かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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十四話

 

 戦闘訓練最後の組み合わせ。ヒーロー側EチームVS敵側Cチーム。場所は演習用ビルE。制限時間は15分。ヒーロー側は核を回収すること、敵側は核を守り抜くことがそれぞれの勝利条件だ。持ち物は建物の見取り図と小型無線、そして確保用テープの三つだ。相手にテープを巻き付けた時点で捕らえた証明になる。時間が少ない上に、核の場所はヒーロー側には知らされていないため、ヒーロー側の方が不利な条件となっている。そのヒーロー側である垣根と芦戸は開始の合図があるまでビルの外で待機していた。垣根はその間に渡されたビルの見取り図を黙って眺めていた。この見取り図は普通の見取り図よりも複雑に書かれている仕様となっており、他の生徒達も構造を覚えるのに大分苦労していた。事実、パートナーである芦戸が、

 

 「あ~~もう覚えらんな~~い!!」

 

と横でさじを投げていた。一方、垣根は全部見終えたのか、見取り図を折りたたみポケットの中にしまってしまった。そこで芦戸は垣根に話しかける。

 

 「ねーねー、作戦とかどうする?」

 「作戦?そうだな、ありそうな所を順番に探してくってとこだな」

 「ん~まぁそれしかないよね。もう目星は付いてるの?」

 「ああ。六つ程な」

 「おぉ~すっごーい!流石入試一位だね!」

 

作戦について話し合う垣根と芦戸。大体の方針は決まったようだ。

 

 「あとは相手の個性がどんなのか分かれば楽なんだがな。お前何か知ってるか?」

 「んーとね、ヤオモモは確か、色んな物を作れる個性だったよ。体力テストの時、私聞いたんだ。峰田はよく分かんないけど、なんか頭のボールちぎってた」

 「あー、頭に付いてるブドウみたいなやつか」

 「そうそう!何に使うのかは分かんないけど」

 

芦戸の話から二人の個性の特徴が判明した。八百万は物質を作り出す個性で峰田は頭部の球体を使用する個性。峰田の方はまだ謎が残るが、八百万の個性について聞いたとき、垣根は自分の個性と似ているなと感じた。

 

 (俺の個性は一応『作製』だしな、似た者同士対決って訳か。もっとも、創り出す物質がこの世のモノかそうでないかの違いはあるが)

 

すると、ついにオ-ルマイトから合図が出る。

 

 「それでは屋内対人戦闘訓練最終戦、スタート!!!」

 

開始の合図とともに垣根と芦戸はビルの中に入った。

 

 「核のありそうな場所は3階に三ヵ所,4階に二ヵ所,5階に一ヵ所だ。手分けして当たった方が効率が良い。俺が3階に行くから、お前は4階を調べろ。核が見つかったら各自無線で知らせる、いいな?」

 「アイアイサー!!!」

 

垣根が段取りを決め、元気よく返事をする芦戸。二人は素早く階段を上って1階と2階を後にし、垣根は3階、芦戸は4階を調べに行った。モニター室では、

 

 「おいおい、アイツら1階と2階すっ飛ばしたぞ」

 「まったく調べなかったわね」

 「何か考えがあるんじゃないかな?」

 

二人の行動に注目する生徒達。

 

 「おそらく、建物の見取り図を見て1階と2階には核が置かれてそうな場所はないと判断したんだろう。そして探索では効率性を考え、分担して探す。いいじゃないかEチーム!賢いぞ!」

 

モニターを見ながら解説するオールマイト。

 

 (流石は先生の息子さんだ)

 

オールマイトは心の中でそう呟く。恐らくこれは垣根の指示によるものだろうとオールマイトは考えていた。入試の時、実技でも筆記でも飛び抜けていた彼ならこの程度のことは造作もないだろう。

 

 (さっきは彼に痛いところを突かれてしまったし…なんか、先生に似ているような…)

 

オールマイトは苦笑いしながらそう思った。一方、その垣根はと言うと3階は大方調べ尽くし、核が無いことを確認したので無線で芦戸に連絡していた。

 

 「こっちは無かった。そっちはどうだ?」

 「うん、垣根に言われた場所見たけど、何も無かったよ」

 「そうか。じゃあ残るは5階だけだな。今から合流する。階段付近で待ってろ」

 「おっけ~」

 

そう言って垣根は3階を後にし、4階にいる芦戸と合流する。時間はあと半分。

 

 「じゃあ行くか」

 「おーー!!…って、ん?何あれ?」

 「あ?」

 

芦戸が5階へと繋がる階段の方を指さして垣根に尋ねる。垣根もその方向を見ると、階段の至る所にボールのようなモノが散りばめられているのが見えた。

 

 「なんかいっぱい落ちてるけど、もしかしてあれ…」

 「ああ、峰田の頭のヤツだな」

 

