ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

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 今回は短めです。

 ということで、第6試合。シジマvsタケシの試合をどうぞ。


第18話 vs オコリザル

≪それでは第6試合! ニビジムのタケシさん対、タンバジムのシジマさん! 試合、開始です!≫

「改めてニビジムのタケシだ。鉄にも負けない硬い岩が自慢だ」

「うむ! タンバジムのシジマだ。ならばその硬い岩をも我が拳は打ち(くだ)いてみせよう」

「「勝負!」」

 

 どちらも熱い男ですから、年齢差はありますが結構気が合いそうですね。

 

「行け! ズガイドス!」

「オコリザル!」

 

 タケシさんはズガイドスですか。ポケスペ本編では(ミカンちゃん)の(客観的に見て)欺瞞戦術(ぎまんせんじゅつ)(やぶ)れただけで相性さえ熟知していれば……多分それでも私が勝つでしょうがかなり苦戦すると思います。

 

「【からてチョップ】!」

「【アイアンヘッド】!」

 

 衝突(しょうとつ)の瞬間、ガンッ! と大きな音が会場に響きました。それと同時に会場全体の歓声が消え、静寂(せいじゃく)(つつ)まれます。

 急所に当たりやすい【からてチョップ】を硬質化(こうしつか)した頭蓋骨(ずがいこつ)で受け止めたズガイドス。それにしても、生き物から出て良い音じゃない気がします。ハガネール同士が激しくぶつかった時のような音でしたよ。あれ。

 

(きた)え上げられたこの攻撃を防ぐか」

「こちらも鍛えているんでね! 言っただろ? 硬いのが自慢だ! 押し返せ!」

「む! (こら)えろ!」

 

 オコリザルとズガイドス。どちらも平均の体長は1m程度で、体重も31kg前後とサイズはほぼ同じです。まぁジムリーダーのポケモンですので、戦法に合わせて身体作りをさせ、体重を増減させているでしょうが。

 恐らく、オコリザルは軽いフットワークを得る為に(しぼ)り、一方でズガイドスは防御を高めつつ重い頭を支える為に特に下半身の強化を行っているものと予想します。だからこそ、オコリザルの攻撃を受け止めつつも、足腰の踏ん張りのみで耐え、更に押し返すことが出来ているのだと思います。

 

「【みだれひっかき】!」

「まだ耐えろ! 【アイアンヘッド】!」

 

 効果が抜群な格闘技を食らっても一歩も引かないズガイドスを相手に、今度は手数で攻めるオコリザルに対し、タケシさんの方は慎重(しんちょう)に防御と時々反撃の指示を織り()ぜながら、攻勢に出る機会を(うかが)っている様子です。

 頭こそ硬いですが、それ以外の部位は普通にダメージをもらってしまう上に、相手の方が素早いので、一見互角に見えて結構ジリ貧の様子です。ですが、タケシさんもズガイドスも焦っている様子はなく、ただ虎視眈々(こしたんたん)(すき)(うかが)っているみたいです。

 

「っ! 【きあいだめ】!」

 

 4度目の衝突で、ついに【アイアンヘッド】によって(はじ)き飛ばされてしまったオコリザル。ダメージこそ大したものではないようですが、相手との距離が少し()いてしまいました。そこを見逃さずにタケシさんが指示を飛ばします。

 

「【しねんのずつき】!」

 

 突如(とつじょ)、地を蹴ったズガイドスが素早くオコリザルへと接近し、相手の構えを()り抜けるように(ふところ)へと飛び込んで、ぶたざるポケモンの象徴であり弱点でもある鼻を思いっ切り頭突きしました。

 

「オコリザル!」

 

 大きく飛ばされたオコリザルは、ステージから落ちるギリギリの所で止まりました。

 固唾(かたず)()んで一同が見守る中、何とか戦闘不能にならなかったようで、ゆっくりと立ち上がります。立ち上がったのですが、何だか様子がおかしいと言いますか……

 

「あ、もしかして、入っちゃった感じですか?」

「あー、そうやろうな」

「うむ」

 

