英雄戦姫WWX二次創作「ブリテンのベーゴマ事情」   作:シベリア!

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第二回人気投票にてランスロットの順位が少しでも上がることを願い、英雄戦姫二次創作を書きました。
どうか寛大な心で見てやってください。
もし面白いと思っていただけたら、第二回人気投票にてランスロットに一票をお願いします。

(pixivにも同じ内容の作品を投稿しています。)


英雄戦姫WWX二次創作 『弟殺しの伊達政宗』

 

(注)拙作『裏切らない呂布なんて呂布じゃないやい』『裏切っても、カナヅチでも、

  命乞いをしても、知力26でも、それでも呂布はカッコイイ』の続きになります。

 

シャドウナイト一味によるチハヤ誘拐事件から一か月後。

ランスロットは正妻証明書を返上して行方を眩ませたまま、魔法剣アロンダイトは折れたままである。

 

「お……おえぇぇぇ~~~」

 

その日、厠で伊達政宗が吐いていた。

吐瀉物がツンとした匂いを周囲に散らし、陰鬱な気分を倍にさせる。

 

「う……ぐ、ぐえぇえぇ~~~」

 

胃の中の物が空になる勢いで吐く。

愛する弟にして愛する夫であるチハヤの手料理が胃液に混じって厠に落ちる。

 

嫁の数が増える度にチハヤは多忙になっていく。

手料理が食べられる機会も、同じ食卓を囲う機会も、徐々に……しかし確実に減りつつあった。

そんな希少な機会を自ら台無しにしてしまったと思うと、政宗はさらに陰鬱な気分になった。

 

「近頃は随分とマシになってきたと思っておったのだがな……」

 

懐紙で口を拭う。

この発作が出たのは数か月振りだったが、何故か前に起きた時よりも何倍もむかつきが強いような気がした。

 

こうなった原因は分かっている。

先日ランスロットとランスロットのそっくりさんに幻術をかけられ、そのまま抱かれた事。

そしてそれをよりにもよってチハヤに見られた事だ。

チハヤ以外の男の肉棒を咥え込み、あんあんと淫らに喘ぎ声を漏らし、そして……そんな事を考えると、悪寒と吐き気がまた強烈になった気がした。

 

いや、あの出来事は病状を悪化させた原因であって、今この吐き気を生じさせた根本的な原因ではない。

原因の原因は別にある。

 

原因の原因……それにすぐに思い至る。

それはヘドロのように政宗の心にへばりつく、纏わりつく、忘れたくとも忘れられない記憶……かつて伊達政宗は実の弟に殺されかけ、実の弟を斬り殺したのだ。

 

チハヤを拾う少し前、政宗は母と弟と同じ食卓を囲った。

義経と頼朝のイザコザに盛大に巻き込まれ、なんやかんやで多忙であったため、政宗にとっては数ヶ月ぶりの家族の食事、家族の団欒であった。

その日の食卓には、彼女の弟……伊達政道・通称小次郎の手料理があった。

『クッキング大名』の異名を持つ程の料理好きの政宗に比べれば拙い出来であったが、弟が自分のために作ってくれたのだと思うと、本当に本当に心が暖かくなった。

 

その手料理に毒が盛られていた。

 

政宗は舌が痺れる感覚に気付いた瞬間、即座に縁側に走り胃の中の物を残らず吐いた。

喉の奥に指を突っ込み、無理矢理吐いた。

そして胃と食道が炎上したかのような耐え難い苦痛に喘いでいる時に、小次郎がそっと背後に近づいて……刀を抜いたのだ。

そこから先はよく覚えていない。

頭が真っ白になって、必死になって手足を動かし、脇差を抜いて……気が付いた時には、血塗れの床、血塗れの脇差、そして血塗れの小次郎だ。

震えながら首筋に手を這わせ……その時、既に小次郎は事切れていた。

 

あの日、あの時、伊達政宗は実の弟に殺されかけ、実の弟を斬殺したのだ。

 

……

 

…………

 

………………

 

一方その頃、チハヤは円卓の騎士の1人、モードレッドとデートをしていた。

無論、彼とて先日の騒動以降、政宗の体調が思わしくない事には気づいている。

 

本人は『大丈夫』とか『心配はいらない』とか言ってはいる。

言っているが……チハヤの目から見て政宗は明らかに気分も具合も悪そうだったし、そうなった原因に心当たりもあった。

 