階段に散りばめられている物体の正体は峰田の頭部から生えている紫色の球体だった。

 

 「これじゃあ上れないよ~。どうする?無視して踏んづけて行っちゃう?」

 「…」

 

垣根はそばに落ちていた石ころを拾い、近くのボールに向かって投げる。するとボールに当たった石ころはそのままボールにくっついてしまった。垣根はしゃがみながらその石ころを引っ張るが一向に取れる気配はない。

 

 「こういうことらしいぜ?」

 「ありゃ~、石がくっついちゃった!取れないの?それ」

 「ああ、多分取れねえ。もし無理にでも階段を上ろうとしてたら、ここで時間いっぱいまで動けなくなってたってわけだ。だが同時にこれで核はこの先にあることが決まったな」

 「でも階段使わないと上行けないじゃん。どうするの?」

 「おいおい、俺の個性忘れたのか?」

 「えっ?…あ、そっか!」

 「そういうこった、行くぞ」

 

垣根はそう言うと背中から六枚の翼を出し、そのまま芦戸の腰に手を回す。

 

 「ひゃあ!?ちょっと何すんの!?」

 「は?何って飛ぶに決まってんだろ」

 「え、いや、ちょっと待っ――――――」

 

芦戸が何か言い終わる前に垣根は芦戸を抱え飛び立った。そして5階に着地すると、芦戸のこともその場で降ろす。

 

 「よし、着いたな。行くぞ」

 「…」

 

そう言いながら芦戸の方を見たが、なぜか無言で垣根のことを睨んでいる。

 

 「あ?何だよ?」

 「何だよ、じゃなーーーい!!いきなりビックリするでしょ!?」

 「はぁ?時間無いんだからしゃーねぇだろ。ホラ行くぞ」

 「あっ!?ちょ、ちょっとぉ!!」

 

構わず進んでいく垣根に慌てて付いていく芦戸。

 

 「…あれは垣根だから許されるヤツだよな」

 「イケメンだからな」

 「取り敢えず垣根くたばれ」

 

モニター室にいる、主に男子陣の口から出る恨み言。そんなモニター室の様子などはいざ知らず、目的の部屋まで進んでいく垣根と芦戸。部屋の入り口が見え、入ろうとしたその時、

 

 バッッ!!

 

突如、上から風呂敷のようなものが天井から落ちてきて二人に覆い被さる。そして、

 

 「よっしゃ!!大成功だぜ!これであいつらは風呂敷の中から出られぇ!」

 「ええ、そうですわね。私の個性で創り出した布と峰田さんが生み出した吸着性のあるボール。この二つを組み合わせ上から落とせば、ボールの吸着性によって布をどかすことが出来なくなり、身動きも取れなくなる。即興にしてはいいトラップでしたわね」

 

峰田と八百万は満足げな様子で部屋の奥から出てくる。しかし、

 

 「なるほどな。階段のトラップは足下を意識させるための陽動。本命はこっちだったってわけか。まぁまぁ考えたじゃねぇか」

 

風呂敷の中から声が聞こえる。峰田と八百万が風呂敷への下へ目を向けると、

 

 バサッッッ!!!

 

風呂敷が勢いよく飛び去り、中から純白の翼を広げた垣根と芦戸が姿を現した。それを見た二人は驚きに目を見開く。

 

 「そんな!?どうして…はっ!?峰田さん!!もしかして個性を解除なされたんですか?」

 「い、いやしてないしてない!!大体、オイラのボールは一度くっつくと効力がきれるまでオイラでも外すことは出来ない!な、なのに、なんでオイラのボールがくっついてないんだ!?」

 

垣根と芦戸にどころか、垣根の背から生えている翼にさえ峰田のボールは付いていなかった。仮に風呂敷が落ちてくる直前にあの翼が垣根と芦戸を守ったにしても、その時は翼にボールがくっつくはずだ。あの状況でボールがどこにも付いていないのはどう考えてもおかしい。峰田の個性は『もぎもぎ』。頭から吸着性の強い球体状の物体を無尽蔵に生み出すことが出来る個性だ。峰田の体調が良ければ1日中くっついたままで水に濡れても粘着力は落ちない程、吸着力が高いのだ。そのため、基本何かにボールが触れたらくっついてしまう。そのはずだった。

 

 「さあ、何でだろうな?」

 

垣根は笑みを浮かべながら部屋の中に足を踏み入れる。そして部屋の中を見渡し、あるところに目をとめる。そこには一つの小部屋があった。そしてその小部屋の前には、鉄の板のようなモノが何段も縦に積み上げられていてて、その小部屋に入る為のドアを塞いでいる。どうやら鉄の板をどうにかしなければあの小部屋の中には入れない仕様になっているようだ。

 

 「核はあの部屋の中だな。それにしても、まだ策があったのか。ずいぶんと抜かりがねぇな」

 

