ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

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 遅くなりました(定型文)。
 次こそは頑張ります(余所見)。

 ということで、第5試合。マツバvsカスミです。どうぞ。


第17話 vs ムウマ

≪さぁ、続きまして第4試合です! グレンジムのカツラさん対、チョウジジムのヤナギさん! 両地方の一番のベテラン対決となります! え? あ、少々お待ち下さい……えぇ、申し訳ありません! カツラさんですが、体調が思わしくないとの情報が入りました! よって、試合順を変更し、第5試合を繰り上げて行います! 以降は、カツラさんの体調が戻り次第、試合を行う予定です!≫

 

 そのアナウンスを聞いたマツバさんが立ち上がり、カントー側もカスミさんがステージへ上がってきました。

 

「頑張って下さい」

「努力はするよ」

「勝つ努力をするんやマツバさん!」

「ははは、分かった。精一杯頑張るよ」

 

 軽く笑って、マツバさんもステージへ向かいます。

 

≪さぁて、お待たせしました! 第5試合をこれより開始します! ハナダジムのカスミさん対、エンジュジムのマツバさん! 試合開始です!≫

マリちゃん(マリルリ)! お願いね!」

「ヨマワル。出番だ」

 

 カスミさんはマリルリ、対するマツバさんはヨマワルを出しました。

 

「【アクアブレイク】!」

「引き付けて避けろ! 予想よりも動きが速い。しっかり相手を見て動きを合わせろ」

「逃がさないわよ! もう1回【アクアブレイク】!」

「くっ、ヨマワル」

 

 流石(さすが)カスミさんですね。水のエキスパートだけあってパートナーのポケモンの動きも(よど)みなく、川のような流れる動きでマツバさんのヨマワルを翻弄(ほんろう)しています。

 水をまとって突撃する【アクアブレイク】。技の発動の仕方としては【アクアジェット】に近いですが、【アクアジェット】は威力よりも加速の速さを求めるのに対して【アクアブレイク】は威力を重視し、そのぶつかった勢いで相手をよろけさせて防御の構えを(ゆる)める効果があります。

 その(すき)を突いて更に攻撃を重ねようと接近しますが、そこはジムリーダーが手塩に育て上げたポケモンです。ヨマワルも的確に動きつつ【ナイトヘッド】によって幻影を見せることで回避しています。

 ゲームでは固定ダメージの【ナイトヘッド】ですが、こっちの世界で言う幻影を見せて驚かせて精神攻撃をする、言わばSAN値チェックのようなものです。多分。

 

「【じゃれつく】よ!」

 

 その可愛さを振りまいて相手に密着しつつ、超至近距離から攻撃を仕掛けることでダメージを与える【じゃれつく】。これもまた高威力な技です。物理技を立て続けに出したということは、カスミさんのマリルリの特性は十中八九(じゅっちゅうはっく)【ちからもち】で間違いないでしょうね。マツバさんもそれを察知していたのか、口元に笑みを浮かべています。反撃ですね。

 

「厄介だが、突破口は見えた」

「だったら、隙を見せないままどんどん攻撃よ! マリちゃん!」

 

 再び【じゃれつく】を仕掛けるべく、接近するマリルリ。【じゃれつく】は、その可愛さに当てられて攻撃の意欲を奪う、ゲームでの攻撃を下げる効果があります。それを立て続けに食らわせることで、今度こそ物理攻撃の手段を奪おうというのかもしれません。

 しかし、ここでヨマワルが動きます。

 

「そこだ! 【おにび】!」

「しまった!」

 

 無闇に接近したことで、相手の【おにび】に自ら突っ込む形となってしまい、火傷(やけど)を負ってしまいました。

 次に仕掛けてくるタイミングを、ピッタリと予測出来たマツバさんすごいです。

 火傷状態になってしまうと、その部分が痛み、そこを気にしたり(かば)ったりしながら戦うこととなることになりますので、攻撃力を大幅に下げる効果があります。物理技に依存しているマリルリに取っては痛いでしょうね。更に流れはマツバさんの方へ(かたむ)きます。

 

「その特性ももらっておこうか。【スキルスワップ】」

マリちゃん(マリルリ)!」

 

 相手と特性を入れ替える【スキルスワップ】。マリルリは【ちからもち】、ヨマワルは【ふゆう】をそれぞれ交換することとなります。そうすることで、マリルリが地面から少し浮くようになりました。ヨマワルはあまり変わっていないように見えますが……

 これによって、マリルリは【ちからもち】を奪われた上に火傷状態となったことで、完全に攻撃の手段を(つぶ)されてしまいました。そこへ更に追い打ちを仕掛けます。

 マリルリが焦って攻撃体勢へ移ろうとしたタイミングで、あえて(・・・)遅れてヨマワルが動きます。

 

「【しっぺがえし】!」

「なっ!」

 

