かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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十一話

「「個性把握テスト!?」」

 

 一年A組の生徒達は担任の相澤に言われたとおりに体操着に着替え、グランドに集まっていた。そこで相澤からこれからすることを伝えられる。その内容があまりにも予想外だったので、思わず皆が聞き返してしまった。

 

 「入学式は?ガイダンスは?」

 「ヒーローになるならそんな悠長な行事、出る時間ないよ~」

 

麗日の質問に相澤は気怠そうに答える。

 

 「雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り。」

 「「……」」

 「お前達の中学の頃からやってるだろ?個性使用禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録をとって平均を作り続けている。合理的じゃない。ま、文部科学省の怠慢だな」

 

そこまで話すと相澤は一呼吸置いてから、

 

 「実技試験成績のトップは垣根だったな?」

 「あ?」

 

唐突に名指しされたされる垣根。すると

 

 「なっ!?なんだと…!!!」

 

先ほど飯田と喧嘩をしていた少年が驚愕の声をあげるも、相澤はそのまま話を続け、

 

 「中学の頃、ソフトボール投げ何メートルだった?」

 

垣根に尋ねる。

 

 「中学の頃?」

 

思わず聞き返してしまう垣根。垣根は知らない。自分が中学の頃の体力測定の記録を。なぜなら垣根には中学の記憶は中三の10月からしかないからだ。以前の自分の記録など知るよしもない。困った垣根は

 

 「あー、確か、50メートルくらいだったな」

 

ととりあえず適当に答えた。

 

 「…フン、まあいい。じゃ、個性使ってやってみろ」

 (…なるほど。そういうことか)

 

垣根はひとりでに心の中で何かを納得すると、ソフトボールを投げるために円の中に入った。

 

 「円から出なければ何してもいい。はよ、思いっきりな」

 

相澤が円の中の垣根に言う。

 

 (思いっきりねえ)

 

垣根はソフトボールを右手の中で二、三度転がせると、軽く上へ放った。そして

 

 ファサッ!!

 

垣根の背中から六枚の翼が現れる。翼一枚一枚が5メートル程の大きさで、そのどれもが純白に輝いている。皆が呆気にとられてその光景を見ている中、六枚の翼がゆっくりと動いた。それはまるで弓をしならせるかのようなゆっくりとした動き。垣根は十分に力が込められた六枚の翼を、頂点にまで到達し今にも自由落下を始めようとするソフトボールに向かって、勢いよく羽ばたかせる。

 

 轟!!

 

凄まじい唸り声をあげ、翼から放たれた烈風はソフトボールを飲み込み、空の彼方へ運んでいく。それは風というより最早竜巻。あまりの風圧に見ていた他の生徒達も、必死で踏ん張らなければ飛ばされてしまいそうだった。風が止み、落ち着いてくると相澤は端末に示された記録を見せた。そこには、

 

 852.2メートル

 

「「うおーーーーー!!!!」」

 「852!?おかしいだろそれ!!」

 「なにこれ!?おもしろそう!!」

 「個性思いっきりつかえんだ!?流石ヒーロー科!!!」

 

とテンションが上がる一年A組。その様子を見た相澤は静かに呟く。

 

 「…おもしろそう、か」

 「「???」」

 「ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 「「…」」

 「よし決めた。八種目トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し、除籍処分としよう。」

 「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」」

 

突然の相澤の宣告に衝撃を受ける一年A組一同。

 

 「生徒の如何は俺たちの自由」

 

そんな生徒達に構わず、相澤は不気味な笑みを浮かべながら告げる。

 

 「ようこそ。これが雄英高校ヒーロー科だ」

 

勿論、抗議の声は出る。

 

 「最下位除籍って!?入学初日ですよ!?いや、初日じゃなくても理不尽すぎる!!」

 

だが相澤も一切譲らない。

 

 「自然災害、大事故、そして身勝手な敵達、いつどこから来るか分からない厄災、日本は理不尽にまみれている。そういうピンチを覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったのならお生憎。これから三年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えてこい」

