ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

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 遅れてしまい申し訳ありません。
 言い訳をしますと、仕事で中々執筆時間が取れず、また感想欄で指摘されましたが展開の構成を考えていました。
 遅れた割には話が進みません。

 とりあえず、ヤナギの代わりにミカンちゃんが時空の狭間(はざま)に落ちるエンドにはしないことは決めました。
 将来的にはハッピーエンドに繋がるかもしれませんが、この物語の時点では私にとってはバッドエンドですので採用しません。
 ディアルガ、鋼・ドラゴンですからミカンちゃんが【ちからづく】で手持ちに加えたり出来ないかな……ポケスペ未読です。
 というか、何やらサカキも色々と面倒くさいことになっている模様……もう未来は未来に全てぶん投げて、この時空の時点でのハッピーエンドを目指しますかね?
 時空の狭間に居続けたことで、耐性が付いたって……船に乗り続けて船酔いにならなくなったレベルじゃないんですから……何か最近そんな話を書いたような……?


第12話 vs トゲチック

 エンジュシティの震災から1月(ひとつき)が経ちました。

 最優先として行っていたスズの塔の再建も2週間前に落ち着き、現在は街全体の復興(ふっこう)を進めています。そして、主要施設や避難所となる仮設住宅の完成の目処(めど)が立った所で、本来のこの街のジムリーダーであるマツバさんが帰ってきました。

 

「ありがとう。この街を守ってくれて。感謝している」

「守れ……ては、いないです、よね……」

 

 あの惨状(さんじょう)を思い出すと、とてもではないですが守ったとは言えません。しかし、マツバさんは首を横に振りスズの塔を指差します。

 

「守れたさ。オレの指示とはいえ、この街の象徴(しょうちょう)であるスズの塔の再建に尽力(じんりょく)してくれたのだからな。それに、そんな大事(だいじ)な時に長く街を()けていたオレにも責任はある」

「……ありがとうございます」

「フフフ、納得していないというのが手に取るように分かるよ」

「それは、千里眼(せんりがん)ですか?」

「いーや、()を使わずとも顔に出ているよ」

 

 そう言われて、私は思わず顔に手を当ててしまいました。それを見て、マツバさんは更に笑みを深めます。というかこの世界、目の前のマツバさんといい、ナツメさんといい特殊能力持った人が多すぎな気がします。特にトキワ出身のあの人達とか……

 

「大丈夫だ。エンジュの人達は強い。(はる)か昔からこの古き土地を守ってきた人々の子孫なんだ。この程度ではへこたれない。それに、仲間、家族、友達もいる。何とでもなるものさ」

 

 マツバさんの言う「仲間、家族、友達」の中には当然ポケモン達も含まれます。強い(きずな)で結ばれた彼等、彼女等は、きっとこのエンジュの地を再び夕日の似合う街として立て直すことが出来るでしょう。

 そんな彼の言葉を受け止めた私は、今度はしっかりと(うなず)き、涙が(こぼ)れないように目に力を入れます。

 

「私はこれで復興活動を終え、アサギシティに戻ります」

「お疲れ様。君がいてくれて本当に良かった」

「いいえ、私だけの力ではありません」

「分かっているさ。だが、君が率先(そっせん)して動いてくれたおかげでもある」

「それは……いえ、これ以上は無粋(ぶすい)ですね」

 

 知っていたのに止められなかった。災害に立ち会ってしまった。ジムリーダーだから。それに、仮に私がやらずとも誰かが動いてくれる。そんな様々な思惑(おもわく)はありますが、それをあえて言葉にしないことにします。それを言ってしまうと、きっと話が止まらなくなってしまいます。それに、言葉にしなくとも相手にはしっかりと伝わっているようで、(おだ)やかな笑みを浮かべています。

 

「そういうことだ。それじゃあ、後は任せてくれ。ありがとう。またお礼は正式な場で返すこととしよう」

「ふふふ、そうですね。では、この街の定食屋さんのお食事券何かを期待していますよ?」

 

 心に少し余裕が出来た私はそんな注文をします。すると、マツバさんは焦ったように。

 

「そんなことをしてしまったら、せっかく立ち直った飲食店は再び閉店になってしまうよ」

 

 と、冗談()じりに(つぶや)いていました。

 

「では、レミさん、行きましょうか」

「はい」

 

 ずっと私の後ろで待機してくれていたレミさんに声を掛け、それぞれポケモンを出します。レミさんはとげちん(トゲチック♂)、私はムーちゃん(エアームド)にそれぞれ乗って、アサギを目指して飛び立ちました。

 下に目を向けると、大勢の人達が手を振って、感謝の言葉を叫んでいるのが聞こえます。

 私もレミさんも笑顔で手を振りながら、エンジュの地を離れました。

 

「そういえば、あの麦わら帽子の少年はどこへ行ったんですかね?」

 