 相手よりも行動が遅い時に攻撃が成功すると威力が増加する【しっぺがえし】。しかも今のヨマワルは、マリルリから奪った【ちからもち】によって攻撃力が上がっていますので、物理技である【しっぺがえし】の威力は更に増えます。これによって、通常よりも手痛いダメージを食らうことで、マリルリは大きく後退してしまいました。

 しかも、【ふゆう】状態に慣れていないのでしょう、姿勢を立て直して受け身を取ろうとしても上手くいっていないようです。

 

「やるわね」

「どうも」

「でもね……」

「?」

「物理だけがマリちゃん(マリルリ)の攻撃じゃないのよ? 【ふるいたてる】!」

 

 火傷を負い、自身の特性である【ちからもち】すらも奪われた上にそれを利用して大ダメージを食らって意気消沈(いきしょうちん)するマリルリでしたが、カスミさんの指示でやる気を取り戻して相手を(にら)み付けながら身体を震わせて(かつ)を入れている様子です。

 

「【みずのはどう】!」

 

 特殊技!

 まさかの二刀(にとう)でしたか。

 水溜まりに水を1(てき)垂らした時に出来る、静かでそして幻想的に広がるその波紋(はもん)。それが幾重(いくえ)にも(かさ)なって、不規則な音のない水の音波が、ヨマワルを飲み込みます。

 

「ヨマワル!」

 

 そして、その特殊な音波に当てられたことで、ヨマワルの足取り(足ないですけど)はどこか覚束(おぼつか)ない感じです。どうやら、混乱状態に(おちい)ってしまったようです。

 

「まさかそのような手で突破してくるとはね」

「可愛いからって舐めないで頂戴(ちょうだい)?」

 

 それはどちらを指しているのでしょう? トレーナー? ポケモン? 私はどちらも可愛いと思いますよ。少々お転婆(てんば)が過ぎる所はアカネさんに似ていますが、彼女は恋する乙女です。仮に叶わないとしてもその純粋な想いは本物で、その経験が彼女を大きく大人の女性へと成長させる助けになるでしょう。大丈夫です。まだ若いんですから。あ、私もまだ高校生でしたね。

 

「とは言っても、マリちゃん(マリルリ)はちょっとこのままの続投は難しそうね」

「それはこちらも同じだよ。この混乱はかなり強力だね。上下左右が点でバラバラになっているのか、全然足取りが安定しない」

「ということは?」

「仕切り直しだな?」

 

 2人揃ってポケモンをボールに戻し、2つ目のボールを手にしました。

 

「頑張って、スタちゃん(スターミー)!」

「ムウマ! 今度はこちらから仕掛けるぞ。【10まんボルト】!」

「っ! スタちゃん(スターミー)!」

 

 今度はムウマの先制攻撃により、直撃を受けてしまったスターミーは体勢を崩しながらも距離を開けます。運良く麻痺(まひ)にはならなかった様子ですが、いきなりの大ダメージで既に追い込まれてしまったみたいです。

 

「これで決めるよ。【シャドーボール】!」

 

 霊的なエネルギーと言うのでしょうか、何やら黒い影のようなものを集めて相手へと発射する【シャドーボール】。水とエスパーの2つのタイプを持つスターミーにとっては、電気技もゴースト技も効果は抜群(ばつぐん)です。

 これで決まると、きっと誰もが思っていたことでしょう。ですが、私はカスミさんの(あせ)りながらもどこか余裕を感じさせる表情が引っ掛かってしまい、まだ何かあるとムウマの攻撃の行方を目で追います。

 

「何っ!」

 

 その声は、私達ジムリーダーの席からでしょうか、それとも観客か、あるいはステージ上のマツバさんのものでしょうか。いずれも会場全体が驚きによって一瞬静まり返ります。

 何と、ムウマの【シャドーボール】がスターミーを()り抜けたのです。

 

「【かげぶんしん】いや、分身なら複数の、少なくとももう1匹のスターミーがいるはず。では【みがわり】? 仮にそうだとしても、攻撃は擦り抜けずに【みがわり】の破壊が行われるはず。そもそもあのスターミーに【みがわり】を生み出せる程の体力は残されていない。いや、1つは作れるかもしれないが、それでもそんなに体力はないはずだ」

 

 イブキさんがブツブツと(つぶや)いていますが、これは相手を(あざむ)くのとは少し違う技ですね。

 

「ミカン、気付いてるんやろ?」

「何でそう思うんですか?」

「女の(かん)や」

「恐ろしいですね」

「で、答えは何や?」

「アカネさん、ジムリーダーなんですから、イブキさんみたいに自力で答えを見つけようとして下さい」

「ぐはっ」

 

 確かにアカネさんの言う通り、答えは分かりました。ですが、何でもホイホイと教えてしまっては身に付きません。私達ジムリーダーは、挑戦者がどのような戦法で来ようとも、それに対応しつつ正統な評価を下す必要があるのですから。

