ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】 作:木入香
対するハヤトの言葉遣いは、あえて無理矢理丁寧口調にしていました。理由としては、初対面かつ先輩ジムリーダーに対する礼儀を示す為です。
食事回です。
食を扱う作品は多く、大食いがテーマのもいくつもありますが、私が個人的に好きなのは、電撃文庫発行の「イリヤの空、UFOの夏」に登場する無銭飲食列伝の回です。
というか、久々に「イリヤの空」を検索した所、なんとカクヨムにて一部ですが無料で公開されているみたいです。興味がある方は是非読んでみて下さい。無銭飲食列伝はない模様です。
追記:ポケスペを読み返したらゴールドが乱入したラジオ配信は、夜ではなく朝もしくは昼のようでしたのでそれに合わせて一部加筆修正をしております。
コガネシティのポケモン協会本部を出た私とアカネさんは、夕方の賑わう街を歩き、手頃な飲食店を物色しています。ただ、私はともかくアカネさんは全国的に有名なアイドルです。それに変装もしていないですし、すぐに多くの人に気付かれて声を掛けられます。そもそも変装した所で
声を掛ける人の多くが地元の人達で、アカネさんが有名人だからというよりも、その持ち前の明るく
時々、何故か私も一緒に声を掛けられていますが、何故なのでしょうか?
それからは、多くの人達にもみくちゃにされながらも何とか人混みをかき分けて、目に付いたラーメン屋さんに入ります。
「ふぅ、やれやれやで」
「
「そう言われると照れくさいなぁ。でも、そんな他人行儀な評価はいらんで? うちとミカンは友達や。やったら、もっと素直な言葉で言ってくれて構わへんのやで?」
「えー……でも、これが私の思ったことですし」
「素で言っているんやとしたら、
そう言って「なはは」と笑うアカネさん。このやり取りはいつものことですので、互いに定型文みたいな感じで
「そういうミカンも可愛いんやで、だから何人もの人から声掛けられていたやん?」
「そ、そんな、可愛いと言われましても、その、よく分からないですし……」
これも何度も交わされた言葉。ですが、私は未だに可愛いと言われることに慣れていないですし、そもそも元々のミカンちゃんの身体に精神だけ入り込んでいる私は、容姿を褒められても複雑な感情になってしまいます。この世界に生まれて早15年。色々と許容出来るくらいには精神も成長したつもりですが、こればかりは、何年経っても完全に受け入れることは難しいです。
「外見だけやないで? その中身も可愛いと思うで?」
「え、その、えぇと、ありがとうございます」
これにはどう返したら良いか分からず困惑してしまいます。
中身、精神は私自身ですので、それが褒められることは純粋に嬉しいです。ですが、私がミカンちゃんでなければこの関係に至ることもなかったことを考えると、やはり素直に言葉の全てを受け入れるというのは、まだ未熟な私では難しいみたいです。
「よっしゃ、注文しよしよ。すんませーん!」
「はいよ!」
「えぇと、この半ラーメン定食を1つ。
「へ? あ、あぁはい、注文ですね。えぇと……」
呼ばれて我に返った私は、慌ててメニューを流し見ながら今の空腹具合を確認します。
よし、このくらいですかね。
「えぇと、
「え? えぇと……」
「あ、えぇでえぇで、そのまま注文通して?」
「わ、分かりました。注文を繰り返します」
そして注文の確認を終えた店員さんは、
「で、その三連単ってなんや?」
「え? あ……」
慌てての注文でしたので、つい慣れ親しんだ地元のアサギシティのアサギ食堂でのやり方でやってしまいました。
説明するまでもない簡単なことですが、味噌ラーメン、塩ラーメン、醤油ラーメンの3つを単品で、それぞれにもやしを山盛りにしてもらいます。しかしそうしますとチャーシューの乗せる場所がなくなってしまいますので、あらかじめ別盛りにしてもらい、ラーメンを食べますとお米も食べたくなりますから、そこで3つのラーメンのおかずとして大チャーハンを頼んだということです。
そう説明をすると、アカネさんは数秒の間、口が開きっぱなしでしたが、すぐに呆れたように溜め息を
「やっぱり割り勘でゴリ押ししといて良かったわ」
