ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

11 / 26
 私はただ、鋼タイプが活躍し、ミカンちゃんが可愛い話が読みたかっただけなんです。
 所が、そういった物語があまりありません。種族値の高いポケモンや伝説、準伝のポケモンが活躍している話が多いので、そうでない地味なポケモンを出来るだけ出して行きたいです。
 まぁ、ポケスペに於いて、伝説や準伝説は必ず物語の中核を成す為に登場しますので、無理して出そうとしなくても勝手に出て来ますので問題ないですね。
 当初の目的としては、転生者ミカンちゃんとアニポケの主人公サトシが戦う短編を書く予定でした。
 「頑張れ」「踏ん張れ」「避けろ」の魔法の言葉と攻撃技のみで構成されたサトシのパーティを、変化技や技発動による二次効果を使ってボコボコにし、変化技の大切さを教えるもののはずでした。何がどうなってこうなったのか。私自身謎です。
 ポケモンとの信頼関係だけはピカイチなサトシですので、もう少しポケモンに合った戦法が採れるようにアドバイスを贈って上げたいというコンセプトでした。

追記:誤字報告ありがとうございます。


第11話 vs マリル

 霧が晴れたエンジュシティに西日が差し込みます。

 

「すみません。取り逃がしてしまいました」

「いや、ミカンだけのせいじゃねぇって。オレらもアイツら逃がしちまったしな」

「あぁ、せっかくのチャンスを無駄に……」

「あ、いえ、気にしないで下さい。子供のあなた達に数十人の悪党を見張れという無茶を言ったのは私です。人手が足りなかったとはいえ、ジムリーダーでありながら情けない話です」

 

 ロケット団残党の首領と思われる仮面の人と戦い、そして結果は私の戦略的敗北に終わりました。あの人は、自身を(おとり)として派手に立ち回ることで、裏での行動を読みづらくさせていました。そして、せっかく捕縛したロケット団の人達を逃がすこととなってしまい、協力して下さった2人に対し、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 しかし、幹部はともかく、ロケット団の団員の実力は大したものではありません。実際にポケスペでもゴールドさんが多数を相手に勝利を収めたことからも、その実力の低さは察することが出来ます。それでも全員を助けた理由。それは、個々の能力よりもその数そのものが必要だから……ということになります。やはり、知ってはいましたが、中々に巨大で厄介な相手です。

 

「私は、このエンジュのジムリーダー、マツバさんが不在の今、代理のジムリーダーとして行方不明者の捜索(そうさく)や救護所での支援活動の陣頭指揮(じんとうしき)()る必要があります。お2人はどうされますか?」

「オレはアイツを追う」

 

 シルバーさんは考えるまでもなく即答しました。まぁ分かっていましたが。

 

「止めても無駄だ」

「はい、止めませんよ。きっと大事なことなのでしょうね。でも、気を付けて下さいね」

「あぁ……」

 

 そう返事をして、彼は瓦礫(がれき)の中を歩き始めます。

 

「あ、おい、シルバー!」

「ゴールドさん、あなたはどうされますか?」

「オレは……んーまだ決まっていない。だが、あんにゃろー(仮面の人)が何かしようとしているのは気に入らない」

「ふふふ、ゴールドさんも気を付けて下さいね」

「おうよ!」

 

 元気に返し、シルバーさんの後を追おうとしていた時に、私は2人の背中に問い掛けます。

 

「お2人は、ホウオウについてどれくらい知っていますか?」

 

 その時、シルバーさんの足がピタリと止まりました。ゴールドさんは何が何だか分からない様子ですね。スズの塔の中のホウオウの彫像(ちょうぞう)も見ていないでしょうから、きっとどんな姿かも想像出来ないと思います。

 

「ホウオウ?」

「……」

 

 シルバーさんは沈黙。まぁ当事者ですし、ある程度のことは知っているでしょうね。ポケスペでもゴールドさんにホウオウの伝説を語っていましたし。

 

「スズの塔は、伝説の鳥ポケモン、ホウオウの巣であるということは広く知られた伝説です。そしてその巣であるスズの塔に異常があれば、ホウオウは戻ってくると()われています」

「……つまり、ロケット団は人為的に震災を引き起こして、ホウオウを呼び込む実験をしたということだ」

 

 私の説明を補足(ほそく)するように、シルバーさんがロケット団の目的を話します。それに対してゴールドさんはその行為に驚きと同時に呆れている様子です。

 それにしても、10歳11歳辺りの子供がする話じゃないですね……ポケモンを扱う以上、精神の成長が早いのでしょうか。

 

