「んじゃあパパッと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なんで、一括開示する」
相澤はそう言って端末のボタンを押した。すると全員の結果が順位順に映し出される。上位三人は垣根、八百万、轟の順だった。八百万は応用性に富んだ個性の使い手で、競技に合わせた対策を練ることが出来たため、轟は個性そのものが強力であり、かつ本人のスペックも高いため、見事上位にランクインした。一方、肝心の最下位はと言うと、そこには"緑谷"と書かれた文字が浮かんでいた。自分が最下位だということを知り、落胆する緑谷。だが、
「ちなみに除籍は嘘な」
「「???」」
「君らの個性を最大限引き出すための合理的虚偽」
「「はぁぁぁぁぁ!!??」」
主に緑谷、麗日、飯田による絶叫。
「あんなの嘘に決まってるじゃない…ちょっと考えれば分かりますわ」
((気づかなかった…))
「ちょっとヒヤッとしたな」
「俺はいつでも受けて立つぜ!」
相澤のネタばらしにホッとする一年A組一同。除籍処分の話は生徒が本気で体力測定に臨むようにするための嘘だったのだと。自分は気付いてた、気付かなかったと騒いでいる生徒達。そんな中、
(いや違うな。アイツは本気だった。見込みが無いと思ったら本気で俺たちを除籍処分にするつもりだった。あれはそういう眼だ)
垣根は一人、確信めいたモノを感じていた。根拠は無い。いわゆる"カン"というやつだろうか。そんな中、相澤が生徒達に次の指示を出す。
「これにて終わりだ。教室にカリキュラムなどの書類があるから、戻ったら目通しておけ」
こうして雄英式体力テストは終わった。
◆
時刻は正午。下校時刻となった。今日は新学期初日ということで昼にはどの学年も下校することになっている。体力テストの後、A組の生徒達は教室に戻りカリキュラムについて相澤から説明を聞き、それが終わると下校という形になった。ちなみに緑谷は体力テストの後、相澤から保健室に行くよう言われたため、教室にはいなかった。垣根が教室を後にし、下駄箱に向かっていると、
「おーーい、垣根くーん!!」
「?」
「よかった、間に合った。良かったら一緒に帰らないか?」
そう垣根に話しかけてきたのは同じクラスの飯田だった。
「…」
「?どうかしたか?」
「いや、別に」
「そうか。ならば一緒に帰ろう!!」
「…ああ、そうだな」
あまり気は進まない垣根であったが、断るのも面倒くさかったので垣根は承諾した。
「しかし垣根君は凄いな!体力テストで一位だなんて。しかも入試実技の成績も一位とは」
「たまたまだ」
「いやいや、そんなに謙遜することないぞ垣根君!君はもっと自分の力を誇るべきだ!!」
「…」
「でもまさか50メートル走まで君に負けてしまうとは正直思わなかったよ。足の速さには人一倍自信があったのだがな」
「…100だったら違ったかもな」
「?」
「お前、50だとトップスピードに上がりきる前にゴールしちまうんだろ?もう少し距離がなけりゃお前はトップスピードは乗れない。だからもし仮に100メートル走とかだったら、お前の方がもしかしたら速かったかもな」
「…そこまで気付いていたのか。やはり凄いな、君は」
「もしかしたら、だがな」
「…フッ」
垣根と飯田は今日の体力テストについて話しながら、下駄箱まで来た。下駄箱で靴を履き替え、再び歩きながら話を再開する。
「凄いと言えば、緑谷君の個性は一体何なんだ?」
「ああ、あれか」
「今日のは実技の時よりは抑えめだったが、それでもすごい威力だった。」
「…もしかしてお前も見たのか?緑谷が巨大敵をブッ飛ばしたところ」
「ああ、すぐ近くで見ていたよ。それはもうとにかく凄かった!あんな巨大な敵を一発で殴り飛ばしていたよ、彼は」
「…」
麗日同様、飯田も緑谷が巨大敵を吹っ飛ばしたのを見たという。どうやら麗日の話は嘘でも間違いでもなかったらしい。
「しかしあの個性は確かに強大だが、毎回毎回あんな風に怪我をしていては身が持たんぞ」
「確か今日は指ぶっ壊してたな。前もそうだったのか?」
「あの時は指なんてもんじゃない。右腕と左足が使い物にならなくなっていた。」
(ほぉ…)
そこまで聞いた垣根は緑谷の個性の正体について一つの推論を立てた。
