ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

24 / 26
 空間の表現の仕方が難しいです。
 ということで、本編をどうぞ。


第24話 vs ウリムー

「アイツ……自分のポケモンを……」

「ゴールドさん、今はそっとしておきましょう」

 

 ヤナギさんが”時空(とき)狭間(はざま)”に消えたことを見届けてから、彼のポケモン達は私達との戦いをやめて、静かに(たたず)んでいます。先程までの敵意が嘘のようです。

 気付けば(あられ)()み、雲の切れ目から日差しが差し込みます。その光によって戦いの場であった草原が照らされ、あちこち地面が割れ、吹き飛び、荒れ地となっていることから先程までの戦いの激しさを(うかが)い知ることが出来ます。

 

大分(だいぶ)日が(かたむ)きましたね。どうしますか?」

「……どうするとは?」

「まだ扉は開かれています。今なら、まだ間に合いますよ?」

「……まだ、やるのか?」

「はい」

「あんな強いのにか?」

「はい」

「もう、この時間にいないのにか?」

「はい」

「勝てなかったのにか?」

「まだ負けていません」

「オレは……弱い……全力で戦って、全力で守って、それでも1匹抑えるだけで精一杯だった。ミカンが助けてくれなかったら、オレは……」

「大丈夫です。私がいます。それに……」

 

 私は言葉を句切り、ゴールドさんの後ろを見ます。そこには、まだ目が諦めていない、彼を主人として(した)うポケモン達の姿がありました。

 私の視線に気付いたのか、彼も後ろを見て驚いた様子です。

 

「お前ら……だけど、勝てるのか? あんな強い奴に?」

「強いからと悪を許すことはありません。あくまで私のジムリーダーとしての矜持(きょうじ)ですので、強制することはありません。ただ、あなたはそれで良いのですか?」

「オレだって許せねぇ。仲間を、ポケモンを、道具と言い切りやがったアイツをぶっ倒したい。だけど、オレにはその力がねぇ」

 

 ゴールドさんはすっかり心が折れてしまっているようです。何度も何度もぶつかっては立ち上がり、そして諦めずに突き進んできた彼ですが、ここに来て、ヤナギさんが野望を達成してしまったことを受けて、いつもの覇気(はき)がなくなってしまっています。

 そこへ、私の背後から声を掛けられました。

 

「ゴールドじゃないか! それと、あなたは?」

「アサギジムでジムリーダーを(つと)めています。ミカンと申します」

「おお、あなたが」

 

 話し掛けてきたのは、2人の高齢の男女と、その内の女性をおんぶしている中年の男性でした。格好からして、釣りなどを行うような()で立ちです。

 

「ワシらは、”育て屋”を(いとな)んでいる夫婦じゃ。そちらにいる少年と面識があってな。それに、今少年の(そば)にいるピカチュウは、ワシらと一緒にいたトレーナーのポケモンじゃ。家にいた所、突然ロケット団の残党と言われる連中に襲われてな、何とか逃げてきた所じゃ。じゃが、その際に、このピカチュウ達や、そのトレーナーのイエローともはぐれてしまってな。途方(とほう)に暮れていた所だよ」

 

 杖を突き、眼鏡を掛けた高齢の男性が事情を説明してくれます。立派な白い(ひげ)とは対照的に頭はすごく(まぶ)しい。と、この非常事態ですが、不謹慎(ふきんしん)にも思ってしまいました。

 

「事情は分かりました。よくご無事で」

「ハッハッハ、まだ若いもんには負けんよ。それと、少しゴールド、良いかな?」

「え、オレ?」

「うん。ほれ、ばあさん、アレを」

「おぉ、そうじゃった。ほれ。これを」

「手紙?」

 

 高齢の女性が取り出したのは手紙のようです。

 

「オーキドからの預かり物じゃ。お前と会う時があれば、渡して欲しいと以前預かっていたものじゃ」

「一体何が……」

 

 確か、オーキド博士とこの2人の老人は昔馴染みでしたね。そこにガンテツさん、キクコさんも。そして……

 そう思いを()せていると、手紙を読んでいたゴールドさんの手が震えています。

 