医者でもない自分にできる事は無いのかもしれないが、それでも家族として、弟として、そして夫として、心の支えになれないものかと考えてしまう。

実の所、モードレッドとのデートは早々に切り上げて姉の所へ駆け戻りたい気持ちで一杯だ。

 

だがしかし、モードレッドとのデートは前々から約束だけはしていたものの、やれ封印獣が出たとか、やれ英雄が行方不明になったとか、果てはオーディンの迷宮に殴り込みをかけるとか、そういう突発的な出来事が原因で延期、中止を繰り返し、なんやかんやで2年近くもお預けになっている。

この上、姉の体調が思わしくないからと延期を告げるのは気が引けた。

流石に、いくらなんでもモードレッドが哀れ過ぎる。

 

なのでチハヤは、せめて事態が急変した時にすぐに駆け付けられるよう、ジパング内でのデートをお願いした。

本当は詫びの印に新衣装の1つや2つプレゼントするべきだったかもしれないが、姉の事が心配で心配でそこまで気が回らなかった。

 

「すまない、待たせてしまったか?」

 

チハヤが待ち合わせの場所に到着する。

 

「いいえ、私も今来たところです」

 

モードレッドがある意味お約束の返事をして微笑んだ。

 

モードレッドの言葉が嘘だという事をチハヤは知っている。

朝食をとっている最中、急に顔色を悪くして厠に駆け込んだ政宗が気になって、部屋をのぞき込んだり、意味も無く行ったり来たりを繰り返している間に時間が過ぎていた。

慌てて身なりを整え、馬を走らせたのだが、約束の時間には思い切り遅刻していた。

 

「その……本当にすまない、姉さんの事が気がかりで……

 デートの行先も仙台城近辺に限定してしまって」

 

「良いんですよ。 それだけ家族想いという事ではありませんか。

 私はむしろ、貴方のそういう所が見れて嬉しいと思っています」

 

モードレッドはまた笑う。

その笑顔を見て……チハヤは少し違和感を覚えた。

 

記憶の中のモードレッドとどこか違うように感じ……声や表情の端々に『緊張』の色があると気づくのに、そう時間はかからない。

 

「モードレッド、俺相手に敬語は使わなくても良いよ」

 

チハヤがそう指摘する。

以前は敬語では無かった筈と記憶していた。

一応、記憶はしていたが……微妙に曖昧な記憶だ。

 

「(……考えてみれば、モードレッドとまともに会話したのは何年前の事だろう)」

 

チハヤは頭が痛くなった。

重ねて言うが、チハヤとモードレッドは夫婦の筈だ。

例えどれ程形骸化していようが、チハヤとモードレッドは夫婦だった筈なのに……

 

「え、ああ……あの、すみませ……じゃなくて、ええっと……」

 

思わぬ指摘にモードレッドは驚き慌てる。

2人きりで会う事も、正面から話しかける事も、物凄く久しぶりだったからか、自分がどういう風にチハヤに話しかけていたのかを忘れていた事に気が付いた。

 

「えっと……こほんっ!! じゃあ行きましょう。 時間は限られているのだから。

 ……こんな喋り方で良かったかしら? ちょっと馴れ馴れしくない?」

 

「それで良いよ。 もう家族なのだから」

 

そう言うとチハヤはモードレッドに手を差し伸べる。

モードレッドは緊張した面持ちで、肩を強張らせながら、そっとチハヤの手を握る。

少女の顔は誰にでも分かる位に真っ赤で、広いおでこは汗で一杯だった。

 

「それで、モードレッドはどこに行きたいんだ?」

 

「ええ、色々考えたのだけど……今日は政宗の所縁の地を巡ってみたいわ」

 

「姉さんの?」

 

「ええ、だってあの人とも家族になる……

 まあ、もう結婚しているから家族になってるの方が正しいのでしょうけど。

 とにかく家族なのだから、もっと政宗の事を知っておきたいのよ」

 

「そうだな……」

 

考えてみれば、チハヤは伊達政宗の人生を良くは知らない。

どんな性格で、何を好み、何を嫌うかは概ね理解しているとは思うが、彼女がどのような人生を歩んできたのかは殆ど知らない。

 

だからチハヤは少し笑って頷いた。

 

「うん、良いな。 俺もそうしたい」

 

「じゃあ早速向かいましょう」

 

そうしてチハヤとモードレッドのデートが始まった。

 

……

 

…………

 

………………

 

小川の畔に、小さな小さな石碑が建っていた。

人が歩いて渡れる位の小さく浅い川だった。

まだ新しいように見える石碑はどうやら慰霊碑の類で、何やら難しい漢字が長々と書かれていた。

 