 今日この場は、他のジムリーダーの実力を間近で観察出来ると同時に、どのような戦い方をするのかなどを勉強する良い機会です。ジックリと見て聞いて話して、自身の(かて)としましょう。

 まぁ、残り1時間か2時間後か、それとももっと少ない時間かもしれませんが、ロケット団が押し寄せてパニックになってしまいますので、それ程のんびりとはしていられないんですけどね。

 

「そうか、【ほごしょく】か!」

 

 実際に対面し戦っているマツバさんは、流石に気付くのが早いですね。

 フィールドの環境によってタイプが変わる【ほごしょく】。現在この場所は室内です。【グラスフィールド】などでフィールド変化を行っていないので、ここでの【ほごしょく】は、ノーマルタイプへと変化します。

 電気タイプの技を等倍にし、ゴーストタイプの技を無効にするタイプです。これでムウマは手札の1つを封じられた形となります。

 

「やるねぇ」

「どういたしまして。それじゃあ、反撃よ! 【ハイドロポンプ】!」

 

 勢い良く発射された膨大(ぼうだい)な量の水。単純なだけに威力抜群の攻撃に、直撃こそありませんが、ムウマも避けきることが出来ずにダメージを負ってしまいます。

 

(かす)っただけでこの威力か」

「逆に決めたかったんだけど、そう上手くはいかないわね」

「そう簡単にはやられないよ? こっちもジョウトのジムリーダーとしての意地があるからね」

「それは私も同じよ? カントーのジムリーダーとして()じない活躍をしてみせるわ」

「はは、だが、それは難しいだろうな。【のろい】」

「なっ!」

 

 【のろい】。他のタイプなら”(のろ)い”と解釈(かいしゃく)してその場で腰を()えて素早さを落とすも、攻防両方への対応が出来るように構えることから攻撃力と防御力が上がる技です。ですが、ゴーストタイプのポケモンが使用するとその技は”(のろ)い”となり、自らを傷付ける代わりに対戦相手のポケモンの体力を徐々に(けず)っていき、最終的に戦闘不能へと持ち込む技。

 先程のツクシさんとナツメさんの試合では、眠るまでのタイムリミットが勝負の分かれ目となりましたが、今回はそのまま勝負が決まるカウントダウンです。

 ムウマがスターミーの猛攻(もうこう)を逃げ切れればムウマの勝ち。タイプ不一致の【ハイドロポンプ】が掠っただけでもあの威力です。他の技でも(とら)えられてしまえば大ダメージは必至。更に【のろい】によって自身の体力も削っているのです。ということで、力尽きるまでに相手に攻撃を当てることが出来ればスターミーの勝ちです。

 何故、どの試合もそんな緊迫感(きんぱくかん)(つつ)まれた息が詰まるような戦いばかりなのでしょうか。

 

「全力で相手の攻撃を(かわ)せ!」

スタちゃん(スターミー)追い掛けて!」

 

 攻撃手段がほとんど失われ、仮に【10まんボルト】を当てたとしても水タイプ相手でないことで耐えられてしまう可能性が高いです。もし攻撃態勢に入れば、その隙を突かれて攻撃されて終わってしまいますので、ムウマとしては逃げるしか手段がない状態です。

 一方でスターミーは、攻撃を当てなければ勝てない上に制限時間が刻々(こくこく)と迫っています。

 

「【こうそくスピン】!」

 

 するとここで、カスミさんのスターミーが激しく高速回転し、手裏剣のように相手へ向かいます。

 

「ノーマル技はこちらには……いや、避けろ!」

「そのまま【パワージェム】!」

 

 相手に接近したと同時に回転状態のまま、宝石のように輝く光の(かたまり)を放つ技【パワージェム】を周囲へとばらまき始めます。

 まるでシューティングゲームで見られる弾幕と呼ばれるような激しいラッシュ。光球の隙間と隙間を縫うように、しかし高速で逃げ回るムウマとそれを回転し追い掛けるスターミー。とても迫力があります。

 その弾幕は美しく、光球の1つ1つが様々な色に輝きながら進み、そしてステージから出る時にフッと消えます。その瞬間がまた綺麗で、ついつい見取れてしまいました。

 そして、この光の舞踏会(ぶとうかい)も終わりを(むか)えます。

 1つの【パワージェム】が直撃したことでバランスを崩したムウマ。そこに立て続けに弾幕の波にさらされたことで戦闘不能。ギリギリの所でスターミーの、カスミさんの勝ちとなりました。

 ちなみに、ポケスペ本編では【みちづれ】を使うことで引き分けに持ち込んでいましたが、この世界では互いに残り1体の場合、使用側が負けという判定となります。

 手持ち6匹の内で2匹を選出し、その中で1匹でも戦闘不能になった時点で試合終了ですので、その手段を()ることは出来なかったのかもしれないですね。




 本作の主人公はどこですか?
 本編の主人公もどこですか?

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