ポケモン世界に転生したと思ったらミカンちゃんだったのでジムリーダーになることにした。【完結】   作:木入香

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 長いです。
 ガッツリ戦闘描写を入れようと思いましたが、長くなりすぎましたのでほぼカットです。
 とにかくハガネールを出したかった回です。
 無双というか集団(いじ)められが発生します。
 登場人物が多くて誰がどの台詞を言っているのか混乱してしまいます。極力頑張りましたが……分からなくても、受け止めて下さい。それがミカンちゃんの愛です。
 そして何故かギャグ展開?

追記:誤字報告ありがとうございます。


第9話 vs イノムー

 あれから数日後。私とレミさんの2人は、現在アサギシティからエンジュシティへと繋がる38番道路を歩いていました。

 何故か。その理由は、レミさんの元へ育て屋のご夫婦からタマゴが(かえ)ったという連絡が入ったのだ。そこで、その様子を見に行くべく高校を休んでコガネシティへ向かうことに。私も偶々(・・)仕事を全て休んでエンジュシティへ行く予定がありましたので、同行することにしたのです。

 私にはムーちゃん(エアームド)、レミさんも2匹のトゲチックが手持ちにいますので空を飛べばすぐに着くのですが、(たま)には一緒に旅しましょうという彼女の提案で徒歩での移動となりました。

 

「このモーモーミルク美味しいですね」

「そうですね。何か疲れた身体でも元気を取り戻せる感じです」

「はい! このまま休まずエンジュシティまで行けそうです!」

 

 私達は、道中立ち寄ったモーモー牧場にてモーモーミルクを購入し、こうして旅の途中で飲みながら歩いています。ちなみに、牧場では新鮮なモーモーミルクを使ったソフトクリームも売っていましたので、2人して真っ先にそちらに飛び付いていました。女子ですもの仕方ないことです。

 しかし、そうやって寄り道をしたのが良かったのでしょうか。遠くにスズの塔が見えてきた所で、異変は起きました。

 

「え? 何?」

「地震です! 姿勢を低く!」

 

 エンジュシティから割と近いとはいえ、それでもこの威力。流石(さすが)、街を壊滅(かいめつ)に追い込んだだけのことはあります。何も知らなければ、これがただの直下型地震という自然災害として(とら)えていたのでしょうが、明らかな人災、しかもかなり悪意のある事件であることを知っている以上、ジムリーダーとして、そしてポケモンも人も愛する1人の人間として許せることではありません。

 知っていて防ぐことが出来なかった悔しさはありますが、今は後悔よりも目の前で起こった出来事に巻き込まれた人の救助と支援です。

 

「急ぎましょう」

「はい!」

 

 飲みかけのモーモーミルクを、一気に(のど)へ流し込んでから走り出しました。

 

 

「ひ、ひどい……」

 

 瓦礫(がれき)の山となった惨状(さんじょう)を見つめ、レミさんが(つぶや)きます。私も首肯(しゅこう)し、しかしいつまでもそうしている訳にもいきませんので、すぐにレミさんに指示を飛ばします。

 

「レミさんは救護所へ。そこで怪我人の誘導や物資の運搬(うんぱん)を手伝って下さい」

「はい」

「私は、逃げ遅れた人がいないか探しに行きます。ジムリーダーとして救護所、避難所に顔を出すべきでしょうが、今は悠長にしている時間はありません。今も助けを求めている人がいるはずです」

「分かっています。どうかお気を付けて」

「レミさんもです。余震があるかもしれませんし、先程のが本震とも限りません。十分注意して落ち着いて行動して下さい」

「はい! 皆も手伝って!」

 

 そう言ってレミさんは手持ちのポケモンを出しました。

 2匹のトゲチック、マリル、コイル、クヌギダマの5匹。

 【ちからもち】のマリルには瓦礫の撤去(てっきょ)などを手伝ってもらいたい所ですが、レミさんを遭難者の捜索(そうさく)に回す訳にはいきません。何より、ロケット団と遭遇してしまう可能性が高いので、もし本人が希望したとしても全力で阻止(そし)するつもりでいました。

 私はレミさんと離れて1人、美しい街並みが崩壊したエンジュシティへと足を踏み入れます。

 

「逃げ遅れた人はいませんか-!」

 

 それからしばらく、声を掛けながらゴツゴツとした足場を進みますが、人の気配がありません。この辺りは全員避難が出来ているということでしょうか。ポケスペでも、怪我人こそいましたが、(さいわ)いなことに死者が出た様子はありませんでした。しかし、それはあくまで漫画での話ですので楽観してはいけません。

