それは個性を悪用して社会をかき乱す犯罪者達のこと。そして同時にヒーローが立ち向かって行かなくてはならない存在でもある。生徒達の眼下に広がる敵達の群れ。本来レスキュー訓練を行うはずだった時間は今この瞬間から、ヒーローの卵達がこれから戦っていくことになる者達と初めて相対する時間となったのだ。生徒達が噴水の方を見ていると、黒いモヤの中から脳みそが剥き出しになっている怪物と顔に手がくっついている人間が姿を現した。そして黒いモヤも何か形を成し始め、それ以降敵が増える事は無くなった。どうやら最後に出てきた三体があの集団のボスキャラらしい。その三体以外の敵がゆっくりとこちらを目指して進行し始める。その光景を見た切島が、
「は?敵!?馬鹿だろ!ヒーローの学校に入り込んでくるなんてアホすぎるぞ!?」
今になって状況の深刻さを理解したのか、慌てて声を張り上げる。
「先生!侵入者用センサーは?」
「勿論ありますが…」
どうやらセンサーは設置されているらしい。しかしセンサーは何の反応も見せなかった。ということは、
「センサーが反応しねぇなら向こうにそういうことが出来るヤツがいるってことだ。校舎と離れた隔離空間、そこにクラスが入る時間割、馬鹿だがアホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」
轟がこの状況を要約する。他の生徒達も轟の説明によってようやく自分達の置かれている状況を理解した様子だ。そんな中、ゴーグルを付け戦闘態勢に入っていた相澤が皆に指示を出す。
「13号、避難開始。学校に電話試せ。センサーの対策も頭にある敵だ、電波系のヤツが妨害している可能性がある。上鳴!お前も個性で連絡試せ」
「うっす」
「先生は?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すと言っても…イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は…」
相澤の身を案ずる緑谷。しかし、それを聞いた相澤は、
「一芸だけじゃヒーローは務まらん。任せた、13号」
一言そう呟くと敵の群れの中に飛び込んでいった。ツッコんでくる相澤を見ると、敵達は個性を発動して相澤を迎え撃とうとする。だが、相澤は眼力によって個性の発動を抹消し、敵が戸惑っている一瞬の隙を突いてマフラーのような布で次々と縛り上げていった。相澤は異形系の個性は抹消できないようだが、そのような敵には自身の高い近接戦闘スキルをお見舞いし、ノックダウンの山を築き上げていく。流石プロヒーロー。そこいらの敵ではてんで話にならないようだ。13号は相澤が敵を引きつけている今のうちに生徒達の避難を促す。言われた通り、生徒達は出口に向かおうとするも、突如進行方向に黒いナニカが道を塞ぐように現れる。先ほどまで噴水の前にいたボスキャラ三体の内の一体である。
(まるで突然ワープしてきたかのような動き。これがコイツの個性か。その個性の力で敵軍をここまで運んだって訳だな)
垣根が目の前の敵の能力を冷静に分析している中、黒い敵は生徒達に向けて丁寧に喋り始めた。
「はじめまして。我々はヴィラン連合。僭越ながらこの度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは平和の象徴オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして。本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはず。ですが何か変更があったのでしょうか?まあ、それとは関係なく私の役目はこれ――――――――――――」
黒い敵が最後まで言い終わるのを待たずに、爆豪と切島が敵に襲いかかる。爆豪の爆破によって起こった煙の中で、
