初練習に参加してから数日たち入学式などのバタバタがある程度落ち着いたころ、パワフル高校野球部は本格的に新入生が参加してさらに活気を見せていた。
「パワ校、ファイッ!!」
「「「「「「「「「「オーッ!!」」」」」」」」」」
「ファイッ!!」
「「「「「「「「「「オーッ!!」」」」」」」」」」
「ファイッ!!」
「「「「「「「「「「オーッ!!」」」」」」」」」」
二列に並び、掛け声をしながら町中をランニングしていたパワフル高校の野球部員たちは町はずれの公園までやってくると一度休憩をはさみ、先に監督の車で来ていたマネージャーたちからボトルに入ったパワリンを受け取る。
「はい、これ。ボトルは由多加ちゃん用のだから気にしないでね」
「あ、ありがとう菜実姉」
由多加は菜実からパワリンの入ったボトルを受け取るとゆっくりと体にしみこませるように飲んでいく。
「大丈夫?大会に女の子が出れるようになったとはいえ、まだうちには由多加ちゃんだけだから何かあったら言ってね?」
「大丈夫だよ菜実姉。それよりこの後のメニューって聞いてない?」
「うーん。まだ知らないけど、たぶんここに来たってことは去年と同じかな?って、監督が集合をかけちゃったわね。じゃあ頑張ってね」
「うんっ!!」
菜実に応援された由他加はボトルを手渡すと駆け足で監督のもとへ向かっていく。
「じゃあ今からパワ校まで競争だっ!!」
半円になって集まった部員たちの前で、監督である根津猛は遠くに見えるパワフル高校を指差していかにも熱血漢といったような暑苦しい形相でそう言い放ち、即座に部員たちから冷たい視線を浴びせられるものの、ものともせずにコースを説明していく。
「うぉおおおおおおっ!!やってやるぞっ!!今年こそ一番だぁっ!!」
「よぉし。その意気だ山道っ!!」
競争と聞いて一人燃える山道と根津が暑苦しい師弟タッグを組んでいるのを見て部員たちはため息を吐きながらスタート位置に並ぶ。
「上位にはいいものをやるからな。頑張れよっ!!」
「しゃあねぇか・・・・・・・。めんどくせえけど」
「いいものってなんでやんすかね?ガンダーロボとかだったらオイラ頑張っちゃうでやんす」
「それで喜ぶのは矢部くらいだぜ」
「まぁ、新一年にはいいとこ見せなきゃな」
去年も体験している上級生たちはすぐ移動を開始し、新入生もその後ろに並ぶ。
「じゃあ全員がんばれよ!!よーい、スタートっ!!」
根津が手を叩くと同時に、一斉に部員たちが、それに続いて新入生たちもその背中に置いていかれないように走り始めた。
「さぁ、俺たちもすぐに戻るぞ」
「「「「はいっ!!」」」」
「(がんばれ由多加ちゃん。私は。ううん、きっと克也君も由多加ちゃんがマウンドに上がるのを待っているよ)」
選手たちよりも早く戻らなければならないと、急ぎ他のマネージャーたちと協力して根津の車に荷物を積み込みながらも、上級生たちの背中を追っているひときわ小さな背中にふと目をやって心の中でそっとエールを送る。
「川井っ!!置いてくぞっ!!」
「はいっ、今行きますっ!!」
「よしっ。私もがんばるぞっ!!」
根津にせかされた菜実は車に飛び乗り、今日もまた円滑に選手たちをサポートするために気合を入れなおした。
「あ~めんどくさかった・・・・・・」
「遅いわよ克也君。新入生に負けてちゃダメじゃない」
「そんな特に遅いわけじゃなかっただろ?それに俺は長距離走は苦手なんだよ」
「やる気がないだけでしょ?この前もロードワークの時に最後に帰って来たけど全然息が切れてなかったじゃない。もう克也君は上級生になるんだからそういうとこで・・・・・・・」
帰って来た選手たちにドリンクを配っていた菜実が最後の方でようやく帰って来た克也の頭をボトルでポカリと叩いてお説教を始め、それを聞き流しながら克也がアイコンタクトで助けを他に求めるが、チームメイトは全員馬に蹴られたくないと無視を決め込む。
「・・・・・・わかった。善処する。それより、誰か有望な奴いた?」