「……ナムナム、ナムアミダブツナムアミダブツ」

 

モードレッドが石碑に花を添えると、目を閉じて手を合わせ、微妙にイントネーションが変なお経モドキを唱えだす。

 

「君って、キリスト教徒だったんじゃ?」

 

「郷に入っては郷に従えというのは、ジパングの言葉じゃなかったかしら?」

 

「それはまあ、そうだけど……」

 

お互い異教に厳しい態度だったようなと少し考えて……やめた。

こういうのに大事なのは相手を敬おうとする気持ちなのだろうと適当に結論付けて、チハヤもまたモードレッドの隣で静かに手を合わせる事にした。

 

「……この場所で、政宗の父親……伊達輝宗が亡くなったの」

 

石碑の前で、モードレッドが独り言のように呟く。

 

「姉さんの?」

 

そう言われてみて初めて気づく。

政宗と出会って結構経つが、一度も彼女の父親に会った事は無いし、話題に出た事も無い。

 

「どんな人……だったのかな……?」

 

「私も会った事は無いけれど、優しい人だったという話は聞いているわ」

 

「優しい人か……」

 

「でも、優しすぎたとも」

 

「優しすぎた?」

 

「輝宗が政宗に家督を譲って間もない頃、政宗に追いつめられた豪族が、

 隠居した輝宗に泣きついたのよ。 どうか降伏を認めてほしいって。

 でもその降伏は見せかけだったの」

 

「何かの陰謀があったのか?」

 

「ええ、そいつは輝宗を誘拐、人質にして政宗を脅そうとしたの。

 父親が誘拐されたと聞いて、政宗は急いで兵を集めて追いかけたわ。

 そして追いついた場所が……ここだった」

 

モードレッドは自身の足元の石碑にぽんと手を置いた。

 

「ここで何が起きたんだ?」

 

「政宗は父親ごと敵を射殺した……とか……」

 

……瞬間、ぞくりと背筋が凍った。

 

何をモードレッドが言ったのか一瞬理解できなかった。

チハヤの最愛の妻、最愛の姉である伊達政宗が肉親を撃った……とてもとても信じられない、いや信じたくない言葉であった。

 

「本当……なのか……?」

 

「う~ん、実際の所は私も分からないわ。

 逃げられないと悟った犯人が輝宗を殺したとか、輝宗が自害したって話もあるわ。

 確かな事は……この場所で政宗のお父さんが命を落としたという事だけ」

 

「そうか……そうだよな、姉さんが父親を殺すはずが無いよな……」

 

チハヤがもう一度手を合わせ、深々と頭を下げる。

どうか安らかにお眠りくださいと心から祈る。

 

だが同時に……

 

「(姉さんが……姉さんがそんな事、するはずが無い……無いよな……)」

 

……心の奥底で、言いようのない不安、言いようのない疑念が生まれつつあった。

 

……

 

…………

 

………………

 

何か所かの政宗所縁の地を訪れ、これが最後とモードレッドが言った場所に辿り着いた。

 

「伊達小次郎の墓……か……」

 

それを目にした瞬間、チハヤはまた不安に苛まれた。

何か見てはいけないものを見て、聞いてはいけないものを聞いてしまうような……何とも説明し難い不安、表現し難い恐怖があった。

 

それでも、もう十分見て回ったとか、そろそろ切り上げて帰ろうとは言えなかった。

あるいはこの場所が、最愛の姉である伊達政宗の闇を暴く場所だとしても、そうだとしてもチハヤは……

 

「(俺は……姉さんの事を知りたい……

 姉さんにとって、知られたくない事も入っているかもしれないけれど……)」

 

何となく嫌な予感がしつつも、チハヤは知りたいと願っていた。

否、願ってしまっていた。

 

それは明確な根拠を持たない直感的なものであるが、何となくこの墓の事を知れば、この墓に葬られている者を知れば、政宗の不調の原因を知る事に繋がるような気がしたのだ。

 

「モードレッド、この場所は?」

 

「伊達小次郎……政宗の弟が埋葬された場所……と、伝わっているわ。

 私も詳しくは知らないのだけど」

 

「弟……姉さんの弟が……?」

 

今まで見た事も、聞いた事も無い伊達政宗の弟が目の前の墓所に埋葬されている……チハヤは頭をガーンと殴られたかのような衝撃を感じていた。

しかもチハヤの受ける衝撃はそれだけではなかった。

 

