ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】 作:木入香
今回、ちょっと色々とアレがアレですが、ミカンちゃんですので許して下さい。あ、中身違うんでした。まぁ、ミカンちゃんであることに変わりはありませんので、ご容赦を。
「おい、ミカン。一体何なんだ? 何があった? 何でお前が持ってたもんをアイツが持ってんだ?」
「【トリック】よ。ゴールド」
「あん?」
私の代わりにクリスさんが答えてくれますが、ゴールドさんはピンと来ていない様子です。
「相手と自分の持っている道具を入れ替える技です。それで奪われました」
『ククク、自分が使えるなら相手も使えると想定しておくべきだったな』
「そうですね。それに関しては完全に私の油断です」
しかし、【どろぼう】のような直接相手から奪う技ならばともかく、【トリック】のように離れた位置で道具の交換を行うには、【どろぼう】以上の練度が必要です。しかも、常に動き続けている特定の相手の、しかも目的のものだけをピンポイントで狙っての精密さ。
悔しいですが、今はそんな暇はありません。次にどうするかを考えなくてはなりません。
もう1度【どろぼう】で奪う? いいえ。ホウオウ、ルギアに加えてデリバードにムチュールまでいる中で
「だがよ。いくら設計図があったって、その特殊な、モンスターボールか? 作るには材料がねぇだろ? それはどうすんだよ」
「ありますよ。材料なら……」
「何だと?」
『やはり……いや、ここまで来たら知っていて当然か。先もそのようなことを言っていたしな』
『用意してあるさ。ボール作りに必要なキャプチャーネットの材料、それは……あそこだ!』
するとデリバードが飛び出して、ホウオウとルギアの間を縫うように飛び、そして再び主人の下へ帰ってきた時には、クチバシに2枚の異なる輝きを放つ羽が
「それは! ”にじいろのはね”と”ぎんいろのはね”!」
「何だか分かんねぇが! ソイツの手に渡ったら駄目なんだろ?
『無駄だ! 【ねんりき】!』
「
「何て威力なの!」
『貴様らもだ!』
「なっ!」
「くっ!」
「そんな!」
私達もバクフーン同様に、【ねんりき】によって無理矢理地面に
『【くさむすび】!』
そこへ更に、地面から草が生えたと思えば、
「くそぉ!」
「腕が!」
「
『貴様には散々邪魔されたな。どうだ草の味は?』
私はポケモンに指示が出せないよう、【くさむすび】によって
『おっと、これも忘れていたな』
私が疑問を持つ前に、今度は目にも草が巻き付きます。
『貴様は目線でも指示が出せるらしいな? 素晴らしい。
「ミカン!」
「ミカンさん!」
くっ、ムチュール1匹に3人が全滅だなんて……それに何て威力ですか! それに私は口も目も
『さて、これで誰にも邪魔されずにボールが作れる。ククク、長かった。あぁ長かった……これらを
「そんな……」
『ついに、この手に……フフフ、フハハハハハハ!』
「ふざけんな!」
ゴールドさんとクリスさんは、口も目も塞がれていないようですね。良かったです。しかし、仮面の人の言葉でゴールドさんがキレてしまいました。
「だったら何か? コイツらは、ホウオウもルギアも、その為に、その為
「ゴールド……」
『……』
「違うよな? それでも、これだけは違うよな? 例え、他のもんが道具だったとして、ポケモンだけは違うよな? テメェも、1度でもポケモンと触れ合って、過ごして、楽しいことも嬉しいこともいっぱいあっただろ? そんなら言えねぇよな? 言えねぇはずだよな! ポケモンが”ただの道具”だなんて、口が
「ゴールド!
「テメェにとってポケモンって何だ! 答えろ! テメェの口で、その言葉で、ハッキリ声に出して答えやがれぇぇええええ!」
知っています。この次に出てくる言葉を、私は知っています。漫画で読んでいますから。でも、ここは漫画の中の世界ではなく、本当に息をして心臓の
数字の
だからこそ、次の瞬間にその仮面の奥から紡ぎ出される言葉を知っていますが、聞きたくありません! 仮にその言葉の奥にある1つの想いがあったとしても、その言葉だけはとても許されることではありません!
今すぐに耳を塞ぎたい気持ちでいっぱいですが、今の私は口と目だけでなく、両腕両脚も
その言葉が出るまでにどれだけ掛かったでしょうか。1分ですか? 2分ですか? それともまだほんの数秒ですか?
