―――GoodSmileCompany 今月の標語より。
深い眠りについたのか微塵も起きる気配のない彼女をヘリの機内で抱き抱えたまま、依頼主に依頼達成の報告をしようとして気づく。そういえばさっき壊したなと。
手持ち無沙汰になった俺は、彼女の身じろぎに合わせて揺れる美しい銀髪をさらりと撫でながら、ぼけっと傍らに置いたショットガンを見やり溜息を吐く。
「・・・俺の戦術に合ってるが有効射程が短い。それになんだ?スラグ弾か、フラグ弾しか撃てない上にライフリングが刻まれてる?馬鹿が作った銃だろ・・・」
俺に良い笑顔で渡してきた依頼主と懇意にしているというガンスミス・・・が作った試作品と言う名の廃棄処分品を受け取って実戦でのデータ取りを任されてはいたが、正直、糞ほど信用はしていなかった。ライフリングを刻んだせいでバレルに耐久に難がある可能性があると、俺の義肢をメンテナンスしていたメカニックに、出撃前に説明されてから何時バレルが変形して暴発するか分からない危険な代物を好んで使いたいとは思わない。
現にさっき確認したが、内部のライフリングが煤でかなり汚れていた。多分あと10数発以内にクリーニングしてないと確実に暴発していた筈だ。
耐久性に難あり、早期クリーニングの必要性があり、誇れるのは威力と精度だけ・・・使用弾薬は10ゲージシェル。控えめに言って頭が可笑しいなんてもんじゃない。発射方式はガス圧利用のセミオート。自動廃夾されるタイプだが、廃夾するスリットを覆うカバーがガスで噴射されて開くまでのタイムラグが長い。不満を上げればきりがないが、オリジナルの銃を創ると息巻いていた奴さんには悪いが・・・落第点だ。
轟音とまでも行かないもうるさいローターが回る音を響かせて飛ぶヘリの狭い窓から首を動かして外界を見やり、ふぅと溜息を再び吐き出す。
「俺の名はデッドマン・・・GoodSmileCompany・・・。それしか分からないな。相変わらず・・・」
今回の依頼は貧困に喘ぎ出した俺自身の財布を潤す目的もあって飛び込んだ依頼だった。目論見通り報酬は高かったが、同じくらい胸糞も悪くなった。こんな娘が・・・違法改造された上に、違法人形娼館に流される寸前だったとはな・・。見た感じ、そういう調教を施された形跡が幾分か見受けられる。衣服から覗く、黒のソックスに包まれたむっちりとした太腿や、身長に見合わない巨大に突き出た胸に、男受けしそうな愛嬌のある小顔が、今は俺の胸元に縋り付く様にして目を閉じ、寝息を立てている。
こういう時にこそ、俺の様な死に損ないが何を出来るでもなくせめて眠る彼女を起こさない様に抱き枕宜しく、なるべく衝撃や振動を殺しながら機内の窓から覗く風景を黙って見ていた。
「おお!待ち侘びたぞ!で?サンプルは?」
「この娘がそうか?」
「ああ!そうだとも。ささ、こちらに渡したまえ」
見慣れた光景の我らが基地のヘリポートに特に何もなく無事に着陸して俺は髑髏面を機内に置き去りにしながら、欠伸を噛み殺しつつローターが完全に止まったのを確認してから外へ繰り出す。この娘の寝顔を眺めてたら俺迄眠くなってきた。降りた途端に控えていた白衣のちょび髭を生やした男が喜色満面の笑顔を浮かべ、俺へと駆け寄りながら尋ねてきた。それを、俺は彼女が起きない様に配慮し、顎でしゃくってやりながら聞き返すと、そうだとの事で引き渡しを要求してきた。
当然俺はそれを、笑顔を浮かべて―――――
「カーター・クルザス。貴様にはG&K社の戦術人形に対する違法改造。及びに違法取引による引き渡し実行犯、そして余罪数点に対する逮捕状が出ている」
貴様の罪状が出ていると事実を突きつけ、彼女を左手で抱き抱え直しながら、右手を自動変形した太腿からM93Rをベースに開発された俺専用の大型ハンドガン、オート9を太腿の内部から引きずり出し、そいつの眉間に突きつけながら、我ながらイイ笑顔を浮かべているのだろうなと頭の片隅に思いつつ更に告げる。
「余計な問答はしない。貴様を連行する」