「なんちゅう実験だよ……こんな多くの人とポケモンを巻き込んで、一体何をしようとしてんだ」

「それは分からない。だが、オレの目的には関係ない。オレの目的は奴らの組織を(つぶ)すこと。そのついでとして、奴らの計画の妨害を(はか)っていたが、まさかこんな大規模な手段に出るとはな……こちらも本腰を入れる必要がありそうだ」

 

 最後にそう言い残して、今度こそシルバーさんは去って行きました。そして、それを追ってゴールドさんも……私はただ見送るだけです。ただ「気を付けて下さい」としか言えない自分自身が情けなくなります。しかし、落ち込んでばかりいてはいけません。私は目の前で助けを求めている命を救う為に動かなければなりませんから。

 

 

「アサギシティから参りました。ミカンです。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。これより、この場の支援に入りますので、よろしくお願いします」

 

 救護所でレミさんと合流して互いの無事を簡単に確認した後、その場の責任者と話をし、私も支援に加わることとなりました。救護所ではレミさんのマリルが【ちからもち】を発揮して、通り道に邪魔となる瓦礫の撤去(てっきょ)(いそ)しんでいます。

 私は断りを入れて、こちらに向かっているだろうアカネさん、ハヤトさんにはロケット団を取り逃がしたこと、現在は救護所にて支援活動を行っていることを伝えました。

 アカネさんの方がエンジュに近いですが、鳥ポケモンによって一直線で移動が出来るハヤトさんの方が早く到着しそうです。

 また、ポケモン協会、ジムリーダー理事会にも話をし、より一層警戒を強めるよう打診しておきました。どこまで防げるか分かりませんが。

 

「日も沈みましたし、私も一回休憩に入ります。レミさんも適度に休息を取って下さいね。決して無理をしませんように」

「分かりました」

 

 レミさんもずっと働き通しで、疲労の色が見えます。それでも弱音を吐かずに歯を食いしばり、賢明(けんめい)に活動しています。

 私達は仮眠を挟みつつ、互いの出来る範囲での支援を続けました。

 そして翌朝。まだ日が昇る前の薄暗い中で、異変は起こりました。

 被害甚大(じんだい)により立ち入り禁止区画に指定されている方向から、微細(びさい)な振動と砂嵐が巻き起こるのが見られたと報告があったのです。大方、ゴールドさんとシルバーさんの決闘でしょうと思われますが、念の為に私はムーちゃん(エアームド)と一緒に見に行きました。

 2人気付かれないようにコッソリとでしたので詳細は不明ですが、バンギラスが倒れている場面を目撃しましたのでたった今、決着が付いた所だったようです。そして、シルバーさんが東へ向けて走り出し、それを追ってゴールドさんもまた走り出しました。

 丁度その時、遠くに見える山の向こう側から朝日が顔を覗かせ、2人を照らします。何も知らなければ、朝日に向かって走り出すとか青春ですねと言いたい所ですが、彼等の抱える事情を少なからず知っていて、そしてこの先に起こるであろう出来事を知る身としては、ただただ、怪我のないよう気を付けて欲しいと願うばかりです。

 調査から戻った私は、責任者の方々に問題がなかったことを告げ、朝ご飯を食べます。ちゃんと良識に沿って手の平サイズのおにぎり2つに留めましたよ? その辺りの常識はちゃんとあります。

 食べ終わる頃にはハヤトさんが到着し、昼前にはアカネさんと多くのボランティアの皆さんが駆け付けて下さいました。

 救援物資が潤沢(じゅんたく)に得られるようになってからは、この臨時救護所にも人が多く滞在するようになり、いつの間にかエンジュシティの中で最大の避難所となっていました。

 前世では、インフラを整備したり、ヘリで空輸したりするなど色々と大変な思いをして物資の輸送を行っていましたが、ここはポケモンが普通に存在する世界です。

 水は水タイプのポケモンがいれば確保出来ますし、調理も炎タイプのポケモンが、電気も電気タイプに、輸送も飛行タイプが活躍してくれています。他にも瓦礫の撤去に格闘タイプやエスパータイプ。悪路の移動で岩タイプや地面タイプ。夜間の哨戒(しょうかい)にゴーストタイプや悪タイプ。建築の補助として虫タイプの糸、気分が悪い人の為の草タイプの落ち着ける香りや氷タイプの氷嚢(ひょうのう)。ゴミや排泄物などの処理には意外と毒タイプのポケモンが活躍されています。

 ノーマル、フェアリー、ドラゴン、鋼タイプですか? まぁ、一応それぞれ複合タイプがありますので、もう1つのタイプの方で活躍してくれていると思います。ノーマル単体は……子供達のケアとか……色々大事なことをしています。はい。

 

大分(だいぶ)落ち着いてきましたね」

「そうですね」

 

