ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

10 / 26
 ポケスペ本編のミカンちゃんはマツバのことを呼び捨てにしていますが、本作では大体の人物には地の文でも「さん」付けにしております。
 また少し長くなりました。戦闘描写と説明を入れると必然長くなっちゃいますね。

 まさか日間ランキング入りしているとは思わず、三度見くらいしてしまいました。
 私自身、二桁話数も続けるとは思っていませんでしたので、皆さんの評価やコメントなどのおかげです。
 私はいつでも打ち切りの準備は出来ていますので、無事に完結まで向かうかどうかは皆さん次第です(丸投げ)。

追記:誤字報告ありがとうございます。まさか初っぱなからミスっているとは……
追記2:日間8位ですと!?(唐突な死)


第10話 vs ゴースト

 ロケット団の団員とその幹部を拘束した私は、レーちゃん(レアコイル)ルーちゃん(ハガネール)を警戒に残し、その他のポケモンをボールに収めます。

 

「すげぇ、1人で全員捕まえちまった……」

「……これがジムリーダーの実力か」

「ありがとうございます」

 

 取り逃がしがないことを確認し、私は首から()げたポケギアでとある人達に連絡を入れます。あ、繋がりました。

 

「もしもし? ミカンです」

≪ミカンさん? は、はい。ハヤトです。突然どうしましたか?≫

≪あれ? グループ通話なん? 珍しいなってもう1人はハヤトかいな。どうしたんミカン?≫

「お忙しい所すみません。本当はマツバさんにも連絡を入れたかったのですが、不通でしたので緊急でお2人のみに連絡を入れています」

≪緊急やと≫

≪何がありました?≫

 

 私は息を吸い、ゆっくりと吐きます。

 

「エンジュシティでロケット団と遭遇しました」

≪なっ≫

≪は?≫

「マツバさんが不在の時を狙われました。偶々私が現場に居合わせましたので対処しました。現在はこの場にいた関係者全員を拘束中です。ですが人数が51人と多いので、アカネさんには現場の収拾の援助を。ハヤトさんにはロケット団の団員の逮捕、連行をお願いしたいです」

≪エンジュシティっちゅうと、震災の現場やな? ミカンは大丈夫なんか?≫

「私は大丈夫です。そして、詳細は(はぶ)きますが、震災ではなく人災です。ですので、その容疑者として彼等を確保したということです」

≪分かった。マネージャーには言ってすぐ向かうわ≫

≪こちらも了解です。管轄(かんかつ)は違いますが、ジムリーダー権限を使って他の警察署に応援要請(ようせい)をしつつ、オレもそちらに向かいます≫

「はい。よろしくお願いします」

 

 ピッとポケギアを切って、周囲を見渡す。(ひら)のロケット団の団員達は諦めたような、絶望したような顔をしていますが、幹部の2人はまだギラギラとした目をこちらに送っています。往生際(おうじょうぎわ)が悪いですね。

 

「あ、あんた本当にすげぇな……」

「ありがとうございます。あ、えぇと……」

 

 そういえば、私はまだ直接彼等から名前を聞いていませんでした。まぁお2人の会話を聞いていましたので問題ないと思いますが、ここは礼儀です。

 

「あ、忘れていたぜ。オレの名前はゴールド。コイツはシルバー。助けてくれてありがとな。えぇ、ミカンさんで良いのか? いや、ですか?」

「ふふ、無理して敬語にしなくても良いですよ? ゴールドさんですね。よろしくお願いします。そちらのシルバーさんも、よろしくお願いしますね」

「ふん」

「あ、てめぇシルバー。そういやニョたろう(ニョロトノ)返せよ。そいつはオレの家族だ」

「それを言うならキングドラもオレの手持ちだ」

 

 2人の少年が再びポケモンをトレードしていた所に、どこからか冷気が(ただよ)ってきました。

 

『指定時間になっても連絡がないと思えば、こんな所で油を売っていたのか』

「そ、その声は!」

「まさか!」

 

 真っ先に反応を示したのは、ロケット団の幹部の2人。ということは、まさか来ちゃったのですか? こちらに?

