地底怪獣記   作:トロス

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第四話

闇夜の森から喧騒が鳴り響く

 

 

甲高い鳴き声を上げながら角を前面に向けて突進するバラゴン。

それを横っ飛びでかわし、すかさずバラゴンにのしかかって背中を噛むスカルリーダー。

だがバラゴンの硬いヒダに阻まれて牙が通せない。うっとおしいと思ったバラゴンが振り落とそうと体を左右に激しく揺らすが、スカルリーダーはアゴのほかに四肢とバラゴンの右後ろ脚に尻尾を巻き付けて体を固定しているためなかなか外れない。

埒が明かないと踏んだバラゴンは来た道を逆走して森へと向かう。

 

視界が限定される暗い森の中で石かなにかを蹴飛ばしながらひた走る。シダが生い茂る木々に体ごとぶつけ、塞ぎかかっていた傷口が開きながらもスカルリーダーを離そうとするが離れない。

それでも二・三回と木にぶつけ続け、背の低い雑草が群生した広場に躍り出たところでスカルリーダーはようやく離れた。あちこち木々にぶつけられた反動か、その全身は擦り傷だらけで鎧も一部破損している。

今度はバラゴンがお返しとばかりにスカルリーダーの鎧に覆われた背中に噛みつき、そして投げ飛ばす。

今度はまともに受け身もとれずに地面に打ち付けられる、スカルリーダー。

 

再度突撃するバラゴン、スカルリーダーはもがいているがその場から動けない。今度はバラゴンの突進がまともにぶち当たり、スカルリーダーは再び夜空を舞った。

墜落したスカルリーダーが派手な土煙を上げて姿を視認できなくなったバラゴンは煙の中で逆襲を受けることを考え、追撃できないでいた。

煙が晴れてから再び突撃しようと思ったバラゴンに

突然地面を割って、長くぬめりけのある赤いなにかが飛び出し、べちょりと顔面を打った。

たまらずひっくり返ったバラゴンを見て地中から這い出てきたのはやはりというべきかあのスカルリーダーであり、先ほど飛び出てきた赤い何かは・・・彼の舌だった・・・。

 

 

そもスカルクローラーという種族は、地上性の者が多い肉食恐竜のなかでも変わり者に位置し、地面を掘削して住処を作るバラゴンと同じ「地底恐竜」の一種である。

そんな両者が互いの存在を認知していながらもこれまで目立った衝突がなかった理由は、バラゴンが土壌が安定しやすい森林の地面を住処とするに対し、スカルクローラー達は水辺から少し離れた場所に巣穴を作っているとお互いがうまく住み分けており、普段は魚や森の外に出て獲物を狩猟して活動しているスカルクローラーと、滅多なことでは森の外へと出ないバラゴンとは折り合いがよく、この地域で共存してから一ヶ月以上経っても時折小競り合いが起きるだけで済んだ。

しかし最近はゴロザウルスの群れがスカルクローラー達が狩場としていた丘陵地帯に侵攻してきた。

それによって縄張り争いが起こり、獲物となる草食動物達もあまり寄り付かなくなってしまい、ナワバリ近くの魚や虫などで飢えを凌ごうとする個体も増え始めた。

その生活に我慢できず、無理にでも丘陵地帯へ狩りに行こうとする者も少なからず存在し、スカルリーダー達はその中の一つだった。

 

 

起き上がったバラゴンを確認して、再度地中に潜るリーダー。

それを見たバラゴンも後を追うべく、顔面を耳で覆って潜行する。

騒がしかった地上は再び静かになった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

時速30kmで岩を砕きながら地中を掘り進む二頭は深度40mのところで暗闇の中会敵し、そのまま正面衝突(頭突きあい)した。

パワー差はほとんどなく、同じところで土を掻くだけにとどまっている。

膠着を嫌った両者は押しつけていた頭を横へとずらして均衡状態が解け、間を置かずにお互いの鼻っ先に噛みついたり背中にのしかかったりと殴り合いに移行する。

しばらく交戦が続いた後、突如として両者は横穴を掘り始め、瞬く間に姿を消した。

と同時にそれまでいた地下洞の天井が崩れ、土砂に埋もれてしまった。

このように地中で戦うということは崩落の危険と常に隣り合わせということでもあり、必然的に対戦時間は短くなる。

地上にいる相手に対しては地中からの奇襲は基本的に有効だが、地中を住処とするもの同士にとってその優位性は消滅し、この戦いはいかに崩落するか否かの状態を見極めれるかが重要なのだ。

