十六話
「今日のヒーロー基礎学だが俺とオールマイト、そしてもう一人の3人体制で見ることとなった」
午後12時50分。ヒーロー基礎学の授業を受けるため、席に着いていた一年A組の生徒達の前で相澤がそう伝える。瀬呂が何をするのかについて尋ねると、
「災害水害なんでもござれ、レスキュー訓練だ」
「RESCUE」と書かれたカードをかざしながら相澤が答えた。さらに相澤はコスチュームの着用は個人の判断に任せる旨を伝え、
「訓練場はすこし離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備開始」
とだけ言うと教室から出て行ったしまった。そして生徒達も各自準備を始める。今回、コスチュームの着用は強制では無いが、A組のほとんどの生徒はコスチュームを着用していた。やはり出来るだけコスチュームを着たいと皆思っているのだろうか。緑谷だけは先の戦闘訓練でコスチュームが壊れてしまったため、体操服を着ていた。垣根も自身のコスチュームに着替えると、そのままバスの下へ向かう。そしてA組の生徒がバスに全員乗ったことが確認されると、バスが出発した。目的地まで到着する間、気楽に雑談を楽しむ生徒達。
「私、思ったことをなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃん」
「は、はい!蛙吹さん!」
「梅雨ちゃんと呼んで」
「う、うん…」
「あなたの個性、オールマイトに似ている」
「えっ!?そうかな?いやでもあの…僕はえっと、その…」
(なるほど、オールマイトか。言われれば確かにそうかもな。映像で何回か見たことある程度だが、オールマイトも意味不明なパワーで敵をぶっ飛ばしてた。まったく同じとは言わないまでも、オールマイトと同じ系統の個性っつう可能性はありそうだな)
蛙吹の言葉にキョドる緑谷を見ながら垣根が考えていると、今度は切島が蛙吹に話しかける。
「待てよ梅雨ちゃん。オールマイトは怪我しねえぞ。似て非なるあれだぜ」
「はぁ…」
どこか安心した様子の緑谷。切島はそのまま続け、
「しっかし増強型のシンプルな個性はいいな。派手で出来ることが多い。俺の硬化は対人じゃ強ぇけどいかんせん地味なんだよなぁ」
「僕はすごいかっこいいと思うよ!プロにも十分通用する個性だよ」
「プロな~。しかしやっぱヒーローも人気商売みてぇなところあるぜ?まぁ派手で強ぇっつったらやっぱり轟と爆豪、そして垣根だな!」
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそう」
「んだとコラ!出すわ!」
「ほら」
蛙吹の言葉に憤慨する爆豪。さらに上鳴も蛙吹に同調する。
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されてるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーはなんだコラ!殺すぞ!!」
(かっちゃんがいじられてる…!?信じられない光景だ…さすが雄英!)
今まででは考えられない光景に頭を抱える緑谷。その後しばらくするとバスは目的地へと到着する。生徒達がバスから降りると、宇宙服のようなものを着た人物が一人、垣根達を待ち構えていた。
「皆さん、待っていましたよ」
「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」
「わぁ~!私好きなの13号!」
その人物を見るなり、生徒達は思わず声を上げる。緑谷は言わずもがなだが、今回は麗日も同じように興奮している様子だった。このような周囲の反応から、この人物も有名なヒーローなのだろうと垣根は推測する。
「さあ、早速中へ入りましょう」
「「「よろしくお願いします!!」」」
13号はそう言いながら生徒達を施設の中へ誘導する。中に入るとそこにはテーマパークのような光景が広がっていた。あちこちにアトラクションのようなモノが点在していた。
「すっげぇ~、USJかよ!!」
中の様子を見た切島は思わずそう口にする。
「水難事故、土砂災害、火災、暴風、etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も・・・ウソの災害や事故ルーム!略して『USJ』!」
(((ほんとにUSJだった!?)))
生徒達がUSJの名前の由来について、衝撃を受ける中、相澤が13号に尋ねた。
「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが?」
「先輩、それが…通勤時に制限ギリギリまで活動してしまったみたいで、仮眠室で休んでます」
「不合理の極みだなオイ…仕方ない、始めるか」
相澤と13号は何やら二人で話していたが、話が終わったのか、相澤がそう呟くと、今度は13号が生徒達に語りかける。
「え~、始める前にお小言を1つ、2つ、3つ4つ5つ6つ…」
(((増える…)))
「皆さんご存じとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなモノでも吸い込んで塵にしてしまいます」
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね?」
「ええ。しかし簡単に人を殺せる力です。皆さんの中にもそういう個性のがいるでしょう?」
そう言われ、自身の個性について考える生徒達。13号は言葉を続ける。
「超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。しかし、一歩間違えば容易に人を殺せる行き過ぎた個性を個々が持っているということを忘れないでください。相澤先生の体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘訓練でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います。この授業では心機一転!人命の為に個性をどう活用するかを学んでいきましょう!君たちの力は人を傷つけるためにあるのではない、助けるためにあるのだと心得て帰ってくださいな」
そこまで言うと13号は一息吐き、
「以上、ご静聴ありがとうございました」
と自身の話を締めくくる。それまで静かに聞いていた生徒達は、
「素敵!」
「ブラボー!ブラボー!」
13号のスピーチに感激する生徒達。そんな中、
「よーし、そんじゃまずは・・・」
相澤が生徒達に指示を出そうと、そこまで言いかけた所で突然、照明の明かりが一斉に消える。すぐに何かを察知したのか、相澤は急いで振り返ると、そこにはこの施設の中央に位置する噴水の前に黒いモヤが出現しているのを相澤は確認した。さらにそのモヤの中から人の顔が覗いているのを視認し、相澤は生徒と13号に指示を飛ばした。
「一塊になって動くな!13号、生徒を守れ!」
「なんだ?また入試の時みたいな、もう始まってんぞパターン?」
切島が噴水の方を見ながそう呟く中、黒いモヤの中から次々と人らしき者達が現れていく。よく見ようと身を乗り出す生徒達だが、
「動くな!」
相澤が生徒達に一喝する。ビックリした生徒達が相澤の方を見ると相澤は一言、
「あれは…敵だ…!」
「「「なっ!?」」」
ゴーグルを装着しながら生徒達に伝える。相澤の言葉に驚愕の色を隠せない生徒達。彼らが再び噴水の方を見ると、そこにはまだまだ数を増やし続ける敵達の姿があった。
(昨日の今日でもうお出ましか。思ったより早かったな)
達観した様子で噴水場を見下ろす垣根。そして、
「見せてもらうぜ、お前らの力を」
口元に笑みを浮かべ、静かにそう呟いた。