 シジマさんのオコリザルの特性は【いかりのつぼ】です。

 瞬間、オコリザルは怒声というより咆哮(ほうこう)と呼べるような迫力ある声を発しました。

 【いかりのつぼ】は、急所攻撃を食らうと攻撃力が跳ね上がる。ゲームでは最大まで一気に上昇する特性です。

 そしてただの急所ではありません。ぶたざるポケモンとしての象徴である鼻を攻撃されたのです。その行為は容易(ようい)に”逆鱗(げきりん)”に()れるものです。

 

「【げきりん】!」

 

 そして、我武者羅(がむしゃら)に攻撃を行います。先程のようなシジマさんの指導によって身に付けた型に沿った動きではなく、本能に身を任せた、まさに野生の動きでズガイドスへ迫ります。

 

「【あばれる】!」

 

 そこで相手が取った手段が、同じように本能のまま暴れ(くる)う【あばれる】。

 互いに防御を捨てて、ひたすら(なぐ)()り頭突きをし尻尾を振るうもの。最早(もはや)トレーナーの指示はその耳に届かず、ただ目の前の相手を倒すだけ。それのみに集中してひたすら衝突を繰り返します。

 これは、ポケモンバトルというよりも、ただの生存競争にしか見えません。普通の一般トレーナーのポケモンであれば、この技を使った時点で完全にトレーナーの制御を離れて無差別に攻撃を始め、最悪トレーナーにも危害を加える恐れのある危険な技です。ですが、目の前で戦っているのはジムリーダーのポケモン。本能に身を任せているとはいえ、ギリギリの所で理性を保っていることで、見苦しい泥仕合(どろじあい)ではなく疑似的(ぎじてき)な【インファイト】の応酬(おうしゅう)となっています。

 というか、オコリザルは【インファイト】使えるのですから、それで良いのではないんですかね? あ、そういうツッコミは野暮(やぼ)ですかね?

 互いの攻撃が終わりを見せたのはほぼ同時でした。2匹ともすっかり疲れ切ってしまい、ほとんど動けない様子です。しかし、スタミナはまだほんの(わず)かとはいえ残されており、体力もゲームで言うならばレッドゾーンでしょうけども戦闘不能判定は出ていないですし、続行可能ということでしょうね。

 ただ、シジマさんもタケシさんもその状態での試合の続行は躊躇(ためら)われたのか、2人とも2匹をそれぞれのボールに収めます。

 

「これ程の猛攻を(しの)ぐ所かこちらも(あや)うくやられる所であった」

「それはこっちもだ」

「次はこうはいかんぞ?」

「それはこちらもだ。勝ってみせる!」

「ゴウカザル!」

「ルナトーン!」

 

 タケシさんが彼の代名詞であるイワークを出さなかったことに私は1人、こっそりと驚愕(きょうがく)します。

 そこはイワークじゃないんですか!

 そんな私の思いを余所(よそ)に試合は進みます。

 

「【ロックカット】!」

「【マッハパンチ】!」

 

 自身の身体の余分な部分を(けず)り取って素早さを上げる【ロックカット】。これによって素早さで勝るゴウカザルに追い(すが)ろうということですね。しかし、すかさず【マッハパンチ】を叩き込むことで体勢を崩させます。しかし、すぐに立て直し技を繰り出します。

 

「【コスモパワー】!」

 

 すると、ルナトーンの周囲にキラキラと輝く光の粒子のようなものが浮かび上がります。神秘的な輝きによって物理防御と特殊防御を上昇させる技。素早さに加えて防御面もカバーしてきましたね。

 

「このまま好きにはさせん! 【ニトロチャージ】で追い掛けて【アクロバット】!」

「【チャージビーム】で迎え撃て!」

 

 素早く逃げながら攻撃するルナトーンに対し、炎をまとって接近しつつも【チャージビーム】が直撃する寸前に【アクロバット】によって空中で身を(ひね)って避け、更に接近をします。

 

「まだだ!【チャージビーム】!」

「避けろ!」

 

 しかし、接近していたことが(あだ)となり、モロに直撃を食らってしまいました。

 通常の【アクロバット】の動きでしたらギリギリ(かわ)せたかもしれませんが、2発目の【チャージビーム】は明らかにビームの太さが太くなっていました。つまり……

 

「威力が上がっていますね」

 