彼女は、私の食べる量の指摘はしません。以前は何度もツッコミを入れられていましたが、流石に飽きたというか慣れたというか、とにかく私の食に対して何も言わなくなりました。
「はぁ、そんだけ食べて太らんって、あんさん一体どんなハードな運動しとるんや?」
「シジマさんよりは少ないと思いますよ? ただあの人は間食が多いので、奥さんからしょっちゅう怒られているみたいですが。私は、食事はしっかり食べますが、休日ならともかく仕事日にお菓子はほとんど食べませんので、まだカロリーの摂取と消費のバランスが取れているんだと思います」
「さっきも
そうやって女子トークに花を咲かせていますと「お待たせしました」と言って、店員さんとその後ろにサポートのワンリキーがそれぞれ注文の品をお盆に載せて現れました。
テーブルの上に並べられた商品を見て、同じくらいのサイズの女子にも関わらずこの量の違いに、並べた店員さん本人だけでなく周囲のお客さんもこちらのテーブルを見て
「そんじゃあ、麺がのびる前に食べよか。頂きます」
「頂きます」
それからも会話を挟みながら食べ進めます。私もそれなりに話しているつもりですが、やはりアカネさんの方が話す量が多いです。流石コガネ出身ということでしょうか。それ
「アカネさん話してばかりですから、いつも食べるの遅いですよね」
「いやいや、ミカンの食べる速度が半端ないんやって。いつも言っとるやろ?」
「そうですか?」
そうですか?
言葉でも内心でも首を
私達は食べ終わってからもしばらく談笑していたが、お客さんが増え始めた所でお店側に迷惑が掛かるからと退席しました。
日はすっかり暮れ、街灯と建物から漏れる光が通りを照らし、さながら昼間のように明るいです。そんな街中を2人で歩いていると、野外バトルフィールドが設置された公園が目に入ります。
「アカネさん、ポケモンバトルしているみたいですよ?」
「ん? あ、ほんまや、何? ちょっと見てくか?」
「はい!」
自分自身で全て決めて、全てこなすと決意したのですから後悔はありませんが、時々、こうして羽を伸ばしてのんびり他者の試合を眺めるのも良いものです。
バトルフィールドの周りにはちらほらと観戦する人の姿がみられた為、私達は邪魔にならないように人の少ない場所まで移動してベンチに座ります。
「あ、あのイトマルの動き良いですね。【いとをはく】ですか。この時間帯、照明器具のおかげで十分過ぎる光量を得ていますが、それでもどうしても光の角度や当たり方でムラが出来ます。そこに見えづらいくらいに細い糸を飛ばしていますので、あのオタチも、そのトレーナーさんも気付いていないようですね」
「そうなん? まだ効果は出ていないようやけど?」
「すぐに分かりますよ」
そう言って試合が進むのを見つめます。最初は気付かなかった糸も、何度も絡み付くことで次第に糸が巻き付いていることにオタチも、そのトレーナーさんも気付いた様子です。しかし、素早さを奪う程の糸ではなかったので、無視して攻撃に出ていますね。対するイトマルは、糸を吐きながら逃げ回って……罠を張っているようですね。トレーナーさんも良く見ています。
最初は気付いても無視していた糸も、
その隙を突いてイトマルが技を繰り出します。
「あ、【どくばり】です」
「うん? 避けんかった? いや、避けられんかった?」
「そうですね」
「さっきの【いとをはく】か?」
「はい。糸自体が細いので
「はぁなるほどな。やっぱミカンと一緒に観戦すると、色々解説してくれるで楽やわぁ。ポケモンリーグとかで解説者の席に座ったらどうや?」
「そ、そんなこと、む、無理です! 恥ずかしいじゃないですか! 私はのんびり観客席で眺めていたいです」
「というよりも出る側やと思うんやけどな?」
「ジムリーダーなので無理ですよ?」
「分かっとるよ」
ジムリーダーは、ポケモン協会公認の実力者です。そんな人がポケモンリーグに出場するというのは
「イトマルが勝ちましたね」
「毒が回って、糸も絡み付いて、時々【すいとる】をやって、オタチもどうしようもなかった感じやな」
「とことん相手が嫌だと思う戦法を採っていましたが、面白いものが見られました」