 

その台詞を聞いた生徒達の反応は様々。気を引き締める者、不敵に笑う者、ネガティブになる者。様々な思いが交差する中、こうして除籍をかけた体力測定が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一種目 50メートル走。

 

 まずこの競技で目立ったのは飯田だ。飯田の個性は『エンジン』。その名の通り、足にエンジンが付いている。彼とこの競技の相性は言わずもがな。記録は3秒04。次に速かったのが爆豪と呼ばれる少年。両手のひらで爆破を起こし、その反動によってスピードを上げるという工夫を見せた。記録は4秒13。他にも蛙吹や尾白などが好タイムを残した。現在、12人が走り終えて、トップは飯田の記録。そして次に走るのが垣根。

 

 「位置について、よーい、どん!」

 

スタートの合図を聞くと同時に、六枚の翼を一斉に羽ばたかせ、亜音速で駆け抜ける。先ほどは烈風を前方に飛ばしたが、今度はその逆。自身の後方に暴風を巻き起こし爆発的なスピードを得た垣根は誰よりも速いタイムを叩き出した。

 

 1秒78。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第二種目 握力

 

 この種目では障子という生徒が目立った成績を残していた。元々ガタイが良いのもあるが彼には腕が6本ある。右腕が三本、左腕が三本だ。筋肉質な三つの手で握られた握力計は540㎏を示していた。

 

 「スゲー!!540㎏ってあんたゴリラ!?はっ!タコか!!」

 

一人の生徒が障子の記録を見て騒いでいる。垣根はそれを横目で見ながら

 

 (腕三本で握力計握るとかそんなのありかよ)

 

と思いつつ、自分の握力計を見る。

 

 (この競技はあんまむいてねえかもな。未元物質で腕のようなモノを形作ればあいつみたいにいけるかもだが…)

 

垣根の頭にふとアイデアが浮かんだが、

 

 (まあ面倒くせえし、いいか)

 

結局実行に移すのをやめ、垣根は握力計を握る。

 

 72㎏

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第三種目 立ち幅跳び

 

 この種目でも爆豪は爆発を利用し、好記録をマークしていた。一方、

 

 「…」

 

垣根は翼によって空に浮かんでいた。

 

 「…」

 

しばらく考えていた相澤だが端末に何かを打ち込み、垣根にそれを見せた。

 

 記録 ∞

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後も様々な種目を行い、皆それぞれ自分の個性を活かして好記録を残そうと頑張った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第八種目 ボール投げ

 

 最後の種目はボール投げ。といっても垣根は既に終わっているので見ているだけだった。爆豪なんかはここでも好記録を出した。爆風にソフトボールを乗せ、記録は705.2メートル。垣根以来の大記録だ。だが爆豪はニコリともせず、不満そうに舌打ちをし、垣根のことをまるで食い殺すかのように睨み付ける。

 

 (イカツく眼飛ばしてきやがって。野良犬が)

 

数秒二人は見つめ合ったままだったが、やがて爆豪の方から去って行った。するといきなり、

 

 「「おぉぉぉぉ!!!!また無限が出たぞ!!!」」

 

と歓声が上がった。垣根が競技の方を見ると緑谷の知り合いの女子生徒がボール投げで∞の記録を出していた。

 

 (ほぉー、マジかよ、まさか抜かれるとはな)

 

垣根が珍しく感心していると、競技を終えたその女子生徒がこちらの方に歩いて来た。

 

 「ふぅ~、終わった~」

 

と体力測定が終わったことに安心している様子だった。

 