 私は隣に立つレミさんに話し掛けます。震災から1週間経ち、避難所での生活もすっかり慣れた頃、一昨日よりスズの塔の復興(ふっこう)を開始しました。街の整備が最優先だと主張する人も確かにいましたが、ホウオウ伝説で、ホウオウの怒りに触れると更なる災いが降りかかることをこのエンジュの地の人達は代々受け継がれていますので、すんなりスズの塔再建計画が始動することとなりました。

 マツバさんからもすぐには戻れないことの連絡を受け、またスズの塔の復旧を急がせてくれという一言が後押しにもなりました。決まってからの行動は早く、翌日には大型の重機や力自慢のポケモン達が勢揃(せいぞろ)いし、(かたむ)いた塔を再び安定させるべく奮闘(ふんとう)しています。

 アカネさんやハヤトさんは既に自身の街に戻っています。いつまでもジムリーダー不在の街をいくつも作っておく訳にはいきません。私は臨時休業届を事前に協会の方へ提出してありますので、大丈夫ですが、2人は犯人逮捕の手伝いとして急遽(きゅうきょ)お呼びしたに過ぎませんのでそのような手続きを行っておらず、渋々と帰って行かれました。

 

「ミカンさんもレミさんもいつも子供達の相手、ありがとうございます」

「いえ、好きでしていることですので」

「はい! 私もです!」

 

 私達は、現在街の復興を見守りつつ、避難所で生活している子供達のケアを行っています。劣悪な環境とは言いませんが、それでも不安はあるようで、そんな子達の気を(まぎ)らわせる為に私はジムリーダーとして、簡単なジム戦を行っています。公式のジム戦のようなものではなく、どちらかと言えばゲーム(原作)のように順番に技を出し合って(更に私は威力を弱めています)、どういった時にどの技を使えば良いのか、時々試合を中断しては説明を入れたりして、まだトレーナーの卵である子供達を指導しています。

 レミさんにも同じようなことをさせて、足りない私の分を(おぎな)ってもらっています。公式戦のような立ち回りが出来なくとも、ずっと私の側で戦いを見てきて、ポケモンの種類や技を勉強してきていますので、その復習も兼ねてこうして実戦練習をしてもらっているということです。

 今はジムトレーナーの立場ですが、いずれはジムリーダー昇任試験へ推薦(すいせん)するのも良いかもしれませんね。その為には、まだまだバトルだけでなく、勉強しなければならないことも多くありますが、見た目の派手さの割に勤勉な彼女ならきっとやってくれるでしょう。

 そう思っていた時、私のポケギアに着信が入ります。

 

「もしもし? ミカンです」

≪もしもし、ポケモン協会副会長です。エンジュでの復興支援、ありがとうございます≫

「いえ、好きでしていることですから。それで突然どうされましたか?」

 

 通話の相手は協会の副会長さんでした。先日、ロケット団と遭遇(そうぐう)し取り逃がしてしまった件については仕方がなかったとして不問とされましたが、やはり、何か問題があったのでしょうか。

 

≪いや、エンジュの件に直接関係するか分からないのだが、チョウジタウンの北部にある”いかりの湖”を中心に、通信状態が悪く通話が出来ないと各地から情報が上がっていてね。もしかしたら向こうの基地局に何か異常があるかもしれない。悪いがミカンさんには、現在連絡の取れないマツバさんとヤナギさんにこのことを伝えてもらいたい≫

「マツバさんはともかくヤナギさんもですか?」

≪あぁ、湖の近くにはチョウジタウンがある。もしかしたら既に現場に向かっていて連絡が届かないのかもしれないが、念の為にそちらからもアプローチを掛けて欲しい≫

「分かりました」

 

 通話が切れたのを確認し、考えます。

 私の存在によって多少の違いはあるものの、流れ自体は大きく変わらずむしろ何らかの軌道修正が図られて進行しています。今回、いかりの湖の怪電波事件が発生したということは……やはりヤナギさん、あなたなのでしょうか……?

 ポケスペでの知識に頼らず、この世界に来てから幾度(いくど)も顔を合わせ、会話をし、時折手合わせをして彼と接することで見極めようとしましたが、アレが素なのか、巧妙(こうみょう)に隠されていたのか、未熟な私では見抜くことが出来ませんでした。

 もし、本当に彼なのだとしたら、そしてこの世界の進みがポケスペ本編と同じ結末を迎えるのでしたら、彼は必ず目的を達成した上で死んでしまいます。それだけは絶対に避けなければなりません。

 

「私は一体どうすれば……」

 

 私の(つぶや)きは誰にも届くことなく、虚空(こくう)へと消えてきました。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。