もしかしたら、私が関わったことで違う言葉が出ることをどこか期待していました。
『道具だ』
しかし、私は、最も聞きたくない言葉を聞いてしまいました。
「っざけんなぁぁあああああああああ!」
ゴールドさんと気持ちは同じです。私も思いっ切り叫びたいです! 暴れたいです!
あのデリバードは! ムチュールは! あの目は、主人のことを絶対に信頼する目です! どんなに悪事に荷担していると知っていようとも、それで主人が幸せになるならと信じる目です! 長年付き添ってきたパートナーが向ける目です! それを、その奥に深い”愛”があると知っていたとしても、その言葉を自身のポケモンに向けること自体が許されざることです!
「ゴールド! それ以上は駄目!」
「クソがぁ! オレは! 絶対に負けない! 諦めてたまるかよぉぉおお!」
『うるさいガキだ』
「ぐあっ!」
「ゴールド! そんな! 【ねんりき】で!」
ムチュールの【ねんりき】によって、ゴールドさんが何かされたようです。私もいつまでもこうしていられません。子供が頑張っているのです。大人の私が頑張らなければ、いつ頑張るというのです!
それにしても、痛いです。こんなのをゴールドさんは自力で抜け出そうとしていたのですか。何とも心の強い少年です。
それから何度か私も抵抗してみますが、やはり身体が動きません。
ジムリーダーなのに、皆を守らなければいけない立場なのに、悔しいです。
「ミカンさん! 大丈夫ですか! な、泣いて、いますよ?」
「……?」
私、泣いているんですか?
クリスさんの声がする方へ顔を向けますが、当然今も目は見えません。ですが、それだけで私が聞きたいことを察したのか、すぐに言葉が続きます。
「すごく、悲しそうな顔をされています」
そうですか。いえ、ここで泣いていても解決しません。何とかしてこれを抜け出さなければなりません。
もう一度力を込めると、今度は特に抵抗もなく拘束から脱することが出来ました。口と目を
「【ねんりき】と【くさむすび】の拘束が
私は戦闘の余波で崩れ、空が見える状態のリーグ会場の天井を見上げます。するとそこには、空高く
なるほど、距離が空いたことで【ねんりき】の範囲外となって、拘束が弱まったのですね。
「クリスさん、大丈夫ですか?」
「え? あ、はい。あ、ゴールド!」
「見た所、気を失っているだけですね。良かったです」
「ですが、ここからどうやって止めましょう?」
ゴールドさんの容態を確認した後、クリスさんの質問に答えずに周りを見渡します。あの仮面の人が動けなくなった私達を野放しにするはずがありません。なのに、何故こうして無事なのか。その答えは、すぐに分かりました。
ルギアとホウオウは確かに指示通りに暴れて、こちらに危害を加えようとしています。しかし、私が動けない間も必死に私達を守ろうと動いてくれていたのか、私のポケモン達は傷付きながらもしっかりと私達の周りを固めて、手出しさせなように踏ん張っていました。
「皆、ありがとうございます」
先程とは違い、嬉しさで涙が出そうになりますが今度はちゃんと
「クリスさん、正直私達だけでは厳しいです。ですが、まだ道は残されています。本来ならこれは警察や、私達ジムリーダーがすべきことで、あなた達のような一般の、それも子供に助力を求めることはいけないことだと思います。ですが、今は少しでも戦える力と、戦える意思が欲しいです。協力して頂けますか?」
「
「ありがとうございます。作戦ですが……」
ゴールドさんは気絶してしまっているので動けませんが、まだ私とクリスさんがいます。何とかしないとと思い、次の作戦を告げようとしたその時、私達とは違う、荒々しい声が響きました。
「オイオイオイオイ、こりゃ一体どーなってんだ? オレ達が
その声の主は、破壊された屋根の上にいました。
「あれは……」
クリスさんが見取れていますが、私も同じです。私としては、間に合ってくれたという
『何者だ!』
突然の登場に仮面の人が注意を向けると、そこにはスイクン、ライコウ、エンテイに付き添う、3人のトレーナーの姿がありました。
「スイクン! ライコウ! エンテイ! “焼けた塔”から
カスミさん、マチスさん、カツラさん。無事にそれぞれ出会うことが出来ていたみたいですね。良かったです。
3人はそれぞれパートナーとなったポケモンに
『スイクン、ライコウ、エンテイ……そのまま塔の
すると私達を攻撃しようと私のポケモンと戦っていた伝説の2匹は、その指示に従って空へと舞い上がりました。
