かの悪党はヒーローへ   作:bbbb.

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USJ篇ラストです。


十八話

 垣根は噴水のある広場に目を向ける。そこには相澤が倒れ、緑谷、蛙吹、峰田が顔に手のある男と化け物のような敵と交戦している姿が見えた。交戦と言っても、状況は緑谷達の圧倒的劣勢。このままでは三人とも殺されてしまう。そう思われたその時、

 

 ドゴォォォォォォォォォォォン!!

 

USJの入り口がすごい勢いで壊され、誰かがゆっくりと歩いてくる。敵も味方も動きを止め、皆入り口の方を見る。そして、

 

 「もう大丈夫。私が来た!」

 

オールマイトが高らかに宣言する。その顔にいつもの笑みは無い。あるのは生徒達が危険にさらされていることに対する怒り。この日、生徒達は現役No.1ヒーローの本気を目の当たりにすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皆が注目する中、オールマイトは上着を脱ぎ捨てると一瞬で階段下に降り立ち、雑魚敵を一蹴。そして相澤、緑谷、蛙吹、峰田を目にもとまらぬ速さで敵の手から回収する。そして緑谷達に退避を命じると、怪物の敵との戦いを始めた。全力で拳を叩きつけるオールマイト。しかし目の前の怪物には一向に効いている様子が無い。オールマイトが思わず首を傾げると、

 

 「効かないのはショック吸収だからさ」

 

顔に手が付いている敵が口を開く。敵であるオールマイトに個性のタネを明かすとはそれだけ自信があると言うことか。ともかく、これで敵の個性が分かった。

 

 「わざわざサンキュー!そういうことならやりやすい!」

 

と言ってオールマイトは敵の背後を取ると、そこから強烈なバックドロップを繰り出した。すさまじい轟音と爆発が発生する。どうやったらただのバックドロップからあんな爆発が生まれるのだろうか。しかしオールマイトは敵を地面に叩きつけた瞬間、自分の両脇腹に鋭い痛みが走るのを感じた。

 

 「ッ…!そういう感じか」

 

よくよく見ると敵は地面に叩きつけられてはいなく、ワープゲートを利用して逆に自分に攻撃してきたのだ。

 

 「私の中に臓物があふれるので嫌なのですがあなたほどの者ならば喜んで受け入れる」

 

そう言って黒い敵はワープゲートを閉じ、オールマイトの半身を引きちぎろうとする。何とか抜け出そうとしているオールマイトの視界に緑谷が駆け寄ってくる姿が見えた。

 

 (緑谷少年!?)

 

しかしそこに黒い敵が立ち塞がる。すると、

 

 「どけ邪魔だデク!」

 

爆豪が突然現れ、黒い敵を強襲し、そのまま地面に叩きつけた。更に轟が個性を使ってオールマイトを捕らえている敵の半身を凍らせ、オールマイトの脱出を助ける。そして最後に切島が手の敵に飛びかかる。

 

 「クソッ!いいとこねぇ!」

 「スカしてんじゃねぇぞモヤモブがァ!」

 「平和の象徴はてめぇらごときじゃ殺れねぇよ」

 「かっちゃん…みんな…!」

 

緑谷、爆豪、轟、切島の4人がオールマイトの応援に駆けつけたのだ。この状況を見た手の敵が、

 

 「攻略された上にほぼ無傷。すごいなぁ最近の子供は。恥ずかしくなってくるぜヴィラン連合」

 

ボソッと自虐気味に呟くと、轟によって凍らされていた脳無が突然動き出し、凍った部分を切り離すとまた新たに身体を再生させた。その場にいる者達が驚いた様子で見ていると、

 

 「これは超再生だな。脳無はお前の100%に耐えられるように改造された超高性能サンドバック人間さ」

 

またもや手の敵が個性のタネを明かす。そして続けて脳無に指示を送る。

 

 「まずは出入り口の奪還だ。行け、脳無」

 

そう言われた途端、脳無は目にもとまらぬ速さで黒い敵を押さえつけている爆豪の下へ走り出す。その動きに反応出来たのはこの場ではオールマイトのみ。オールマイトが爆豪を守ろうと動こうとしたとき、

 

 「…ッ!?」

 

左脇腹に痛みが走る。さっき脳無に捕まれたときの傷が広がったのだ。その痛みに気を取られ動き出すのが一瞬遅れたオールマイト。

 

 (まずい…!!間に合わない…!!)