 「おもしれぇ個性だな。アンタ」

 「えっ?」

 「まさか抜かれるとは思わなかったぜ」

 「え、あー、たまたま個性と競技の相性が良かっただけだよ」

 「だとしても∞なんて記録中々出せねえよ」

 「えへへ、ありがと。えーっと…」

 「垣根だ。垣根帝督。アンタは…」

 「私は麗日お茶子。よろしく垣根君!あ、そうだ!垣根君も緑谷デク君の知り合いなの?朝一緒にいたけど…」

 「あ?緑谷デク?あぁ、緑谷のことか。っつかデクって…お前何気にひでーな」

 「えっ?違うの?さっき爆発する人にそう呼ばれてたけど…」

 「…蔑称だろ明らかに」

 「えっ!?そ、そうなんだ…気を付けなきゃ…」

 「…別に知り合いって程でもねえよ。朝偶然教室の前で会っただけだ。そう言うお前はアイツと知り合いなのか?」

 「うん。実技試験の時、助けてもらったんだ」

 「へえ」

 「巨大敵が現れたとき逃げ遅れちゃって。そのときあの子がすごい力で巨大敵をふっ飛ばしてくれたんだ」

 「アイツが巨大敵をぶっ飛ばしただと?」

 「うん!」

 

垣根はボール投げするために円の中に立っている緑谷の方を見た。身体は小さいし、筋肉が特別あるわけでもない。何か突き抜けた個性を持っているのかもと思ったが、今までの体力測定の様子を見てもそんな感じにも見えなかった。そのとき爆豪の声が耳に入ってきた。

 

 「あぁ?ったりめーだろ、無個性の雑魚だぞ」

 (無個性だと?)

 

思わず爆豪の方を見る。爆豪は緑谷の方へ指を指しながら飯田と話していた。違う誰かのことを言っているかとも思ったがどうやら緑谷のことで間違いないらしい。

 

 (無個性があの巨大敵をぶっ飛ばしただと?いやありえねえ。世界最強の肉体を持っているとかならもしかしたらあり得るかもしれねえが見たところその可能性もない)

 「なあ、本当にアイツに助けられたのか?人違いじゃねえのか?」

 「えー?そんなことないよ。あれは絶対デク君だった!」

 「…」

 (どうなってんだ…?つかまたデクって言ってるしコイツ)

 

そうこうしている間に緑谷が一投目を投げた。だが、

 

 『46メートル』

 「…」

 

普通だ。至って普通の記録。個性を使った様子も無し。垣根が訝しげに緑谷を見ていると、

 

 「個性を消した。つくづくあの入試は合理性を欠くよ。お前のようなヤツでも入学できてしまうのだからな」

 

これまでの様子とは一変した、異様な雰囲気の相澤が緑谷に言う。

 

 「個性を消した…はっ!あのゴーグル、あなたは抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!」

 

緑谷は驚いた様子でそう呟いた。

 

 「イレイザー?俺知らない」

 「聞いたことあるわ。アングラ系ヒーローよ」

 

周りの生徒が相澤について口々に喋る中、垣根は黙って考える。

 

 (個性を消した…あの相澤って野郎の言ってることが本当なら緑谷は投げる寸前まで個性を使おうとしてたって事になる。なぜ相澤が個性の発動を止めさせたのかは分からねえが、とすれば緑谷はやはり何か個性を持ってるって事だ。…ったく、どっちなんだよ、お前)

 

相澤の纏っているマフラーの様なモノで相澤の元へ引き寄せられた緑谷は何か言われた後、また円の中に戻された。円の中で何かブツブツと呟いている緑谷。

 

 「大丈夫かな…?デク君…」

 

隣の麗日は不安そうに緑谷を見つめる。投擲はあと一度だけ。これがラストチャンスだ。

 

 (さて、どうする…)

 

皆が見つめる中、緑谷が顔を上げる。そして勢いよく踏み込み、

 

 「SMASH!!!!!!!」

 

そう叫びながら斜め上へ放ったボールは、鈍い唸り声を上げながら大気を切り裂くかのようにどこまでも直進して行く。記録は

 

 705.3メートル

 

 「先生…まだ、動けます」

 

緑谷は右手を握りしめ、歯を食いしばりながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




禁書詳しい人に質問なのですが、垣根って一方通行の反射みたいに未元物質の自動防御ってあるんでしたっけ?分かる方いましたら教えてくれると助かります。

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