かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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十三話

 「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!自覚するのだ。今日から自分は、ヒーローなんだと!」

 

 一年A組の生徒達はそれぞれがあらかじめオーダーしていたコスチュームを身に纏い、グラウンドβに集合していた。その様子は三者三様。武器の様なモノを搭載している者もいれば、普通の私服とあまり変わらない格好の者もいる。どんな格好であれ、各自が自分の個性を最大限活かせるような仕様になっているのは確かだ。オールマイトは生徒達のコスチューム姿を見ながら嬉しそうに言った。

 

 「いいじゃないか、かっこいいぜ!さあ始めようか有精卵ども!!」

 

皆がグラウンドに集まっている中、垣根は一人遅れてグラウンドに入る。垣根の格好は、赤紫のジャケットとボタンを全て外した白いYシャツを上から纏い、その中にさらに赤い服を着込んだモノ。ズボンもジャケットに合わせた赤紫色。その端正な顔立ちも相まってか、まるでホストのような見た目をしていた。すると麗日が垣根が来たことに気付き、

 

 「あ、ていと君!おぉ~、なんかホストっぽい格好だね!」

 「うるせえ。っつかお前こそなんて格好してんだ」

 「要望ちゃんと書けば良かったよ~。パツパツスーツんなった。恥ずかしい…」

 「相変わらずアホだなお前」

 「ヒーロー科最高」

 

垣根と麗日がお互いのコスチュームについて話していると、全員そろったことを確認したオールマイトが話しを始める。

 

 「さあ、戦闘訓練のお時間だ!君らにはこれから敵組とヒーロー組に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう」

 「基礎訓練なしに?」

 「その基礎を知るための実践さ。ただし、今回はぶっ壊せばOKなロボじゃないのがミソだ」

 

 すると、

 

 「勝敗のシステムはどうなります?」

 「ぶっ飛ばしてもいいんすか?」

 「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか?」

 「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか?」

 

矢次に質問を飛ばす生徒達。

 

 「んんんん聖徳太子~!」

 

オールマイトは唸りながら、さらに詳しい説明をする。

 

 「いいかい?状況設定は敵がアジトのどこかに核兵器を隠していてヒーローはそれを処理しようとしている。ヒーローは時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収すること。敵は制限時間内までに核兵器を守るかヒーローを捕まえること。コンビ及び対戦相手はくじで決める!」

 

オールマイトがそう言うと、皆くじを引き、コンビが決まった。

 

A:緑谷&麗日

B:障子&轟

C:峰田&八百万

D:爆豪&飯田

E:芦戸&垣根

F:口田&砂藤

G:上鳴&耳朗

H:常闇&蛙吹

I:尾白&葉隠

J:瀬呂&切島

 

コンビが決まるとオールマイトは次に最初の対戦カードを決める。

 

 「最初の対戦カードはこいつらだァ!!AとD!!AがヒーローでDが敵だ!他の者はモニタールームに向かってくれ」

 「「「はい!!」」」 

 

オールマイトの指示通りAとD以外の生徒はモニタールームに向かった。垣根がチラッと緑谷の方を見ると、そこには爆豪に睨まれて萎縮している緑谷の姿が目に映る。爆豪は緑谷に対して明らかに敵意を持っているし、緑谷も爆豪にひどく苦手意識を持っている。過去に何かあったのだろうか。だが緑谷とてヒーロー科の生徒の一人。いつまでも爆豪にビビってるようでは到底ヒーローなんかにはなれはしない。それは本人が一番よく分かっているはずだ。

 

 (さて、どうなるか)

 