丁度計器やらエンジンの調整やらが済んだヘリのパイロットも操縦席から降りてきて風船ガムを膨らませながら、めんどくさそうにノロノロと胸元のホルスターに収めていたベレッタF92をそいつの足に向けながら俺に話しかける。
「旦那、こいつ馬鹿何で?」
「言ってやるな。大馬鹿野郎だよ」
「な、ななななな・・・」
どもりながら顔面を蒼白にしたカーター容疑者が逃げ出そうと慌てて踵を返して走り出したのを見て、ヘリのパイロットが口笛を吹く。
「ひゅー♪引き籠りにしては早いですな」
「命の危機でブースト掛かってるだけだろ」
「俺は弾代ケチりてぇ旦那。今月やらかして、うちのかみさんがうるせぇんですよ」
「なら良い。任せろ」
ぶー垂れるヘリパイロットに苦笑を漏らしながら、俺は即座にカーターの貧弱そうな脹脛に狙いをつけ発砲する。
セミオートに事前に切り替えていた為、一発の弾丸が奴の左ふくらはぎを貫通し、床に突き刺さる。そのまま奴は走ってた勢いのまま床へとヘッドスライディングを決めて悲鳴を上げる。
「あ、足が!足がぁぁぁぁ!!!」
「ナイスショット旦那」
「お前でも出来るだろ」
「めんどくせぇから俺なら胴体撃つ」
「おい、奴は容疑者な?」
「あ、やべ。忘れてた」
「な、なになに?!銃声!?」
「安心しろ、俺が撃っただけだ・・・」
俺に凭れ掛かり寝ていた嬢ちゃんが飛び跳ねる様に起き出して、周りをきょろきょろと見渡す。そして飛び起きた瞬間に、衣服越しにでもわかるボリュームのある胸の躍動感。ばるんばるん言ってたぞ。密かに心のデータフォルダに先程の衝撃的な光景を保存しながら、俺は蹲ってすすり泣きだしたそいつにオート9の銃口を向け再度伝える。
「貴様を、連行する」
ある意味今日はツイてる日だな。懸賞金が掛ってた馬鹿を依頼とは別口で捕まえれるとは。
オート9を突きつけながら奴を立ち上がらせ、足を引き摺ってでも歩けと強く命令し、背に銃口を突きつけ、立ち上がるのに偉く時間をかけている様にまだ時間がかかると判断した俺は、ヘリパイロットに声を掛ける。
「トニー、この娘を処置室と入浴させる様に他の子達に伝えておいて、案内してやってくれ」
「えぇ・・まぁしゃあなしですな。旦那は?」
「俺達の『指揮官』の元にこいつ引き摺って行って余罪追求と報酬金の分け前を貰いに行く」
「旦那、もう戦術人形扱いは慣れたんですかい?」
「事実そうなのだろう?法律上は」
「すいません・・・」
「・・・・」
トニーのブラックジョークに思わずきつい返しをしながら俺は無言でようやく立ち上がったカーターに罵声を浴びせて急かす。
「何時までうじうじしてるんだ蛆虫が!さっさと歩けボンクラ!」
「ひぃっ!」
よたよたと左脚を引き摺りながら前を歩きだした奴を後ろから追跡して、目まぐるしく変わっていく状況にポカンとしている彼女に思い出したかの様に俺は言葉を投げ掛ける。
「ああ、そうだ。言い忘れてた。ようこそD08地区防衛基地へ。歓迎するぞ」
トニーにもう一度彼女を頼むと伝え、埒が明かないと判断しボンクラを片手で引き摺りながら俺はヘリポートを後にした。さて、どれだけ余罪出てくるかな?罪状が増えれば単純に懸賞金額も査定で上がるからなぁ。たっぷり吐かせるぞぉ・・・!
ほんへと違って人権なしの戦術人形扱い、コールドスリープ状態でD08地区の指揮官の部隊が作戦展開中に施設を発見、たまたまサルベージされて今に至る。ただし詳細な記憶がなく、覚えていることがデッドマンと言うコードネームとGoodSmileCompanyと言う民間軍事会社の名前のみ。この会社名、又はコードネームを知っている者を探す為に傭兵稼業中。そして本名も自分で覚えてない為、もっぱらデッドマンとしか呼ばれない。最初にサルベージされた際に人間ではなく、サルベージ情報を察知した人権保護団体から戦術人形という悪意のある間違いを受け、法律上、人形と定義されてしまった。独立傭兵でありながらG&K社の『所有物』扱いと言うかなり珍しいケースでもある。
しかし、周りの人間や人形達は彼をちゃんとヒトとして扱ってくれるため、あまり気にしていない模様。