「ゴールドさん?」

「オレには、トレーナーとしての能力がねぇってのか? 他の図鑑の持ち主達と、肩を並べることが出来るような、そんな能力がオレにはねぇってのか!」

 

 手紙の内容は、恐らく戦いのアドバイスではなく、図鑑を(たく)したトレーナー達の特徴を(しる)したものだったはずです。それを何故、ゴールドさんにのみ渡そうと決めたのかは分かりません。

 少ない時間ですが、彼と接する内に気付いたことと言えば、彼のトレーナーとしての能力は並です。生まれながらにして、多くのポケモンと過ごしてきたことから、ポケモンと仲良くなることに関しては高い能力を持っていると思いますが、それでも一般トレーナーの域を出ないと思います。

 主人公ならではの、トラブル体質と言いますか、悪運の強さなどはありますが、一度(ひとたび)ポケモンバトルを行えば、真っ直ぐ過ぎる性格と合わさって、単純な戦法が多いように感じます。

 ただ1つ。彼が他と違うと思うことは、彼は人並み外れた強い心を持っていることです。そして、その熱い心で救われたポケモンもいます。そんな燃えるような心を持つゴールドさんですが、先程の戦いで、その心に宿(やど)る火は小さく消え入りそうです。ですが、何か1つ。たった1つでも切っ掛けがあれば、それが燃料となって、再び彼の心を炎で熱くするはずです。

 

「大丈夫です」

「え?」

「ちゃんと届いていますよ」

 

 私の言葉に、視線が1つの所へ集中します。それに気付いたゴールドさんも、ずっと手の中にあったタマゴへと目を向けると、それまでただの真っ白なタマゴだったそれに、黒いギザギザの模様が浮かび上がって、(ふる)えだしていました。

 そう、あの時のゴールドさんの思いは、ちゃんと届いていたのです。

 

「お、おい! これ、封筒の中にオーキド博士からの手紙が残っていた! 『ワシが見出(みいだ)した図鑑所有者達の6つの能力、戦う者、育てる者、()やす者、捕まえる者、()える者、()える者、そして、それらに()ぐ7番目の能力。それこそが、(かえ)す者じゃ』!」

 

 その瞬間、タマゴが割れ、中から2匹のピカチュウの子供、ピチューが誕生しました。

 彼の熱い心はタマゴを(あたた)め、新たな命を目覚めさせたのです。

 

「う、生まれたじゃと……まだ予定日よりかなり早いはずじゃが」

「ゴールド、お前いつからこのタマゴを?」

「いや……ついさっき、()いていたのは一瞬だったぜ。ただ、夢中で、守らなきゃって……」

「そうか。だけど、お前が手にしたことでタマゴは孵った。それは間違いないようだぜ?」

 

 生まれたばかりのピチューは、親(ゆず)りの電撃を両(ほほ)頬袋(ほおぶくろ)から出しながら、気合いの入った目でゴールドさんを見つめます。その目は、まるで、絶対に諦めないという、ゴールドさんの目、そのものです。

 するとピチューはゴールドさんの頭に乗り、自身とゴールドさんを電撃で包んで浮かべます。

 

「オイオイオイ、何だ! どうする気だ! もしかして、アイツを、ヤナギを追うってのか!」

 

 それに答えるように、電撃が更に強くなります。

 

「では、私も行きましょうか。レーちゃん(レアコイル)、お願いします」

 

 連れて行くのは、私が最初に仲間としたレーちゃん(レアコイル)だけです。

 これから飛び込む空間の中で、もし(やぶ)れてしまったから帰ってくることが出来ません。それに彼等を巻き込む訳にはいきません。

 本当なら私1人で行きたいですが、私だけが飛び込んだだけでは何も出来ないでしょう。ならば、1番付き合いの長く、私の考えていることを1番理解してくれているレーちゃん(レアコイル)しかいません。

 それらを全て分かっているのでしょう。レーちゃん(レアコイル)は、私を見て「しょうがないな」とでも言うように寄り添ってくれます。私はレーちゃん(レアコイル)磁石(じしゃく)に掴まって、時空への扉を見つめます。

 

「よっしゃ! 行くぜぇぇええええ!」

「彼に続いて下さい!」

 

 ゴールドさんが扉へと飛び込んだのに遅れて、私も扉を(くぐ)りました。

 

「ここは……」

「何だこりゃ……」

 

 この空間が”時間の狭間”……? 何でしょうこの感覚。不思議な感じです。

 心地よさ、気持ち悪さ、清々(すがすが)しさ、息苦しさ。様々な感覚が通り過ぎていきます。時間の流れが不規則なのでしょうか?