そう思いながら垣根はモニター室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒達は初戦の様子をモニター室から眺めていた。A組が建物に侵入してまもなく、敵側である爆豪が奇襲をかける。かろうじてよける緑谷と麗日。爆豪はそのまま緑谷に追撃しようとするも、それを逆手に取られ、逆に自身がダメージを負ってしまう。どうやら、いつまでも爆豪に対して怖じ気づいたままという訳ではないらしい。それを受けた爆豪は再度、緑谷に襲いかかる。最早、緑谷のことしか見えていないのだろう。その隙に麗日は核確保に向かった。そんなことは気にも止めず、緑谷に攻撃を繰り出す爆豪。緑谷もギリギリでかわし、一旦身を隠す。爆豪もそれを追うが、中々見つからない緑谷に対してさらに苛立ちを募らせる。

 

 「どこだ!!!クソナードが!!!」

 

緑谷を探し回る爆豪。おそらく、相方の飯田とは全く連携を取っていない。それどころか、この訓練の趣旨を完全に忘れている。私怨に身を委ね、緑谷を潰すことしか考えていない。

 

 (何やってんだアイツ。ありゃダメだな)

 

垣根が呆れながら見ていると、再度爆豪と緑谷が遭遇。すると爆豪は自分の手に装着してある武器を構え、

 

 「てめえのストーキングならもう知ってんだろうがよぉ、俺の爆破は手のひらからニトロみてえなもん出して爆発させてる。要望通りの設計ならこの籠手はそいつを内部にためて…」

 

そう言いながら爆豪は緑谷に向けて今にも何かを放とうとする。それを見たオールマイトは、

 

 「爆豪少年ストップだ!!殺す気か!?」

 「当たんなきゃ死なねえよ!!」

 

オールマイトの静止を無視し、爆豪は籠手に付いている引き金を引いた。

 

 ドゴォォォォォォォォォン!!!!!

 

すさまじい音を立てながらその籠手から爆破の塊が放たれた。その威力はあまりにも強大で緑谷達がいたフロアが丸ごと吹き飛ばされる。緑谷は勿論、その光景を見ていたモニター室の生徒達も唖然とした様子だった。直撃しなかったから良いものの、一歩間違えば死んでいたかも知れない。爆煙の中からゆっくりと爆豪が姿を現す。

 

 「全力のテメエをねじ伏せる…!!」

 

爆豪が今にも緑谷に襲いかかろうとしていたその時、オールマイトの声が響く。

 

 「爆豪少年。次それを撃ったら強制終了で君らの負けとする。屋内戦において大規模な攻撃は守るべき牙城の損壊を招く。ヒーローとしては勿論、敵としても愚策だぞそれは。大幅減点だからな」

 「…チッ、しゃーねえなァ…じゃあ殴り合いだァ!!」

 

叫びながら一気に緑谷との距離を縮め、緑谷に攻めかかる。爆豪の攻撃にカウンターを合わせようとする緑谷だったが、爆豪はそれを爆破でかわすと同時に背後に回り、そのまま背後から爆撃を食らわせる。

 

 「考えるタイプには見えねえが意外と繊細だな」

 「ええ。慣性を殺しつつ、有効打を加えるには爆破力を微調整しなければなりませんしね」

 

モニターを見ていた轟と八百万が呟く。そしてさらに緑谷に対して攻撃を加えていく爆豪。もはや戦闘とは呼べない。一方的な暴力だ。モニター室の生徒達はもう止めさせるべきだとオールマイトに主張するが、何を躊躇っているのか、オールマイトは中止の声を発しない。

 

 「止めねえのか?オールマイトさんよ」

 

垣根はオールマイトに問いかける。他の生徒達も皆、オールマイトの方を見ている。

 

 「…」

 

それでも何も言わないオールマイト。何か必死に葛藤している様子だ。そうしている間に二人は右腕を振り上げながら同時に距離を詰めていく。両者とも渾身の一撃を相手に食らわせようとしていた。

 

 「DETROIT…」

 「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

それを見た切島が

 

 「やばそうだってこれ!先生!」

 

そしてついにオールマイトも腹を決め、

 

 「双方中止――――――――――」

 「行くぞ!麗日さん!!」

 「!?」

 「SMASH!!!!!!!!」

 

