだろう。……凄いな帝国の騎士は。

 

 

「……な、なぜなのだ……何故、魔法が発動しない……いや、何故魔力が集まらない……」

 

「それは僕がさっき使った魔法にあるからですよ」

 

「どういう事?」

 

「僕が使ったのは【ロングセンス】と言う、元からある魔法の他に……始原魔法の一つである【デストラクション】と、式句の【スペルブレイク】だけです」

 

 

この場にいる全員が疑問符を浮かべたので、僕は一から順に説明を始める。先ず【ロングセンス】で一メートル先(バズール将軍の服の中)を視認した僕は、そこにあった腕輪二つに照準(ターゲット)を合わせた。

 

照準を合わせるのは《腕輪二つ》で出来たので、これにはさほど時間も掛からずに終わった。そしてその後には始原魔法である【デストラクション】を、式句である【スペルブレイク】と併用して使用する事で、腕輪の効果を無力化したのだ。

 

 

「ば、馬鹿なぁ……!」

 

「【デストラクション】自体は《自爆魔法》…。単体で使えば、対象者の命すら危険に晒す。でもそうならない方法がある」

 

「それが……式句?」

 

 

首を傾げたアヤナさんの問いには、首を縦に振る事で答えを返した。そして更に続ける。

 

 

「そう。【スペルブレイク】自体は、何の効果も持たないタダの言葉だ。……でも、さっきの【デストラクション】と合わせれば、対象に定めた物の魔法式……まあ、言ってみればその物にかけられてる【プログラム】を破壊できるって訳だ」

 

「……凄いですね……」

 

「でも、どうやってその魔法を?」

 

「必死に魔法書を読み漁りました。それも現在ある物から古来の魔法まで全部」

 

 

僕自身も時間があれば、魔法書の読み直しとかをしてたんだけど、幾分か退屈になる事があり、少し王宮へと顔を出していたのだ。そして王宮内の図書室にある全ての魔法書を読み込み、片っ端から覚えまくったのだ。

 

いやー、キツかった。本を読むだけでここまで苦労したのは、多分初めてでは無かろうか。

 

 

「そ、そんな……」

 

「これで心置き無く、話し合いが出来ますね」

 

 

僕のその言葉にカチンと来たのか、バズール将軍が此方へと向かって来た。……ええ、ホントにやるの?

 

 

「【スリップ】」

 

「うぉあ!」ズドーン!!!

 

「しょ、将軍!」

 

 

目の前ですっ転ぶ将軍を見た兵士たちは、真っ先に武器を引き抜いて向かって来た。……だが恐るるに足らん。

 

僕は【スリップ】を弾丸に込め、効果を3時間程持続する様にして床へと発射した。そして一歩踏み出そうとしたその時、先程のバズール将軍と同じ状態になってしまう。

 

 

「その間に僕たちは避難を」

 

「わかった!」

 

「アヤナさんに皇帝陛下、ルーシア姫とキャロルさんにターゲットロックオン!ベルファストの自宅の庭へと【ゲート】展開!」

 

『了解しましタ。【ゲート】発動しまス』

 

 

軍の兵士たちが転んでるのを他所に、僕たち4人と皇帝陛下はベルファストの自宅へと避難をする事にした。まあ【スリップ】は3時間程で解除される様になってるから、そこまで酷い物にはならないと思うけどね。

 

そんな事を思いつつも、僕はベルファストの自宅へと続く【ゲート】を、レグルス帝国関係者4人の後に続いて潜り抜けた。背後より聞こえる苦言を他所に。




今回はここまでです!如何でしたか?


今回のお話では、オリジナル要素のひとつである《始原魔法》と《式句》を出しました!《始原魔法》の設定としては『代替が効かず、阻害されずに強力な魔法を使えるが、デメリットもそれなりにある』と言う感じで、もうひとつの《式句》の設定としては『単体では意味を為さない魔法』と言う感じです!

本編中で颯樹くんが使っていた様に、もう一つの魔法と併用しないとかなり危険だし、意味もない物になってしまいますので……使い所をかなり考えさせられます。


【オリジナル魔法詳細】
《デストラクション》
[効果&説明]始原魔法の一つ。発動者を中心とした半径3km以内にある、建物や人すら全てを巻き込んで破壊する。発動する際には少し火花が散るが、その後は空間が歪むかの様に、周りを包み込んで爆発する。
[デメリット]発動する際に発動者も巻き込むので、ある意味〈自爆魔法〉と言っても過言では無い。更にこの魔法による破壊は、自身の大切な人にも及ぶ為、下手をすれば両方が命を落としかねない。

《スペルブレイク》
[効果&説明]式句の一つ。意味の〈言語を壊す〉の名の通り「道具に込められている[プログラム]を無効化する」事が可能。単体では意味を為さない魔法。


こんな感じでしょうかね?……次回は、ベルファスト王国の自宅へと戻った後のお話をお届けします!


次回の投稿は3月9日(月)午前0時を予定しています!今回も感想を是非!高評価やお気に入り登録も、何時もの様にお待ちしております(。ᵕᴗᵕ。)


【追記】

今週より「llight」さんの方で、この小説の主人公である盛谷颯樹くんが主人公を務める作品がスタートします(ややこしい事になりましたね……申し訳ない)!

この「異世界はスマートフォンとともに。if」とはまた違った颯樹くんが見られますので、ぜひ読んで下さいね!その他にもこの小説とコラボしている「肆点決集」も絶賛連載中ですので、其方もよろしくお願いいたします!

読まれたら感想を聞かせて下さいね!llightさんも私も泣いて喜びます(私は確実)。
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