 手を振り終えたレミさんがふと呟きます。

 彼女が言う麦わら帽子の少年とは、3週間程前にエンジュシティに降り立ったイエローさんのことですね。正確には彼ではなく彼女なのですが、私も知識として知っていたおかげでよく見たら気付けた程度でしたが、何も知らなければ分からないでしょうね。

 あの整った顔立ちと、まだ12歳という年齢を考慮(こうりょ)したら、髪型を隠して服装に気を付ければ確かに性別を(いつわ)れるでしょうが……それでも子供っぽさから女性へと変化が近くなる年齢です。顔や手先などの露出部や、立ち振る舞いを注意深く見ていると、案外分かるものです。

 まぁ、隣を飛ぶ若者の女性代表であるレミさんが気付かないとなれば、帽子1つでも十分な変装なのでしょうね。

 

「さぁ、分かりません」

 

 カントー地方で1年程前にあった四天王のワタルさんが筆頭となって起こした事件。その時に現れたルギアを追って、ジョウトまで来たのですよね? そして、そのついでとオーキド博士からの依頼でポケモン図鑑所有のトレーナー、クリスさんをタンバシティへ連れて行く為に、釣り人のおじさんの船を用意した。

 その航路上にある”うずまき島”周辺でルギアと遭遇(そうぐう)し、ゴールドさん、シルバーさんと出会う……はずです。

 “いかりの湖”での怪電波事件が終息してから3週間。その頃から、私はポケモン協会、そして協会からウツギ博士経由でゴールドさんのポケギアの番号を聞き出して、無事を確かめるべく何度も掛けているのですが、当然と言うべきか繋がることはありません。

 ポケスペの展開では無事と分かっているのですが、やはり心配は尽きません。

 

「焼けた塔から飛び出して来た3匹のポケモンについても、何も情報が入ってきませんし」

「そうですね。見たことのないポケモンでしたし、もしかしたら伝説のポケモンかもしれませんね。レミさんはどう思います?」

 

 とりあえず、流れは物語と同じように進んでいます。焼けた塔でイエローさんが3匹のポケモンのスイクン、エンテイ、ライコウを封印から解き放つことが出来、3匹はそれぞれの意思で各地へと走り去っていきました。

 いかりの湖の事件から3週間。正しく歴史が(きざ)まれているのだとしたら、そろそろ湖で行方不明になっているゴールドさん達が目覚め、動き出す頃ですかね。無事であれば……いいえ、弱気になってはいけません。楽観的になるのは駄目ですが、希望を捨てることもしてはいけません。とにかく、物語の進行云々(うんぬん)以前に、2人の命が無事であることを祈りましょう。

 

「えぇと……伝説かは分かりませんが、すごく珍しいポケモンだとは思います」

「綺麗なポケモン達でしたから、またいつか近くで見てみたいですね」

「はい。すごくキラキラ輝いていました」

 

 私よりも年上なのに、時々このような真っ直ぐな言葉で表現してくれますので、レミさんは本当に良い人です。

 

「あ、アサギシティが見えてきましたよ」

「空はショートカットが出来ますから早く到着出来ますね」

 

 アサギとエンジュを繋ぐ主要道路は大きく遠回りになる為、直線距離で進める空路はとても早く感じます。

 

「あれ?」

「ミカンさん? どうしました?」

「いえ、今日のこの時間でしたら、まだアクア号が停泊しているはずですよね?」

「え? あ、本当ですね。ありませんね。臨時休業でしょうか?」

 

 いえ、このアクア号の船長でありクチバシティのジムリーダーであるマチスさんが動いているのでしょう。だとしたら、2人は無事である可能性が高いです。

 

「ふぅ」

「お疲れですか?」

「へ? あ、そ、そうですね。ずっと気を張っていたものですから。戻ったら少し休みます」

「それが良いと思います」

 

 危ないです。安心の溜め息が聞かれてしまいました。

 

「念の為、アクア号の出航記録の確認をしてからジムに立ち寄って、それから家に帰ります。レミさんは先に家族へ無事な姿を見せてあげてください」

「ご一緒しなくて良いのですか?」

「大丈夫ですよ。母はチケット販売員です。記録に関しては母に聞くだけですし、ジムもちゃんと問題なく使えるか軽く見るだけですので」

「分かりました」

 

 それからアサギシティに降り立った私達は、それぞれの行動へ移ります。

 まずはアサギ港へ行きます。

 

「すみません。アクア号の記録を確認したいのですが」

「おや、ミカンちゃんじゃない。母ちゃんなら奥にいるから呼んでくるよ?」

「はい、お願いします」

 

 それから母と一緒に記録を確認し、マチスさんが一部の船員さんだけを連れて、アクア号で出港したことが記録に残されています。予定航路は、カントー地方のクチバシティとなっていますが、行程表を見るに日数が少しいじられていますね。どこか(・・・)を経由する気満々ですね。

 航路の確認を終えた私はそのままの足でジムに向かいます。途中、ポケモンセンターから出て来た見覚えのある姿を見つけましたが、今回は関わらずにスルーすることにします。

 髪を横で跳ね上げる形で2つ結びにし、星形のアクセサリを耳に付けた少女。絶対にクリスタルさんですね。本音ではお話したい相手でありますが、この場面で話す必要性はありませんし、ここで話し掛けてイエローさんとの接触のタイミングがズレてしまったらいけません。

