我が家の五匹の小ちゃな家族   作:猫又侍

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これでギタリスト編終了


我が家の五匹の小ちゃなギタリスト

 富豪や有名人しか乗っている所を見たことがない豪華な車がドアを開けると家の前に止まっていた。

 

 流石は弦巻家。お出迎えも手厚いのか。

 

「それでは冬夜様、こちらに」

 

 そう言って黒服の一人がドアを開ける。

 

 タクシーなんかは自動で開くがこの誰かがドアを開けるという行為が近代化を感じさせなくともその立場が高い様に見えてしまう。

 

 これは単なる思い込みによる物なのか、本当に位の高い人達にしか見慣れない光景なのか。

 

 そんな事を考えていなければやっていられないほど緊張をしている。

 

 以前弦巻家に行った時は驚きが大きかったが、今回は緊張が優っている気がする。

 

「モカ達も行くぞ」

 

『ミャ〜』

 

 なんの抵抗もなく俺に抱っこされるモカ達。

 

 今思い出してみれば先程の猫吸いってよく考えなくても人に置き換えればただのセクハラ。

 

 つまりは立派な犯罪、捕まるという事だ。

 

 なんなら今から賢者タイムに突入できる。

 

 いや、もうこんな思考してる時点で賢者タイムに入ってるな。

 

「お屋敷に到着するまで暫くありますので、ゆっくりとしていて下さい」

 

「は、はい」

 

 黒服達は慣れている様だが俺は一応一般市民。

 

 こんなのでゆっくり出来るほど肝は据わっていない。

 

 しかし、俺の上でスヤスヤと眠るモカと俺の太もも両サイドにいる他四匹がいる事で少し気が楽になる。

 

 やっぱり猫は偉大だなとしみじみと感じた。

 

****

 

 場所は移り変わり弦巻邸。

 

 なんどみてもデカイし広いし。

 

 最早語彙力が損失するレベルでヤバイ。

 

 それが弦巻邸であり弦巻家の権力というものを肌で感じる。

 

「それではこちらへ」

 

 そう言って俺を案内してくれる黒服。

 

 因みにモカ達はバッグには入らずトテトテと俺の後ろをついて来ている。

 

 恐らく周りから見たら親鳥についていく雛鳥に見えているのだろうか。

 

 時折微笑ましい目線が送られてくる。

 

「にしてもここは広いな、何部屋位あるんだ?」

 

「簡単に言えばホテル位の広さですね」

 

 そう淡々と答える黒服だが、普通に考えてホテル並の敷地と建物を所有している事自体驚くべき事だ。

 

 これは始めからそう教育されているのか、若しくはもうそれに慣れてしまっているのか。

 

 その真相は闇の中……真あnおっといけないキリンの仮面をつけた人が出て来そうになった。あの人ってギリギリの発言が多いけどSCPとかよく見るんだよな。

 

 なんて事を考えながら歩く事数分、ようやく部屋についた様で黒服がドアを開け部屋で待機する様に言われた。

 

「これが一部屋ってのがまた凄いよな」

 

 天井を見ればミニサイズのシャンデリア。

 

 まず普通の家庭では置いていないであろう大きさのベッド。

 

 これは下手したらそこら辺のホテルより豪華なのではないだろうか。

 

 暫く部屋を眺めたりモカ達と遊んでいると、トレイを持った黒服が入ってきた。

 

「これは?」

 

「これは元に戻る薬です。青葉様達の場合暫くたてば戻りますがご家庭の期限によりすぐに戻る薬をつくりました」

 

「作りましたって……よくそんなプラモ作る感覚でいいますね」

 

 なんだか別次元すぎて呆れてきた。

 

「それで、冬夜様はどうなされますか?」

 

「どうって?」

 

「見届けるか見届けないか」

 

 その質問に息が詰まる。前回、蘭達の時は思わず逃げてしまい暫く後悔してしまった。でも、今回はそうなりたくはない。

 

 自分の悔いのない方を選ぶ。

 

「見届けるよ。コイツらを……しっかり」

 