 子供が読む物語に、わざわざ死人が出たことを記述する必要はありません。もしかしたら舞台の裏で何人も巻き込まれている可能性があることを覚悟して、慎重(しんちょう)かつ迅速(じんそく)に行動しなければなりません。

 その時に、見つけてしまいました。

 赤毛のロングに黒い服を着た少年と、その少年と対峙する帽子にゴーグルを付けているツンツン頭の少年。間違いありません。シルバーさんとゴールドさんです。

 場面が場面でなければ生の主人公2人を見ることが出来たことに歓喜していた所ですが、今はそのような場合ではありません。(ゆる)み掛けた(ほお)を引き締め直し、話し掛けます。

 

「そこのお二方! 大丈夫ですか! お怪我はありませんか!」

「うぉ! 何だ可愛い姉ちゃんじゃねぇか。おぅオレは今来たばかりだから無事だぜ」

「ふん、大きなお世話だ」

「あ、あの、ここは危険ですので、子供は早く避難して下さい」

「ん? あぁ、あんたこの子を知らねぇか?」

 

 ツンツン頭の少年が、(ふところ)から1枚の写真を取り出して見せてきました。

 

「育て屋のじいさんから頼まれてたんだけど、この子がこの地震に巻き込まれたんじゃねぇかって心配しててよぉ」

「えぇと、あぁ、レミさんですね」

「知ってんのか!」

「はい、彼女と一緒にここに来たんです。彼女なら今救護所の手伝いをしているはずです。私は別行動で要救助者の捜索に動いていました」

「はぁ、そりゃ良かった。ならオレもそっちに行くか」

「はい、案内しますよ? そちらの彼は?」

「ん? あぁ、おいシルバー、おめぇはどうする?」

「オレに構うな。オレはオレの目的がある。邪魔をするな」

「んだとてめぇ……っ!」

「余震かっ」

 

 この揺れに乗じて、私は1つのモンスターボールを瓦礫の隙間に放り込みます。指示はあらかじめしてあります。大きな子ですので地中の移動で多少揺れるでしょうが、元凶を(あぶ)り出してくれるはずです。

 その時、1人の男性の声がしました。

 

「おいおい、住人全員避難したと聞いていたが、これはどうだ? ガキが3人残っていたぞ? お前ら仕事が雑なんだよ」

「あなた達は誰ですか?」

 

 声のした方を見ると、いつの間にか数十人の黒ずくめの大人達が周りを囲っていました。その内の中央に立つ、2人の男女だけは格好が違います。

 

「お前ら、ロケット団!」

「ほぅ、オレ達を知っているのか」

「知っているも何も、アルフでもヒワダでも悪さをしやがっただろ!」

「……ということは、報告にあったガキはお前か。なるほど。まぁ我らを見られたからには……」

「フフフ、そうね、タダで帰す訳にはいかないわね」

 

 幹部と思われる男女とゴールドさんが言葉を()わしていますが、私は1つ確かめることがあるので前に出ます。

 

「あん? てめぇは、報告になかったな?」

「1つ、(うかが)います。この震災、これは自然災害なのではなく、あなた達が引き起こしたことですか?」

「「!」」

 

 私の質問を聞いて、後ろのゴールドさん達が驚いたように息を()むのが聞こえます。

 

「……それを知ってどうする?」

「否定しないのですか?」

「うぐっ」

 

 口が軽い人ですね。明言は避けていましたが、その答えと態度は認めたも同然です。

 

「お、おい、姉ちゃん、そりゃいったいどういうことだ!」

 

 ゴールドさんがこちらに向かって叫びますが、私はそれを無視して続けます。

 

「どうもしません。いえ、これは正確ではないですね。それが正しいか否かはどちらでも構いません。悪党を見つけたら捕まえる。ただそれだけのことです。ですが、これをやったのがあなた方であるのであれば、私は絶対にあなた達を許しません!」

 

 この(いきどお)りは、多くの人やポケモンを巻き込んだ事件を起こしたロケット団に対するものであると同時に、知っていて止めることが出来なかった私自身への怒りでもあります。私は相手を許さないと同時に、自分も許しません。

 相手のロケット団の幹部は、私の怒りに(ひる)んだ様子もなくスッと右腕を上げました。

 

「はん! だったら何だ! 総員戦闘態勢! かかれ!」

 

 それを合図に、一斉にロケット団のポケモンが襲い掛かってきます。

 そして、私達も同時にモンスターボールを手に、それぞれ相棒を呼び出します。

 