 ということで、ジムに到着しましたが、私はまずジムの外周を軽く見て回り、侵入者の痕跡(こんせき)がないかの確認を行います。異常が見られないことを確かめた後は中へ入り、窓などを中心に入念にチェックします。

 

「防犯システムも稼働(かどう)した様子もないですし、その通知もポケギアには来ていませんね」

 

 次に調べるのはジムの事務所に当たる場所。多くの挑戦者の個人情報などの資料やポケモン協会からの書類が保管されていますので、特に厳重にいくつかの金庫に分けて仕舞ってあります。

 

「これも大丈夫ですね。これもこれも問題ないです。紛失(ふんしつ)したものはなさそうですね」

 

 先程から私が調べているのは、ロケット団による空き巣がなかったかどうかです。直接仮面の人(マスク・オブ・アイス)と対面して戦い、そして私の戦略的敗北。良く見ても引き分け。第3者からすると撤退(てったい)に追い込んだ。同じ場面でも視点によって結果が違いますが、ようはせっかく()らえたロケット団の下っ端とその幹部を逃がしてしまった結果は変わりません。

 とにかく、私の素性は元々相手に知られている訳で、今回直接対峙(たいじ)したことでより一層警戒させてしまうこととなってしまったと思います。それ(ゆえ)に、少しでも私の情報を得ようとジムに侵入して物色(ぶっしょく)する(やから)が出て来たとしても不思議ではありません(何より1ヶ月もジムを空けていたので、防犯システムを突破さえ出来れば時間たっぷりに情報を盗むことが出来るはずです)。

 そう思って十分警戒してジムに踏み込んだのですが、肩透かしを食らった気分です。本当に何もありません。何も減っていないですし、逆に何も増えていません。私がジムを出た時のままの状態です。

 

「警戒に(あたい)しない存在だった……?」

 

 それは考えにくいです。あの仮面の人、中身は恐らくヤナギさんでしょうが、彼ならば綿密(めんみつ)に情報を集めるはずです。

 アカネさんがヤナギさんのいるチョウジジムでスイクンの氷像と戦った時も、いつその情報をどのようにして入手したのか分からないようなものまで把握(はあく)し、氷像の動きを再現していました。

 私が仮面の人と遭遇した時も、ポケスペ本編では登場しなかったビリリダマを用いて、私のレアコイルを封じようとしてきました。つまり、ちょっとしたことも情報として相手に伝わってしまう。ですから、私がジムを離れているこの期間に侵入して情報を得ようと動くのもあり得ないことではないと思っていたのです。

 

「うーん……自意識過剰(じいしきかじょう)でしたかね?」

 

 それともルギアの行方を追っていて、それどころではなかった……とかでしょうか? あり得ない話ではありません。彼にとって、ホウオウから入手出来る虹色の羽、ルギアから取れる銀色の羽は時を超える手段として必要不可欠です。

 

「優先度が違った可能性がありますね。私に構うよりもルギアが巣に帰ってくるタイミングを掴みたかった……いずれにせよ、ジムが無事で良かったです」

 

 最悪、エンジュシティのような大規模な震災、地盤沈下(じばんちんか)でなくとも建物1つ潰すくらいなら手段はありますからね。

 そう思って事務所の整理を行っていた所、突然ピーピーガーガーと機械音がしました。

 

「この音は……あ、ジムのファクシミリ(ファックス)に……?」

 

 何やらファクシミリが動き出し、紙を吐き出そうとしています。

 というか、リニアモーターカーが開通し、ポケモン転送システムがあり、ポケギアという高性能な機器が手軽に入手出来るこの時代に、今時ファクシミリって……パソコンかポケギアのメールで良いでしょうに……

 

「えぇと、何ですか? あ、ポケモン協会からですね……え、ポケモン協会ですか? ということは……」

 

 確か、丁度これに近いタイミングで、この先の海、うずまき島近辺で停泊しているアクア号にも同じ文章が送られているはずです。

 私は、吐き出された紙を広げ、ジックリと(なが)めます。

 

「ジムリーダー、緊急招集……ってこれ、昨日送られたものですね。私がいない時に不用意に受信して紙が出ないようにセキュリティで私が来たら稼働するようにしていたのでした」

 

 普段ファクシミリなんて使いませんので忘れていました。

 すると、紙を読んだタイミングで丁度ポケギアの方にメールが届いたことを(しら)せる信号が発せられます。

 メールを開き、しばらく無言で見つめた後「はぁ」と溜め息を()きます。

 

「やはり、そうですか……いよいよ、始まるんですね」

 

 そこには、近々行われるポケモンリーグに()いて、カントー地方ジョウト地方合同のジムリーダー全員による対抗戦(エキシビションマッチ)開催(かいさい)すると書かれていました。


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