八百万は垣根達に警戒をしながらに峰田に話しかける。

 

 「峰田さん、こうなったらやるしかありませんわ。よろしいですね?」

 「えぇ~、マジかよぉ…」

 

覚悟を決める八百万に完全にビビっている峰田。と、ここで垣根が芦戸に指示を出す。

 

 「おい芦戸、お前は峰田の相手をしろ。アイツにチョロチョロされると面倒だ」

 「いいけど、垣根はどうすんの?」

 「あんま時間もねえし、核を回収するって言いたいとこだがな。あの女が黙って見過ごしてくれるはずもねぇ。だからアイツを先に潰す。核を回収するのはその後だ」 

「オッケー!」

 

垣根と芦戸は打ち合わせを済ませる。打ち合わせと言っても要は芦戸と峰田、垣根と八百万で戦うようにするというだけの話なのだが。そして準備が整うや否や、芦戸は峰田の方へ突っ込み、

 

 「いっくよ~、それ!!」

 

彼女の個性である『酸』をぶちまける。

 

 「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

逃げ惑う峰田を追う芦戸。近くから二人がいなくなったことを確認した垣根は八百万に向き直る。

 

 「さて、やるか」

 「…っ!!」

 

とっさに盾を創造する八百万。垣根の白い翼の内の一枚が八百万めがけて伸びてきた。八百万はとっさに盾を突き出しガードしようとするも、

 

 ガシャァァァン!!!

 

翼と盾が直撃した瞬間、盾は粉々に壊され、その衝撃で八百万自身も後ろに吹き飛ばされてしまった。

 

 「くっ…!!!なんて力…!?」

 「終わりか?」

 

よろめきながら立ち上がる八百万の下へゆっくりと近づく垣根。

 

 「いいえ、まだですわ!」

 

そう言うと今度は槍のような長さの鉄の棒を創造し、一気に垣根との距離を詰める。

 

 (懐に入りさえすれば…!!)

 

八百万は身をかがめながら垣根の懐に入り、そのまま垣根の顎めがけて勢いよく棒を振り抜く。

 

 「もらいましたわ!!」

 

勝利を確信する八百万。だが、

 

 ガキンッッ!!

 

金属音が鳴り響く。そして同時に八百万は自分の攻撃が垣根に止められていることに気付く。しかも翼で防がれたのではない。八百万の攻撃を防いだのは垣根の右手に握られている白い剣のようなモノだった。

 

 「なっ!?」

 

八百万が気を取られている一瞬、垣根は右腕に力を込め、剣を振り抜いた。押し返された八百万は体勢を立て直そうとするが、垣根はそんな暇を与えるつもりはないらしく、八百万に対して追撃を加える。

 

 ガキンッ!ガキンッ!ガキンッ!

 

八百万の持つ鉄の棒に力一杯剣を叩きつけていく垣根。必死に攻撃を受けきる八百万だが、やはり男と女の筋力の差は歴然。八百万はどんどん追い詰められていった。

 

 (このままでは…!?)

 

何とか打開策を考えなければと思っていた矢先、ついに垣根の剣によって武器が叩き折られてしまった。

 

 「しまっ――――」

 

武器を破壊された衝撃でよろめく八百万に垣根は足をかけ、転ばせる。仰向けに転んでしまった八百万が起き上がろうとすると、そこには自分の喉元に剣先を突きつけている垣根の姿が目に入った。

 

 「お前の負けだな」

 「…っ!?」

 

そう言われ悔しそうな表情を浮かべる八百万だが抵抗する素振りは見せない。それを確認した垣根は八百万に捕縛用のテープを巻き付ける。

 

 「さて、あとは核だな」

 

テープを巻き付け終わると垣根は立ち上がって小部屋の方へ向かった。

 

 (まだ、まだ終わっていませんわ!)

 

身動きの取れない八百万だったが、まだ勝負を諦めたわけでは無かった。

 

 (ヒーロー側は核を回収することが勝利条件。私が垣根さんに負けても、垣根さんが時間内に核の下へたどり着けなければ私たちの勝ち!残り時間はあと僅かのはず。その短時間であの鉄の壁を突破できるはずが――――――――――――――)

 

 ドゴォォォォォォォォォォォン!!!

 

もの凄い爆音が部屋中に響き渡る。何事かと八百万は音のした方を見ると、爆煙と共に六枚の翼を広げながら小部屋の前に立っている垣根の姿と、小部屋のドアの前にバリケードのように立ちはだかっていた鉄板の壁が粉々に粉砕されている光景が見て取れた。呆然としている八百万を他所に垣根は小部屋の中に入り、核に触れる。そして一瞬の静寂の後、オールマイトの声がビル内に響き渡った。

 

 「ヒーローチーム、WIIIIIIIIN!!!!!」

 

こうして戦闘訓練は幕を閉じた。

 

 

 


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