(緑谷の個性は恐らく、爆発的なパワーを瞬間的に解放するモノだ。どういうメカニズムでそんなパワーが発生してんのかは分からねえがな。だがその力にまだ身体がついて行けていないのか、個性を行使した後は身体がぶっ壊れちまう。何も考えずに力を解放した結果が実技の時だったってわけか)
ここまで考えた時、垣根は今日の相澤の不可解な行動についても得心がいった。
(相澤は恐らく実技の時に緑谷の個性を見た。そして今日、ボール投げの時、緑谷がまた全力で力を解放しようとしたのを察知し、個性を消したってわけだな。もし緑谷が実技の時と何も変わらないままだったら、相澤は本気で緑谷を除籍処分にしてただろうな。だがアイツは指先に力を集約させる術を土壇場で思いつき、何とか生き残ったと)
そう考えながら垣根は昇降口を出る。すると横を歩いている飯田が、
「あれは…緑谷君じゃないか?」
「あ?」
垣根が前方を見ると、そこには緑谷がぐったりしながら一人で歩いて行く姿が見える。飯田が緑谷の元へ足を運び、垣根もそれについて行った。飯田が緑谷の方に手を置くと、こちらを振り返り、
「あっ、飯田君に垣根君!」
「指は治ったのかい?」
「うん。リカバリーガールのおかげで」
「難儀な個性だな」
「う、うん。そうだね…」
垣根、緑谷、飯田が並んで一緒に歩く。
「しかし相澤先生にはやられたよ。俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった。教師が嘘で鼓舞するとは」
「おーい、お三方~、駅まで~?待って~!」
飯田が先ほどの体力テストについて改めて思い返していると後ろから麗日の声が聞こえた。
「麗日さん!?」
「君は…無限女子!」
(まんまじゃねぇかよ…)
「麗日お茶子です!」
「えっと、飯田天哉君に垣根帝督君、それに緑谷…デク君!だよね」
「デク!?」
「ん?って、あっ!?間違えた!!」
「…馬鹿なのかお前は」
またもや緑谷のことをデクと呼ぶ麗火に呆れる垣根。麗日も気恥ずかしそうに頭をかきながら緑谷に謝る。
「いずく君だったね、ごめんごめん~。でもデクって『頑張れ!』って感じでなんか好きだ私。ね?垣根君もそう思わない?」
「1㎜も思わねえ」
「え~」
「デクです!!!!」
「緑谷君!?」
そうして結局、垣根を含む4人は一緒に帰り道を共にすることとなった。
「でも名前と言えば、垣根君の名前も変わってるよね」
「お前にだけは言われたくねえ。お茶子なんて名前、世界中探してもお前ぐらいしかいねえよ」
「え~、そんなことないと思うけどなぁ~?あ、そうだ!ていとくんっていうのはどう?」
「は?」
「垣根君の呼び名。うん、良い響き~!」
「ふざけんな。殺すぞコラ」
「なるほど…確かに語呂が良いな。」
「呑気に感心してんじゃねぇ」
「よし、ていとくんに決定~!!」
「ハハハ…」
こうして雄英高校ヒーロー科初日が終わった。
◆
雄英高校ヒーロー科2日目。午前は英語などの必修授業が行われた。雄英のカリキュラムとして、午前は必修科目、午後はヒーロー基礎学を学ぶことになっており、これはずっと変わらない。ヒーロー科といえど、普通の高校のような授業も行われているのだ。昼は大食堂で一流の料理を食べることが出来る。垣根は昨日の三人と昼を共にした。垣根曰く、結構美味しかったらしい。そして午後のヒーロー基礎学。
「私が~~~~~~~普通にドアから来た~!!!」
「「「おおおおおおおおおお」」」
「オールマイトだ…!!!」
「すげぇや!本当に先生やってるんだな!」
「あれシルバーエイジのコスチュームね」
「画風違いすぎて鳥肌が…」
(あいつ、普通に登場出来ねえのか?)
クラスのほとんどの生徒達がオールマイトの登場に胸を躍らせている中、垣根は冷静にツッコミを入れる。
「私の担当はヒーロー基礎学。ヒーローの素地を作るためにさまざまな訓練を行う科目だ。単位数ももっとも多いぞ。早速だが、今日はこれ!戦闘訓練!」
「戦闘!!」
「訓練…」
「そしてそいつに伴って~、こちら!入学前に送ってもらった個性届と要望に沿ってあつらえたコスチューム!」
「「「おおおおおおおおおお!!!」」」
「コスチューム…!!」
「着替えたら順次、グラウンドβに集まるんだ!」
コスチュームを見て目を輝かせている生徒達にオールマイトが指示を出す。
いよいよ戦闘訓練が始まる。
ヒロアカで一番好きな女子は梅雨ちゃんです。