「姉さんの弟……一体、どんな人で……何故死んだんだ……?」

 

聞きたい、聞きたくない。

知りたい、知りたくない。

全てを忘れて立ち去りたいという気持ちと、政宗の生涯、政宗の家族と向き合いたいという気持ちが入り混じりつつ、チハヤはモードレッドに解説を求める。

 

「家族仲は……あまり良くなかった……らしいわ……

 歴史や権威のある家では良くある事だけれども、水面下の後継者争いがあって……」

 

「後継者争い? まさかそれで……」

 

「それは……それは、分かっていないわ。 だけどこの……

 この、小次郎という人は本当に突然急死して、死因も何も隠されているから……

 政宗が謀殺したのではないかって噂が……」

 

そこまで伝えると、モードレッドが沈黙する。

 

そうしてモードレッドが沈黙すると、チハヤもまた沈黙してしまった。

最愛の姉に自分の知らない弟がいた。

その弟が死んでいた。

死んだ原因が殺しで、その犯人が最愛の姉なのかもしれない。

 

文字にすれば、言葉にすればたったそれだけの事だが、それは超ド級の衝撃と共にチハヤの心に大きな大きなひび割れを生じさせる。

 

重い重い沈黙の帳が2人を包む。

何か言わなければと思いつつ、何を言えば良いのか分からない。

チハヤは死んだ政宗の弟の事をもっと聞きたい、聞かなければと思いつつも、何を聞くべきか、聞いて良いのか、聞いても後悔しないかと自問自答が繰り返され、何の言葉も出せなくなった。

モードレッドはそんなチハヤの苦悩や動揺を多少は察しつつも、何と声をかければ良いのか分からなくなっていた。

 

そんな2人の沈黙を破ったのは、墓の前で佇む2人に近づく1人の足音……

 

「……貴様、ここで何をしているか」

 

その言葉には静かな怒気があった。

その言葉には静かな殺意があった。

その言葉には静かな敵意があった。

およそ友好的とはかけ離れたその言葉を投げかけたのは……チハヤの最愛の姉、最愛の妻、伊達政宗であった。

 

「姉さん! 教えてくれ姉さん! 俺の他に弟がいたのか!?

 その人は何で死んだんだ!? 姉さんが殺したのか!?」

 

瞬間、チハヤは叫ぶ。

 

「お父さん! そうだ姉さんのお父さんだ!

 いや俺は姉さんの弟だから俺にとっても父みたいなものだ!

 いつ死んだ!? 何故死んだ!? 姉さんが殺した!?

 いや違う姉さんがそんな事をするはずが無い!

 するはずが無いのに心が痛いんだ! 胸が痛いんだ姉さん!」

 

心の中がミキサーでかき混ぜられたかのようにぐしゃぐしゃだった。

何でも良い、どこでも良いから吐き出したかった。

政宗の顔を見た瞬間、堰を切ったかのように次から次へと問いがでた。

 

そんなチハヤの姿を見て、声を聴いて、政宗は今までチハヤが見た事も無い程に強い強い嫌悪の表情になり……

 

「……お前には関係の無い事だ」

 

その一言でチハヤの問いを拒絶した。

 

「関係……無い……?」

 

チハヤは愕然とした。

足元が崩れるかのような感覚だった。

 

「そんな事よりもだ、何故ここに来た? どうやってここを知った?

 答えろ……返答次第ではタダでは済まさん」

 

政宗は今にも飛び掛かって来そうな程、全身に殺意を滾らせていた。

 

「どうって……前に休暇でこっちに来た時に、地元の人に政宗の事を聞いたのよ。

 そうしたら普通に教えてくれて……普通に教えてもらったのよ。

 貴女のお父さんと弟さんが葬られているって。

 政宗の家族なら私にとっても家族になるから、

 こっちの流儀でお墓参り位しないと不義理になると思って……それで……」

 

そこまで言った所でモードレッドの言葉が止まる。

言えば言う程に政宗の怒りと殺意が強烈になっていた。

まるで親の仇を見るかのようにモードレッドを睨みつけていた。

その鋭い眼光に、モードレッドは思わずたじろいでしまう。

 

「……他人の家庭事情に土足で踏み入るな」

 

「他人……? 他人って、それは無いでしょう!? 私だって……あうっ!」

 

モードレッドは『私だってジパング王の妻の筈だ』と続けようとしたが、それは叶わなかった。

その言葉を言い切る前に政宗がモードレッドの胸元を掴み捩じ上げたのだ。

 

