この命、君に捧げよう   作:HIKUUU!!!

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格闘?いや、俺は記憶がないんだ・・・自分の戦闘スタイルがどうだったかさえ覚えてない。起動した時に、見たことも無い格闘術で反撃された?すまない。起きた当初の記憶が本当に無いんだ。俺が何処の誰で、何故こんな目に合っているのかもな。

――――死人の再起動後の証言。


早朝のトレーニング

――――風切り音と共に飛来するダミー人形の拳を寸での所で躱し、首を振って躱したせいで飛び散る汗の飛沫が陽光に照らされ、煌めきながら視界の端へと消えていく様を捉えながらも、目の前ののっぺりとしたなんの表情も無いダミー人形の拳に合わせてこちらも反撃に鋭いジャブを放つ。

ボッ!と空気を引き裂く様な音を放ちながら、相手の左頬を打ち据えた拳をインパクトしたと知覚した瞬間に腕を振り抜く。

 

「オォリャッ!!!」

 

気合一閃。咆哮と共に相手を空中へと吹き飛ばし、態勢を整え、拳を再び構える。

 

「シェェアッ!!!!」

 

ダメージも無さげに首を左右に振って、綺麗に着地したダミー人形が果敢に俺へと突撃してきたのを確認し、足を突き出して相手の拳が届く前に、その動きを止める。くの字に曲がった相手の態勢を更に崩してダメージを与えるべく、蹴り抜いた足を引き戻し、軸にした足を一歩踏み込み、今度は外から薙ぎ払う様に回し蹴りを放つ。

相手の右腕を巻き込んでの回し蹴りにダミー人形は吹き飛び、地面を数度転がり、今度こそ沈黙。

 

「・・・・・・ふぅぅ・・・」

 

振り抜いた足をゆっくりと地面に下ろし、荒い息を吐き出しそうになるのを堪えて大きく息を吐き出し深呼吸を行う。

 

「前より、格闘能力が向上してるようだな?デッドマン」

 

「負けっ放しは癪だ。俺だって成長する」

 

横合いから掛けられたディーノの感心したような声に思わず返す。記憶がないとはいえ、今の所一番しっくりくる格闘ぐらいこなせないのでは、俺がここの基地に戦術人形として存在している意味がなくなってしまう。のっぺらぼうの、表情も糞も無い簡素な造りの、強化プラスチックの骨格に肉の代わりに、衝撃用クッションが全身を包むダミー人形が再起動し、所定の待機位置へと戻る。俺はそれを見やり、吹き出す額の汗を右手の義肢で乱雑に払い、蒸気が立つ程熱せられた傷だらけの上半身を脇に置いておいたタオルで拭っていく。

 

「なぁ、いい加減上半身裸で格闘訓練するのやめないか?」

 

「なぜ?」

 

「朝早すぎるせいであまり目撃者がいないとはいえ、お前の裸体を見に早起きを敢行するような戦術人形達がいるんだが?」

 

「俺の様なサイボーグを見に?冗談だろ?」

 

「・・・事実なんだが」

 

ディーノの納得いってない様な表情を見ながら俺はその言葉の意味を反芻する。何故そんな酔狂な真似をするのか良く分からないが、業務に支障がない様にして貰いたいものだな。

 

「救援したあの娘は如何する手はずになった?」

 

「他の娘達と一緒にウチで面倒を見て良い事になったよ。ペルシカリアがカンカンに怒ったらしい。聞けば独自のメンタルモデルを持った稀有な戦術人形だったらしい。彼女の目を盗んで馬鹿な真似をした連中のせいで行方知らずだったらしい」

 

「杜撰な管理だ。創りっ放しの彼女らしいな」

 

「そうはいっても彼女が大事に管理していた人形を目を盗んでまで違法娼館に流そうとするなんてよっぽど彼女に恨みがあったんじゃないのか?盗み出した奴は。彼女の人形に対する愛情をよく理解している」

 

「だからこそ、実行したんだろうさ。それが最もダメージになるのを理解しているからな・・・」

 

俯きながら、そんな程度のバックストーリーだと思ってはいたが、個人の恨みから巻き込まれての被害のあの小さな娘に同情を禁じえない。所有物としての自由しか、戦術人形の彼女達にも、俺にだって、そんな程度の物しかない。管理され、使い潰されるまで戦い続けるしかない。まぁ。このお人好しの指揮官と、あの何時も会う度に気だるげにしながら俺の体を触診と称して良く触ってくるエロ猫がここの人形達ぐらいはと大事にヒトの様に扱ってくれるからな。あまり実感はないが・・・

 

背後から視線を感じ、振り向きながら、視線の先の主へと声を掛ける。

 

「態々、個人的な訓練にまで視察とは恐れ入る。隊長殿」

 

「・・・デッドマン、服着ろ。早く」

 

「な、なななな・・・別にあんたが心配で見に来たわけじゃないんだからぁぁぁぁぁぁ!」

 

「・・・彼女は、何がしたかったのだろうな?」

 

「だから、わーちゃんも見てるんだって」

 