 

高く振りかぶられた脳無の右腕はそのまま爆豪に振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆豪は自分が緑谷達の側で座っている状態であることに気がついた。そして視界には腕を振り抜いた状態の脳無が映っていた。

 

 「かっちゃん!?よけたの!?すごい!」

 「違ぇよ。黙れカス」

 

緑谷が驚いたように聞いてくるのに対し、罵倒を混ぜながら返す。

 

 (何も…見えなかった…)

 

今一体何が起きた?覚えているのは眼前に広がる黒い光景。恐らく脳無の拳だろう。自分は脳無の拳が振り下ろされるまで何も知覚出来なかった。なのに今こうして自分は生きている。オールマイトが助けてくれたのかと思ったが、オールマイトも先ほどの位置から動いていない。何が何だか分からないと思っていると、

 

 「ったく、手間取らせやがって」

 

自身の後方から聞き慣れた声がした。

 

 「…!テメェは!?」

 「垣根!?」

 

爆豪と切島が驚いていると、緑谷や轟も振り返る。そこには背中に翼を生やして立っている、見慣れた垣根の姿があった。

 

 「えっ?ってことは、垣根君がかっちゃんを…?」

 「まさに間一髪ってやつだな。よかったなお前、奇跡的に生きてて」

 「…ッ!?」

 

垣根にそう言われ、にらみつける爆豪だったが垣根は気にも止めず、そのまま前に出て敵達と相対した。

 

 「よう、中々楽しそうじゃねぇか。俺とも遊んでけよ」

 「…何だお前」

 

手の敵は眉をひそめながら垣根を見る。すると黒い敵が手の敵に何やら耳打ちをする。それを聞いた手の敵は、

 

 「へぇ~、お前が黒霧をボコったってヤツか」

 「「「「!?」」」」

 

敵の言葉に驚く4人。だが、

 

「黒霧?ああ、そこにいる雑魚か」

 

垣根は大して興味もなさそうに黒霧を一瞥すると、再び手の敵に目を戻す。

 

 「あと一歩で殺せたんだがな。生憎逃げられちまった。まぁそんなことはどうでもいい。どの道てめぇらはここで皆殺しだ」

 「オイオイ、本当にヒーロー志望かお前?ヒーローを目指すヤツの台詞とはとても思えないねぇ」

 「うるせえぞ三下。とっととかかって来いよ、相手してやるから」

 

垣根はそう言って相手を挑発する。垣根の物言いに、手の敵は苛つきを募らせる。

 「あー、最近のガキはホンッットにムカつくなぁ。なら望み通り、死ねよお前。」

 

首元を掻きむしりながら脳無に合図をすると、脳無が叫び声を上げ、勢いよく垣根に向かって突進する。そしてそのまま再度右腕を振り上げ、今度は垣根に向かって振り下ろした。

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!

 

爆発と衝撃が生まれる。今度はさっきのように空振りではない。確かに垣根に直撃した。普通ならば即死。オールマイト並みのパワーだ、無事であるはずが無い。しかし、爆風と衝撃に耐えながらも後ろの4人が必死に目を見開いてみると、脳無の拳の先に白い繭の様なモノが立っていることに気がつく。それは垣根の翼が、垣根の身体の回りを何重にも巻き付いた姿。あの翼で脳無の攻撃をガードしたらしい。垣根は六枚の翼に力を込めて解き放つ。

 

 ブォォォォン!!!

 

衝撃と風圧で後ろに飛ばされる脳無だったが、すぐに体勢を整えながら前を向くと、その目線の先には全長十メートルはあろうかという巨大な翼を六枚、背中から出現させている少年の姿があった。

 

 「なっ!?馬鹿な!?脳無の攻撃を耐えただと!?オールマイト並みのパワーだぞ!?それに何だ…?その翼は!?」

 「さあな。説明したところでテメエには一生分からねえよ」

 「…っ!?脳無!!アイツを殺せ!!今すぐに!!」

 

手の敵が焦ったように脳無に指示を出す。すると脳無は再び雄叫びを上げ、垣根に向かって走り出す。垣根がゆっくりと空中に浮上していくと、脳無もそれに合わせて高く跳躍する。たが、

 

 「バカが」

 

垣根は小さく呟くと、六枚の翼を空中にいる敵に向けて一斉に放つ。

 

 ズガンッッッッ!!!

 

脳無は垣根の攻撃をよけることが出来ず、全ての翼が身体に食い込み、そのまま後方にあった岩盤に叩きつけられた。そして垣根は六枚の翼の内、四枚の翼を敵の身体から引き抜き、残りの二枚は敵の両手首に楔のように差し込んだまま、脳無を岩盤に固定した。脳無は何とか抜け出そうとするも、一向に手首に刺さっている翼が外れる様子は無く、身をよじる度に手首から血が流れ出る。

 

 「お前、頑丈さに自信があんだよな?どれどれ、俺が直々に視てやるよ」

 

邪悪な笑みを浮かべながら、垣根は自由に動かせる四枚の翼で一斉に殴打のラッシュを繰り出した。

 

 ズガガガガガガガガガガ!!!!!