「今は、見守りましょう。
「分かりました……」
今、この状況で何も出来ないことが悔しいのでしょう。特に正義感の強いクリスさんですから、この
「クリスさんは強いですね」
「え?」
「ここで、感情に任せず
「そんな、私、何も……」
「自信を持って下さい。言いましたでしょう? 大事なことです。大切なことです。きっとそれは、あなたを更に強くしてくれます。ですが、今、この場は私達大人がやらなければいけないことです。それを、見守っていて下さい」
「はい……」
納得は出来ないでしょうが、理解は出来ているはずです。
「まだまだぁ!」
会場の上では、スイクン、ライコウ、エンテイの3匹と、ホウオウ、ルギアの2匹とが互角の戦いを繰り広げています。
『それが全力か! それで全てか! ならば
「何ですって!」
『フハハハハ! 確かに力はある! だが、
そう言って仮面の人は飛び出して、スイクンの上に乗るカスミさんを
「この! スイクン! 【ハイドロポンプ】!」
『迎え撃て!』
「あなたは、9年前もホウオウを手に入れていた! それは、そのボールの材料としてだけでなく、ホウオウの見定める目によって各街から”能力の高い子供”を
仮面の人に捕らえられ、リーグ会場の屋根へ押し付けられながらも、カスミさんはスイクンから得た話を聞かせます。それは、取り調べか、確認か。それとも私のように”道具”でないと否定して欲しいが為か。
「でも、スイクン達はあなたの計画が、
『フフフ……そうだ! その3匹はホウオウの力によって誕生した! 命を得た! 生き長らえた! 言わば”ホウオウ親衛隊”! ククク、だから許せなかったのだろう! そして、
「その戦いによって、スイクン達はホウオウをあなたの手から解放させることに成功した! でも、その代わりとして、あなたに焼けた塔へと封印されてしまった!」
きっと、ホウオウを手にしたトレーナーが心優しい人であれば、スイクン達も戦おうとはしなかったでしょう。しかし、その人の心は
伝説であろうとも、力があろうとも、1つの目的を果たす為の”道具”としか見ませんでした。
それが許せなかったから、戦い、そして強大な悪の力によって
『ならば、今回も結果も同じことだと分かるだろう? かつて私に
その言葉通り、ホウオウはスイクンを吹き飛ばしました。
「クリスさん、申し訳ありませんが、先に行って援護しに行ってもらえませんか?」
「ミカンさん?」
「私が、ゴールドさんの様子を
「分かりました! ゴールドを、お願いします!
クリスさんが飛び立ったのを見送ります。その先には、スイクンによる水晶の結界、
それを見ながら、
「ゴールドさん、起きていますよね?」
「……あぁ」
「身体は大丈夫ですか?」
「こんなん、
「良かったです。では、準備をしましょうか」
「準備?」
「はい。私達も戦いの場へ行きましょう」
「……もう終わったんじゃねぇか?」
「何度もあの仮面の人と戦ったあなたなら、分かりますよね? ここで終わると思いますか?」
「コレっぽっちも思わねぇな」
「そういうことです」
「んでも、行くってどこに?」
話をしながらも、私はポケモン達を回復させるなどの準備をしています。しかし、それはまるで、こことは別の場所へ行くように彼の目には映っているかもしれません。実際にそうなのですが、今は説明するよりも行動です。ですから、振り返って笑顔でこう答えます。
「"決戦の地”へ」
それから間もなく、仮面の人は上半身だけ切り離して脱出。そのままホウオウとルギアを連れ立って、会場を後にしました。
私とゴールドさんは、コッソリと会場を抜け出して、
主人公とはいえ、子供の力を借りなければ勝てないだなんて、私弱いですね……
そんな思いを胸に、私は、前を向き続けます。
ということで、ミカンちゃんの【ねんりき】【くさむすび】拘束です。これ、ワンピースの下にスパッツ履いていなかったら、大変なことになっていましたね。良かったですね。アンバランスな服装で。
ものすごく今更で、今回までに言及があってもなくてもとりあえず注意があります。
ポケスペ本編の流れに基本的に沿って物語が進んでいますが、台詞は全てを写さすに部分部分で変更してありますので、もしかしたら違和感があるかもしれません。
ただ、色々と引っ掛かってもいけませんので、元とは違った言葉が並びますことをご了承下さい(遅すぎ)。
カスミ達の会話が聞こえるのは、よくある漫画的聴覚ということでご容赦を。
ミナキさんの登場を待たずに移動をしましたので、出番はありません。