「次は無いぞモードレッド。

 もしこれ以上こちらの領地でふざけた真似をしたら、その時は……」

 

政宗はその先を口にしなかったが、チハヤにも、モードレッドにもその先の言葉はすぐに理解できた。

『その時は殺す』と政宗は続けようとしたのだ。

政宗は本気でモードレッドを殺す気なのだ。

 

「帰るぞ、弟よ」

 

政宗はそう告げた。

 

「ま、待ってくれ姉さん。 今日はモードレッドのために時間を……」

 

「黙れ」

 

政宗はチハヤからの抗弁を即座に切り捨てた。

 

「モードレッドだって悪気があって俺をここに連れてきた訳じゃない。

 いや……俺の方から頼んだんだ、もっと姉さんの事を知りたいって」

 

「黙れぇっ!!」

 

政宗は再びチハヤの言葉を遮った。

それは大きな怒気を内包した声だった。

普段の政宗からは想像もつかない声であった。

 

「あの……ご、ごめんなさい。 謝罪するわ……いえ、謝罪します。

 貴女のご家族の事を調べた事も、ジパング王をこの場所に連れてきた事も……」

 

モードレッドは政宗の前で深々と頭を下げた。

表面上取り繕ってこの場を切り抜けようという魂胆ではない。

モードレッドの本心からの言葉だ。

 

「……行くぞ」

 

政宗はそんなモードレッドに視線すらやらず、チハヤの腕を掴んで立ち去る。

チハヤはそんなモードレッドの為に何かを言おうとしたが……結局何も言えず、政宗と共にその場を後にした。

 

いや、後にしようとしたが……直後に起こった異変で2人の足が止まった。

 

「政宗ぇっ!! 政宗聞こえるかっ!! 儂を撃てっ!

 儂ごとこの不埒者を討てっぇ!! 儂はどうなっても構わん!」

 

突然、そんな声が聞こえてきた。

何事かと3人が周囲を見回すと、いつの間にか置かれていた記録石が空中に奇妙な映像を映写していた。

 

「父……上……?」

 

政宗の目が驚きで大きく見開かれる。

思わず漏れたその言葉で、チハヤとモードレッドは映像の人物が伊達政宗の父・伊達輝宗なのだと分かった。

 

「政宗ぇっ!! 何をしている儂を撃てぇっ!!

 儂がこのまま敵中に囚われてしまえば奥州はどうなる!? 伊達の御家はどうなる!?」

 

映像の輝宗は何度も何度もそう懇願していた。

そしてそこで、チハヤは映像の場所が小川の畔……ついさっきモードレッドと共に訪れた、政宗の父が死去した場所だと気が付いた。

 

「……撃て」

 

そして伊達政宗の声がした。

冷徹で、冷酷で、残酷で、残忍で、聞くだけで背筋が凍る恐ろしい声だった。

無論、それは今目の前に居る政宗が発した声ではない。

記録石が映写する映像の中の政宗が、父を殺せと命令したのだ。

 

「し、しかしそれでは御父上が……」

 

「構わぬ、撃て」

 

躊躇する伊達の家臣らしき人物に、もう一度命令を下す。

 

「……早く撃てぇっ!! このままあ奴らを逃がすつもりかぁっ!」

 

映像の中の政宗が叫ぶ。

そして次の瞬間……ズダンッ!! と銃声が響き、伊達輝宗の顔に穴が開いた。

 

政宗は……今現実にこの場にいる伊達政宗は顔面蒼白だった。

絶句して、震えて、映し出される映像から目が逸らせなくなっていた。

 

その光景は政宗の独眼にしかと焼き付いた光景そのままだった。

記憶の中との違いが全く見つからないのだ。

それはあの日、あの時をそのまま録画、録音したかと思う程だった。

 

「ばか……な……こんな……」

 

政宗は今にも膝から崩れ落ちそうな程に動揺していた。

その政宗の動揺が、驚愕が、あの日の光景を知らぬチハヤとモードレッドにも伝わり、映写された情報の真実味を持たせてしまう。

 

「そんな……姉さんが……姉さんが、お父さんを……殺し……」

 

チハヤもまた驚愕の余り倒れそうになっていた。

優しくて、強くて、時々厳しいが、どこまでも深い愛情を持った姉が、事情はあったにせよ自らの父親を殺したという事実が、チハヤの心にキリで穴を開けられるような痛みを与えていた。

 