バラゴンがスカルリーダーを捜索しながら地中を掘り進むこと数分、背後から痛みが走った。

そこには天井からスカルリーダーの頭がニョキリと伸びており、尾の付け根当たりに噛みついていた。

噛みついているところに尾で叩いて放し、スカルリーダーのいる方に向かって掘削する。

スカルリーダーはいったん後退し、自身が掘った坑道を使って通ってくるバラゴンを生き埋めにしてやろうと天井を破壊し始めた。

直後、それを見越してスカルリーダーの直下から勢いよく出土したバラゴンが体当たりを仕掛け、みごと鎧に覆われていない胸部に命中した。

バラゴンの攻撃にはじかれたスカルリーダーは低い天井に激突。軽くせき込んだ後、のびてしまった。

そのすきにスカルリーダーの右前脚に噛みついて自分の掘った穴へと引きずるバラゴン。

気絶しているうちにスカルリーダーを二度と這い上がれないように地下深く埋めてしまおうと考えたのだ。

バラゴンが首以外のほぼ全身が穴に入った途端、スカルリーダーが目を覚ました。

激突の時のダメージのせいで少し意識が混濁していたが、ズルズルと引きずられる感覚と暗闇の中でうっすらと見えるバラゴンを見て完全に覚醒。

咄嗟に左前脚でバラゴンの後頭部を掴んで地面に縫い付け、さらに尾の先端についたトゲで地面に突き刺してこれ以上引きずり込まれるのを阻止した。

続いて挟まれている腕をなんとか引き抜こうとするが、顎から少しずれるだけに終わった。

外せないと分かったスカルリーダーはバラゴンの頭部を顎で挟み、噛み潰そうとする。

頭が締め付けられるような圧迫感に耐えながら頑なに穴へと引き込もうとするバラゴンに、腕が噛み砕かれそうな予感を抱えながらも確実に噛み砕いてやろうとメリメリと音を立てながら顎に力を込めるスカルリーダー。

しかしこのままでは先にバラゴンの頭が卵のように潰されてしまうとほかならぬバラゴン自身がそう感じた。

やけくそになった彼は最後のあがきとばかりに角から全力の閃光を放った。

 

 

ここで二頭の置かれている状況を振り返ってみよう。

 

 

ここは彼らが作った地下空洞で崩れやすく、さらに現在進行形で闘争が続いているために空洞にはひびが入り、崩壊までの時間は残り少ない。

さらに地中は光源が乏しいかあるいは絶無であり、この二頭も月明りもない地下では視覚にほとんど頼らず、彼らは匂いと聴覚、そして痛覚でだいたいの当たりを付けて攻撃している。

しかしそれも時間が経つにつれて徐々に慣れ始め、お互いの姿をおぼろげながらも捉え始めていた。

ようやく暗闇に慣れてきたところに一瞬とはいえ、真昼間にも負けない輝きを至近距離で目にすれば‥‥。

 

 

 

目がつぶれるのは必至である。

 

 

 

今、スカルリーダーの視界は白、赤、緑と次々に明滅し、目を焼かれたような痛みに襲われていた。。

当然そんな状態では先ほどまでの有利な態勢を維持することも出来ず、悲鳴を上げながらゴロゴロと悶えている。

バラゴンにとってもすこし予想外の展開となったが、この千載一遇のチャンスを逃すほど呑気してはいない。

すぐに体を穴から出し、いまだに身もだえているスカルリーダーの方へむけて突進。

その()は先のバラゴンが攻撃を命中させた胸部へと深く突き刺さり、骨をも貫いた。

またも悲鳴が上がるが無視し、眼前に広がる鮮血に染まった黒い体に噛みつく。

そのまま思い切りぶん投げて壁に叩きつけた。

脆くなっていた地下の壁にひびが入り、崩壊がさらに促進された。

完全に崩落してしまえば、いかに地底恐竜といえども押し潰されるしかない。

流血だらけの体を目の前の壁まで、前足と角をぶつけて懸命に掘りだす。

だがその動きは先程までと比べ明らかに鈍く、崩落までには間に合わない。

上から降り注ぐ瓦礫の数が時間と共に増していき、ついには顔ほどの大きさのある岩が次々と全身を打つも、体に熱が籠るも、出血で次第に意識が遠のくも、それでも諦めずに壁を削り続けた。

 

 

そしてその愚直な一念は、壁が突然()()()と大きく削れたことでついに通った。

今までと違う手ごたえを感じながらも構わず掘る。

そして全身が壁の中に丁度入り切ったところで、後ろからドドンと地響きが鳴り、同時に凄まじい土煙がバラゴンを覆う。

間一髪危機を脱したバラゴンだったが、今の衝撃でせっかく掘った穴に亀裂が生じた。

それを見て急ぎ上へ上へと掘りまくるバラゴン。

 

以前とは違い、圧倒的な速度で掘り進むバラゴンの姿は、とても重傷を負っているようには見えなかった。

 

 

 

そして

 

 

 

ボゴン

 

「・・・・・」

 

 

彼は地上へと・・・舞い戻った

 

 

 


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