「嘘だろ?真面目で他人にも自分にも厳格な彼女が?」

 

物陰からこちらをきっと睨みつける様に様子を窺っていたWA2000に声を掛けると、彼女は、驚愕したように顔を赤らめて叫びながら、トレーニングルームを走り去っていってしまった。ディーノの一言にそれはないだろうと笑い飛ばし、物陰から更に出てきた他の戦術人形達の走り去っていく姿に思わず俺自身も、真顔になる。

 

特徴的な後ろ姿で全員把握してしまったが、慌てて逃げて行くカウガールに、朝から菓子を頬張りながら逃げて行く人懐っこい水色髪の娘、エプロン姿の豊かな茶髪にジーンズのスプリングフィールドが悪びれもせずに、こちらににこりと笑い、最後に優雅に去っていく姿に、俺は頭を抱える。

 

何やってるんだ此奴ら・・・!

 

「だから言ったじゃないか」

 

「今度からアンダーウェアだけでも着用しておく・・・」

 

ディーノの疲れたような一言に、頭を下げて反省する。風紀を乱すつもりは微塵もない。許してくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アンダーウェアを着て、一息ついた俺はたまたま早起きしたディーノに今日は休日なのだから、もう少し休んだらどうだと提案し、MK23がディーノを探してここまで来たため彼女にディーノを任せ、地下にある防音設備が整った普段は人が来ない射撃訓練場にオート9を太腿の開口部から抜き出し、ヒト型に配置された的をサイト上に見つめて発砲。

 

「当たらない・・・!」

 

狙い通りの筈なのに、ヒト型に配置された的の左上を3発の銃弾が通り抜け、奥の壁を叩く。前回の容疑者確保の時は上手く狙えたのに、糞!やはり俺は射撃が下手なのか・・?!

 

苛立ちから熱中する様に片手で構えたオート9を何度も連射するが、思った様に軌道上の的を弾丸は貫かない。9㎜の弾丸が奮起する俺を嘲笑う様にチュイン、カンと奥の壁を叩いて消えて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――温かい。消えたと思った記憶なのに、ヒトだった頃のお母さんの安心できる温もりに抱かれているような安心感に包まれながら、私は覚醒した。

 

「ここは・・?」

 

目覚めた私は、全てを思い出した。そうだ、私・・・あの髑髏の不気味な強化外骨格の人間に助けられたんだった・・・

のそりと掛けられたタオルケットを半分に畳んで、ぼーっと思い出しながら、だるさが残る体を動かして、誰もいないガランとした治療室を見渡す。

 

「誰もいない・・・」

 

あの傷だらけの顔面で、凄味があったのに妙に優しかった背の高い全身義肢のデッドマンと呼ばれていた男の人の姿を無意識に求めて、私はふらふらと歩き出した。

もう、私は玩具になんかなりたくない。初めて安心できたの。男の人と一緒にいて・・・あの人を探さなきゃ・・・

 

素足のままぺたぺたと治療室の自動ドアを潜り抜けて、何となくこっちの方にいそうと予感がした方へと歩いていく。ふらつく体は頼りないけれど、気を抜くとあの男達の下卑た笑い声と欲望をぶつけられた時の事を思い出しそうで、一刻も早くあの人に会いたかった。

 

ふと、何処からか、微かに私の耳に最近聞いた特徴的な銃声を聞きつけてそっちの方へとふらふらと歩いていく。

 

「当たらない・・・!くぅ!」

 

地下へ潜る階段を抜けた先に、こっちに背中を向けて的に向かって大きなハンドガンを構えて、右手だけで発砲している全身義肢の背の高い白髪の男性の後ろ姿に自然と笑みが出て、私は抱き着く。

 

「おはようございます」

 

「!?・・・集中し過ぎてたか。おはようHK417。少しは休めたか?」

 

「はい」

 

急に彼の腰に抱き着いた私に驚いたのか、トリガーに掛けた指をすぐさまトリガーから離しながら、振り返って私の姿を見た彼は驚いた様に表情を変え、すぐさま跪いて私の顔色を覗き込んできた。太腿に大型のハンドガンを収納しながら私の顔を覗き込む真剣な表情に思わず私は気が抜け、彼の体に凭れ掛かる。

 

「大丈夫か?やはり体力が戻り切ってないようだな・・・楽にしてるんだ。今治療室に運んでやる」

 

私の返事も聞かずに、私の体を壊れものを扱う様に丁寧に横抱きにした彼は大股で歩きながら私の来た道を戻って行く。彼の汗ばんだアンダーウェアに顔を埋めながら、何時もは嫌いな男の匂いなのに、彼のだけは違う特別なものに感じられ、鍛えられた胸元に顔を押し付ける様にしてバレない様に吸い続ける。

くらりとくるような濃厚な雄の香りより、彼の上昇した体温の温もりに何よりも安心感を覚えて私は再び眠ってしまった。

 

彼の・・・此方を心配そうにのぞき込む姿に、失礼ながら、大型犬の様な何とも言えない可愛さに笑みを零しながら・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シベリアンハスキーデッドマン
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