 周囲が霧で(つつ)まれたと思ったら、その中からスッと1人の人間と思われる影が出て来ました。線のような目と口だけが(えが)かれたシンプルな仮面。体格と性別を隠す為でしょうか、ウィッグだと思われる大量の髪の毛に黒い大きなマントで、その正体は分かりません。

 声もボイスチェンジャーを通しているのか、機械的なものに変換されており、こちらも性別の判断に用いることは出来そうにありません。

 

『目的は達成したようだが、その後に邪魔が入ったということか』

 

 周りの様子を眺めながらも、こちらの、というか私を警戒した感じの視線を感じます。

 

「あなたが親玉ですか?」

『アサギのジムリーダーか。なるほど、道理で計画が進まない訳だ。それにシルバー、やはりお前か。アリゲイツを連れた私を付け狙うガキがいることは知っていたが。それに、いつかのガキもいるな。たった3人にこの大人数で、しかもシャム、カーツ、お前達がいながらやられたということに怒りはあるが、そこのジムリーダーが関わっているとなると、多少は仕方がないと思うべきか』

「ゴチャゴチャとうっせーぞてめぇ!」

「ゴールドさん、抑えて下さい。ここは私が。ジムリーダーとして街は違えど市民を守るのは当然。それに、目の前に組織のトップがいるのでしたら話が早いです。あの人を捕まえます。ゴールドさんとシルバーさんにはお願いがあります。私が戦っている間、ロケット団が逃げ出さないように見張っていて下さい」

 

 すぐに熱くなりすぎる性格のゴールドさんに注意しつつ、相手の様子を(うかが)います。ちなみに、シャムさんがロケット団の女性幹部。カーツさんが男性幹部のようですね。しかし、悪の組織の女性幹部。縮めて……いえ、何でもありません。それに、ナツメさんの方が綺麗だと思います。

 

「お、おぅ。分かったぜ」

「……」

「シルバーさん?」

「……ちっ、分かった」

「ありがとうございます」

 

 お礼を言って私は1人、仮面の人と対峙(たいじ)します。

 位置的には、私達3人の背後にロケット団がまとめて()らえられていて、仮面の人は私達を挟んで反対側にいます。つまり、私が突破されてしまえば、彼等を解放されてしまうということになりますので、何としてでも死守しなければなりません。

 

『ふむ、1人か。いや、この場合1人の方が都合良いか、ジムリーダー?』

「出会ったばかりのトレーナーさんと連携が取れる程、私は完璧ではありませんから」

『ククク、よく言う。行け、デルビル、アリアドス、デリバード、ゴースト』

 

 タイプに(かたよ)りがないですね。得意なタイプを読ませない為でしょうか。これに関してはポケスペにも出ていましたので、不思議ではないですね。違いと言えば、ゴースがゴーストになっているということくらいでしょうか。

 

「お願いします。レーちゃん(レアコイル)ルーちゃん(ハガネール)

『見たことのない大きさだな。だが、大きければ良いというものでもない。的が大きくなり、身体が重くなったことで動きも(にぶ)くなる』

「それは、どうですかね? やってみなければ分かりませんよ?」

『フフフ、それもそうだな』

 

 そして、その会話が途切れたと同時、合図らしい合図もなく戦いは唐突に始まりました。

 

レーちゃん(レアコイル)

『ゴースト』

 

 レーちゃん(レアコイル)が3つに分離。言わば3匹のコイルとなって相手に向かいます。そしてそれを迎撃しようとゴーストが前に出て来ます。ゴーストも両手が離れているので、それぞれコイルの向かう先を封じようと動いています。

 

レーちゃん(レアコイル)

 

 再び名前を呼ぶと、今度はネジや磁石が分離し、周囲を(ただよ)います。

 

『むっ』

「「なっ」」

 

 私のレーちゃん(レアコイル)は、パーツの1つ1つに分離し(あやつ)ることが出来ます。長年一緒にいて、ずっと修行を積んできたからこその秘策です。コイルとしての分離とは違いますので、精々(せいぜい)が本体を中心に1mくらいの範囲くらいでしか離せませんが、これで手数は増やせます。

 

『アリアドス!』

「糸に気を付けて下さい」

 

 非常に見づらい程に細い糸をかいくぐりながら、レーちゃん(レアコイル)は一斉に聞こえない(・・・・・)音を発します。

 

『これは!』

 

 音の発生源は、コイルの本体だけでなく、分離したパーツの1つ1つが小さなスピーカーの役割を持って、広い範囲にばらまきます。音の向きも規則性はないので、敵味方関係なく効果があるのが玉に(きず)です。つまり、私とルーちゃん(ハガネール)以外に効果があります。

 

「ぐおぉぉおおお……何だ突然気分が……おぇ……」

「何だこれは……くそっ、何が起こって……まともに立っていられない!」

 

 当然、ゴールドさんやシルバーさんにも効果があります。ごめんなさい。

 

『ぐ……こ、これは……【ちょうおんぱ】!』

「正解です」

 