 これに一番近い感覚ですと……【トリックルーム】が該当(がいとう)しますかね? あれは時間の流れが一定ですので、今のような変な感じはしないのですが、似ていると言えば似ていると思います。

 しかし、今感じているこの状態は何か変です。

 私自身は良い悪い全ての感覚を引っくるめて不快感しかないのですが、一方でそれとは別に、この空間に何も感じていない私がいます。

 まるで、船に乗り続けて船酔いにならなくなったような……以前にも体験して慣れてしまったような感覚です。

 1人の私に2つの違う感じ方……まさか、本来のミカンちゃん()と転生した(ミカンちゃん)の2つの意識が混じっている?

 

「ここまで追ってくるとは、本当にしつこい奴らだ」

 

 そんな違和感について考えていると、突然何もない空間からヤナギさんが現れました。

 

「テメェ! どっから!」

「ここは時間も空間も(ねじ)れていて、全てが縦横無尽(じゅうおうむじん)に流れている。だから、近いようで遠く、遠いようで近い。例えこの空間の中で数十キロ離れていたとしても、そこへ行くことを強く思えば、一瞬で道が繋がる。だが、1度この流れからこぼれ落ちたが最後。もう2度と()い上がることは許されず、空間の圧力に挟まれて、死ぬ。それから守ってくれるのが、この2枚の羽だ」

「ベラベラとありがとよ! つまり、テメェの近くにいりゃ、問題ねぇってこったろ! ピチュー! 突撃だ!」

「ふん、諦めの悪い奴だ!」

レーちゃん(レアコイル)、ゴールドさんを援護(えんご)して下さい」

 

 それから空間内を飛び回って、いくつもの軌跡(きせき)(きざ)まれて、消えていきます。

 

「うぉぉおおおお【ボルテッカー】!」

「ふん、【こなゆき】!」

「くそぉ!」

「そこです! 【ちょうおんぱ】!」

「甘いわ!」

 

 中々内側へと飛び込ませませんね。私は何故かまだ余裕がありますが、羽で守られていないゴールドさんはどこか苦しさを(にじ)ませています。それでも、その目には力があり、絶対にヤナギさんを倒すという意思を感じます。

 根本的に、この空間の中で距離というのは意味を成しません。物理的な距離があったとしても、そこへ到達するまでの時間が(ゆが)んでいますので、先程のヤナギさんの言葉を借りるなら、10m進むのに100分掛かることもあれば、100kmを進むのに1分も掛からない場合もあります。

 あくまで例えですので、実際にどのような作用がこの中で起こっているのかは、私では知ることが出来ませんが、体感で、1つの動作が若干ラグというか長く感じることもあれば、判断が遅れて直撃されると思った攻撃が余裕を持って(かわ)せたりと、不思議な感覚がずっとしています。

 しかし、それは私だけでなく相手も同じです。

 

「【げんしのちから】!」

「なっしまっ!」

「ゴールドさん!」

「大丈夫だ! まだまだぁぁああああ!」

レーちゃん(レアコイル)、彼のピチューに電気を! ゴールドさん受け取って下さい!」

「ミカン! おっしゃ行くぞ! 【じゅうでん】!」

 

 気合い、やる気十分なピチューです。しかもレッドさんのピカ(ピカチュウ)とイエローさんのチュチュ(ピカチュウ)の2匹を親に持ち、しかもその2匹ともトキワの森というポケスペに()いては特別な森出身、最強の遺伝子を持つ子だと思います。

 しかし、どれ程才能があろうとも、まだあの子は生まれたばかり、電気の制御が上手くいかずに、せっかく溜めた電気も漏れ出してしまうことがあって、十分な威力が出ていない時があります。そこをレーちゃん(レアコイル)が外部バッテリーとなって電気を供給。そして【じゅうでん】によって、一時的に電気の保有可能量を上昇させることで、次の技を安定させます。