両者の技が激突する、かに思われた。しかし、実際に直撃したのは爆豪の技だけ。緑谷は左腕で爆豪の技を受けきり、右腕は爆豪に向けてではなく、上に向かって振り抜いた。緑谷の右腕から放たれた超パワーはビルの各階層を破壊しながら次々と突き抜けていく。5階でそれを待っていた麗日はビルの柱でフルスイングしながら、

 

 「即興必殺・彗星ホームラン!!」

 

そう叫び、浮き上がってくる瓦礫を飯田めがけて放った。飯田が瓦礫に気を取られている間に麗日は核に飛びつき、

 

 「回収!」

 「うわああああああああああ核うううううううううううう!」

 

響き渡る飯田の絶叫。タイムアップを知らせるモニター。そして

 

 「ヒーローチーム・・・WIIIIIIIIIIIIIIIN!!!!!!!」

 

轟くオ-ルマイトの声。

 

初戦終了。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、講評の時間だ」

 

 モニター室では初戦の講評をするため、モニターの前で生徒達に向かって話し始めた。オールマイトの横には緑谷以外の初戦参加者が並んで立っている。

 

 「つっても今戦のベストは飯田少年だけどな」

 「なっ!?」

 

突然自分の名前を出され、驚く飯田。

 

 「勝った緑谷ちゃんかお茶子ちゃんじゃないの?」

 

オールマイトに質問する蛙吹。

 

 「なぜだろうなぁ?分かる人!」

 「はいオールマイト先生。それは飯田さんが一番状況設定に順応していたからです。爆豪さんの行動は戦闘を見た限り、私怨丸出しの独断。そして先ほど先生が仰っていた通り、屋内での大規模戦闘は愚策。緑谷さんも同様、受けたダメージから鑑みてもあの作戦は無謀としか言いようがありませんわ。麗日さんは中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを核として扱っていたらあんな危険な行為は出来ませんわ。相手への対策をこなし、核の争奪をきちんと想定していたからこそ飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは訓練だという甘えから生じた反則のようなものですわ」

 

 「…ま、まぁ飯田少年もまだ固すぎる節はあったりするわけだが…まあ正解だよ。くぅ~」

 「常に下学上達。一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので」

 

オールマイトの質問に完璧に答える八百万。流石は推薦入学者といったところだ。

 

 「…くだらねえ。」

 

垣根が一言、そう呟く。皆一斉に垣根の方を向くが垣根は構わず続けた。

 

 「実にくだらねえ茶番だな。そいつの言うとおりだ。訓練の目的を忘れ、己の感情のままに行動し、その結果がこれだ。無様だなぁ、爆豪勝己」

 「…っ!?」

 

垣根に卑下され、敵意を剥き出しにする爆豪。しかし垣根は微塵も気にする様子は無く、さらに続ける。

 

 「まぁ、緑谷も緑谷だがな。自分の身体をぶっ壊してまであんな成功するかも分からない博打打ちやがって。結果的に上手くいって、『Dチームに勝った』という結果は手に入ったかもしれねえが、それは自分の右腕ぶっ壊してまで手に入れるほどの価値はあったのか?いやねぇな、間違いなく。得るモノと失うモノを正しく天秤にかけられてねえ。馬鹿だな」

 

そう言うと再び爆豪の方を向き、

 

 「お似合いだぜお前ら。馬鹿同士な」

 「テメェ…!!」

 

流石に我慢の限界だったのか爆豪が垣根に襲いかかろうとする。しかしオールマイトが後ろから爆豪をしっかり捕まえてそれを止めた。

 

 「やめるんだ爆豪少年。垣根少年も言い過ぎだ」

 

暴れる爆豪を押さえつけ、垣根のこともたしなめる。

 

 「…オールマイト、アンタは爆豪が暴走気味になってた時でさえ、訓練を止めようとしなかったな。あきらかに訓練の趣旨に反していたのに、だ。まぁでもこれは対敵を想定した訓練だ、今後爆豪みたいに暴力的な敵に遭遇した時のためだって言われれば納得は出来なくも無い。だが、緑谷の個性発動を止めるのを最後まで渋ったのはなぜだ?」