 ゲーム(原作)の【ちょうおんぱ】は方向性が指定出来、1匹のみに効果がありますが、それはスピーカーの役割を果たす部分、主に口になりますが、そこから方向を定めているからです。ですが、今私のレーちゃん(レアコイル)が行った【ちょうおんぱ】は、無差別に音を撒き散らす為に防ぎようがありません。

 【ちょうおんぱ】は聞いた相手を混乱状態にする技です。しかし混乱と一言に言っても様々な状態があります。幻覚が見えていたり、極度な興奮状態によって前後不覚になったり、三半規管(さんはんきかん)に異常が起こったりなどです。

 そして、【ちょうおんぱ】によって引き起こされる現象は、三半規管へ働き掛けて、平衡感覚(へいこうかんかく)を失わせ、フラフラにさせます。特性【ちどりあし】はこういう時に発揮しますが、混乱に区分分けがない為、こちらの世界では【ちどりあし】が発動する混乱とそうでない混乱があり、トレーナーが混乱する事態となっていたりします。

 また、ポケモンの技の【ちょうおんぱ】にはポケモン(ごと)に周波数が決まっています。私とルーちゃん(ハガネール)が無事なのは、レーちゃん(レアコイル)の放つ周波数を浴びすぎて慣れたからです。つまり、三半規管がぶっ壊れているということです。乗り物酔いしやすい人も、その乗り物に乗り続けたら慣れて酔わなくなると同じ理由です。

 現実で超音波を浴びたからと言って、直接人体にすぐにでも影響が出ることはないはずですが、あくまでポケモンの技としての【ちょうおんぱ】ですので効果が現れるということです。

 

レーちゃん(レアコイル)

 

 私はただ名前を呼ぶだけですが、それだけで私の意思を汲み取ってこの子は判断して行動をしてくれます。長年一緒に過ごし、また厳しい修行も行ってきたことで、私の考えていることは多分、ほとんど把握(はあく)されているのではないでしょうか。

 私が名前を呼ぶ時は、ただそのタイミングを告げる時のみ。そして、今の呼び掛けによってレーちゃん(レアコイル)は【ほうでん】を開始します。

 

『ぐ……くそ、避けろ!』

 

 【ちょうおんぱ】によってまともに立っていられない状態。そんな状態では当然回避するだけの力もなく【ほうでん】の餌食(えじき)となっていきます。威力自体はそこまで高くないですが、筋肉を痙攣(けいれん)させて麻痺(まひ)状態にすることで更なる機動力の低下に繋げることが出来ます。

 霊体のゴーストや昆虫がモデルのアリアドスに筋肉あるのか疑問ですが、まぁ、神経も電気信号を伝える線を【ほうでん】によって誤作動を起こさせているという解釈(かいしゃく)をしておけば、この2匹が麻痺になるのも……うーん、少し苦しいでしょうか。まぁ(しび)れてくれたので問題なしです。

 ちなみに、この【ほうでん】もまた分離した各パーツから放たれています。しかし、本体から離れていることでどうしても威力が弱くなってしまうので、決定打にななりえません。

 これが私のレーちゃん(レアコイル)の戦い方です。更にここに【きんぞくおん】を加えて、音と電撃で翻弄(ほんろう)し機動力を(うば)いつつ、トドメに【ラスターカノン】を放つことで勝負を決めるというもの。しかし、特性が【ぼうおん】であったり【マイペース】で混乱を封じたり、【じゅうなん】や電気の効かない地面タイプ、麻痺にならない電気タイプなど、対策は十分取れますので、そこを起点としてジムに挑んだトレーナーさんには漏れなくバッジを進呈(しんてい)しております。

 

『ちっ、ビリリダマ!』

レーちゃん(レアコイル)

 

 仮面の人が次に出してきたのは、【ぼうおん】に電気タイプを持つビリリダマ。この音麻痺戦法を人前で使う機会は滅多になかったはずですが、やはり1回でも使うと何らかの手段で目の前の相手に情報が伝わり、それによって対策が立てられるということですか。少なくともポケスペでは登場しなかった手持ちです。

 私はレーちゃん(レアコイル)の技を中断させ、元のレアコイルの姿に戻します。こちらから相手への有効打はありませんが、向こうもそれは同じです。ですが、高い素早さでパーツを1つ1つ潰されては戦術が崩壊してしまいます。よって、残念ですがこうして分離を()めて元の姿に戻ってもらいました。

 

『ポケモン1匹にこの対応。少々警戒し過ぎなのではないかな?』

 

 【ちょうおんぱ】と【ほうでん】がなくなったことで余裕が出たのか、強気な発言が飛んできます。

 