 

目にもとまらぬ速さで巨大な翼が次々と脳無の身体に打ち込まれていく。

 

 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 

怪物の絶叫が響き渡る。今度の叫びはさっきまでのとはまるで別物。自身の肉体に発生している痛み、苦痛故の叫び。翼に打ち込まれる度に肉体は再生をしているが、翼によるラッシュはその再生速度よりも遙かに速いスピードで打ち込まれているため、再生が追いついていない。

 

 「オラオラどうした?ご自慢のボディに傷が付いてるぜ?」

 

鮮血が空を舞う。脳無の再生速度とショック吸収の限度を未元物質の翼が上回り、翼が脳無の肉体を貫いていく。それは最早殴打のラッシュではなく、刺突のラッシュ。次々と脳無の肉体を翼が貫いていき、その翼は鮮血で染まっていく。その光景はとても戦いと呼べるモノではない。一方的な虐殺。蹂躙するとは正にこのことを言うのだろう。この異様な光景を前にし、オールマイトも含め誰も声を発しない。いや、声を出すことさえ出来なかった。

 

 (なんだ…一体、何が起こっている…?)

 

言葉を無くしているのは敵サイドも同様で、手の敵はただ呆然とこの光景を眺めるほかなかった。そしてついに脳無が叫び声を上げなくなると、

 

 グシャッ!!

 

四枚の翼を脳無の身体に突き立てた。六枚の翼は脳無の身体を貫き、後ろの岩盤に深々と突き刺さる。脳無はぐったりとしていて動く気配は無い。

 

 「何だよもう終わりか。つまんねえな」

 

そう言うながら垣根は翼を脳無から引っこ抜くと、脳無はそのまま重力に逆らうことなく、前のめりに倒れた。そして今度は黒霧達の方へ向き直り、

 

 「さてと。次はお前らの番だな」

 

垣根は静かに宣告する。思わず、後ずさりする敵達。

 

 「ふ、ふざけるな…脳無は対オールマイト用敵だぞ…!それが、こんな…な、何だよお前!!」

 

自分達の最終兵器がいとも簡単に破壊され、混乱する手の敵。脳無は対オールマイトを想定した兵器。ただの学生如きに何とか出来る代物ではない。だが実際に目の前の少年はいとも容易く脳無を壊して見せた。そして今度は自分達を標的にしている。手の敵はいつのまにか全身が強張っていることに気付く。両の手は握られ、手汗をびっしょりかいている。

 

 (まさか、恐怖しているというのか…!この俺が!こんなガキ相手に!)

 

手の敵は必死に頭でその事実を否定したが、身体はウソをつけない。そんな中、垣根が静かに答える。

 

 「俺が何者かなんてどうでもいいだろ。どうせもうお前らもアイツみたいにここで死ぬんだからな」

 

顎で脳無の方を指しながらゆっくりと距離を縮めてくる垣根。それに伴い、ジリジリと後退する敵達だったが、突然、ガラッと瓦礫が動くような音が聞こえる。

 

 「あ?…何だまだ生きてたのか」

 

垣根は後方へと振り返り、ため息を吐きながら面倒くさそうに呟く。そこには、全身ボロボロの状態だったが、なんとか立ち上がる脳無の姿。目は白目を剥いていて、最早意識がはっきりしているのかすら怪しい状態だ。垣根はとどめを刺そう脳無に向き直ると、

 

 「待つんだ垣根少年。あとは私に任せなさい」

 

オールマイトが垣根の肩に手を置き、静かに言う。

 

 「美味しいとこ取りしようってか?」

 「ハハハッ、まぁそうとも言うな。だが、それ以上やると君は本当に戻ってこれなくなる。君は将来ヒーローになるんだろう?だったらこんな所で道を踏み外してはいけない。」

 「……」

 

垣根はしばらくオールマイトを無言で見つめたが、やがて背中の翼を引っ込めると黙って後ろに下がった。

 

 「ありがとう!垣根少年!さて…」

 

オールマイトは脳無に向き直る。

 

 「GYAAAAAAAAAAA!!!!」

 

脳無は雄叫びを上げながらオールマイトに突進する。全身から血を流し叫ぶながら走ってくる姿は最早恐怖そのものだ。脳無は腕を振り上げ、オールマイト目掛けて勢いよくその拳を振り切る。オールマイトはギリギリまで敵の拳を引きつけ、拳が直撃する瞬間に身体を沈み込ませて回避すると、がら空きになったボディ目掛けて渾身の一撃をたたき込む。

 

 「SMAAAAAASH!!!!」

 

オールマイトの全力のパンチを喰らった脳無はジェット機のような速さで後方に飛んでいき、そのままUSJの壁を貫いて空の彼方へ飛んでいった。

 

 「ヒュゥ~、すげえパワーだな」

 

口笛を吹きながら脳無が飛んでいくのを呑気に眺める垣根。そこでふと黒霧達がいた場所をみるとその姿は完全に消えていた。どうやら脳無が最後の力を振り絞ってこちらの注意を引いている隙にワープゲートで逃げたのだろう。

 

 (あーあ、逃がしちまった。まぁいいか)

 

逃がしたことを少し残念に思う垣根だったが、すぐに気持ちを切り替える。そしてその後、しばらくすると雄英の他の教師達も応援に駆けつけ。敵の残党は皆捕らえられた。

 

 

こうして波乱に満ちたレスキュー訓練は幕を閉じた。

 




テンポ悪いのはすいんません。自分でも自覚しているのですが、どうしても詰め込みたくなっちゃうので・・・
改善できるよう善処します。

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