結局、野良試合はイトマル側の勝利に終わり、トレーナーさんとハイタッチしていました。イトマルはすごく小さいので、トレーナーさんが地面にしゃがみ込んでのタッチですので、ハイタッチかどうかは分かりませんが。しかし、良い関係を築けていると思います。このまま成長をしてもらいたいと思います。
「さぁて、それじゃあ帰ろか?」
「そうですね」
2人揃って腰を上げ、アカネさんはそのまま伸びをします。
「ミカンは今日どっかに泊まるんか?」
「いえ、その予定でしたが、ムーちゃんが軽くなりましたので、飛んで帰ろうと思います」
「あぁ、あの抜けた羽毛はどうすんやろな?」
「協会の職員さんには処分をお願いしてありますが、処分の仕方もお任せしておりますので、何らかの加工がなされて販売とかあるかもしれませんね」
「あーあるかもしれへんね。コガネっ子は
「……え? えぇ、色々とツッコミたい所ですが……」
少なくとも最強のジムリーダーという所は訂正したいです。弱いとは言いませんが、私よりも強い人は他にいると思います。ジムリーダー歴が長いヤナギさんや、カントー地方ではトキワジムに新しくグリーンさんがいます。まだ就任の時期ではないと思いますので、トキワシティのジムリーダーの席は現在も空いたままのはずですが、原作的にもポケスペ的にもジムリーダーになるでしょうから、最強はその2人だと思います。
ポケモンリーグ準優勝者ですからね。それに、スオウ島での戦いでは、セキチクジムのジムリーダーでありロケット団の幹部であったキョウさんとのタッグとはいえ、四天王の1人と渡り合って勝利を収めましたので、その実力は疑うべきもありません。
そんな考えを巡らせている間も、グッズ化の話は進みます。
「というかうちが主導でやろうかな。エアームドの羽は薄くて軽くて頑丈や。それが30kg分もあるんやったら、結構な儲けになるで?」
「そ、それは……」
「なはは、冗談や。まぁうちはやらんけど、協会が公式グッズ化とかするんやないんかな」
「結局グッズになっちゃうんですか?」
「あれだけ上質なエアームドの羽は貴重や。それがあれだけの量あるんやで、そんくらいはえぇと思うで? せっかく処分するんなら有効活用せんとな」
「はぁ、まぁ全部お任せしましたし、どう扱っても構いませんが……私の名前は外してもらえないですかね?」
「さぁ? それは協会側が決めることやしなぁ。それにグッズ化も、うちが勝手に言っているだけで正式にそうなるとは分からんしな」
「心配するだけ無駄ということですか」
「まぁそういうことや」
「はぁ……」
ここは諦めて帰りましょう。今から再び協会へ行く気力もありませんし。
「それでは、私は帰りますね。お疲れ様でした」
エアームドのムーちゃんをモンスターボールから出して、その上に乗ります。
「では、アサギ鉄鋼の件、考えておいて下さいね」
「分かっとるよー。明日は朝からクルミちゃんとラジオ生配信だから、聞いてや? それやで、早くても返事は明後日以降になると思うわ」
「分かりました。返事は直接アサギ鉄鋼の方へお願いしますね。私は明日明後日と灯台の仕事で連絡が取れないですが、ラジオは聞かせて頂きますね」
「了解やー。そんじゃあ気を付けてなー」
「はい、ありがとうございます」
互いに言葉を交わしてから、私を乗せたムーちゃんが飛び立ちます。
「そういえば、明日クルミさんとラジオ番組って言っていましたね」
アサギシティに向けて上空を飛んでいる最中、ふと思い出したことがあります。クルミさんとアカネさんのラジオで、ゴールドさんが乱入して番組が滅茶苦茶になってしまうんですよね。アルフの遺跡での事件からも時間が経っていますし、そろそろ来てもおかしくない頃ですものね。さて、どんな番組になるのか楽しみです。
ということは、丁度今の時間辺りにコガネシティに
残念ですが、明日は朝から仕事ですのでこの広いコガネの街を1人の少年を探す為にウロウロする時間はありません。本当に残念ですが……
ちなみに、後日、ムーちゃんの抜けた羽毛で作られた、エアームドのクリアフィギュアが数量限定で販売されることが決まりました。しかも丁寧にもジムリーダーミカンのとも付けられていました。サンプルが家に届いた時にはアカネさんの予言が当たったと