「くそ、バクたろう(マグマラシ)!」

「っち、アリゲイツ!」

「2人とも気を付けて下さいね。クラウン(エンペルト)

 

 それからは乱戦です。

 ゴールドさんのマグマラシが【ひのこ】を()いて牽制(けんせい)している間に、シルバーさんのアリゲイツが【ひっかく】や【みずでっぽう】で弱らせていきます。行き当たりばったりな連携ですが、それでも何度も顔を合わせていがみ合っている中で築かれた(いびつ)な信頼関係が、ギリギリの所で上手い具合に()み合っています。

 そのギリギリを確実なものとする為に、私のクラウン(エンペルト)が【アクアジェット】で周囲を駆け回り、相手の動きを(にぶ)らせます。

 ただ、相手の数がとても多いので、こちらから仕掛けようとすると穴が出来てしまうので、攻めるに攻めることが出来ない状況です。

 それを見てか、更に戦力を投入してきました。相手に地面タイプや炎タイプが多いように見えるのは、恐らくこの震災(人災)を確実に成功に導く為の補助要員ということでしょう。しかし、その2つのタイプはこちらにとって好都合です。

 

「数が増えやがった。行け! ニョたろう(ニョロモ)!」

「仕方ねぇ! シードラ!」

 

 水ポケモンの更なる追加で巻き返せるかと思いましたが、シルバーさんのシードラはともかく、ゴールドさんのニョロモは練度が足りない為か、少しずつ防衛ラインに(ほころ)びが出て来ます。これは時間の問題ですね。

 あの時、私がもっと早くエンジュシティに来ていれば。そして巻き込まれていたら、彼等はもっと強いポケモンを手にしていたはずなのに……そう後悔しそうになった瞬間でした。

 

「お、ニョたろう(ニョロモ)!」

 

 ハッとしてそちらへ目を向けると、何とこのタイミングでニョロモがニョロゾに進化していました。流石主人公補正です。そしてそうなれば……

 

「おいゴールド! 今すぐそいつをボールに戻せ!」

「はぁ! 何でだよ! こっちは今すぐでも突破されそうだよ!」

「大丈夫です。私がカバーします。お願いします。ラーちゃん(ココドラ)

 

 シルバーさんの考えを読み取った私はラーちゃん(ココドラ)を出して【いばる】や【ちょうはつ】をして攻撃を引き付けます。

 

「急げ! 通信するんだ!」

「それでどうなるってんだ! それにお前と通信なんざ嫌だぞ!」

「んなこと言っている場合か! やるんだよ!」

「くそ!」

 

 そして、互いにボールが図鑑を通して移動しボールが飛び出したその瞬間、ボールから出て来たポケモンはすっかり変わっていました。

 

「な、なんだこりゃ!」

「通信交換ですね。本来ならポケモンセンターの設備で行うべきことを、ポケモン図鑑を持つトレーナー同士なら場所を問わずに行うことが出来ます。そして、それによって進化するポケモンがいます」

「! じゃあ、今あいつの所にいるのはニョたろう(ニョロゾ)の進化形ってことか! でもニョロボンじゃねぇぞ!」

「そいつの進化は2種類ある。王者の(しるし)を持たせていただろ。それでニョロトノに進化したんだ」

「んで、こっちにはお前のシードラ……じゃねぇな。何だ?」

「キングドラですね」

「再度通信して戻す時間はない。今ある戦力でこいつらを叩くぞ!」

「てめぇに指図(さしず)されるまでもねぇ!」

 

 そんな2人の様子に戦闘中だというのに溜め息が出てしまいます。

 

「仲が良いのか悪いのか分かりませんね」

「「良かった時なんてない!」」

「息もピッタリですね」

「「んぐ!」」

 

 2匹が進化したことでこちら側の総合火力が上回り、ジワリジワリとラインを押し上げることが出来ています。

 それに(しび)れを切らしたのか、幹部達が何やら騒いでいます。

 

「くそっ、何で突破出来ねぇ!」

「あのガキ2人の実力は大したことない。問題は、あの女だ」

「あいつか……確かに、妙に良い動きでガキ共の(すき)をカバーしやがっている」

「となると、あいつを出すしかないんじゃないか?」

「あぁ、オレもそう思っていた所だ」

 

 男性幹部が、今度は左腕を(かか)げます。

 その時、再び強い揺れが発生します。

 

「くそ、また地震が!」

「原因のお出ましってことか!」

 

 ですが、揺れ方が想定していたものではないのでしょう。動揺はロケット団側にも広がっている様子です。

 