 【チャージビーム】は使用すると高い確率で特殊攻撃力が上昇する技です。それによって、1発目よりも2発目の方が威力もビームの太さも大きくなっていたということです。

 ゴウカザルにサブウェポンで【だいもんじ】などを搭載(とうさい)しているのでしたら問題ないのですが、シジマさんのポケモンの特徴はやはり肉弾戦にあります。よって、ゴウカザルに【だいもんじ】を初めとした特殊技はないと思われます。

 相手は離れた位置から一方的に攻撃出来、こちらは接近しなければ攻撃が届かない。しかも相手は【ロックカット】で素早さを、【コスモパワー】で防御面をカバーしていますので接近も簡単なものではなく、また接近が出来たとしてもあの防御を抜くのは難しいものと思います。

 そんな移動要塞が出来つつある相手にも、シジマさんは一切表情を変えることなく指示を飛ばします。

 

「とにかく相手に近付け! そうでなければ勝てんぞ! 【ニトロチャージ】!」

「【サイコショック】!」

「【アクロバット】で避けろ!」

「まだまだぁ! 【チャージビーム】!」

「地面に向かって【マッハパンチ】!」

「着地した所を狙え! 【サイコショック】!」

「【ニトロチャージ】で踏み込め!」

 

 ルナトーンの激しい攻撃を()(くぐ)るゴウカザルですが、その動きは時間を()(ごと)洗練(せんれん)されたものへと変わりつつあります。その理由はやはり連続して使用された【ニトロチャージ】でしょう。

 炎をまとって突撃することで素早さを上げる技ですが、体温を上げて血流を速くすることで各部の筋肉への酸素供給量を増やし、素早さの上昇を実現しているものと思われます。

 そして、ついにルナトーンを(とら)えました。

 

「くっ、だが、この防御はそう易々(やすやす)とは抜かせない! その隙に【サイコショック】だ!」

随分(ずいぶん)と手こずったがこれで終わりだ。【おしおき】!」

 

 超至近距離で放たれた技を、その軽い身のこなしで躱して渾身(こんしん)の一撃を相手へと加えます。果たして、その技が当たったのは……

 

≪ルナトーン戦闘不能! 勝者、シジマさんです!≫

 

 目前に迫る【サイコショック】をギリギリの所で避けつつも更に接近し、その右腕を伸ばしてルナトーンを殴り付けたことで相手は一気に体力を削られ、戦闘不能となりました。

 相手の能力が上昇している程に技の威力が上がる【おしおき】ですが、最大威力を叩き込む為には相手の能力が出来るだけ多く上昇していることが求められます。それ(ゆえ)に、無理矢理ゴウカザルを接近させる必要があったのです。

 【ロックカット】や【コスモパワー】では足りない分の威力を【チャージビーム】によって(おぎな)わせるという、相手の戦力増強というシジマさん側からすると明らかに不利になることを狙うとは……私ではそんなリスクを負うことは出来ませんね。

 威力を最大にする必要があったのは【コスモパワー】によって上昇した防御補正はそのまま生きるからです。また、何度も派手に接近しようという動作をすることで、【コスモパワー】をさせる(ひま)を与えずに、ただひたすら迎撃をするよう仕向けたことも、試合を終えて改めて振り返って分かったことです。

 試合中はそんな所まで冷静に見ることは出来ませんでしたからね。

 相手の能力上昇によって最大威力となり、更に悪タイプの技である【おしおき】は岩に加えてエスパータイプであるルナトーンには効果抜群です。ですから、たった一撃とはいえ戦闘不能という結果になったということです。

 

「まだ向こうの体調は戻らないようですね。ということは、次はオレですかね?」

 

 そう言ってハヤトさんが立ち上がります。

 恐らくロケット団が来るまではカツラさんは戻ってこられないと思います。となりますと、このハヤトさんとエリカさんの試合が終わると、いよいよ私とグリーンさんの試合となりますね。

 今からドキドキしてきました。




 無駄技を上手く作品内で使って決めることが出来ると楽しいです。
 ゲームでは基本採用されませんからね。

 結果から見れば順当なのですが、その試合内容は結構激しいものです。
 もしかしたら一矢報(いっしむく)いた可能性もある試合をお届け出来ていたら良いなーと思っています。
 楽しいですけど、戦闘描写は書くの大変ですね。本当に。

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