 「…!?」

 「知ってたんだろ?緑谷の個性のこと。個性を発動したら身体が保たねえってことも。相澤でさえ知ってたんだ、アンタが知らないわけねえよな?」

 「…」

 「そしてこのまま行けば緑谷は個性を使うことになるかもしれないってのも分かってたはずだ。なのにアンタは直前まで止めようとしなかった。いくらでもチャンスはあったのに。危険な目に遭う前にちゃんと止めることがアンタの役目じゃねえのかよ」

 「…」

 

訪れる沈黙。誰も言葉を発しなかった。

 

 「とんだ茶番だ。何もかもがくだらねえ。反吐が出るな」

 

垣根は吐き捨てるようにそう言い放つ。すると、

 

 「もういいだろ。そのへんにしとけ」

 

轟が垣根の肩に手を置き、諫めるように言う。

 

 「…フン」

 

垣根は鼻を鳴らすと黙って引き下がった。

 

 「ま、まぁ取り敢えず次行きましょうよ、オールマイト先生」

 

気まずい雰囲気の中、切島がオールマイトに切り出す。

 

 「あ、あぁ。そうだったな、スマン」

 

切島の言葉で我に返ったオールマイトは次の対戦カードを決めた。

 

 「第二戦はヒーローチームBと敵チームIでスタートしよう。さっきとは別の場所でやるからな。さあ、準備してくれ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の組が呼ばれるまで、垣根はモニター室で他のチームの様子を見ていた。一見、退屈そうに思われるが意外とそうでもなかったりする。他のクラスメイトがどんな個性を持っているのかを観察できるからだ。その中には学園都市時代には見たこともない様なモノも見られた。例えば異形系の個性。これは蛙吹梅雨の個性が一例として挙げられる。生まれたときから常に個性が発動し、特徴的な姿をしている。ちなみに蛙吹梅雨の個性は蛙で蛙っぽいことはなんでも出来るらしい。このような能力は学園都市ではお目に掛かることが出来ない。他にも透明人間の葉隠や複製腕を持つ障子、ダークシャドウと呼ばれる生き物(?)を操る常闇なんかもこの世界ならではの能力だ。他にもおもしろそうな個性はあったが、中でも垣根が興味を持ったのは轟焦凍だ。轟はBチームで第二戦目だったが、開始早々、一瞬でビル全体を凍らせ、一戦も交えること無く勝利したのだ。個性は半冷半燃。右で凍らし左で燃やす。正確な範囲は不明だが、今のを見る限り相当なモノだろう。

 

 「す、すげえ!」

 「なんて個性だよ!」

 「さすが推薦入学者ね」

 

モニター室から見ていた生徒達が感心している中、垣根もまた別の意味で感心する。

 

 (一瞬であの規模を凍らせるか。加えて燃やす方も同等くらいの力があると考えると…『大能力者(レベル4)』クラスはあるな)

 

大能力者(レベル4)』。学園都市の能力者が持つ能力を規模や大きさ、精密さなどを基準に段階的に分けた場合、上から二番目の階層に位置する能力の持つ者たちのことを言う。戦闘面においては軍隊で戦術的価値を得られる程の能力がこれに相当する。垣根は轟の個性がレベル4に相当すると考えた。

 

 (しかもレベル4でも上位にくるんじゃねーか?あれ)

 

などと考えていたら、いつの間にか第四戦の講評が終わり、いよいよ第5戦、最後の組み合わせが発表された。

 

 「最後の対戦カードはCチームとEチーム!!ヒーローはEチームで敵はCチームだ。さあ、それでは準備をしてくれ。」

 

いよいよ垣根の番が回ってきた。

 

 




垣根君をなんとか絡ませようとしたらこうなっちゃいました。

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