だがしかし、チハヤと政宗をさらなる地獄に叩き込む出来事が直後に起こった。

記録石が映写する映像が切り替わり……政宗が食事をするシーンになったのだ。

 

「これは……?」

 

映像の政宗は笑っていた。

 

心の底からリラックスできる場所、時間なのだろうか。

良く見れば政宗の家族か、友人らしき人物の姿があった。

妙齢の女性が1人、やや幼さを残した男性が1人……チハヤとモードレッドはその人物に心当たりはない。

しかし、政宗には瞬時に誰が映ったのかが分かった。

そして同時に、それがいつ、どこの場面を映しているのかも分かってしまった。

 

「いかんっ!? 見るなぁっ!!」

 

政宗はそう叫び、チハヤとモードレッドの目を塞ごうとした。

だがしかし、チハヤもモードレッドも政宗よりも身長があった。

慌てて同時に2人に対処しようとしたため、どっちも中途半端な視線塞ぎしかできなかった。

それこそ、得意のアッパーカットを顎か鳩尾に叩き込めばどうにかできたかもしれないが、今の政宗にそこまでの冷静さは無かった。

 

「う……ぐ、ぐえぇえぇ~~~」

 

……そしてその時が来た。

 

映像の政宗が急に口元を押さえて縁側に走り、胃の中の物を残らず吐いた。

喉の奥に指を突っ込み、無理矢理吐いた。

 

料理が不味かったのではない、腐っていたのでもない、その異常事態の原因は毒だ。

料理に毒が盛られていたのだ。

 

「やめろぉっ! 見るな、出すなぁっ!!」

 

そして次の瞬間、先ほどまで食事し、談笑していた男性が刀を抜いて政宗の背後に立った。

震える手で八相の構えをとり……政宗目掛けて振り下ろした。

 

「曲者っ!?」

 

映像の中で政宗は咄嗟に避けた。

いや避けただけではない、腰に差した小太刀を抜いて、背後から襲ってきた者の脇腹に深々と突き刺したのだ。

 

「が……はっ……!!」

 

男が血を吐いて倒れる。

窮地を脱した政宗は安どの息を……漏らさない。

目の前の光景が信じられないような、愕然とした表情になったのだ。

 

「小次郎……小次郎っ!? 何でっ!? どうしてだ小次郎ぉっ!?」

 

政宗がさっき自ら突き刺した小太刀を抜こうとして……止まる。

迂闊に引き抜けば、かえって出血が激しくなって本当に死んでしまうかもしれないと思いなおしたのだ。

 

「誰かっ!! 誰かあるかっ!! すぐに医者を呼べ! 手当の布を持ってこいっ!!」

 

政宗が叫ぶ。

絹や金糸で彩られた見るからに高そうな着物を引き裂いて、男の止血に使い始める。

 

「小次郎しっかりせよ! お主は儂の弟であろうが!

 何のつもりかは知らぬが死んではならぬっ!! 死ぬんじゃないぞ!!」

 

政宗は目に大粒の涙を溜めていた。

政宗が小太刀を刺した場所は急所だった。

小次郎と呼ばれた男の肋骨を避け、内臓に致命的な損傷を生じさせていた。

 

そして……

 

「よくも……よくも父上を……殺し……こ、殺したな……」

 

……男はその言葉を最後に事切れた。

 

「嫌だ……嫌だ小次郎! 死んでは駄目だ!

 まだやりたい事が一杯残っている! 一緒にやりたい事が沢山あるのだ!

 大船に乗って世界中を旅したい!

 色々な人に会い、2人で苦労も楽しい事も分かち合いたい!

 もっと手料理を食べさせて、お前の手料理も食ってみたい!

 ああそうだ、嫁の世話もしてやりたかった!

 儂の弟の嫁なのだ、きっと世界一の嫁だぞ!

 何人でも何十人でも、いいや何百人だって良い嫁を見つけて来てやるぞ!!

 だから死ぬな小次郎!! 死ぬな弟よぉっ! 死なないでくれぇっ!!」

 

映像の中で政宗がそう叫んでいた。

映像の中で政宗は泣いていた。

どんどん息が弱弱しくなり、体温が消えていく弟を前に慟哭していた。

 

それは……その光景は、伊達政宗にとってチハヤにだけは絶対に見せたくない、知られたくない光景であった。

 

「俺は……俺は本物の弟の替わりだったのか……」

 

その時政宗の耳に届いた言葉は、この世で最も聞きたくない言葉であった。

 

 

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