「後悔はしませんね?」

 

「ああ、しないさ」

 

 今まで過ごしてきた時間は少ないと思う。周りと比べたらそれこそほんの一瞬くらいの日々だったかもしれない。

 

 けど、俺にとってはとても大きな支えでありかけがえのない思い出なんだ。

 

 そう思えばコイツらも笑ってくれるだろうか。

 

 コイツらは、俺と居て楽しかっただろうか。

 

 まぁ、それも今から聴けるからいいか。

 

「それでは」

 

「………」

 

 俺はコクリと頷き、黒服が元に戻る薬をモカ達に差し出す。

 

 それをモカ達はペロペロと飲み始めた。

 

 するとあら不思議、モカ達は一瞬にして煙に包まれてしまった。

 

 俺はゴクリと息を飲む。

 

 猫としてのあいつらは見てきたが、人としてのアイツらを俺はよく知らない。

 

 だからこそ、緊張している。

 

 そして煙が少しずつ晴れていき--

 

*****

 

「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 俺は今絶賛腹を押さえながら床にのたうち回っている。

 

 痛い、めっちゃ痛い。

 

「あはは! 冬夜くんおもしろ〜い!」

 

 笑いながら俺を指差す水色髪のショートカットでちょこっと三つ編みしている少女。

 

「あぁ、やはり冬夜は儚いね…」

 

 なぜか先ほどから儚いをなんども言っていて紫の髪を後ろで纏めている少女。

 

「あれは冬夜さんが悪いです」

 

 腕を組み、頬を赤らめながら話す長い水色の髪の少女。

 

「冬夜くんパンいる〜?」

 

 呑気に俺にパンを提供してこようとする亜麻色髪のショートカットの少女。

 

「く、黒服ぅぅぅ……」

 

「後悔はしないと言われましたよね?」

 

 そう言うと黒服はドアから出て行ってしまった。

 

 なぜ俺がこんな状態になっているのかと言うと、元に戻った時に事件は起こった。

 

****

 

「お〜やっと戻れましたね〜」

「もっと猫でいたかったのに〜」

「日菜、そんな事を言うんじゃありません」

「わたしが子猫ちゃんになれるとはいい経験になったよ」

 

 煙の中から声が聞こえて、俺は煙が晴れるのを待つ。

 

 そして晴れた煙の向こうには服を着ていない少女達の姿が……

 

「ここまでです」

 

「うわっしょい!」

 

****

 

見えかかって黒服に目潰し&腹パンを喰らって現在に至る。

 

 モカ達は俺がのたうち回っている内に着替えたそうだ。

 

「全く……着てないなら言えよ黒服」

 

「それは気づかない冬夜くんが悪いですな〜」

 

 なんていいながらも俺の膝の上にちゃっかり頭を乗せているモカ。

 

「ちょ、青葉さん!」

 

「あはは! あたしも混ざる!」

 

「それではわたしも混ざろう」

 

 そこからカオスの膝上争奪戦が始まり、いつぞやの大乱闘が開始された。

 

「はぁ……なんかもう、慣れたな」

 

 俺はため息を吐きながらモカ達の仲裁に割って入るのだった。

 

****

 

 俺達が過ごしてきた我が家はいつも通りの静けさに戻り、なにか足りない様に寂しい。

 

 けれど、これが本来あるべき日常なのだ。

 

「さて、久々にゲームでもしますかね」

 

 俺が軽く伸びをし、二階に上がろうとするとインターホンが鳴る。

 

「ほいほーい」

 

 俺はそのまま玄関に向かい、ドアを開ける。

 

 するとそこにはギターケースを背負った五人の少女が立っていた。

 

「………上がるか?」

 

「「「「「お邪魔します!」」」」」

 

 なんだか少しずつバンドマンの溜まり場になりつつあるこの家だが、案外それも悪くないと思う俺が居る。

 

 この日常がいつまでも続くように珍しく今夜は星に願い事でもしてみようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

我が家の五匹の小ちゃなギタリスト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

FIN




なんだろう……二度目の投稿は感動が……

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