「そうかもしれませんが、元々素早さが低い子が多い鋼タイプを扱う以上、そちらのように足の速いポケモンは十分に警戒に(あたい)しますよ。これがジム戦でしたらバッジを差し上げるくらいです」

『ほぅ、それは光栄だな』

「あなたが悪の首領ではなく、1人のトレーナーとしてであれば、ですが」

『ふむ、残念だな。で、どうする? こちらは混乱が解け、麻痺もしばらくしたら回復する』

「続けますよ? 何せ悪の組織のトップが目の前にいるのです。捕まえないという選択肢は、最初からありません。ルーちゃん(ハガネール)!」

 

 名を呼んだ瞬間、ずっと私の(そば)鎮座(ちんざ)していた巨体が動き出し、その長い尻尾を天高く振り上げたと思えば、それを勢い良く地面に振り下ろします。

 

『何をするつもりだ?』

「答える必要はありませんよね?」

 

 ルーちゃん(ハガネール)の【たたきつける】によって瓦礫(がれき)は粉々となり、細かい粉塵(ふんじん)が舞い上がります。そして、その砂塵(さじん)(まぎ)れて尾を大きく横滑(よこすべ)りさせ、振り抜きます。

 

『なっ!』

 

 相手からしたら突然砂埃(すなぼこり)の中から大小様々な岩が高速で真っ直ぐに飛んできたので驚いたのでしょう。すぐに指示を飛ばそうとしたものの、それは追い付かず、ゴーストとデリバードに命中し、地面へと叩き付けられてしまいました。デルビルとビリリダマは本能で回避、アリアドスは命中した様子ですが、巻き上げられた粉塵によって詳細は不明です。

 

『これは、【うちおとす】!』

「さっきのは【たたきつける】。【うちおとす】をするに瓦礫を破壊して準備をしていたのか」

 

 シルバーさん、あまり敵に聞こえるような解説は避けて頂きたいですね。出来るだけ情報は相手に渡したくないですし。

 

(たた)み掛けて下さい」

『くっ、デルビル! 【かえんほうしゃ】!』

 

 確かに鋼タイプに対して炎タイプの技は効果抜群です。しかし、こちらの身体が大きいということは、当然尻尾も長いということ。しかも指示を飛ばす速さの違いによってラグが(しょう)じ、こちらに炎が届く前に、ルーちゃん(ハガネール)の【アイアンテール】が届きます。重量差と硬さ、そして速さの乗った鉄の尻尾の突き出しに、デルビルは()(すべ)もなく飛ばされ、瓦礫の山に叩き付けられます。

 

「降参して自首して下さい。このままでは勝ち目はありませんよ? 私は応援として2人のジムリーダーと警察を呼びました。近い内に到着するはずです」

『なるほどな。あくまで時間稼ぎということだったか。この私がジムリーダーとはいえ、1人のトレーナー相手に時間稼ぎをされた……くくく、これ程の屈辱(くつじょく)があるだろうか』

「……何が可笑(おか)しいのですか?」

『いや何、必ずしも時間稼ぎをしていたのはそちらだけではないということだよ』

「? ……先程よりも周囲の霧が濃く? まさか!」

 

 慌てて振り向くも、ゴールドさんもシルバーさんもキョトンとした様子。しかし、その奥、音もなく静かに行われた犯行に私は目の前の敵に夢中になり過ぎて周りが見えていなかったことを自覚します。

 

「逃げられました」

「は? 何言って……はぁ!」

「嘘……だろ?」

「んなはずねぇ、だって、つい今までいたはず……」

 

 そこにいたのは、アリアドス1匹のみ。先程の【うちおとす】で当たったのは【かげぶんしん】で、本体は霧の中を【かげうち】で回り込んで団員と幹部を逃がしたということでしょうか。

 

『ククク、実力は高いがまだまだ甘さがあるな。だが、今の私では負けることもないが勝つことも出来ないだろう。そこは評価しようではないか。こちら側の人間でないことが非常に悔やまれるが、精々足掻(あが)くが良い。これから先の運命を勝ち取る為に……』

 

 ハッとしてつい今まで対峙していた仮面の人の方へ向き直りますが、既に霧に(おお)われて姿が見えなくなってしまいました。そして、数分後、霧が晴れた時にはロケット団もその首領の姿はなく、呆然と荒れたエンジュの地に立ち尽くす私達3人の姿があったのでした。




 待ち合わせ時間になっても誰も来ないし連絡もないから、待ち合わせ相手の家までお迎えに行くマスク・オブ・アイスさん……もとい、仮面の人です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。