「もう・・・・・・・。あの子が一番最初に帰って来たわ」
菜実が指差した方を克也が見ると、走ってきたばかりだというのに友沢が黙々と一人バットを振っていた。
「一番で帰って来たあと、みんなが帰ってくるまで時間が勿体ないから素振りするって言って。あそこで振り続けてるの。ホント誰かさんにはあの姿勢を見習ってほしいわ」
「へぇ・・・・・・。一番ってことは、山道よりも先に?」
「ええ。一度も追いつけなかったって、山道君すごい悔しがってたから」
「・・・・・・・スタミナバカよりも早いって、化け物かよ」
「さすが帝王シニアのエースだった子ね」
「え、あいつ帝王シニア出身なの?」
「・・・・・・克也君、また寝てたの?」
「いやぁ、春の日差しが気持ちよくって・・・・。あ、しまった・・・・・・」
新入生たちの自己紹介中に克也が寝ていたことを知った菜実が目を三角にして、心なしか角が二本生えているように克也には見える。
「おーい、川井っ。夫婦喧嘩をしているのはいいが、全員帰って来たのか?」
克也をだんだんと壁際に追い詰めていく菜実に、部員の中でもひときわガタイがいい男がその様子を見て苦笑しながら、先ほどまで帰って来た部員の数を数えていた菜実に、全員がそろったかを聞きに来る。
「あ、田中キャプテン。はいっ。さっき全員帰ってきました」
「よし。じゃあアップを始めるぞっ!!てなわけで旦那借りてくぞ川井」
「よし、行きましょうっ!!今日の練習楽しみだなぁっ!!」
「もう克也君っ。後で覚えておいてねっ」
あきれ顔の菜実を放っておいて克也は普段の数倍(当社比)のやる気を出してアップに向かった。
「ストレート行きます」
少年がそう宣言して投げ込んだ一球は、彼がまだ高校に入学して間もないということを忘れさせるような球威を持ってキャッチャーのミットに突き刺さる。
それを見ていた選手らがどよめく中、根津は力強く頷く。
「ナイスボールだ友沢。もう何球か投げてみろ」
「はい」
横で見ていた根津の指示に友沢が頷き、投じられたボールは構えられた克也のミットにズドンッと音を立てて吸い込まれる。
「(すごい・・・・・・・・。二年の時とは比べ物にならないほど球威が増してる・・・・・・・・・)」
あまりの速球に新入生では捕れる者がおらず、特に即戦力候補ということもあったため克也が受けることになったことへ最初は少しの嫉妬をしたものだが、真横でこんなボールを投げられればどこか納得してしまう自分がいた。
「おーい。恵夏、早く投げろよ」
「あ、ごめんっ」
由多加が友沢の投球をじっと見つめていると、球を受けていた同級生のキャッチャーが動きを止めた由多加に声をかけて投球練習を再開させる。
「いくよ」
「おう」
由多加は一球ごと丁寧に構えられたミットめがけて投げ込んでいく。
投げられたボールは友沢のような派手さはないが、スーッときれいなまっすぐの軌道を描いてミットに収まる。
「ほう・・・・・・・」
由多加の投球に目を向けた根津は小さく息をのむ。
スピードはおそらく120キロ程度だろう。
キレはとてもいいが、長いこと高校野球を見てきた根津にとってはそこまで珍しいレベルではない。
そこまでなら女子という物珍しさ以外はさして目を引くものはない。
リリースされてからミットにボールが収まるまで、捕手のミットがほとんど動いていないことを除けば。
結局根津が見ていた間に失投らしい失投はなく、まだ技術が足りているとは言い難い新入生キャッチャーがブルペンの中でいい音を鳴らし続けた。
「面白い新入生が今年も何人もいるな」
ブルペンだけでなく、グラウンドでも新入生たちが元気よく声を出し、ノックやティーバッティングに精を出していた。
入ってきた新入生たちと、彼らに刺激を受けてさらなる進化をする上級生たち。
さて、今年はどんなチームに仕上がるのかと根津は楽しみで口角がグッと上に上がる。
「夏が楽しみだ」
まだ数か月、しかし、すぐやってくる一年でもっとも球児が燃える夏へ思いをはせた。