「その前に俺達にやられることは考えなかったか?」
切島が敵に対して吠える。しかし
「…危ない危ない。生徒といえど、優秀な金の卵」
無傷。目の前の敵は何のダメージも負っていない様子。そこで13号が叫ぶ。
「ダメだ!どきなさい、二人とも!」
しかし時既に遅し。黒いモヤが激しく揺らぎ始め、
「私の役目はあなたたちを散らしてなぶり殺す!」
そう言った次の瞬間、生徒達を包囲するかのように黒い霧が生徒達の周りを囲い閉じ込めた。生徒達が悲鳴を上げる。
「チッ…!」
垣根は咄嗟に翼を展開させ、空中に避難する。しばらくして黒い霧が晴れると、その中には障子、芦戸、瀬呂の姿のみが確認された。どうやら黒い敵からの攻撃から逃れたのはその三人と、垣根と同様、自身の個性で黒い霧の外に出た飯田、その飯田に助けられた麗日と砂藤、そして垣根の7名だけのようだった。
(他の奴らはあの野郎に飛ばされたか…)
垣根は状況の整理を付けるとゆっくりと地面に着地し、黒い敵と相対した。他の6名も臨戦態勢をとる。
「障子君!みんなは!?いるか?確認できるか?」
「散り散りになってはいるがこの施設内にいる」
飯田が障子に皆の所在を問い、障子は複製腕を使ってそれを確認する。どうやらこの施設内には全員いるらしい。それを聞いてホッとする一同。
「くそっ!物理攻撃無効でワープって最悪の個性だぜおい!」
瀬呂が忌々しそうににそう呟く。
「…」
垣根は黙って何か考えている様子だったが、その時13号による指示が飛んだ。
「委員長、君に託します。学校まで走ってこのことを伝えてください!」
「なっ!?」
「警報も鳴らず、そして電話も圏外になっていました。警報器は赤外線式。先輩…いや、イレイザーヘッドが下で個性を消し回っているにもかかわらず、無作動なのは恐らくそれらを妨害可能な個性がいて即座に隠したのでしょう。とすると、それを見つけ出すより君が走る方が早い!」
「しかしクラスの皆を置いていくなど委員長の風上にも…」
13号の指示に抗議する飯田。だが、
「行けって非常口!外に出れば警報がある。だからこいつはこん中だけで事を起こしてんだろ?」
「外にさえ出りゃ追っちゃこれねぇよ。お前の足でこのモヤを振り切れ!」
「食堂の時みたくサポートなら私超出来るから!する!から!お願いね、委員長!」
飯田を後押しする他の生徒達。それでもまだ決心が固まらない飯田に対し、垣根が一言、
「これは委員長であるお前の仕事だ。腹決めろ」
飯田は一瞬驚いた様子で垣根を見たが、その言葉で完全に決意が固まったのか、飯田は走る構えをとる。
「手段が無いとはいえ、敵前で策を語る阿呆がいますか!」
「バレても問題ないから語ったんでしょうが!ブラックホール!」
黒い敵が再び攻撃を仕掛けてきたが、13号が個性を発動させ、それを迎え撃つ。13号の指先に黒い霧がどんどん吸い込まれていく。このまま吸いきって13号の勝利かと思われた刹那、
「全てを飲み込み塵にするブラックホール…なるほど、驚異的な個性です。しかし13号、あなたは災害救助で活躍するヒーロー。やはり戦闘経験は一般ヒーローに比べて半歩劣る!」
「…!?ワープゲート!?」
突如13号の背後に現れたワープゲート。そしてその中からブラックホールによる引力が発生する。どうやら黒い敵が今いる地点と13号の背後の空間をワープゲートでつなぎ合わせたのだろう。結果、敵に対してブラックホールを発動している13号は逆に背後から自分の個性によって吸い込まれる形となった。どんどん引きずられて行く13号。ついに13号の背中の部分が塵になってしまうと、そのまま13号は地に伏した。
「飯田!走れって!」
砂藤の叱咤で我に返った飯田は、一気に出口へと駆け出す。しかしその途中でワープゲートが飯田の目の前に出現し、飯田の道を塞いだ。
(みんなを…僕が任されたクラスを…僕が!)