 

「くらえぇぇええええ! 【10まんボルト】ぉぉおおおおお!」

「ぐあああああああああ!」

 

 その激しい電撃、まるで稲光(いなびかり)を至近距離で見た時のようなとてつもない光が一瞬、この歪んだ空間を支配します。

 それを直視してしまったヤナギさんは、キョロキョロと辺りを探るような仕草をします。

 

「視力が……よくも! 容赦(ようしゃ)せんぞ!」

「おっしゃ! 攻撃が通った!」

「気を抜いてはいけません!」

「見えなくとも、分かるぞ! そこだ! 【フリーズドライ】!」

「何っ! うわっ!」

「ゴールドさん!」

 

 一瞬の気の緩みもありましたが、何よりもすぐさま対応してきたことに気付くのが遅れてしまい、ゴールドさんも攻撃を食らってしまいました。そして彼の周りに冷気が霧状となって姿を隠してしまったことで、中の様子が分かりません。

 

「大丈夫ですか!」

「おう! 大丈夫だ! だけど、何だ身体が上手いこと動かねぇ!」

 

 霧が晴れた時に見た彼の姿は、一枚のガラスの中に投影されたような二次元の人物となっていました。

 

「フハハハハ! どうだ! かつてスイクン達を封印した時と同じ手法だ! この空間の中で私の氷の壁に挟まれるとこうなる! 完全なる冷凍保存だ! この空間の苦しみからは解放されるが、動くこともままならないだろう! そして、次は貴様だ! ミカン!」

「くっ!」

 

 更に相手の攻撃は激しさを増しますが、(まばゆ)い光によって一時的に視力がなくなってしまったヤナギさんの攻撃は直線的です。他の感覚に頼っている割りには正確にこちらの位置を掴んで仕掛けてきますが、この程度なら私でも対処が出来ます。

 

「ちぃ! (らち)が明かない! このまま時間を浪費してしまっては、また機会を失う! また後で決着を付けてやる!」

「あ、待ちなさい!」

 

 しかし、私の制止の声も意味はなく、彼は再び空間の歪みの中へと姿を消してしまいました。恐らくこの空間から出て、ウバメの森の(ほこら)へと向かったのでしょう。虹色の羽と銀色の羽の2枚の羽を持たない私では、この空間を出入りすることが出来ませんので、ただ無為(むい)(ただよ)うしかありません。

 

「ゴールドさん、大丈夫ですか?」

「あぁ! だが、どうにも出られねぇ! そっちから何とかならねぇか?」

「そうですね……」

 

 氷の壁をコンコンと叩いてみますが、これは物理的に破壊することは難しそうです。それに仮に破壊出来たとして、中にいる彼が無事に脱出出来るという保証もありません。

 

「やはり、あの羽がないとなんとも出来ないみたいですね」

「やっぱそうか……」

 

 それから私達はお互いにどうすることも出来ず、ただこの何もない空間をフワフワとしています。ただ、私の中では次の戦いについて考えていました。彼は「後で決着を付ける」と言いました。つまり、セレビィを捕獲して時を手に入れてから再び戦うということです。

 ヤナギさんにとって、私の存在は余程邪魔なのでしょうね。

 エンジュ、セキエイ、ウバメ近郊、そしてこの空間で4回戦い、いずれも私の負けでした。ですが、5度目があるというのであれば、今度こそ彼を倒しそして、生きて帰ってきたいと思います!




 以前どこかで書いたと思いますが、本作のミカンちゃんはポケスペのHGSS編を知りませんので、この戦いの後、ヤナギは時間の狭間に落ちて死ぬと思い込んでいます。
 ですので、絶対に救い出し、そして罪を償わせることを信念に行動しています。
 中途半端に知識のある主人公です。

 これでポケスペ本編14巻終了です。
 ゴールドの登場シーンが少ないこともあって、ゴールドと一緒に行動させるとあっという間に終わりましたね。
 次回か次々回でエンディング予定です。
 長々と続けるつもりはありませんので、無事に完結まで行けましたらそこでスッパリ終わります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。