「お、おい、この揺れは何だ?」

「一体何が……」

 

 女性幹部が言葉を続けようとしたその時、それは勢い良く地面から飛び出しました。

 

「よくやりました。ルーちゃん(ハガネール)!」

 

 あの時、瓦礫の隙間に放り込んだボールの中身の正体です。そして、ルーちゃん(ハガネール)が姿を(あらわ)したことで、周囲の人は全員驚きで表情が固まっていました。

 

「で、でっけええぇぇぇええええ!」

 

 真っ先に言葉を発したのはゴールドさんでした。

 

「な、何だあのサイズは! 本当にハガネールなのか!」

 

 ロケット団の戦闘員も、そして幹部も口が開きっぱなしです。

 驚くのも仕方ないです。私のルーちゃん(ハガネール)は、通常のハガネールの平均よりもとても大きいです。身体付きは一回り以上。そして体長。平均が9.2mなのに対して、目の前にいる個体は12.5m。単純に巨大化しただけでなく、身体を構成する鋼の球体の数も2つ増えており、また突起物(とっきぶつ)も1本増えています。

 そして身体が大きくなったことで、当然ですが体重も増えています。平均は400.0kgなのですが、私のルーちゃん(ハガネール)は660.0kgもあります。最早怪獣です。まぁタマゴグループは怪獣ではなく鉱物ですが。

 通常よりも明らかに大きく育った理由は簡単です。感染率が非常に低くまたポケモンにのみ感染し、しかし感染したからと不調となることもなく普通に過ごしていたら気付かない為に認知件数が明らかに少ないもの。成長促進(そくしん)特殊ウィルス、通称ポケルスです。

 原作(ゲーム)では努力値の上昇に用いられるシステムですが、こちらの世界では異常に成長するという特徴があります。しかし急激に成長をする為、そのパワーの上昇速度にポケモン本体が付いていけず、パワーを持て余してしまって制御出来なくなり、結果トレーナーから捨てられるという場合があります。

 私が感染に気付いたのは偶然です。普段ない所に突起物が1本、ほんの数ミリですが飛び出ていたのでもしかしたらと受診したら発覚したのです。常にポケモンの様子に気を配ることで、ちょっとした違いに気付いたということです。感染源は不明です。また他のメンバーの子達にも感染はしていないようです。

 そのルーちゃん(ハガネール)が、地面から飛び出してくる際に、地震の元凶であるポケモンを口に(くわ)えていました。

 

「あ、あれは!」

「イノムーですね」

「なるほど、確かに氷タイプと地面タイプを持つあいつなら出来るだろう。だが、それだけじゃない。通常のイノムーの大きさは平均が1.1m。大きくても精々が1.5mといった辺りだ。だが、あれは見た感じ3mくらいはありそうだ。それだけの大きさならあの大規模な地震も説明が付く」

「まぁそうなんだけどさ。それよりも明らかにデカイのがいるせいで、どうにもすごさが伝わらねぇと思うんだ」

「えぇと、すみません?」

 

 とりあえず謝っておきます。

 

「くそ! 何だアレは! これ以上は無理だ!」

「あぁ撤退(てったい)しよう!」

 

 切り札が封じられたことで戦意を損失した彼等はすぐさま退()くことを決め、この場から逃げようとします。

 

「言ったはずですよ? 許しませんと。そして悪党は捕まえると。レーちゃん(レアコイル)ムーちゃん(エアームド)クーちゃん(クチート)。お願いします」

「なっ!」

「うわっ!」

「こっちもだ!」

「逃げられません!」

「何なんだお前は! ただのトレーナーのガキじゃねぇのか!」

 

 逃げ道が防がれたことで動揺が広がり、恐慌(きょうこう)状態となっています。

 

「名乗り遅れました。私、アサギシティでジムリーダーをしています。ミカンと言います。よろしくお願いしますね」

 

 自己紹介をしたことで、今度は驚愕(きょうがく)が広がります。忙しい方達ですね。

 

「ジムリーダーだと!」

「聞いたことがあるぞ! アサギのジムリーダーって言ったら、ジョウト地方最強クラスで四天王クラスとも言われているって」

「そんな奴が何でここ(エンジュ)に!」

 

 何でと言われましても、詳細を語る必要はないですし……そうですね。こういうことにしましょう。

 

「えぇと……偶々(たまたま)です♪」

「「「「んな訳あるかー!」」」」

 

 その声は、ロケット団の人達だけでなく、何故か後ろの少年2人からも飛び出していました。

 ()せません。


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