「くっ!?…行け!早く!」
飯田がワープゲートに飲み込まれる直前、障子がワープゲートを抱え込み、飯田の道を作る。そして再度走り出した飯田。だが、
「ちょこざいな!外には出させない!」
今度は黒い敵本体が飯田を追う為に身体を伸ばす。
「生意気だぞ、眼鏡。消えろ!」
飯田に追いつき、叫ぶ敵。今度こそもうダメかと思われたその時、
「……っ!?がは……っっ!?」
突如、黒い敵の身体が沈み込む。ミシミシミシッと鈍い音を立てながらその黒い敵は地面に叩きつけられる。
「な、何だ!?私の身体に何かが……かは…っっ!?」
まるで自分の身体に何トンもする重りを乗せられたかの様な感覚だった。必死に首を回して自分の身体の方を見るも、そこには何も無い。だが現在進行形でナニカが黒い敵の身体を上から圧迫しているのは事実。あまりの重圧に倒れ込んでいる地面の付近にひびが入っている程だ。他の生徒達も何が起きているのか分かっていない様子。その中で、赤紫色のジャケットを着た一人の生徒が黒い敵の近くまで歩み寄り、飯田の方を一瞥すると
「さっさと行け」
こちらの方を振り返ったまま呆然としている飯田に垣根は声をかけた。その一言で飯田はハッとするとそのまま出口の扉をこじ開け、USJを後にした。
(やっと行ったか)
垣根はやれやれという気持ちで飯田を見送ると、足下に転がっている敵に目を向ける。
「よう。地面とキスした感想はどうだ?」
「あなたの…仕業ですか…!?」
黒い敵は笑みを浮かべながらこちらを見下している垣根の方へ必死に首を回す。
「ワープゲートだか何だか知らねえがお前も元は人間だろ。だったらどこかに実体ががあるはずだ。異形型にだって実体はあるからな」
そう言いながら垣根は黒い敵が着けている鎧を足でコンコンと小突く。
「……っ!?」
「お前が身体に唯一着けている装備。こんなもん、自分の弱点はココですって素直に教えてるようなモンだぜ」
そして垣根はその鎧部分を横から思いっきり蹴飛ばす。
「ぐは……っっ!?」
「はっ、良い声で鳴くじゃねえか」
そう言いながら垣根は何度も蹴りを入れていく。黒い敵はその度にうめき声を上げる。
(くそっ…このままでは…)
「どうした?もう終わりか?お得意のワープゲートで何とかしてみろよオラ」
攻撃の手を緩めない垣根。黒い敵は必死に動こうとするも、身体にのし掛かっているナニカが重すぎて何も出来ないでいた。すると、
「はぁ、つまんねえな。もう飽きたしそろそろ殺すか」
垣根はため息をつき、諦観したようにそう呟くと、
「ぐ、ぐああああああああああああああああ!!!!!」
黒い敵がいきなり叫び声を上げる。ミシミシミシミシッ!と音を立てながら再び身体が圧迫される敵。まるで何十台ものトラックが自分の身体にのし掛かっているのではないかと錯覚するほどの圧力。地面には更に大きなひびが刻まれていく。
(このままでは…私は…死ぬ!)
自身の死を明確に感じ取った。目だけを動かし、再び目の前の人物の顔を見る。その表情からは何の感情も読み取ることは出来なかった。この光景に喜びを見いだしている訳でも怒りを覚えているわけでもない。その男はまるでいつもの見慣れた景色を見ているかのように表情一つ動かすこと無く、潰れていく敵の姿を黙って見つめていた。ここで私は死ぬ。敵がそう思っていたとき、
「ていと君!やり過ぎ!このままじゃ死んじゃうよ!」
「あ?」
一人の少女が目の前の少年に駆け寄り、その腕を掴みながら言った。垣根も思わずそちらへ振り向く。
「せめて捕縛にせんと!殺しちゃうのはダメだよ!」
「捕縛だと?どこでもワープ出来るこいつにそんなモン意味ねえよ」
垣根は麗日の訴えを退ける。
「でも!」
「コイツは俺達の敵だ。だったら排除すんのは道理だろ」
「それじゃあ敵と同じだよ!」
中々引き下がらない麗日にイライラを募らせる垣根。だが垣根が麗日に気を取られた一瞬、敵にかけられている圧力が少しだけ弱まった。その一瞬を見逃さなかった敵は、
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
「!?」
ありったけの力を込めて自分が寝ている地面に向かって個性を発動し、ワープゲートを作るとそのままその中に姿を消してしまった。
「チッ、逃がしたか…」
垣根は思わず悪態を吐くもすぐに噴水の方へ振り返る。すると顔に手を付けている男の横に黒い敵が姿を現した。
(まあいい。どの道ヤツらは全員ここで殺す。一ヵ所に集まってくれてた方がやりや易いってモンだ)
そう思い直し、気持ちを切り替えると垣根は噴水の方へ向かって歩き出した。すると後ろから麗日の声がし、垣根の足が止まる。
「ていと君!」
「…麗日お茶子。お前のその甘さはいつか死を招くぞ。」
垣根は振り返る事なく一言、麗日にそう言い残すと垣根は再び歩き出した。
旧約15巻は買って読んだのですが、新約の6巻はまだ買えてない・・・
あそこらへんの内容もゆくゆくは出していきたいと思っているのですが・・・
ところで思ったんですけど、御坂って電磁バリアでみさきちの能力防げるじゃないですか?垣根も未元物質バリアで防げるんですかね?